★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
232:教授2003/03/16(日) 01:55
■■卒業 〜甘寧と魯粛〜■■


「よーし…二代目は行ったな…」
 甘寧は孫策達が走り去った事を確認すると、背中併せになっている魯粛に呼びかけ
る。
「魯粛! そっちはどうだ!」
「やっばいよ! 何か…わらわら出てきた!」
 声を荒げて状況を簡単に説明する魯粛。
 その目には、病院から巣を突つかれた蜂の群れの如く医師や看護婦、警備員から患者まで映ってい
た。
「な、なんだ〜!?」
 後ろを振り返った甘寧も、その異様な光景に思わず驚いてしまう。
「こらぁ! 患者泥棒!」
「絶対安静の患者さんを連れ出すなー!」
「俺達の公謹ちゃんを返せー!」
 様々な声や雄叫びを上げながら追っ手達が迫ってくる。
 ある種の殺気が篭ってるからこれがまた恐い。
「…興覇。ずらかるよ!」
「あ、ああ…。あれにゃ勝てる気がしねーし…」
 魯粛は世にも不思議な光景に呆然としている甘寧の肩を叩いて走り出す。
 後ろをちらちらと見ながらも甘寧が後に続く。
 幸い、近くにバイクを止めていた事もあったので追っ手に追い付かれる事はなかった。
 甘寧は素早くバイクに跨ると、思いきりアクセルをふかす。
 消音機が抜かれた違法改造バイクから放たれた轟音に追ってくる病院関係者達が足
を止めた。
「へへん! 俺様のデビルアローの前じゃカミサマだって足を止めるぜ!」
 得意気な甘寧。
 ふと、魯粛を見ると…
「うう…興覇のアホ…やるならやるって先に言え…」
 耳を押さえて蹲っていた。
「わ、わりぃわりぃ…。とにかく後ろに乗れや…な?」
「後で何か奢れよ〜…」
「分かったから…早く後ろ乗れって」
 機嫌を損ねた魯粛を宥めながら、バイクに乗せる。
 だが、ここで足の速い警備員の手が魯粛の肩を掴み、引きずり降ろそうとする。
「わあっ!」
「捕まえたぞ! おとな…しぃっ!」
 しかし、その警備員は甘寧の蹴りをまともに顔に受けて倒れた。
「ふざけんな! 捕まってたまるかよ!」
「助かったけど…口上してる暇があったら早く出して! ほらっ!」
 この間に、追っ手と二人の距離はもう目と鼻の先になっていた。
「仕方ねえ…。子敬! しっかり掴まってろよ!」
「え!? う、うん…」
 甘寧の叫びに魯粛はぎゅっと彼女の体にしがみつく…ただしそこは思ったより柔らかかった。
「ひゃっ! そ…そこは違うだろ! もっと下だって!」
 顔を烈火の如く染めて猛抗議する甘寧。
「あ…ご、ごめん」
 改めて魯粛は甘寧にしがみつく。
「よーし! 行くぜ!」
 気を取り直した甘寧の右手が目一杯絞り込まれる。
 バイクは雷鳴を轟かせながら急発進。
 だが、甘寧はここでブレーキを入れた。
 左足を地面に付け、大きくバイクを傾ける。
 そして再びアクセルを全開。
 途端にバイクは甘寧の左足を軸に半回転し…そして軸を取り除く。
 バイクは瞬時に追っ手達の方を向いた。
「悪いけどオメーらに付き合ってられねんだわ…往生しな!」
 と、同時に一気に彼等に向かって発進。
「うわわ!」
 魯粛は振り落とされないように懸命に甘寧にしがみつく。
 この突然の甘寧の攻勢に驚いた病院関係者達はその場で腰を抜かしてしまった。
「へへ…なーんてな。アバヨ!」
 甘寧はブレーキを握り、体重を移動させ、ハンドルを切る。
 その卓越した一連の動きは、最早人間業とは言えない程のものだった。
 瞬きをする程度の時間、それだけの間にバイクは既に反対方向を向いていた。
 医師達との間隔、実に1メートルあるかないかだ。
 そのまま返す勢いに乗り、甘寧達はそのまま走り去っていく。
 呆然とする医師達の耳に鈴の音を残して――。


「なー…子敬」
「んー?」
「卒業したら大学だっけー…」
「そーだけど」
「あーあ…俺もちったぁ勉強すりゃ良かったかな」
「何よ、寂しいとでも言うつもり?」
「バカ言え。俺は勉強続けるよりも気ままにフリーターやってる方が性に合ってる
さ」
「興覇らしいな、それ」
「それにな…卒業したからって会えないってわけじゃねーんだから」
「…分かってるよ。…それよりも今は…」
「ああ…そーだな…」
 バイクを走らせる甘寧、そして後ろに乗っている魯粛。
 その後ろには…。
『あー、そこのノーヘルの二人乗り。速やかに止まりなさい』
 白バイが尾いていた。
「アホか、誰が止まるんだよ」
「興覇といると退屈しないよねー」
「…お前もアホだな」
「お互いにね」
 二人は微笑むと、物凄い勢いで朝霧の中に溶けて行った――。
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