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★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
284:★ぐっこ@管理人 2003/05/11(日) 21:43 エンジェルヴォイス実戦投入キタ━━━(゚∀゚)━━━━!!!! 身もだえするほどカコイイ! 書き手の力量によっては文章が浮き上がってしまいそうなシチュでも、しっかりと 地に足着けてますし!読んでいて安心できます! すでに十重二十重に包囲されている戦況の中、張角たんの声が戦場に響く… 何とも鳥肌ものシチュではありませんかっ! そして張角たんのコスチュームもまた…( ´Д`)ハァハァ… これでヘテロクロミア だなんて…。ハマってるなあ…。 しかし張角の命運も、黄巾の学園革命も、佳境ですか… そして一変して董卓軍団ワロタ。 どんどこイロモノ軍団化が進んでいましたが、とうとうその全容が明らかに! 李儒たんの冷徹メイドグッジョブ! なんかこう、隙の無い万能メイドってのがカコイイ! キャラはそれで! 万能メイドは私心を持ってはいかんのですよ!主に忠実なのではなく 職務に忠実なのです! そしてサリゲに中核に参加している賈詡たんもカコイイ! それにしても次回予告が気になる…
285:雪月華 2003/05/23(金) 12:15 広宗の女神 第二部・広宗協奏曲 第三章 広宗の笑劇 「どうも戦局が思わしくないわねっ☆」 「士気の低下速度が異常です。張角の『天使声』…予想以上の効き目のようですね。あれを止めなければ勝利は無いでしょうから、張角に対して刺…」 「董卓ちゃん、いいこと閃いちゃった☆」 「いきなり何です?」 献策を遮られた不満をおくびにも出さず、李儒は頭上に豆電球を点灯させた董卓に聞き返した。 「歌には歌で対抗するのよ☆董卓ちゃんのミラクル★ボイスで黄色い賊徒を正気に戻してあげるわ☆」 やめておいたほうが、と言いかけ、李儒は口をつぐんだ。こうなっては、もうこの主人を止めることはできない。作戦全体の変更もやむをえないだろう。 もともと、この作戦は張角が前線に出てこない、という前提で立てたものである。その誤算が想定以上にこちらを不利にするものならば、董卓にもまだ進言していない、次善の作戦に移らねばならない。董卓の兵力を減らさず、「生徒会の」兵力をできるだけ削ぐ。そのためには… 一瞬のうちにそこまで計算し、さりげなく、李儒は董卓の傍を離れた。 「ハイ、ミュージックスタート!」 カセットデッキを持った一年生がテープを差し込み、再生ボタンを押した。 ♪さぁけはのぉ〜め、のぉ〜め、のぉむならば〜、ひぃ〜の… ぼこおん、と音がして、董卓の熊と見まがう逞しい右腕で、後頭部を強打された一年生は、上半身を地面に突っ込んだ。 「間違えないでよ!何が悲しくて黒田節を歌わなきゃならないのっ!こっちでしょ!」 董卓は毒々しいピンク色のテープを取り出すと、デッキに差込み、再生ボタンを押した。聞いていて恥ずかしくなるような、なつかしの少女アニメ主題歌が流れ出す。 「おほほほほほ!董卓ちゃんの18番!名作アニメソングメドレー50連発よ!イッツ☆ショーターイム☆」 ♪西涼校区からやぁ〜ってきた♪とぉって〜もチャームな女の子♪仲頴〜♪仲頴〜♪ 呆れたことに全編替え歌である。ボリュームを最大限にひねった董卓は、伝令用の拡声器を片手に、嵐のような振り付けとともに歌い始めた。 魔界のリサイタルが、広宗の野において開演された。 それよりほんの少し前、董卓直属の兵100人の中核部分において。 「華雄」 「おう軍師殿じゃないか。いよいよ突撃か?」 灰色熊のきぐるみを身にまとい、イライラと歩き回っていた華雄は、話し掛けてきたメイドに歩み寄った。歩み寄るというより、いきりたって掴みかかるという勢いであり、並の軍師なら、たとえ撤退を指示すべきでも震え上がって相手の意を肯んじたかも知れない。しかし、李儒は「並の軍師」ではなかった。 「撤退します。準備をはじめてください。…この手は何です?痛いのですが」 「一戦も交えんうちにか?少し消極的に過ぎるんじゃ…あだだだだ!」 胸倉を掴んだ華雄の右手の親指を掴むと、李儒は外側に捻った。苦痛のうめきと共に手を離した華雄を、何事も無かったかのように見据え、言葉を続ける。 「董卓様の御命令です。私としても不満ですが、不服従は許されません」 「だが、あの混戦を収拾するのは容易ではない。少なくとも半数は犠牲に…」 「その心配は無用です。撤退するのは、我々100名のみですから」 「何だと!?」 「張角が前線に出た時点で、こちらの「完勝」の可能性は消えました。この100で混戦を迂回して突撃すれば、あるいは勝てるかもしれませんが、犠牲も大きくなります」 「しかし、450名を見捨てるとは…」 「何を躊躇う必要があるのですか?別に、450人は『董卓様の』兵というわけではないのですよ。後日、洛陽棟に軍事の真空状態を作るため、追撃を防ぐ盾として、できるだけ飛ばされてもらう事を期待しているのですが」 「貴様…これは本当に董卓様の命令なのだろうな?」 「疑うのですか?董卓様自ら、しんがりを買って出ているというのに」 「董卓様自ら?危険ではないのか」 「黄巾党如きが、あのお方を飛ばせると本気で思っているのですか?」 「…わかった。撤退の準備をさせる」 董卓の名前を出されては逆らうわけにはいかず、華雄は撤退の準備を始めた。機会音声のような李儒の言葉が、華雄をさらに急がせる事になった。 「まもなく、董卓様の『あれ』が始まります。可能な限り、急いでください」 代名詞を出されただけで、華雄は事態を悟った。 ♪いやよ☆いやよ☆いやよ見つめちゃいや〜☆仲頴フラッシュ! 新たに湧き起こった歌声が、夢見心地だった皇甫嵩たちの気分を粉砕した。 「な、なんだ、この声は?雷鳴か?」 「せっかくいい気分だったのにー!思いっきりぶち壊してくれるじゃないの」 「頭痛が…なあ、公偉。好きこそ物の上手なれ、という教育論の肯定例と否定例の両極端が目の前で展開されているようだな」 「さ、流石に黄巾の連中にも効いているようね」 このとき、潮が引くように整然と、董卓配下100名は戦場を離脱し始めている。だが、董卓の歌で失調していた二人は、不覚にもそのことに気がつかなかった。もっとも、気づいていても、どうしようもなかった事は確かであるが。 ♪笑って〜笑って〜笑って仲頴〜 朱儁の指摘したとおり、黄巾党の勢いが目に見えて鈍った。戦闘行為を中断して、耳を塞ぐ者が続出する。だが、耳を塞げば武器を持っていることができなくなるので、耐えながら戦うしかない。一方、張角の加護を得られない分だけ、生徒会正規軍の被害はそれを上回っていた。蒼白な顔をし、胸を押さえ、貧血を起こして次々に膝をつく。空を飛んでいた鳥が次々と気絶し、地面に落下していく。1年生の中には泣き出す者もいた。いまや最悪の音響兵器と化した董卓には、それらの姿はまったく見えていない。張角の天使声と董卓のミラクルボイスに挟み撃ちにされ、戦場は奇妙な膠着状態に陥り始めた。 すでに董卓直属の100人は、華雄の指揮で戦場を完全に離脱し、いっさんに鉅鹿棟を目指していた。残された生徒会軍は、もはや人類史上最悪の音響兵器と化した董卓と、不幸な正規兵450人のみである。 董卓のミラクルボイスにより、深刻な精神的ダメージを受けた黄巾党が、救いを求めるように張角に視線を集中させた。曲の節目に来たため、張角が言葉を切る。次いで、それまで閉じられていた両目がゆっくりと開き始めた。 開かれた張角の色の異なる両目に、神秘的な輝きが踊っていた。夕日を照り返してのことではない。張角の目、それ自体が光を放っているのだ。董卓を除く、戦場にいた全員がその神秘的な光景に一時、目を奪われた。 奇妙な事に、いつのまにか風向きが変わっていた。北から吹いていた風が、東から西へ、つまり張角の背後から生徒会軍に向けて吹き始めていた。国旗掲揚台に掲げられた学園旗のなびきでそれがわかる。 張角が沈み行く夕日に両手を掲げ、声を発した。 「Hort!(※聞け!)」 広宗自然公園に衝撃が走り、戦場の空気は一変した。 1−1 >>259 ・1−2 >>260・1−3 >>266・1−4 >>267 2−1 >>281 ・2−2 >>282
286:雪月華 2003/05/23(金) 12:24 広宗の女神 第二部・広宗協奏曲 第四章 女神光臨 張角が新たな楽章を歌い始めた。 それは、それまでの天使の歌ではなかった。普段の温和な張角からは想像する事のできない、圧倒的な威厳を漂わせるその歌は、すべての生物を屈服させ、改宗させ、従える、女神の歌であった。広宗自然公園は巨大なオペラ座と化し、すべての生物が息を呑み、崇拝の目で張角を見つめた。その場にいた全ての者の耳に、オーケストラの演奏が聞こえたほどだといわれている。そして、黄巾党と生徒会の者は見た。シスター服をまとう張角の背中に、光り輝く天使の翼を。古代王朝の神事の如き荘厳な雰囲気の中にあって、董卓の歌など、もはや蚊の羽音に等しかった。 黄巾党の後背に回りこんだ300人は、張角の天使声と董卓のミラクルボイスの挟撃によって、失神しかけていたところに、この女神の歌の直撃を受け、一挙にとどめを刺された。黄巾党に打ち倒されるまでもなく、女神の歌で次々と魂を砕かれ、失神し、倒れこんでいく。張角の変貌から10を数えないうちに、迂回部隊の300人すべてが立つ力を失い、地に這った。最期の一瞬に何を垣間見たのだろうか。倒れた300人のすべての顔には、安らかな微笑みが浮かんでいた… 「安楽に気絶」した300人とは対称的に悲惨な目に遭ったのは、はじめに黄巾党を受け止めた150人である。女神の歌の直撃を受けこそしなかったものの、それだけ董卓に近く、ミラクルボイスの被害で、より重度の貧血状態に陥っていた彼女達には、いまや目の前で赤い布を振られ、猛り狂った猛牛でさえ青ざめて逃げ出すほどの勢いとなった黄巾党を迎撃することは当然できなかった。瞬く間に陣形を打ち破られて壊乱状態に陥り、悲鳴をあげて逃げ惑うばかりである。だが、敵味方の音響攻撃で、その逃げる力さえ蒸発しつつある。多くの者は50mも走ることができず、立ち竦んだところを黄巾党に階級章を剥ぎ取られ、呆然と座り込むばかりであった。 皮肉なことに、その妙な仮装のせいで、戦場全体の雰囲気が「黄巾の賊軍に散々に打ち破られた生徒会正規兵の災難」ではなく「女神の加護を受けた黄金の騎士団が、異形の悪魔軍団を撃破した」というように、完全に正邪が逆転して感じられてしまったのである。 「大変!助けなきゃ!」 「待て!公偉!!」 走り出しかけた朱儁の右肩を皇甫嵩の左手が掴んだ。制止した皇甫嵩を睨みつけた朱儁の目には、怒りの炎が燃え盛っている。 「止めないで!義を見てせざるは勇なきなりって、学園長も言ってたよ!」 「落ち着け!今、私たちが出て行ってどうなる!」 「でもっ!」 「あそこまで混乱してしまっていては、もう収拾する事は不可能だ!ただ勇気があればいいものではないだろう!」 「義真…まさか、まだ董卓の待機って命令に、拘っているんじゃないよね!?」 「何だと?」 「きっとそうよ!それとも、すっかりあの勢いにビビってて、董卓の命令に拘ったフリして…」 「手勢の50人もいれば、あの歌が始まる前に、すでに駆けつけている!待機命令違反などという、くだらんことに拘るものか!」 「ちょ、ちょっと義真、痛…」 右肩を掴んでいる皇甫嵩の左手に凄まじい力がこもり始め、朱儁を怯ませた。 「それとも公偉!お前はたった一人であの200人を何とかするつもりか!ここでおまえが飛ばされたらこの後どうなるか、考える冷静ささえお前は失っているというのか!!」 「痛いってば!義真!離して!」 肩の骨がきしみ、堪えきれずに朱儁は悲鳴をあげた。はっ、と我に返った皇甫嵩が左手の力を緩めると、朱儁は右肩を押さえてその場にうずくまってしまった。そして、朱儁は見た。固く握り締められた皇甫嵩の右の拳に爪が食い込み、紅い雫を滴らせているのを。皇甫嵩も、朱儁以上に義憤に駆られていたのだが、何もできない不甲斐無い自分に腹を立てていたのだ。 お互い、呼吸を整えるのに5秒ほどかかり、先に皇甫嵩が口を開いた。 「…すまない、公偉」 「義真、あなたも…」 「それ以上言うな。引き揚げるぞ。これ以上ここに居ても、何の意味もない…立てるか?」 「なんとか、ね…あ」 皇甫嵩は、朱儁の手をとって立たせると、スカートについた砂埃を払ってやった。そのさりげない優しさが、朱儁の胸にしみた。 戦場では酸鼻極まる光景が展開している。いまや、まともに階級章を所持している生徒会軍は、10人に過ぎず、それ以外の者は、女神の歌の直撃を受けて気絶しているか、黄巾党に階級章を奪われ、呆然と座り込んでしまっていた。そして彼女達も、やがて女神の歌によって意識を失っていくのである。 気を失った440人あまりの乙女達が散らばる戦場に背を向けると、皇甫嵩と朱儁は自転車を駆って、司州校区へと向かった。 自転車を駆りながら、皇甫嵩は必死で考えていた。 (あの女神に勝てるのか?張宝や張梁、他の黄巾党幹部相手なら、たとえ2倍の戦力差があっても勝ってみせる。だが、あの歌にはどうやって対抗したらいいんだ?どのような状況であれ、対峙して時間が経つにつれ、急激な速度で味方の士気は落ち、敵の士気は増す。たとえ4倍の兵力があっても勝てはしないだろう。とすれば…張角個人への闇討ち…何を馬鹿な事を考えているっ!それだけはしてはならないことだ。人道にも反するし、子幹との誓いもある。…子幹か) 無意識のうちに胸のロザリオを握り締めている自分に気がついた。そんな自分を激しく叱咤する。 (だめだ。子幹に頼るわけにはいかない。今、彼女は風邪で伏せっている。意見を求めたところで、いい考えが浮かぶはずはないし、躰に負担をかけるだけだ。そしてなにより、私の力でこの乱を鎮圧すると、子幹に誓った。私にもプライドはある。誓いは果たす。必ず!) ♪信じているの♪ミラクル☆ロマンス メドレーは終わった。嵐のような喝采を期待して、そのままポーズをとっていた董卓だったが、いつまで待っても拍手は聞こえない。やや憤然として辺りを見回し、花束を捧げ持ったファンならぬ、殺気立った黄巾党200人に包囲されていることに、ようやく気がついた。すでに李儒や、部下の100人、愛車の赤兎は姿を消している。 「あ、あら、えーと…」 「張角様が奴の階級章を所望だ!かかれ!」 劉辟の命令で、董卓の両腕を二人の黄巾党が後方から抱え込んだ。 「いやん、お放し☆」 董卓が身をよじって思い切り両腕を広げた。二人の黄巾党は、高さにして約10m、距離にして約50mの空中散歩を無料体験することになった。それでもなお戦意を失わない黄巾党が、次々に董卓に飛びかかっていったが、いずれも先ほどの二人の後を追って空の旅に出かけていく始末である。 「いや〜ん!どいてどいて!」 董卓は逃げ出した。群がる黄巾党を右に左に薙ぎ倒し、投げ飛ばし、単身、それも徒歩で200人の包囲を突破していった。 その後を黄巾党200人は追撃してゆく。 最終楽章まで歌いきると、張角は目を閉じた。その体が前後に揺れ、やがてゆっくり、後方に倒れこんだ。護衛隊長の韓忠が慌てて駆け寄り、倒れこむ寸前で抱きとめることができた。張角は疲れ果てた表情を浮かべ、軽い寝息を立てていた。 このとき、張角の声帯に、わずかに亀裂が入っていたが、周囲の者はおろか、本人すら気がつかなかったのである。そして張角はこの後、悲しく、つらい夢を見ることになる… 1−1 >>259 ・1−2 >>260・1−3 >>266・1−4 >>267 2−1 >>281 ・2−2 >>282・2−3 >>285
287:雪月華 2003/05/23(金) 12:45 広宗の女神 エピローグ 始まりの終わりへ 董卓配下の100人以外で、進軍してきた山道にたどり着いた生徒会軍は7人に過ぎず、まともに鉅鹿棟にたどり着けたのは4人に過ぎなかった。4人のうちの一人が、董卓であるのは言うまでもない。 無事にたどり着けた理由にひとつに、追いすがる黄巾党200人に、突然現れた謎の二人組が奇襲をかけ、瞬く間に30人近くを叩き伏せ、残りの者を撤退させたということがあった。だが、董卓の提出した報告書にはその二人のことは触れられていなかったので、この二人が何者だったのかは、謎となっている。生き残った者の証言によると、一人は、ずば抜けた長身で、漆黒の見事な長髪が人の目を引く、静かだが圧倒的な風格のある美女で、竹刀を携えており、もう一人は意外と小柄で可愛らしい童顔をしていたが、隆々と盛り上がる筋肉と、常に青筋立ててる表情がそれと悟らせない少女であり、三節棍を携えていたらしい。崖の上に、さらに二人居たようだが、逃げるのに必死で、詳しくは覚えていないとのことだった。そのうちの一人は赤い上着を羽織っていて、それだけが印象的だったらしいが… 「第一次広宗の戦い」の参加者は、生徒会軍550人。黄巾党250人。飛ばされた者は、生徒会軍447人。黄巾党37人。生徒会側にとって、酸鼻極まる数字である。ことに、張角の女神の歌で昏睡状態に陥った440人あまりの生徒は、3日間意識が戻らず、まともに立てるようになるまで2週間を要した。ここまで一方的な敗北を喫したのは蒼天会成立以来であり、総司令官の董卓は更迭され、涼州校区へ戻ることになった。戦場に最期まで残って味方の撤退を助けた、という武勇伝は残りはしたが… この敗戦により、生徒会直属である450人の正規兵を一気に失ったことで、各校区の私兵や義勇兵に頼る比率がさらに大きくなり、生徒会の権威は日に日に失墜していく事になる。 ──二日後の放課後、洛陽棟第一体育館において 「皇甫嵩を対黄巾党総司令官に任命する。速やかに反乱を鎮圧し、学園をもとのあるべき姿にせよ」 「非才なる身の全力をあげて」 内心はどうあれ、表面上は完璧に礼儀を保ったまま、壇上で皇甫嵩は執行部長、張譲に対面した。洛陽棟で100円玉貨幣章以上を持つ、上級生徒全員が整列する前で「悪趣味な」総司令官の腕章と、総司令官の辞令を受け取る。 張譲らとしても、ほかに選択肢がないのである。激減した戦力を補い、勢いづいた黄巾党に対抗できる人材を、献金がまめな人物から見出すことが、ついにできなかった。醜態を演じた董卓を推薦した張譲としては、面目を失ったというところであろう。すでに監査委員の左豊に推薦の濡れぎぬを着せて階級章を剥奪しており、表面上は何事もなかったかに思えるが、この一件で何進の信用をかなり失ったことだけは確かであった。 総司令官職への抜擢。武人としては最高の名誉であり、階級章にもかなり加点される。軍事に関する権限も飛躍的に大きくなる。式典の様子は学内ケーブルテレビで、全校区に中継され、皇甫嵩の武名は学園中に鳴り響く事になる。だが、式典の間ずっと、皇甫嵩は仏頂面をしていた。もともとあるべき状態に戻っただけであり、事態が手遅れになりかけてから押し付けられ、しかも片手だけで勝てと言われたようなものである。前途のあまりの多難さに、機嫌がいいはずがなかった。 体育館を出た皇甫嵩に、珍しく改まった表情の朱儁が敬礼を向けた。あの後は、お互い少々気まずくなり、ろくに会話を交わしていなかった事を皇甫嵩は思い出し、少し狼狽した。 「公偉?」 「総司令官への就任、祝着に存じます。今後とも、全身全霊をもちまして補佐奉りますゆえ…」 堅苦しい言葉遣いからすると、やはり、まだ完全には打ち解けられないか、と、皇甫嵩は少々さびしく思った。 「…ってね、ガラじゃなかったかな?」 唐突に、朱儁は態度を変え、いつもどおり、屈託なく笑った。つられて、ずっと仏頂面だった皇甫嵩も、笑顔を見せる。 盧植は謹慎二週間に加え風邪を引きこみ、丁原は并州校区に戻ったが、まだ傍には親友の朱儁がいる。孤立無援というわけではないのだ。皇甫嵩はそう思うと、少し気が楽になった。単純だな、とやや自嘲気味に皇甫嵩は思った。 「義真、これからもずっと、よろしくね!」 「こちらこそ、よろしく頼む。公偉」 皇甫嵩は、差し出された右手を強く握りかえして、最も信頼できる僚友と頷きあった。朱儁がにやりと笑って言葉を続ける。 「ほら、義真って何かと不器用だから、私がいないとダメだし…むわっ!?」 「生意気を言うのはこの口か?ん?」 皇甫嵩は朱儁の両頬をつまんで、かるく左右に引っ張った。 「やったなーっ!」 「うわっ!?お返し!」 「うきゃあっ」 胸を触られた皇甫嵩は、お返しとばかりに朱儁の「ツノ」をぐいっと引っ張った。 十年来の親友同士の、小学生のようにふざけあう、微笑ましい姿がそこにあった。 こうして、二将の間に入った亀裂は完全に修復され、生徒会の危機のひとつは回避された。吉凶定かならぬ事件の多い昨今、皇甫嵩の司令官就任と、この仲直りだけは、完全に「吉」と言えるものであっただろう。 激減した兵力の再編に忙殺されていた皇甫嵩の元に吉報が飛び込んできた。少なくとも、周囲の者にとっては吉報である。だが、皇甫嵩にとっては、このうえない凶報であった。 「黄巾党首領張角、広宗音楽堂での舞台中、吐血、昏倒」 皇甫嵩の心に氷刃が滑り、鋭く冷たい痛みを走らせた。この瞬間、盧植と交わした誓いのひとつが、永遠に果たせなくなってしまったのである。皇甫嵩は無意識のうちに、胸のロザリオに手を伸ばした。 (すまない、子幹。あの子を救う事はできなかった。だが、もうひとつの誓いは必ず果たす。あと一週間以内に張宝、張梁らを討ち、この乱を終わらせてみせる!) 誓いを新たにすると、皇甫嵩は精力的に活動を始めた。激減した兵力を補うために、各校区の総代、棟長への募兵の指示を出す。勢いを盛り返した張宝、張梁の動きはどうなっているか調べ、対策を練る…解決しなければならないことは山積しており、皇甫嵩の判断を待っているのである。なにかと煩雑で苦労の多い仕事だが、その苦労を皇甫嵩は嫌いではなかった。 −広宗の女神 完− 〜あとがき〜 まず、ぐっこ様、改装、乙かれさまです。 ようやく完結です。全9回の長い間、つたない駄文にお付き合いくださってありがとうございました。アウトルッケがようやく復活しましたので、次回から、長文はちゃんと投稿しますのでご容赦を。m(_ _)m 皇甫嵩、かっこいいですよね。強くて優しい、頼れるセンパイという感じで、書いてて楽しかったです。この後冀州校区生徒会長に就任してテーマソング作ってもらったり、董卓を引き連れて西へ行ったり、表彰式で張譲を殴ったり(?)…歳のせいか、董卓入京後は著しく精彩を欠きますが(泣) 後、李儒。こちらも結構良く書けたと思います。張角の神がかり的怖さとは対照的な、人間の怖さと言うものを書いてみたんですが…いかがだったでしょうか。 1−1 >>259 ・1−2 >>260・1−3 >>266・1−4 >>267 2−1 >>281 ・2−2 >>282・2−3 >>285・2−4 >>286 おまけ 張角の夢 >>180 (デビューSS。今読み返してみると赤面もの(^^;)
288:★ぐっこ@管理人 2003/05/24(土) 00:52 まずは雪月華様、乙っ(T_T)ゞビシ! 全九回!? そんなになりますか! 皇甫嵩・朱儁ペアを中心に 学三世界の黄巾主力と生徒会の争乱を余さず描いたロングシリーズ! お見事に書き上げられました! やはり皇甫嵩先輩の颯爽とした勇姿が、印象に残りますね〜。 朱儁先輩も無論頼りになる先輩でしょうけど、皇甫嵩先輩のスマートな 格好良さときたら( ´Д`)ハァハァ…。 天下を掴む力を持ちながらついに掴まなかった彼女の、引退までの学園生活 もいずれ見たいものです…。もちろんその前に、総司令官の腕章を付けた勇姿を。 そして次代の英雄達の出現。まだまだ下役ながら、ぼちぼち頭角を現しつつ ある袁姉妹。さらにその後輩の曹操。 で、董卓。(((( ;゜Д゜)))ガクガクブルブル 存在自体がもはや冗談としか思えない彼女の、ジャイアンボイス。 張角と同じ舞台同じ世界で存在することが信じられないキャラですが(^_^;)、なるほど その戦闘能力と歌唱能力は伊達ではないと…。 んで最後にサリゲに登場した劉備一党! これまたカコイイ! 学園史に名を残さなかったとはいえ、これがデビュー戦だったわけで… 演義早く書きてーっ!
289:★教授 2003/06/16(月) 00:08 [happy@piano.interq.or.jp] お久しぶりです、忘れられてる人が大半かと思われる教授です。 復活したのに何の進歩もないまま使い回しする私って…。 前回の続き、恥ずかしながら少し詰まってまして…。 今月中には掲載予定ですので、期待しないで待っててください…。 ■■必撮! 仕事人 〜法正編〜■■ 「くー…」 ふふふ…。 法正のヤツ、またしても無防備に寝てるな。 ま、軽く一服盛ったんだけど。 …それにしても思ったより効くんだなぁ、目薬。 「うぅん…」 おっ、やけに色っぽい寝返りじゃん。取りあえず一枚ゲット。(シャッター音) これだけでも充分ミッション成功っぽいけど…クライアントの要望には応えないとねー。 鞄を漁り、例のブツを取り出すと…作業に取り掛かった…。 「…で、これが依頼の写真とテープよ」 某棟某所の暗室で私は先ほど入手した写真とビデオテープをクライアントに手渡す。 「うむ…君は仕事が早くて信用できる」 「当然。伊達に仕事人をやってないわ」 微笑んで見せたが、クライアントにはさぞ不敵に映ったはず。 だが、クライアントは白羽扇を片手に涼やかな目をしている。相変わらず食えないヤツ。 「報酬はキミの部屋の冷蔵庫に入れておいた。苦労して手に入れた銘酒、じっくり味わってくれ」 「毎度あり。またいつでも来てね〜」 私は契約完遂を確認してクライアントを完全に見送った。 さて…部屋に戻って打ち上げの一杯でも頂きますか♪ 同時刻、法正の部屋―― 「な、ななな…何コレー!」 鏡の前で自分の姿を驚愕の眼差しで見つめる法正の姿があった。 その姿は、某猫娘のライバルでもあるウサ耳娘のコスプレだった。 「け、憲和のヤツ! 一服盛ったなー!」 蒸気を出しながら憤る。 しかし、姿が姿なだけに却って可愛らしく見えてしまう。 ――そういう時に限って不幸は重複するもの。 怒る法正を余所に突如部屋のドアが開く、厳顔だ。 「法正、辞書借り…」 目と目が合う。厳顔が言葉を失い、法正が固まる。 「え、あの…その…」 思いきり動転して手をぱたぱたと振る法正。 「わ、悪い…私は何も見てないからな…」 「ち、違うの…これは…」 「み、見てない…お前がそんなコスプレ趣味だったなんて…」 「これは誤解だっ…」 ばたん…。 誤解されたままそっと閉まるドア。 「いやああああ!!!!」 法正の叫び声が虚しく部屋に響き渡ったとさ。
290:★ぐっこ@管理人 2003/06/16(月) 21:58 教授様復帰オメ(゚∀゚) Σ(;´Д`)…某ウサ耳にょ? 言われてみれば髪の色が… つうか憲和たん目薬は犯罪だよ…。 最近のは効かないともっぱらの噂ですから、旧製品を密かに持ち歩いてるのですな…
291:★アサハル 2003/06/16(月) 22:30 そいやラヴィアンローズは普段は三つ編みメガネっこでしたかΣ(゚Д゚*) その後法正たんは中華の誇るカリスマ同人屋・劉備ちゃんの 着せ替え人形になる、に3594ペリカ… つか、何ちゅーもん依頼してんですか諸葛亮(w
292:岡本 2003/06/18(水) 23:20 ご無沙汰しておりました。忙中閑ありと言い訳して、ひとつ投下します。 それもまだ前後編の前編のみですが...。 ■天誅−前編−■ (1)白波五人女 蒼天学園暦29年6月に張角・張梁・張宝三姉妹によって引き起こされた黄巾事件は、蒼天学園生徒会 からすると主要3名の階級章が皇甫嵩・朱儁らの活躍で剥奪されたことにより1月足らずのうちにひと とおりの決着は見た。だが、黄巾党の根絶をなしたわけでなく、また事件決着後も黄巾の蜂起に賛同 する者は後を立たず、各地で蒼天学園の現状に不満をもつ者達が跳梁跋扈し一大勢力をなすようになる。 一例としては黄巾の蜂起に呼応して中山・常山・上党・河内地区あたりを根城に周囲を荒らしまわった サバゲー軍団、黒山軍(Black Mountain Force)がある。他にも著名な武闘派チーマーとしては同年9月 に河東地区白波峡谷あたりを根城に、元黄巾党の郭太を長として蜂起した”白き荒波(white surge)”がある。 集団戦術などどというべきものは持ち合わせていなかったのだが、元黄巾一党の中でも武闘派とか 精鋭と称されたいずれも劣らぬ荒くれ者が揃っており、柔弱化が末期症状を呈してした生徒会正規軍 と比較するとやたら喧嘩なれしており討伐は困難を極めた。 共同戦線を張っていた黒山軍(BMF)に対抗してホワイト・サージというハイカラな(死語)ネーミングをし、 白き波頭のエンブレムに基本装備はグリーンベレー風サバイバル仕様だったにも関わらず、 首領の郭太、主要幹部の楊奉、胡才、李楽、韓暹の5名は変に傾いた趣味をもっていたことから、 “白波五人女”として恐れられていた。彼女ら5名は初期のホワイト・サージと并州・司隷校区の執行部員、 風紀委員や生徒会鎮圧部隊との戦闘の際にヒーロー戦隊よろしく、以下の口上で見栄をきっていた。 (作者注:河竹黙阿弥“白浪五人男”の“稲瀬川勢揃いの場”の口上を元にしています。七五調です。) 郭太: ♪〜 問われて名乗るも おこがましいが、生まれは兗州 浜松在、十四の年から 親に放たれ、 身の生業も 白波の 沖を越えたる 夜働き、盗みはすれども 非道はせず、 人に情けを 掛川から 金谷をかけて 宿々で、義賊と噂 高札に 廻る配附の 盥越し、 危ねえその身の 境界も もはや十八に、人間の 定めはわずか 二十年、 十三校区に 隠れのねえ 賊徒の首領 黄天郭太 ♪〜 楊奉: ♪〜 さてその次は 江の島の 岩本院の 稚児あがり、 ふだん着慣れし 振袖から 髷も島田に 由井ヶ浜、打ち込む浪に しっぽりと 乙女に化けた 美人局、 油断のならぬ 小娘も 小袋坂に 身の破れ、悪い浮名も 竜の口 土の牢へも 二度三度、 だんだん越える 鳥居数、八幡様の 氏子にて 鎌倉無宿と 肩書も、島に育って その名さえ、 弁天小僧 楊奉 ♪〜 胡才: ♪〜 続いて次に 控えしは 月の武蔵の 江戸そだち、幼児の折から 手癖が悪く、 抜参りから ぐれ出して、旅をかせぎに 西国を 廻って首尾も 吉野山、 まぶな仕事も 大峰に 足をとめたる 奈良の京、碁打と言って 寺々や 豪家へ入り込み、 盗んだる 金が御嶽の 罪科は、蹴抜の塔の 二重三重、重なる悪事に 高飛びなし、 後を隠せし 判官の 御名前騙りの 忠信胡才 ♪〜 韓暹: ♪〜 またその次に 列なるは、以前は武家の 中小姓、故主のために 切り取りも、 鈍き刃の 腰越や砥上ヶ原に 身の錆を 磨ぎなおしても 抜き兼ねる、盗み心の 深翠り、 柳の都 谷七郷、花水橋の 切取りから、今牛若と 名も高く、 忍ぶ姿も 人の目に 月影ヶ谷 神輿ヶ嶽、今日ぞ命の 明け方に 消ゆる間近き 星月夜、 その名も赤星 韓暹 ♪〜 李楽: ♪〜 どんじりに 控えしは、潮風荒き 小ゆるぎの 磯馴の松の 曲りなり、人となったる 浜そだち、 仁義の道も 白川の 夜船へ 乗り込む 船盗人、波にきらめく 稲妻の 白刃に脅す 人飛ばし、 背負って立たれぬ 罪科は、その身に重き 虎ヶ石、 悪事千里と いうからは どうで終いは 木の空と 覚悟は予て 鴫立沢、 しかし哀れは 身に知らぬ 念仏嫌えな 南郷李楽 ♪〜 ホワイト・サージは近隣の太原地区、河東地区へ乱入し、抗争を繰り返して各種小規模サークルを半 ば強引に吸収して強力化し、とうとう司隷校区洛陽棟の生徒会正規軍でも手が付けられない勢力に成 長した。并州校区総代の張懿がホワイト・サージの鎮圧に失敗し飛ばされるにいたり、劉焉の建議を うけて各校区「総代(=刺吏)」に代わってより権限の強化された「生徒会長(=牧)」を置くことを 決定したほどである。余談ではあるが、各校区の総代は校区の支配者というよりは、地区長の 監査役程度の権限しか持っておらず、さらには各校区正規軍の指揮権は地区長にあり、総代は 独立した軍事力を持っていなかったのである。
293:岡本 2003/06/18(水) 23:26 ■天誅−前編−■ (2)ホワイト・サージ 各校区生徒会会長の成立のように、ホワイト・サージは当時、間違いなく蒼天学園の流れを幾たびも揺 るがす潮流であった。地理的にも蒼天学園の中心たる司隷校区をその勢力範囲に押さえており、いか なる群雄よりも蒼天学園の歴史の鍵を握りうる位置にいたと言えなくも無い。だが、曹操はおろか 菫卓、袁紹、袁術のようなある種のカリスマを備えた指導者を持たず拠ってたつ政治方針も 持たなかったことから当時のどの群雄から見ても脅威といってよい戦闘力を有していたものの、 勢力基盤となる地区生徒達(特に絶対数の多い文化系生徒達)の抱きこみはまったく進まず “群党”の域を越えることは最後まで無かった。政情不安であった頃は後に生徒会の五剣士のひとり となる徐晃が楊奉の旗下にいたように、腕っ節に自身のある連中が集まってきてはいたが、 だんだん各地の群雄が勢力をまし、政情が安定してくるにつれ、文にも優れたような器量のあるもの は離れ、単なる喧嘩屋・チーマーの集まりとなっていた。 ホワイト・サージの幹部たちもそういった安定化の流れは察せられなかった訳ではなく、もっとも目端の 効く楊奉がいち早く蒼天会の擁立に動いたように、李傕・郭レの政権争いに際には楊奉をつてに 胡才・李楽・韓暹(そして匈奴高校の去卑)が両者の餌とされた蒼天会の実働部隊として李傕・郭レに 対抗し、“錦の御旗”側としての転身を図ったのである。この抗争で胡才が飛ばされたように、 ホワイト・サージは勢力で勝る李傕・郭レを相手にかなりの健闘を示し、蒼天会の生存には (文字通り生き延びただけという話もあるが)その戦闘力を生かして一方ならぬ貢献を果たしたといえる。 だが、その戦闘力を嵩に着て、山出し同然の李楽を筆頭に思慮の足りない無茶な発言や私欲に 駆られた暴力行動をとることが多く、蒼天会の面々からは、所詮は共に語るに足りない腕っ節のみが 自慢の不良の集まりと敬遠されていた。まだ目端の効いた楊奉・韓暹は何とか学園のシンボルたる 蒼天会会長を手中に納め続けることであわよくば権力の掌握を狙い、方向転換を考えて喧嘩屋から 脱却しきれない李楽と袂を分かった。これは李傕・郭レと結んだ李楽との内部抗争へ発展し、李楽を 飛ばし李傕・郭レを出し抜くことに成功したかと思われたのだが、戦闘力のみで定見を持たない集団と いう宿命からは逃れられず、結果、兗州校区で勢力を拡大していた曹操に、菫昭を伝手としての 蒼天会との接触を許し、学園暦30年の4月には“曹操の蒼天会会長擁立”という形で全てを攫われて しまうことになる。 許昌棟へ蒼天会を移そうとした曹操の行く手を遮ろうと当時“最強”とまで称された戦闘集団を率いて 楊奉・韓暹は戦いを挑んだ。しかし、所詮個人戦闘の足し算に過ぎない彼女らは、数を生かす 集団戦術に長けた曹操軍団の敵ではなく、当時本拠地であった梁棟を失い、同4月、徐州校区の 席巻を図って劉備と対峙し戦力の強化を求めていた袁術を頼って落ち延びることになった。 権力の座から元のならず者集団に落ちたショックも手伝って楊奉・韓暹は袁術の庇護のもと 徐州校区・揚州校区で“かつあげ・喧嘩”を日常茶飯事として暴れ廻り、公孫瓚・袁術とともに “第一級お尋ね者”として懸賞課外点数をかけられることになる。 ここでも、楊奉・韓暹はなんら政治方針・定見を持たず、もっぱら欲望のままに動静をきめる集団 であることを露呈する。 劉備の徐州校区生徒会長からの追い落としでは、徐州校区への勢力拡大を望む袁術と曹操に破れ 戦力再編のための基盤を必要としていた呂布(正確には陳宮)の思惑が一致していたため手を むすんでいたのであるが、袁術が蒼天学園全体を望む意志を明らかにしてくるにつれ様相が 変わってくる。翌5月、無謀にも袁術は蒼天学園連合生徒会会長を自称した。学園全体から つまはじきされて“賞金首”にされることを恐れた呂布は、袁術が友好締結に送った使者である 韓胤を蒼天会への誠意の証として階級章剥奪処分にふし、結果もともと信頼関係があったとも思えな い両勢力の仲が決定的にこじれ、呂布vs袁術の全面対決と相成った。袁術はこのときのためと飼っていた楊奉・韓暹も動員し、張勲・橋蕤を主将としたバイク・歩兵合わせて数百人の軍勢を七方面 から呂布を攻めさせた。後に戦国最強軍団と評されることになる呂布軍団も高順・張遼以外は 基本的に個人戦闘の足し算に過ぎず全戦力も100〜200人そこそこであったため、数に圧倒的に勝る 袁術軍団には劣勢となる。呂布に韓胤の処断を示唆した沛地区長の陳珪は、呂布にこの戦況の原因 を作り出した責任をとるよう詰め寄られるが、有名な離間の策を提案し戦況をひっくり返したのである。 陳珪曰く、 「楊奉・韓暹がにわかに袁術と同盟したのは、もともと定見があってのことではないので維持することは できません。もともと利と衝動で動く連中ですから、十分に利を示した書簡ひとつで操ることは可能 でしょう。」 以外に筆まめな(内容と論旨は子供じみているが)呂布は楊奉・韓暹に手紙を送り、戦利品の私物化を 認めたうえで内応を依頼した。 策を示唆した陳珪が呆れるほどあっさりと楊奉・韓暹はこの誘いに応じた。 守備兵力をも戦闘に使えるように可能な限り袁術軍団を下邳棟に近づけて呂布vs袁術の会戦は幕を 開けたのだが、両軍団の先頭が300mまで近づいたところで楊奉・韓暹の部隊は一斉に蜂起した。 まったく警戒していなかった他の部隊へ背後からの突撃を行い、乱闘の最中、その戦闘力を生かして 計10名の主将を飛ばした。突然の裏切りに混乱する袁術軍団へ同時に呂布軍団も突撃を敢行、 混戦が続く中、小沛棟からも劉備の援軍として20名ほどを率いた関羽が到着し、駄目押しの攻撃を しかけた。結果、7手のうち2手が寝返ったとはいえ数において勝る袁術軍の総指揮官たる張勲の 部隊を大破し、次席指揮官たる橋蕤を生け捕りにする大勝利に終わった。 大勝利の殊勲として楊奉・韓暹は、利や衝動で何とでも動く連中という評価を裏付けたことも意に 介せず増長することになり、徐州・揚州校区で働く略奪・暴力行為も悪化の様相を示すようになる…。
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