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321:ヤッサバ隊長 2003/08/11(月) 21:58 ■■魏文長、その密やかなる趣味(1)■■ 魏延は生来より、豪胆かつ粗暴な女傑であった。 しかし、蒼天学園へと入学した直後より、彼女はその性格を改め、真なる淑女…つまり乙女への道を志した。 その経緯は、中学時代(蒼天学園中等部に非ず)剣道部に所属していた際、腰を痛めた為に一線を退く事になり、大そう悲しんだ。 しかし、その時彼女の先輩より「女は武のみに生きるに非ず」と諭されたが故であったという。 ともあれ、彼女は武骨な性格を正し、「乙女」として行きようと決意したのである。 「ふんふんふ〜ん♪」 荊州校区蒼天女子寮。 朝、誰もいない調理室で、魏延は鼻歌とともに何やら洋菓子を作っている。 どうやらクッキーのようだが、何とその形状は「クマさん」。 確かに、クマというところがある意味彼女を象徴するクッキーであるが、武辺者として既にその名を蒼天学園中に知られつつあった魏延が、そのようなモノを作る趣味を持っている者は、皆無と言えよう。 いや、彼女は意図的にそのような趣味がある事をひた隠しにしてきたのである。 かつて、このような事があった。 まだ、魏延が帰宅部連合に参加する前の事だ。 当時一年生だった彼女は、参加する部活を決めかねていた。 最初は中学時代のように剣道部に入部するのが筋だと思っていたものの、「乙女を目指す」という大目標が出来た手前、体育会系の部活に入る訳にもいかない。 そこで、荊州校区の文化系の部活に入ろうと決意したのであるが…。 「こんなんちまちまやってられっかぁぁぁっ!!」 …と仮入部した茶道部で、あまりの退屈さに苛立ち、ついには茶釜をひっくり返すという剛毅なマネをしでかしたのだった。 当然すぐさま追い出される魏延であったが、彼女は諦めない。 続いて美術部へと仮入部するのだが…。 「こんなんちまちま描いてられっかぁぁぁっ!!」 …と、例によってカンバスをビリビリと豪快に引き裂き、周囲を凍りつかせてしまう。 当然美術部も追い出された彼女は、最後に料理研究会に入ろうとする。 だが、既に魏延の勇名は荊州校区全体に広がっており、 「あ、あの…料理研究会に入りたいんですけど…」 「結!構!です!!」 …と、恐る恐る尋ねた魏延を、研究会代表・趙累が一蹴してしまうのだった。 さらに、当時魏延が所属していた長沙棟の棟長・韓玄は、粗暴な性格の魏延が大そう気に喰わなかったらしく、わざわざ魏延を呼び出してこう言い放っている。 「あんたに文化系の部活なんざ務まる訳無いでしょ。相撲部や牛乳部や魚拓部がお似合いよ」 このセリフに逆上しそうになった魏延であったが、 (ガマン、ガマンよ文長…こんなところでキレたりしたら、あたしはこれから一生乙女でいられなくなっちゃう…) と、じっと怒りを抑え、悶々とする日々が続いたのである。 だが、皮肉な事に魏延は「乙女」ならぬ「漢女」と言う異名と、武名を轟かせてゆく事になってしまうのだった。 そのような彼女であったから、「クマさんクッキーを作る」事が趣味であるなどとは、口が裂けても言えなかった。 それは、劉備が荊南棟群を平定し、その際に劉備に降り、名実共に「帰宅部」の仲間入りを果たした後でも変わらなかったのである。 「焼けた焼けた、っと」 オーブンから焼きあがったクッキーを取り出し、その一つを口に運んだ。 ポリポリとしばしクッキーを味わった後、魏延の表情が思わずほころぶ。 「んん〜、おいひぃ♪」 正直言って、「普段の魏延」を知る者がこのシーンを見せ付けられれば、気味悪がって逃げ出してしまうだろう。 それほどまでの変貌ぶりであった。 魏延は焼きあがったクッキーを小さな紙箱に入れ、包装紙で包んで部屋を後にするのだった。 (このクッキー、今日こそ部長に食べてもらうんだ〜♪) 魏延は、ルンルン気分(死語)で学園に登校する。 しかし、そんな彼女に思いもよらぬ災難が待ち受けていようとは、この時まだ知る由も無かった…。 (2)へ続く。
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