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364:雪月華 2003/11/30(日) 08:39 白馬棟奇譚 ─前編─ 深夜11時。河水のほとり、エン州校区白馬棟の二階の一室には、まだ明りが灯っていた。おりしも曹操が下[丕β]棟にて呂布一党を覆滅し、宛棟の張繍、寿春棟の袁術、揚州校区の孫策らを相手に謀略戦を仕掛けながら、カントにて袁紹勢力との緊張が高まりつつある、まさにそのときである。曹袁両勢力の境目である白馬棟は、いわゆる最前線であり、来るべき決戦に備え、劉延をはじめとする30人が遅くまで居残り、校門やバリケードの補修、新規敷設や、サバゲーの訓練などを行っていた。 分厚いカーテンの隙間から漏れる明りの質は弱々しく、光源は蛍光灯や白熱灯ではなく、ランプかロウソクの類である事が推測できた。当然、棟の外からは中の様子を窺い知る事はできない。 白馬棟二階の、今は空き部屋となっている化学準備室。その部屋に漂う妖気は、この世のものではないようであった。ガラスの髑髏や奇妙な形の燭台、出所の知れない骨etcetc……ありとあらゆる黒魔術の小道具が、ある種の法則性に基づいて、いたるところに配置され、複雑な意匠の入った六芒星が描かれた魔方陣のシートが、四方の壁と床、天井に貼られていた。 床の魔方陣の傍に、制服の上に西洋の魔女、いわゆるウィッチの纏う、人血で染め上げたかのような真紅の裏地を持つ、闇を固めたような黒いマントと、これまた魔女の用いる漆黒のトンガリ帽子をかぶった、つややかな黒髪の女生徒が佇み、怪しさ満点の分厚い書物に見入っていた。 「………」 左手に書物を持ち、空いた右手で空中に印を結んでいる。ぼそぼそと呪文らしきものを呟いているが、あまりにも小さい声なので、たとえ傍らに居たとしても聞き取る事はできないはずであった。たとえ聞き取れたとしても、書物はラテン語で記されており、必然的に少女の呪文もラテン語となるため、内容を理解できる者は、ごく僅かであろう。 怪しい彫刻が入った蝋燭の炎が揺らめき、それまで影になってよく見えなかった少女の顔が一瞬、明らかとなった。学園全体でも十指に入るであろう、憂いをたたえた瞳が印象的なその美貌を、蝋燭の心細い光が妖艶に浮かび上がらせている。 「……?」 突然、少女の動きがぴたりと止まった。その視線は、床の魔法陣に釘付けになっている。それもそのはず、今まで何の反応も示さなかった魔方陣が、淡い燐光を発し始めていたのだ。その光は徐々に強さを増し、それに共鳴するかのように、天井と壁の魔方陣も輝きを発し始めていた。 「………!」 狼狽し、それでもミクロ単位でしか表情を変えずにいた彼女の目の前で、突如、光が奔騰し、もと化学準備室は無彩色に染め上げられた。 次の日 夜 深夜10時 明りの消えた白馬棟の校門前に、二台のMTBが滑り込んできた。 「夜の学校という存在は、どこか得体の知れない雰囲気があるものだな、張遼」 「まったくですね、雲長」 駐輪場が無いため、校門脇にMTBを止めたのは、先日、生徒会入りしたばかりの、もと呂布部下であった張遼と、現在、許昌棟でかごの鳥も同様の扱いを受けている、豫州校区総代にして蒼天会左主将である劉備の、義妹である関羽の二人であった。 とりあえずその場にMTBを置くと、護身用の木刀を携え、六時の時点で、居残りの生徒が怖がって帰ってしまったため、全ての明りが消えている校舎に、二人は足を踏み入れた。問題があった、どうやら棟全体のブレーカーが落ちたままになっているらしく、昇降口の電灯スイッチが何の反応も示さないのだ。懐中電灯の持ち合わせも無いので、月明かりだけを頼りに、二人は夜の学校の奥へと、足を踏み入れていった。 二人がこんな時間にここを訪れる羽目になった原因は、今朝、白馬棟にて、昨夜最後まで居残っていた生徒十四人が、校舎外で折り重なって倒れているのが発見された事にある。全員、二階の廊下の窓から外に落ちたらしいが、幸いにも、誰もが重くとも腕の骨折程度で済んでいた。だが、何者かとの闘争の結果、で片付けるには、奇妙な点が二つあった。 ひとつは、階級章には手がつけられていなかった事。もうひとつは、落下時の捻挫、骨折以外に外傷が無いにもかかわらず、今朝からずっと、14人全員に昏睡状態が続いている事である。 まがりなりにも、白馬棟は対袁紹勢力の最前線である。おかしな噂が立っては来るべき決戦に差し障りが出るとして、放課後一番に現場検証が行われたが、2階の落下地点の窓が枠ごと外れていた事以外は、何ら収穫が無かったと言ってよい。一応、落下した窓と、廊下を挟んで対面に位置する、もと化学準備室も調査されたが、もぬけの殻で、壁にかけられた、姿見の大きな鏡以外に、何の発見も無かった。 「それで、会議が開かれまして、深夜に調査員を送ることになったのです。そこで、真っ先に自分が行くと言い出したお調子者が1人いましてね」 「曹操殿だな」 「御名答。まさか副会長を行かせるわけには行きませんので、武道の経験のある者から、くじ引きで決めることになりまして」 「それで、おぬしが選ばれたわけか。しかし、何故拙者を誘ったのだ?呂布時代の同僚で、同じ剣道部の魏続や宋憲がおるであろうに」 関羽の問いかけに、張遼は憮然として答えた。 「下[丕β]棟の陥落以来、彼女達とは気まずくなっていまして。私自身は気にしていませんが、彼女達は、呂布を売った事を過剰に気にしているようで、避けられてしまうのですよ」 さらに言えば、張遼は剣道部にも上手く溶け込めていない。呂布討伐後、張遼をはじめとする新規生徒会入会者への歓迎会の座興のひとつとして、蒼天会長観覧のもと、公認剣道場『玄武館』で御前試合が開かれたことがある。 その試合において、張遼は防具をつけずに、李典、楽進、徐晃を、まったく竹刀を打ち合わせることなく撃破し、于禁とは、一度竹刀を打ち合わせただけで、わざと時間切れで引き分けたのである。それ以来、比較的に人あたりのいい、楽進や徐晃とはうまくいっているものの、李典からは血縁者の仇と憎まれ、かたぶつの于禁は、不遜な張遼をあからさまに嫌っていた。また、実戦で剣術を磨いてきた張遼は、剣道の基本である、打ってはポンと跳ね上げる『打突』や、肌の前でピタリと止める『寸止』が上手ではなく、つい、いつもの癖で打ち抜いてしまうため、一般部員からの評判も良くなかった。得物が竹刀であり、防具があるとはいえ、小手を打ち抜けば手首が腫れ上がり、面を打ち抜けば重度の眩暈を起こし、胴を打ち抜けば吹き飛んでしまう。それでいて、受け太刀というものをまったくせず、相手の打ち込みを足捌きのみでかわしてばかりいるので、まったく稽古にならないのである。そのため、一応は徐晃、楽進と同列である剣道部師範の肩書きはあるものの、張遼は放課後、玄武館には顔を出さず、MTB機動部隊の訓練に専念していた。 「音無しの剣か。あの徐晃すら軽くあしらったおぬしに、はじめて竹刀の音を立てさせるとは、于禁殿も伊達で公認剣道部の部長を張ってはおらぬということだな」 「雲長、意外に見る目がありませんね。なるほど、于禁さんの風格や、剣の知識は人一倍ですが、実際はたいした剣士ではありませんでしたよ。ただ、あの状況では、彼女の顔を立てておかないと、ただではすまなかったでしょうから」 「并州の孤狼、『剣姫』張遼も、さすがに命は惜しいか」 「何を勘違いしているのです?袁紹との決戦を目前に控えているのに、剣道部を全滅させるのは、さすがにまずいと思ったからですよ」 傍若無人ともいえる張遼の放言に、関羽は眉をひそめた。 「不遜だな、張遼」 「他人のことが言えるのですか、雲長?」 「拙者はまだ、おぬしの返答を聞いてはおらぬぞ、何故拙者を誘った?」 「では、あなたは何故ここにいるのですか?」 「色々と、おぬしに聞きたいことがあったからだ」 「奇遇ですね。私も、そういう理由からあなたをお誘いしたのですよ。卒業まで肩を並べているにせよ、今から1分後に、どちらかがどちらかをトばしているにせよ、お互いのことをよく知るにしくはありませんからね」 数十秒前から、二人の間で高まりつつある殺気が、臨界点に近づきつつあった。近くに誰かいれば、その殺気だけで失神してしまうかもしれない。 「……じつに後者を選択したくなってきたぞ、張遼」 「今、ここで決着をつけますか、雲長?」 「望むところだ」 「仕事を終えてからです。着きましたよ」 関羽の威圧を、さらりと張遼は受け流した。いつのまにか、二人はもと化学準備室の前に到着していた。廊下を挟んで向かい側の窓には、応急処置のベニヤ板が張り付けられ、外からの月光を遮っている。奇しくも、満月の夜であった。 「カギはかかっておらぬのか?」 「空き部屋ですので、普段はかけていません」 「では、行くぞ」 そう言って、関羽が、引戸の取っ手に手をかけようとした。
365:雪月華 2003/11/30(日) 08:42 白馬棟奇譚 ─後編─ 「……!雲長、危ない!」 何かを感じ取った張遼が、関羽の肩をつかんで思い切り引き戻したのと、内側から爆発的な勢いで引戸が弾き飛ばされたのは、ほぼ同時であった。弾き飛ばされた引戸は、関羽をかすめ、窓代わりのベニヤ板に衝突し、それを突き破りつつ、3m下の地面へ落下していった。 室内を覗き込んだ張遼は、驚きの色を隠せなかった。数時間前までは、完全な空き部屋であったはずの、もと化学準備室内は、完全な悪魔召喚の間と化していたからだ。天上、壁、床に貼られた魔方陣は、淡い燐光を発し続けており、室内の各所に幾何学的に配置された小道具の類は、それ自体が生命を持っているかのように、カタカタ揺れ動いている。 そして、床の魔法陣の中央にうずくまっていた黒い影が立ち上がった。マントの襟をそばだて、とんがり帽子を目深にかぶっているため、その顔は良く見えないが、マントの下には、張遼と同じ制服を着ていることから、同じ高校生と知れた。 「張遼、これは一体……」 「何者かに憑かれているようですね。先程の衝撃波といい、彼女にとり憑いたモノが、今朝の事件の犯人に違いありません」 そう言いつつ、一歩室内に踏み込んだ張遼に、水晶の髑髏が唸りを上げて飛来してきた。張遼は、それを難なく払い落とし、床に叩きつけて粉砕した。続けざまに飛来する、色とりどりの瓶や、出所の知れない骨も、次々とそれに倣った。 突然、室内が夕暮れ色に染まった。いつのまにか、天井近くまで浮き上がっている女生徒の両手に、炎が燃えあがっており、熱気が張遼と関羽に向かって吹き付けてきた。 「な、何が起こっている!?どうするつもりだ、張遼!」 さすがの関羽も動揺が隠せない。一方の張遼も、一瞬驚いたようだったが、すぐにあることに気付き、木刀を右手に下げたまま、無造作に女生徒へ詰め寄っていく。 宙に浮いている女生徒が、バスケットのチェストパスの要領で両手を前に突き出した。燃え盛る紅蓮の炎が渦を巻いて、張遼に絡みつく。 「張遼!」 関羽が悲鳴をあげた。だが、張遼はまったく表情を変えず、絡みつく炎を無視し、何事も無かったかように、ゆっくりと歩みを進めている。宙に浮いた女生徒に僅かに狼狽の色が浮かんだ。 赤一色の世界が、一瞬のうちに白一色に染まった。いつの間にか、女生徒の両手から放出されている炎は、凍てつくダイアモンドダストへと変化している。晴れた日の早朝、低温により空気中の水分が氷結し、まるで氷の妖精のように輝く自然現象だが、これが魔術となると、魂魄をも氷結させる悪魔の業となる。 しかし、それすらも無視しして歩き続ける張遼に、少女にとり憑いた何者かは、明らかに狼狽していた。そのまま、少女のすぐ傍まで歩み寄った張遼は、右手の木刀を空中の少女に突きつけた。 張遼の口から、凄絶な気合がほとばしった。 もと化学準備室の扉を開け放った関羽の目に、四方の壁、天井、床に貼られた魔方陣と、幾何学的に並べられた数種類の魔術の小道具類が飛び込んできた。そして部屋の中央の魔法陣の傍らには、黒いマントを羽織った少女がうつ伏せに倒れている。 「い、今、何が起こったのだ、張遼?」 「……一種の精神攻撃ですね。この部屋と廊下の一部を、ある種の魔術的な場で包み、踏み込んだ者を術にかける。先程、ドアを吹き飛ばした衝撃波も、私に対して放たれた火炎や冷気も、実際には発生していません。あの時、精神的に負けていれば、現実の私は、かすり傷一つ無いまま『焼死』もしくは『凍死』していました。ですが、それに打ち勝てば、術の効果はそのまま術者に跳ね返ります。つまり、彼女にとり憑いた何者かに」 「やけに詳しいな」 「こう見えても結構、オカルトに興味がありますので」 張遼は倒れている少女に歩み寄ると、仰向けに抱き起こし、頬を軽くはたいた。少女が、物憂げに目を開ける。 「我々は生徒会の者です。大丈夫ですか?」 「………」 こくり、と少女は無言で頷いた。 「まず、あなたはどこの棟に在籍している誰で、ここで何をしていたのですか?」 「………」 ぼそぼそと何か言ったようだが、あまりに小さい声だったので、関羽には聞き取る事ができなかった。 「え?揚州校区の会稽棟在籍で、名前は于吉?この場所の気脈がピークだったから、死んだお祖父さんを呼び出そうとしていたが、本のページを間違えて、変なものを呼び出した後は記憶が無い?なるほど、わかりました。ここは生徒会にとって重要な場所ですので、できれば、もう来ないでほしいのですが……」 「………」 再びぼそぼそと何か言ったようである。やはり関羽には聞き取れなかった。 「え?この場所の気脈はピークを過ぎたから、もう来ない?それはなにより。ちゃんとひとりで帰れますか?え?夜目は効くから大丈夫?わかりました。ちゃんと片付けていってくださいね」 こくり、と于吉と名乗る少女は無言で頷いた。 校門を出たところで少女と別れると、関羽が張遼に溜息をついた。 「あのまま帰してよかったのか?」 「拘束してどうにかなるものではありません。とりあえず、副会長には見たままを報告して、もっともらしい理由は、程イクあたりに考えてもらいますよ。それに、于吉と言う名前も、おそらく本当のものではありません」 「何ゆえ?」 「西洋の魔術では、真実の名前を知られると、それに呪いをかけられてしまう恐れがあるので、たいていの魔術師は魔術用の名前を持っているそうです。見たところ、召喚の儀は本格的でしたし、偶然とはいえ、あれほどの精神攻撃を仕掛けられる悪魔を呼び出せた事から、彼女は相当、高位の魔術師と思えましたのでね。それより……」 「仕事は……終わったな」 二人はほぼ同時に跳び退った。そして7mほどの間をあけて睨みあう。関羽は木刀をしっかりと正眼に構えて張遼を見据え、張遼は両手をだらりと下げ、悠然と立っているように見えた。徐々に殺気が高まり、雲ひとつ無い夜空に浮かぶ月ですら、息を呑んで二人の剣士を見下ろしているように思えた。 関羽が、すり足で一歩間合を詰め、張遼もそれに応じて間合を詰めた。そして関羽が剣尖を上げようと、やや前傾した瞬間。 「スト────ップ!」 爽快なほど快濶な声が、一面に満ちていた殺気を吹き消してしまった。関羽と張遼は、ほぼ同時に声のした方を見やり、腕を組んで二人を睨んでいる小柄な少女を見出した。 「曹操殿?」 「副会長ですか」 「二人とも何やってんだよっ!」 曹操の声が、憤りのあまりやや震えているように、関羽には思えた。 「いい?アンタたち二人は献サマと蒼天会に仕える身だよ。それにアタシの大切な友人なんだから、こんなところで軽々しく決闘に及んじゃダメだよっ!」 もっともらしい台詞の中に、関羽は微かに違和感を感じた。 「副会長。今のお言葉、まことの事でござるか?」 「当然だよっ!アンタだけじゃなく、劉備や張飛だって、大切な友人なんだよっ!」 「拙者の疑問は、その前の言葉にござる。……近頃の、蒼天会に対するなさりようを見ていると、その言葉に違和感を感じるのですが」 関羽が言い終えた瞬間、先程、張遼と関羽との間に発生した殺気とほぼ同種のものが、曹操と関羽との間に発生した。 「……関羽、本当はやりたくない、とは言わないよ。好きで生徒会役員やってるんだし、本当にやりたくないなら、とっとと階級章を返上すればいいんだしね。いい?やらなきゃ、アタシがやられるんだよ。アタシが言えるのは、それだけ」 「それはそうと副会長。どうしてこんな時間にここにいるのですか?」 「え?えーと、それは……」 突然、張遼が気難しい顔で曹操に話し掛けた。明らかに曹操は動揺している。 「その、何と言うか……」 「おひとりで、夏侯惇さんも、虎ちょもいないようですし……。無断で調査に来ましたね?」 「うぐ……」 「来ましたね?」 「…ご、ごめん。文若や于禁には黙っててね?あの二人、いつまでもくどくどうざったいからさ」 心から情けなさそうな表情をした張遼は、大きくため息をついた。 「まったく、いち勢力の首領にしては無用心すぎますよ……。わかりました。あの二人には黙っておきます」 「やったー!恩に着るよ張遼!」 「そのかわり、今夜は夏侯惇さんに、こってりと油を絞ってもらいましょうか」 「げ……、か、関羽も何か言ってよっ!」 「張遼。それはいい考えだな」 関羽は苦笑を浮かべつつ、重々しく張遼に賛同した。 午後11時半。中央女子寮C棟4階。 黒絹のような髪のもつ、物憂げな瞳をした美少女が、『顧雍&顧譚』というドアプレートのついた扉を開けた。先程、白馬棟で大騒ぎを起こした、于吉である。部屋の中で、クッションにうつ伏せになってティーン雑誌を読んでいた、于吉にそっくりな少女が、驚いた表情で彼女を見つめた。 「あ、元歎姉さん。昨日は帰ってこなかったけど、どこ行ってたの?龍の巣にもいなかったみたいだけど?」 「………」 「え?憶えてない?まったく、ボーっとしすぎるのも限度があるわよ。まあ、無事だったからいいけど」 「………」 こくり。 于吉、いや後の長湖部副部長となる顧雍は、少し恥ずかしそうに頷いた。黒魔術は、彼女のひそやかなる趣味である。 『学園正史長湖部記 怪異説集』によると、この後、会稽棟に戻った顧雍は、夜な夜な怪しい儀式を繰り返したり、自家製の栄養ドリンクを長湖部員に無償で配ったりしていたが、そのことで孫策に目をつけられてしまった。そして、オカルトや占いを毛嫌いしている孫策に、降水確率0%の日に、雨を降らせる事ができなければトばす、という理不尽な命令を受けてしまう。結果的に、雨雲の召喚は成功し、あたり一帯は豪雨となったが、そのことで逆上した孫策に、秣陵棟じゅうを追い掛け回される羽目になってしまう。そのまま夕暮れ時まで逃げ回り、最終的に更衣室に追い詰められてしまったが、魔法で鏡の中に逃げ込むという荒技により、オバケ嫌いの孫策を失神させ、その隙に逃げ出す事に成功した。 その後、そのときのショックが尾を引いた孫策は体調を崩しはじめ、夏休み突入後、周瑜や張昭の反対を押し切って参加した部内対抗の紅白試合で、人為的な事故に巻き込まれて重傷を負い、そのまま引退してしまう事になる。 顧雍自身は、孫策リタイア後、生徒会から長湖部に復帰した張紘により、その吏才を見出され、長湖部の経営に携わる事となる。幸い、顧雍=于吉であると気づく者はひとりもおらず、最終的には副部長職まで務めたが、週3回ほどのペースで、黒魔術は続けていたらしい。 ほぼ同時刻、中央女子寮B棟5階の自室に戻った関羽に、劉備が深刻な表情で、重大なことを告げた。 「関さんがおらん間に、えらい事あったで…」 「何事でござる?」 「…董承が、訪ねてきおった」 「蒼天会の車騎主将が?いったい何用で?」 「…曹操打倒のために、勤王の志士を集めてるんやて」 時代が急速に動き出す音を、関羽は聞いたような気がした。
366:★惟新 2003/11/30(日) 18:12 オカルトキタ━━━━((( ⊂⌒~⊃。Д。)⊃━━━━ッ!! 迫力ある描写にドキドキ(゚Д゚;≡;゚д゚)ガクガク そして、あの無口っ娘顧雍が魔女っ娘に! 何故だかヤミ帽のリリスファッションを想像して妙に(;´Д`)ハァハァ 顧雍=于吉とはこういうことでしたか〜 なにやらとても新鮮で、面白うございました。
367:★ぐっこ@管理人 2003/11/30(日) 22:25 于吉たんの逆襲キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!! (((( ;゜Д゜)))ガクガクブルブル…魔女っ娘于吉たんの恐怖…っていうか何殺伐と してるのですか関羽たん張遼たん… むむ、前回仰ってた于吉=顧雍説の意味が明らかに…。 ただまあ、顧雍は顧雍で長湖以南累世の名門、というステータス持ちですので、 陳寿の記述からは漏れている説かと(^_^;) そしてハイショーシが注で持ち出して きたものと思われ。 でも確かに顧雍たんは魔女っ娘姿が似合うなあ…。鏡ネタ…。うーむ。 そして長編短編HTML化したぞ( ゚Д゚)ゴルァ! …ひととおり確認はしたのですが、当然、採録漏れもあると思いますので、自己申告 よろ。 歴史的事実に基づいたお話は年表に、それ以外・および元ネタキャラのパロ系作品は 「異説」扱いでしょーとれんじスレ編へ収録してあります。 単純にコピペしてるだけなのですが、せっかくだからこれまで寄せられたイラストを 「挿絵」として使いたい、といわれる方、これも自己申告でよろ。
368:雪月華 2003/11/30(日) 23:01 [sage] 様々なベクトルの反響が大きいみたいで… >自家製の栄養ドリンク 当時、符水というものは、お札入りのただの水ではなく、薬湯(麻薬?)のような存在だったらしいです。まあ、それを飲んで倒れた長湖部員がいたことから、孫策が乗り出し… >『学園正史 長湖部記 怪異説集』 蒼天会ver 帰宅部ver 曹氏生徒会verも存在し、様々なオカルト現象を収録している 、といったものです。元ネタは『捜神記』etc… 以前書いた長湖部合宿SS第一話での、朱桓の怪談も収録されています。 ちなみに、地理的条件からいって、帰宅部verが、もっとも内容が充実していたり(^^; >殺伐とした張遼 まだスチャラカな曹操軍団の雰囲気に溶け込めてないということで。 しかし、魏延、朱桓、関羽、張遼ら、有能な重要拠点軍団長には、 『部下には優しい』『同僚に対しては、やたらと傲慢』『プライドが高い』『気難しい』 という共通点があるのは、なぜでしょうかね。
369:★玉川雄一 2003/11/30(日) 23:51 蒼天航路や無双なんかで張遼と関羽が仲良さげなのに慣れてしまっていたせいか、 一触即発っぽい二人の雰囲気は新鮮でした。 あと、剣道部にヘンに気を遣ってる張遼の不敵さ! 確かに、この手の軍団長クラスってあんなキャラ揃いなんですねえ。 もっとも、そうそう改めようとしないのも立派なプライド? とはいえそれで身の破滅を招く、というのも考え物ですけど… ところでグコーさん、私の『震える山』って確かに歴史ネタ絡みではありますが、 モロに元ネタありのパロディなんですけど年表組でいんでしょうか。 確かに、全然「しょーとれんじ」じゃないんですけどね(-_-;)
370:雪月華 2003/12/01(月) 18:18 ええと、ダメ出しという形になりますが、 当スレ245の拙作「長湖部夏合宿 その2」が文庫版に掲載されていませんでした。 一応、揚州校区異常気象の設定が載っているので、できれば掲載していただきたいのですが… ※確認後、このレスは削除をお願いします
371:那御 2003/12/01(月) 20:06 顧雍タン・・・取り憑かれてるんすかw しかし、、伯カイさんはこのこと知ってるんでしょうか? 知ってて隠してそうな怖さがある・・・ 何気にオカルトに詳しい張遼。 ぶっ飛び曹操軍団に、後々溶け込める理由はこれか? >符水 そ〜いえば符水=麻薬の話はどっかで耳にしましたね。 飲ませてラリッた教徒に、教祖の洗脳が・・・
372:★ぐっこ@管理人 2003/12/01(月) 23:28 >>368 ぐっじょぶ! その説(・∀・)イイ! 色々出てくるオカルト話を総括することも出来そう…。ハイショーシ君も手広いな(^_^;) >>369-370 ラジャっ! 速攻で付け加えるです! ちなみに震える山は「元ネタキャラのパロディ」ではないので、年表組に残しますた。 あれで張嶷が固有結界「枯渇庭園」あたりを使ってたら別ですが(^_^;) 要するに「キャラの元ネタに強く依存」してるかどうかということですにゃ。あんま厳密でもないですけど。 >>370 符水(((( ;゜Д゜)))ガクガクブルブル
373:岡本 2003/12/02(火) 00:31 >教授様 日常の”クスッ”という笑いを誘われるような描写がお見事です。 こういうのはちょっと書けません。次回の作品を楽しみにしております。 >雪月華様 魔法の自己制御ができない人間を野放しにしていいのか、 陪臣同士が喧嘩した場合、勝つにしろ負けるにしろ上の人間の関係において ただでは済まないので"飛ばす"という言葉を比較的思慮深いこの2人の間で出るのか? という突っ込みどころは別にして、ノリを楽しむ感覚で拝読したしました。 ひとつ伺いたいのですが、雪月華様の設定では張遼の剣は自己流とのこと でしたが柳生新陰流の影響が濃いのでしょうか。基本的に”待ち剣”が多い印象が ありましたので、騎兵を用いて”先の先”と積極果敢に攻める張遼の印象とはなんとなく 違ったのですが。 まあ、個々人の設定の問題ですが。 音無しの構:一刀流・中西派三羽烏の一人・高柳又四郎で知られる。 起こり(相手の動きの前兆)に対応できないときは間合いを開け、相手が打ち損じた 下がり端を打ち込む。起こりに対応できるときはその出鼻をうつ。結果として竹刀が触れ合わない。 北辰一刀流創始者・千葉周作の免許皆伝祝いの試合では千葉周作の起こりが読みづらかったのと 剣の鋭さのため竹刀が打ち合い、相打ちに。 無形の位:柳生新陰流の位(構え、転じて剣の技量のことも位といいます)のひとつ。後の先を突き詰めた 柳生新陰流ではある意味究極の構えかもしれません。が、典型的な合わせ技狙いの構えです。 自分から攻める場合は全く無意味な構えです。
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