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462:岡本 2004/04/20(火) 18:46 ■ 邂逅 ■(11) 「喧嘩だ喧嘩だー!!」 ピーチガーデンを満たしていた長閑な雰囲気が破られた。 「張飛が新入り相手に喧嘩売ったんだって。」 「へえ〜相手もかわいそうに。秒殺?」 「それがまだ結構もってるらしいよ。見物らしいわ。」 災難を避けようとする生徒もいるが、野次馬に参加する生徒も多い。 良くも悪くも活気のある生徒がこの学園にはそろっている。もちろん、中には呆れたように、はぁ〜と長々とため息をついた生徒もいた。 「…翼徳のやつ、また羽目外しよったんかいな。性懲りもない話やなぁ…。」 赤パーカーを羽織った生徒は眼鏡のズレを直しながらぼやいた。 まあ、祭りや花見に喧嘩は付きもんやけどな、とつぶやくと、 「どら、おおごとになる前に止めんとな。」 ホタホタと右手の張り扇で肩を叩きながら、喧騒轟く奥へ向かっていった。 真剣試合において精神的重圧は非常に大きい。剣道の試合においても気分をほぐすためコップ一杯ビールを引っ掛ける人がいるくらいである。まして生死とは言わないまで大怪我に発展しかねない野試合の場合のプレッシャーは想像に難くない。何も考えずに暴力を振るえる人間は真性の馬鹿かこれまで強い相手と当たったことがなくまた勝ったにしても大事に発展させるほどの力量もなくゲーム感覚で喧嘩をしてきた人間のみである。 さて、今の相手はアルコールのせいで判断力が甘くなり箍が外れてこのような暴挙に出たのは明らかだが、その実力のほどは関羽をして気を引き締めさせるものがある。 通常ならこのまま動き回らせてガンガンにニトロを燃やさせてエンジン加熱によるオーバーヒート(酔いつぶれ)、もしくは大惨事だがラジエータの逆噴射(バーストによる行動不能)を狙うところであるが、注入されたニトロがそれほど大量ではなかったようで適度に燃えているというところである。酔いの助けで身体能力のリミッターが外れ、威圧や痛覚に対しても鈍くなっているので、駆け引きを抜きにした単純な攻防能力では素面の時を上回っているであろう。頼みの綱は、ニトロが尽きるまで持たせるのみであろうが…。 “この相手に、抜かずにいつまでかわしきれるか…。” 模造刀の重心は杖のそれとは違うので、今の握りでは思うように扱いきれない。防御主体では限界が見えてきた。 「そらそらそらぁー!!何時までもよけてちゃ始まんねえぜぇ〜〜!!」 怒涛のラッシュが襲い掛かる。 “これほどとはッ!避けきれんッ!” 最大の危機に日ごろ鍛え上げた身体が無意識に反応した。瞬時に左手の握りを変え、腰を抜刀の位置に捻るや右手が翻る。白光が関羽の腰間から張飛目掛けてほとばしった。 ギャリンッ! 鈍い金属音が響く。間髪をいれず、両者は即座に飛び下がって間合いを開けた。抜き放たれた白刃が関羽の右手で光芒を放つ。 “…やってしまったか…。” 緊張に引き締まった張飛と違い、関羽は少し苦虫を噛み潰したような苦渋の表情を作っていた。それが次の瞬間には拭い取ったかのように表から消えた。 一度抜刀してしまうと却って開き直れたようである。動揺していた気持ちが落ち着き、目の前の人物をはっきり“打ち倒さねば止められない相手”と認識できた。 切れ長の目がきゅっと細くなる。 張飛のほうでも相手の雰囲気が変わったのは判った。これまでは感じられた動揺・躊躇いがなくなっている。それに先ほどの横薙ぎの一閃。とっさに柄の中ほどで受けたのだが打点を外したつもりが間に合わなかったようで、受けたと思われる場所に切れ込みが走り、その奥の隙間がキラリと日を受けて光るのが見えた。棒をしごいて構えを左右に変えると見せて回転させ、相手に切れ目が見えないようにし、棒の金輪部分を両の手の内に納めるように握りなおす。 酔っているとはいえ緊張からか、無意識にペロリと舌で乾いた唇を湿らせていた。いや舌なめずりかもしれなかった。 “…やっとマジになったってとこか。この張飛様をビビらせるたぁ、やるじゃねえか。だがな、まだこっちには奥の手がある。実戦にこれを使おうと思わせたのはあんたが最初だよ…。リーチの差とこの奥の手、あんたに凌ぎきれるかぃ?”
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