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500:国重高暁 2004/08/31(火) 17:15 [takaaki@wb3.so-net.ne.jp] ■■ レリーフ ■■ (やはりあの時、素直に階級章を返上すればよかったか……) 于禁は、深く後悔していた。 思えば、今を去ること二ヶ月前。 彼女は、樊棟を守る曹仁の援護に赴いた。しかし、その正門前に罠があった。 どこからか流れてきた油に足をとられ、同行したホウ徳とともにスリップ。巨大な大阪城の置物に頭から激突し、目を回したところを、帰宅部連合の将軍・関羽に捕らえられたのである。 敵陣内へ引き出され、ホウ徳はその場で階級章を返上。しかし、于禁はこれを選択しなかった。 「今回は思わぬ計略のために敗れたのだ。ここで終わるわけにはいかぬ!」 熱意が通じ、彼女は階級章剥奪をまぬかれた。そして、帰宅部連合から長湖部を経、このたび生徒会へ戻ってきたのである。 ところが、生徒会は既に「生徒会」ではなかった。姉の後を継いで会長となった曹丕が、「献サマ」こと劉協に蒼天会長を禅譲させ、生徒会を発展的解消させたのである。 于禁は、それから冷遇されていた。安遠将軍に任命されたものの、どうにも遠征の機会がないのである。 捕囚されている間、心労ですっかり青みの抜けた髪も、今やますます色彩を失っており、彼女がかつて学園の剣道部協会の総長であった頃の面影には程遠い。 (やはりあの時、素直に階級章を返上すればよかったか……) 于禁は、深く後悔していた。 「……文則ちゃんね」 「いかにも」 新・蒼天会長じきじきの呼び出しである。重要任務の依頼に違いない。 「本日は、どのような用件でございましょう?」 「あんた、長湖部へ行ってくれないかしら」 (なるほど、遠征の要請か……) 于禁は、噂に聞いていた。妹分の関羽・張飛を相次いで失った劉備が、このたびリベンジの兵を挙げたということを。 彼女は一礼して、言った。 「わかりました。早速、長湖部へ援軍を送り、私を解放してくれた恩に報いるとしましょう」 「……いや、その前に」 曹丕の口から意外な言葉が漏れる。 「その前に?」 「ギョウ棟を視察してきてほしいわ」 (遠征の前に自勢力の視察……一体どんな思惑があるのだろう?) 于禁は、曹丕に彼女の本心を聞いてみた。 「会長、そんなことをする必要はないのでは?」 「必要があるから言ってるんでしょ!」 拳で机を強く叩くと、曹丕は更に言葉を続ける。 「実はね、ギョウ棟の構内に新しくできたものがあるの」 「剣道場か?」 「違う、孟徳記念館よ」 前生徒会長(であると同時に曹丕の姉)の曹操は、于禁が捕囚されている間に引退したが、現役のうちから、巨大な記念館を造らせていたのである。 「ほーお、ついにそんなものができたのか……これは視察する価値があるな」 「でしょ、でしょ? だから、長湖部より先にそっちへ行ってほしいってわけ」 于禁はぽんと手を打って、言った。 「わかりました。私、これより、ギョウ棟を視察してまいります」 出発しようとする彼女に、曹丕は最後の楔を打ち込む。 「たれが今すぐ行けと言った? 行ってほしいのは明日よ、明日」 「そうですか……では、明日は日曜日ですから、朝食をとったらすぐに現地へ向かいましょう」 于禁は一礼して、会長室を去った。 翌朝。 于禁がギョウ棟の正門をくぐると、陰から不意に飛び出してきた者がある。 「文則ちゃん、おはよう!」曹丕であった。 「会長、なぜここに?」 「あんた、孟徳記念館は初めてでしょ。だから、あたしが案内してあげるわ」 (な、何とありがた迷惑なことを……) 于禁の心に一抹の不安が募る。 「何か言った?」 「べ……べ、べ、別に……」 「じゃ、さっさとついてきなさい!」 于禁は小さくうなずいて、走る曹丕を追った。 学生玄関を左へ折れ、本校舎と塀との間を抜けると、グランドをはさみ、向こうに巨大な建物。自分が見も知らぬ施設である。 「すいません。今日は部下を案内しに来ましたので……」 曹丕の二人分無料入館願いは、あっさり認可されるところとなった。 彼女は于禁を連れ、ずんずん奥へ通っていく。 順路やフロアに所狭しと並べられた、姉・曹操の遺品。しかし、そんなものはどうでもよかった。 「会長。私は、ゆっくり時間をかけて見物したいのですが……」 「いいから、いいから!」 広い館内のガイドを、曹丕は一気に進めてしまう。 そして、最上階に設けられた「魏の君の間」へ到達した時のことであった。 「これは……前会長の等身大人形ですね。間近に見れば見るほど、小柄さがよくわかります」 「失礼なこと言わないの! その上を見なさい、上を」 指示されるまま、于禁は視線を移す。 「う、浮き彫りのようですが……」 「レリーフと言え、レリーフと! とにかく、それをもっとよく見なさい」 「そ、そうおっしゃいましても……あーっ!」 レリーフを凝視した次の瞬間、于禁はたちまち血の気を失った。 何と、彼女が関羽の虜となり、階級章剥奪を恐れてぺこぺこしているさまが彫られていたのである。 曹丕は、力強くこう言い捨てた。 「文則ちゃん……あんたは、永遠に、この情けない姿を見られる運命にあるのよ。姉さんも言ってたわ、『あんたを知って二年以上になるけど、階級章剥奪を恐れて降伏するとは思わなかった』てね」 この声を聞くなり、于禁は憤怒の形相で、のっしのっしと曹丕に歩み寄る。 そして、次の瞬間、鳩尾へ肘鉄砲を撃ち込んだ。後は、「魏の君の間」を出て一気に走り去るばかり。 「……文則ちゃん?」 曹丕がふらふらと立ち上がった時、彼女の周りにはもうたれの姿もなかった。 「あ、あいつ……蒼天会長に何ということを……」 曹丕は、ただ呆然とするだけであった。 翌日、蒼天学園事務局に、一枚の退学届が提出された。 いわゆる「五将」の筆頭として重きをなした于禁は、高等部二年の十二月、転校という形で学園史から姿を消したのである。 糸冬
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