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★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
535:北畠蒼陽 2005/01/28(金) 18:52 [nworo@hotmail.com] -隻眼の小娘とりんごの悪夢(3/3)- 「う〜ん……」 「ど、どうしたの、孟徳」 「いや、ここに来る前にね、おばあちゃんに聞いたの」 おばあちゃん……曹騰である。 現在の蒼天会長である桓さまこと劉志の3代前の蒼天会長、順さま、劉保の親友にして学園の伝説的カムロ。AAAカップの守護者、と呼ばれ学園史に巨名を轟かせた鬼才である。 そして曹操はおばあちゃん子であった。 「おばあちゃん言ってたもの。『りんごは交州校区のような危険な場所にできるものなんだよ。怖いんだよ。1人でいっちゃいけないよ』って」 夏侯惇はしばらく考えて口を開いた。 「……あんた、それは……あんた1人で勝手にいかないように怖がらせようとしただけじゃないのか……?」 「あ〜、夏侯惇もそう思う? 私もそんな気がしてきたよー」 「ッ!!!!!!??????」 夏侯惇の声鳴き悲鳴が密林にこだました。 モケケケケケケケケケケケケ…… こだまはしたがすぐにかき消された。 「元譲〜、機嫌直してよ〜」 「……」 あからさまに不機嫌な夏侯惇とあまり誠心誠意とはいえない態度で謝る曹操。 2人は今、遭難中であった。 とにかく帰り道がわからないのである。 当たり前な気はするが。 なぜ帰り道の目印の一つもるけておかなかったか。 曹操曰く『あ、そっか。帰んなきゃいけないんだっけ』とのこと。 バカ丸出しである。 「帰ったらりんご食べたいねー」 ヒトゴトのように言う。 誰のせいでこうなったんだ! という言葉を夏侯惇は口に出さない。 曹操がどんなヤツかってことは昔から身にしみている。 「とにかく帰ろう」 憮然と呟いて歩いてきた方向……と思われる方向に向かって歩き出す。 「あぁ! 元譲まってよ〜」 待ってやる自分がいじらしいな、と夏侯惇は足を止め、曹操のほうに振り返る。 そして両目を見開いた。 「も、孟徳! 後ろッ!」 「ふぇ?」 トラが唸り声を上げて2人の方向を見ていた。 「はぁい♪」 手を振ってみた。 トラは飛び掛ってきた。 「バカ孟徳ーッ! 逃げろーッ!」 「ごめんよー! ごめんよー!」 2人は全力で逃げ出した。 「……んで2人で全力で逃げて。ふ、と気付いたら片目がなかった」 中華レストラン『鳳陽』の片隅。 夏侯惇の腕組みしながらの告白に韓浩は口元を引きつらせた。 隻眼に関してはなんらかの武勇伝があると思っていたが想像以上の武勇伝だった。 しかも想像の上斜め50度くらいを横切っていくような予想外っぷりである。 「そ、それは大変でしたね」 それしか言えない。 そしてしばらく2人は見つめあい…… やがて韓浩はなにかに気付いたように口を開いた。 「りんごがトラウマなのはなんとなく理解できましたけど……その話を聞いてると私が当事者だったらりんごよりも曹操さんに対してのトラウマが出来そうな気がするんですが……」 夏侯惇は韓浩を呆然と見やった。 「……そ」 「そ?」 「そんなこと考えたこともなかった……」 「か、考えてくださいッ! 重要重要!」 そんなあらゆる意味で平和な日のことだった。 --------------------------------------------------------------------------------------- カムロ設定は岡本様の『十常侍の乱』より。百万の感謝を。 ちなみに実際に目を失ったシーンは私が書くとどうやってもグロにしかならないのでぼかさせていただきました^^; もう、いろいろぐだぐだなんで許してやってくださいけぷ☆(吐血
536:海月 亮 2005/01/28(金) 19:44 おお、今度は惇姉の隻眼秘話ですな。 確か人物設定のところでも、課外活動とは無関係の所で、恐らくは曹操が原因で片目を失った、とあったと思いましたし。 しかし、トラですか。片目で済んだのが奇跡みたいな話で笑えるなぁA^^) >ログがリレーに… なってますね…まぁ、私もですけど、きっと皆様こないだの祭(←旭記念日スレ)で萌え尽きてるor現在も奮闘中でしょうから…。
537:北畠蒼陽 2005/01/28(金) 20:08 [nworo@hotmail.com] >こないだの祭 ちょうどおわったあとくらい(ROMを含めたらもうちょい前からこのHPにいましたが)に カキコはじめた私にはお祭りに混じれなくてはふんorz もうどうしたもんか、って感じですprz<スネ夫 >片目で済んだのが奇跡みたいな話 今、思いついたのはそこを救ったのが許チョとか(笑 蒼天航路リスペクト! なのですよ〜(笑
538:★ぐっこ@管理人 2005/01/30(日) 00:54 正直スマンカッタ( ゚Д゚)! あらためましてはじめまして、北畠蒼陽さま! 旭祭に夢中なあまり、素で>>520に気付きませんでした_| ̄|○ このバカを存分に罵り辱めてくださいませ(;´Д`)ハァハァ… >覇者と英雄 (゚∀゚)! 蒼天テイスト! そんでもって、やはり背伸びしても袁紹の王者っぷりには届かない曹操! これイイ!袁紹ってなんだかんだいって、曹操のお姉さまですから! >鍾会と昜 これもキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!! 鍾会の性悪さより、昜たんのうろたえっぷりにときめきました。 存外、二人ともプライド高いので、水面かでの張り合いが激しかったのでは と推測。萌える… >-隻眼の小娘とりんごの悪夢 (((( ;゜Д゜)))ガクガクブルブル そうだったんだ( ゚Д゚)! いや私も全く考えてなくて、なんとなく曹操のせい だろうな…とか思ったたのでマジ採用! 交州校区にて夏侯惇隻眼! そして許褚の登場!?うわははは!これいいッ! 北畠蒼陽さま!ありがとうございますっ! >海月 亮さま うお、丁奉たんの寒中水泳( ゚Д゚)! で、韓当たんの不詳の妹の始末と! 相変わらず学三はレアなキャラが出てくるなあ…留姉妹あたりが出てくるとは。 (゚∀゚)GJ! そういや留賛も、最後は結構壮絶な散りざまでしたやね(´Д⊂
539:北畠蒼陽 2005/01/30(日) 01:25 [nworo@hotmail.com] >ぐっこ様 拙作に過大な評価痛み入ります。1億の感謝を。 ただすべての作品でいろいろミスってるのが難点といえば難点orz 曹操&袁紹はサバゲ決戦だってことを知らずに書いてるし 鍾会&昜はあだ名を名前の後ろに書いてるし 曹操&夏侯惇は3/3で「あ〜、夏侯惇もそう思う?」って…… 元譲って呼んであげて(ノ_・。 あと曹騰は従姉妹のお姉ちゃん、ってことで正式に後漢話を 書き出しました。 新参者のクセにすげぇ長編になりそうでそれはそれでへこみorz 「読みたくねぇ」とか言われると地の底までへこむので 心の中で思うだけにしといてください(笑 それはともかくこれからよろしくお願いします! なのですよ〜。
540:★教授 2005/01/30(日) 14:52 ■■ 合肥の戦 〜凌統vs楽進〜 ■■ 「このままくたばれっかよ!」 「きゃあっ!!!」 凌統は襲い来る敵に自慢のヌンチャクを振るいながら自身の置かれている状況を再確認する。周囲には傷付き倒れた自分の部下、そして敵が無造作に横たわっていた。そして凌統自身もまた全身に痣や切り傷を作り大きく肩で息をしている。勇猛果敢の遜色に少しずつ翳りが見えていた。 その姿を小高い丘の上で見ている少女がいた。最近、長湖部では『泣く子が更に泣く』やら『鬼道娘』で恐怖の的とされている蒼天会屈指の実力者――張遼、その人であった。マウンテンバイクに跨り双眼鏡で戦況を確認しつつ、手に握る模造刀に力が篭る。 「意外と頑張るわね…あの娘」 「そうみたいだな…見た目はフツーなのにな」 感嘆の声を漏らしてにやりと口端を歪める張遼に相槌を打つのは楽進だった。こちらは少し難しい顔をして望遠鏡を覗き込んでいた。ちらちらと張遼を見ながら不満の声を挙げる。 「ねぇ…何で、私は望遠鏡で見てるのかな…。近すぎて見えたり見えなかったりなんだけど…」 「仕方ないじゃない。双眼鏡はこれしかなかったんだし…あ、その望遠鏡は壊したら弁償って徐州天文部が言ってたからね」 「分かってるよ…流石にこんな高い代物は経費で落ちないだろうしな…。つーか、何で望遠鏡なんて借りてきたのさ…これなら肉眼の方が…」 「なら、李典を叱らなきゃね…それ借りてきたのはアレなんだし」 「ごめんなさい…我侭言いませんからケンカはしないで…」 溜息を吐きながら楽進は再び望遠鏡を覗き込んだ。恐らく胃も痛くなってることだろう。 「……まあ、あの調子だと長くは持ちそうにないわね。私はその辺りに潜伏してるかうろついてる長湖部の残党を制圧してくるか…。ここは任せたわよ」 双眼鏡を楽進に投げて寄越す張遼。楽進はそれを振り返る事なく片手でキャッチして頷いていた―― 「はぁ…はぁ…………もう終わりかっ! 怖気付いたのなら…そこを退けぇっ!!!」 息が上がり疲労困憊が誰の目から見ても明らかな凌統。しかし、檄する声には気迫――いや、ここは鬼迫とも言うべき殺気が濃縮されている。その鬼の咆哮に張遼軍の生徒達が息を呑み、間合いを取りはじめた。鬼腕張遼の直属の配下、死をも恐れぬ狂戦士の隊。通称『羅刹隊』がたじろいだのだ。これには遠くで見ていた張遼と楽進も驚きの色を隠しきれなかった。 しかし、凌統の敗色を秒刻みで濃くなっている。彼女の周囲に味方は誰一人として残ってはいなかったのだ。凌統の配下は唯の一人として生き残ってはおらず、全員見事に飛ばされていたからだ。唯一の救いは降伏した者がいなかった事くらいだろう。 「怯むな! あの姿を見ろ! あれで満足に戦えるはずもないだろう!」 羅刹隊の一人が凌統を指差し、周囲を見る。しかし、自分で発した言葉に誰も頷く事はなかった。全身青痣だらけ、そして自身の血と返り血で赤く染まった制服。大きく肩で息をしているその姿に戦える余地は何処にも見えない。だが、それでも羅刹の軍は動けずにいた。目が――全く死んでいないのだ。それどころか襲い掛かれば襲い掛かるほどに満ちていく殺気に彼女達も慎重にならざるを得なかった。 「来ないのかよ……来ないなら…こっちが行ってやるよ!」 「ひぃっ!」 じりじりと間合いを詰め始める凌統に明らかな怯えを見せる羅刹隊。死への心構えが出来ているとはいえ、こんな魔界の生物を相手にしてしまった事を後悔しつつあったのだ。 ――と、羅刹隊の後方に砂煙を立てながら迫ってくるマウンテンバイクが凌統の目に映った。 「どけどけぇっ!」 羅刹隊が何事かと振り返った瞬間、その姿は宙を舞っていた。その軌道はスローモーションの様に目に映り、ゆっくりとトレースするような不思議な感覚に陥っていた。そして、その人は激しい音を立てて着地する。無造作に切った髪、傷だらけの顔、体操服に身を包んで身の丈はある棍を手にした堂々たる姿に羅刹隊も喚声を上げた。凌統もその威風堂々たる姿に一瞬呑まれそうになる程であった。 「私は楽進。アンタに引導を渡しに来た! いざ勝負されよ!」 マウンテンバイクから降りると羅刹隊に下がるよう指示を出す楽進。 「ふん…勇ましい事だね。気に入った…私は凌統、いざ尋常に!」 凌統は口元を吊り上げ、構えと間合いを取る。楽進もまた棍を中段に構え出方を窺う。 互いに隙を見せる事なく一歩、また一歩とその間合いを詰めていく。冷たく重い空気が漂う二人の周囲に固唾を飲んで見据える羅刹隊。どの少女を見ても瞬き一つしていない。そして二人の間合いは2メートル弱にまで詰まる―― ――――――刹那の瞬き、空気を裂く乾いた鉄音と縫う様な深く重い鈍音が戦場に轟いた―――――― 「ふぅ……」 孫権は船上で深い溜息を吐いていた。彼女の周りには甘寧や周泰達が控えており、散々たる戦況を思い返し怒りとも悔恨とも付かない表情を浮かべていた。 「本当に拙い戦にしてしまったわ……赤壁で一度勝ったくらいで何を浮かれていたの…私」 ぎゅっと船縁を握り自分への怒りを露にする。飛ばされた部員や幹部の数は数えても数え切れない、全ては自分の慢心がさせた事。悔いても仕方ない事だが、悔わずにはいられなかった。 そして、一番気掛かりなのは自分を助ける為に戦場に残った凌統だった。まだこれから伸びる可能性を秘めた長湖部のホープの一人…こんな所で飛ばす訳にはいかなかった。しかし、それでも自分には生き延びなければならない責任があった。姉二人に託された長湖部、それをこんな形で終わらせるわけにはいかない。まだ何も成し得ていない。飛ばされる訳には行かない、慕って徒いてきてくれる部員達の為にも――― 悲しみと怒りを抑え付け、前を見据える孫権。その視線の先には先ほどまで居た戦場があった。そして、船に近づいてくるマウンテンバイクが一台。近づけば近づくほどに見覚えのある姿、そして孫権が目を凝らしその姿を確認した時、驚嘆と驚喜が入り混じった。 「あれは…公績! 助けに行って! 早く!」 「御意!」 孫権が言うや否や、周泰が直属の部員を引き連れ船を飛び降りた―― 「公績…」 長湖に帰る船上。凌統に掛ける言葉が見つからず涙ぐむ孫権と満身創痍の凌統が船縁にもたれかかって寝息を立てて、そこにいた。その胸には血塗れの階級章が鈍く赤黒い光をぬらぬらと放ち、その傍らに砕けた愛用のヌンチャクと誰の物か分からないマウンテンバイクがあった。彼女は飛ばされていなかったのだ。生きてこの場にいるのであった。 「公績……ごめんね…そして、ありがとう…。私は…もう今までの私じゃない、安心して」 孫権は目元をごしごしと拭うと船頭に振り返る。そこにいた甘寧、そして周泰や徐盛は主の姿に迷いが無い事を悟った。先ほどまでの幼さが残っていたその風貌には、最早それは無かった。精悍な表情、そして統率力という名の気勢を全身から放つその姿は正しく姉である偉大なる初代、孫堅。そして長湖の覇者、二代目孫策にも勝るとも劣らないほどであった。 「部長……」 凌統は孫権の大きく成長した後姿を薄目でしっかりと見ていた。そして、ゆっくり双眸を閉じて戦場を振り返る―― 「ぐふ…」 「く……」 ヌンチャクの鎖が引き千切れ、四散していく。そして凌統の右肩の横で棍が小刻みに震えていた。 楽進の渾身の棍撃は凌統に命中する事はなかった。そして自身の胸に凌統のヌンチャクの柄が減り込んでいた。 紙一重の世界だった。楽進の棍の僅かな狂いに凌統が一撃を合わせたのだ。それは達人の域ではなく、神の領域が為せる潜在的なものに近かった。 楽進の口元から赤い雫が零れ落ちる。確かな手応えを凌統は感じていた、恐らく肋骨の数本は持っていったはず――だが、楽進は倒れなかった。震える膝を懸命に踏ん張り、棍を落とす事無く凌統に満足げな笑みを浮かべていたのだ。 「…み、見事……まさか…あの一撃にカウンターを入れるなんて…」 「偶然…だよ。正直…やられるかと思ってたから…。……これ、借りるな」 壊れたヌンチャクを懐に入れると、ふらりと振り返り…重い足を引き摺って楽進のマウンテンバイクに跨る凌統。そして楽進も黙って頷きバイクを凌統に委ねた。 今まで唖然としていた羅刹隊は、楽進が敗れた事に大きなショックを隠しきれないでいた。しかし、ふと我に返った。このままあの娘を長湖に帰してはいけない…いずれ必ず大きな災厄となる…。そう思った時には既にモデルガンを握り締めて凌統にその銃口を向けていた。 ――が 「行かせて…やんな」 「楽進…さん? しかし…」 「指揮を任された私が負けたんだ。これ以上は恥の上塗りだよ…」 息も絶え絶えの楽進がそれを制したのだ。その言葉に二の声も上げられなくなる。 遠ざかる凌統の危なっかしい運転を見ながら楽進は満ち足りていた。真剣勝負の中で倒れられる事は彼女に取って喜ばしい事だったから――ゆっくりと目を閉じるとうつ伏せに倒れた―― 「楽進さん!」 羅刹隊が駆け寄った時には、既に楽進の意識は無かった。 後日、楽進はこの時の怪我が元で課外活動から退く事になる。曹操、夏候淳、夏候淵、李典、張遼、除晃らの必死の呼びかけに気丈な返事を返していたが、傷は思ったよりも深く致命的でドクターストップが掛かったのだ。 その後、病室で楽進は紫の髪の少女を思い返していた。満足な戦い、そして苦くない敗北の味。いつか、またリベンジしたいものだ、と――
541:★教授 2005/01/30(日) 14:56 はい、お粗末様でした。いや、ホントに粗末なんですけど(T_T) 時間に猶予も無く死兆星を見ながら書いてましたが…いやぁ、読み返すと短い短い…。 もう少し内容詰めて書きたかったというのが本音です。 その内、リメイクするかもしれません。つーか、する(断言)
542:北畠蒼陽 2005/01/30(日) 18:18 [nworo@hotmail.com] >教授様 (゜V+゜)b 素晴らしいSS、眼福でございます。 一騎打ち、というか戦闘シーンがあまり書けない人間なのでうらやましいなぁ。すごいなぁ。 自分もがんばらなきゅあ……
543:海月 亮 2005/01/30(日) 20:25 >教授様 凌統vs楽進ですか! しかも凌統のエモノがヌンチャクですと! 何気に三国無双新作で凌統登場という情報に、嬉しさのあまり魂抜けかけてたタイミングにこれを読むことになろうとは… お見事でございます(´ー`)b …ぬう…書きかけだった甘寧と凌統の仲直りの話、書き直さねば…(え? それでは私めもひとつ。 毎度毎度長湖部員ネタで恐縮ながら、投下の機会を得ずにお蔵入り寸前だった子瑜さん話を。
544:海月 亮 2005/01/30(日) 20:27 -子瑜姉さんと"ロバの耳"- そのいち 電子音のベルが鳴り、少女は枕元の時計に手を伸ばす。 デジタル時計の表示は八時。少女はゆっくりと体を起こし、伸びをする。 のそりと布団から出て、眠たい目をこすりながら洗面台に向かい、大して乱れてもいない髪を梳かし始める…すると、 「…………………え?」 少女は何故か唖然として、洗面台の姿見に映る自身の顔を、始めて見る物のように覗き込んだ。 ややツリ目がちな、見慣れた自分の顔。 その頭には、艶のある栗色のロングヘアー。 しかし、そこにはあるべきものが存在していなかった。 「アレが…ない?!」 そう呟く少女…諸葛瑾は、何度も自分の頭の両サイドを触り、呆気に取られていた。 「いやゴメン、マジで気ぃつかなかった」 「…別にいいんだけどね」 放課後の揚州学区のカフェテラスで、見慣れたクセ毛のない諸葛瑾と、魯粛は向かい合って座っている。 諸葛瑾にとって親友である魯粛でさえ、初めはその少女が諸葛瑾だと気付けなかった。 「でもさ、いったいどうしたってのかねぇ…突然"ロバの耳"がなくなるなんて」 "ロバの耳"…それは、諸葛瑾のトレードマークといっても過言ではない、彼女の頭の左右両サイドに、普段存在するクセっ毛のことである。その形がロバの耳のように見えることから、友人達からはその名で親しまれていた。 幼い頃、ある日突然出現したそれは、長い間彼女のコンプレックスでもあった。どんな整髪料を使おうとも、その部分を逐一切り落としても、やがては元通りになってしまうのだ。 諸葛瑾もやがて諦め、かれこれ十年以上この"ロバの耳"と付き合ってきた。何時しか、彼女もそれに愛着を持つようになり、毎日念入りに手入れしていたりもしていた。 「そんなの、むしろ私が訊きたいわよ」 「心当たりは? 例えば、何か違うシャンプーか何か使ったとか」 「朝起きて、一番に鏡を見て、その時にはもう無かったのよ。ついでに言えば、昨日使ったシャンプーもトリートメントも、何時もと同じモノだし…濡れてる間にタオルで締め付けたってなくなるようなモノじゃない事だって、子敬も知ってるでしょ?」 「そりゃあ、まぁ…」 「どうしたらいいかなぁ…これじゃ、誰も私だって解んないだろうし…第一落ち着かない」 諸葛瑾は本気で困っている様子だった。誰だか解らない、というのも、そもそも魯粛にも解らなかったんだから、多分他の長湖部員も目の前の少女が諸葛瑾だと解る者は居ないだろう。 現にこの日、多くの幹部仲間とすれ違ったが、誰も気付かなかった。たまりかねた諸葛瑾が、魯粛に話し掛けたからからこそ、やっと気づいてもらえたようなものだった。 何だか気の毒に思えてきた魯粛も、真剣な顔になって考えていた。ふと、周りを見回すと、様々なヘアースタイルの少女の姿が目に飛び込んできて…。 「!…そうだ、子瑜。ちょっとここで待ってて」 「え?」 魯粛は何を思い立ったのか、席を立つと、そのまま何処へとも知れず駆け出していった。
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