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★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
545:海月 亮 2005/01/30(日) 20:28 -子瑜姉さんと"ロバの耳"- そのに よ〜し…こんなもんですかね。目、開けて」 「ん…」 言われるがまま、ゆっくり目を開けると…そこには、両サイドの丁度"ロバの耳"があったあたりに、根元を紅いヘアゴムで結ばれた、小さなツイン・テールが出来ていた。 「ちょっと感じが違うけど…まぁ、見えなくはないんじゃないかと思う」 魯粛はあの時、カフェテラスの隣りにある購買へ駆け込み、ヘアゴムを買ってくると諸葛瑾をトイレに連れ込み、その髪を"ロバの耳"っぽく結い上げることにしたのだ。 「う〜ん…なんか、子供っぽくない?」 「いいじゃないの。結構似合ってるよ、子瑜」 「でもなぁ…」 「何時までも気にしないの! さ、そろそろ幹部会の時間だよ、行こっ」 様相をいつもと違えた"ロバの耳"モドキを弾いたり摘んだりしながら、尚渋った様子の諸葛瑾を引きずり、魯粛はその場を後にした。 「あはははは! そ、それ傑作! 傑作ですよ子瑜先輩っ!」 こくこくこくこくっ。 「…………………煩い」 爆笑する歩隲と、表情を動かさないものの普段より明らかに勢いよく頷く顧雍の姿に、諸葛瑾はむすっとした表情でそっぽを向いた。 その様子を見、傍らの魯粛が「あっちゃ〜…」といわんばかりに首を振った。 案の定、幹部会で誰もそれが諸葛瑾と気付くものは居なかった。傍にいた魯粛が逐一説明し、その都度皆同じような反応を示していた。 ほとんど表情の解らない顧雍以外は、皆笑いをこらえているのが見え見えだ。中でも歩隲に至っては、この有様である。 「え?…えっと、可愛らしい感じでいいですね…あはは…」 「あ〜、なんて言いますか、そういうのも悪くは…ないっスね、うん」 メンバーの中でも比較的気を遣ってくれる部類に入る駱統や吾粲ですら、言葉とは裏腹に必死で笑いをこらえている有様だった。 メンバーが姿をあらわすたびに諸葛瑾は不機嫌になっていくのも自然な反応と言えた。 そして… 「みんな揃った?…って、あれ? あなたは…えっと…どなたでしたっけ?」 孫権のその一言に、笑いをこらえていた顧雍以外の幹部会メンバーは遂に我慢の限界を迎え、どっと笑い声が上がり、たちまちの内に大爆笑になる。 慌てて魯粛が耳打ちをすると、孫権は慌てて、 「あ…え、えっと、髪型、変えたんだね?」 と取り繕おうとしたが、むしろ、それは逆効果であった。 再び、満座がどっと沸き、それが止めになった。 「……っ!」 「あ…!」 「お…おい、子瑜っ!」 諸葛瑾は立ち上がると、倒した椅子を直すこともせず会議室を飛び出していってしまった。 慌ててそれを追って孫権が飛び出していったのと、満座から一名を除いて笑いが消えたのは同時だったと言っていい。 魯粛はその唯一の音源…歩隲の頭に拳骨を一発見舞って黙らせると、会議室を飛び出していった二人の後を追いかけていった。 屋上に続く踊り場に座り込み、彼女は泣いていた。 愛着のあった"ロバの耳"がなくなったということもショックだったが、何より、孫権すら自分が誰かを理解してくれなかったことが、一番ショックだった。 荊州学区返還交渉の際、相手の参謀に自分の妹が居る、ということで随分陰口を叩かれたが、孫権はその都度「子瑜がボクを裏切らないのは、ボクが子瑜を裏切らないのと一緒だよ!」と、彼女をかばってくれていた。 それ程の信頼を寄せてくれた人が、ハプニングのためとはいえ髪形が変わってしまった自分に気づいてくれなかった…それが、悲しかった。 「…あ、こんなトコにいた」 「子瑜っ!」 後ろから抱き付かれた感覚にはっとして振り向くと、そこには孫権の姿があった。階下には、魯粛の姿もある。 「ごめんね、ボクが無神経すぎたよ…何時もとちょっと感じが違ったから、からかってみようと思ったんだ…」 「……え…じゃあ…私の事」 「ちゃんと解ってたから…その髪型も、似合ってるよ、子瑜」 そう言って、笑って見せた孫権の目の端にも、うっすらと涙の跡があった。 「…ありがとう…部長」 涙を拭うことも忘れ、諸葛瑾は孫権を強く抱きしめていた。
546:海月 亮 2005/01/30(日) 20:29 -子瑜姉さんと"ロバの耳"- そのさん 「……ふむ…まさか、こんな長い間効き目があるとは思わなかったが…」 「やっぱり、テメェの仕業だったのか、孔明」 荊州学区・公安棟。かつては江夏棟の名で呼ばれたそこは、帰宅部連合と長湖部の勢力範囲の境目にあたり、その二勢力の中立地帯となっていた。 魯粛は今回の事件の原因が諸葛瑾の妹・諸葛亮にあると考え、渋る彼女を無理やりに引きずってきたのである。 「勘違いしないで頂きたいな。私がやったのは、"ロバの耳"を作り出したことだ」 「はぁ?」 「何ですって!?」 諸葛亮のしれっとした一言に、二人は唖然とした。 「お姉様も知っての通り、お母様の寝癖は相当に酷かっただろう。毎朝、何十分もかけて髪を梳かすその姿を見て、幼いながらも私は心を痛めていた…」 そう言って、視線を遠くへ投げる。 「そこで私は毛根に作用し、決まった髪形を維持する髪質に変える整髪料を開発したのだ。実際の効能がどれほどのものか試すため、私はある日、お姉様と元遜が寝入ったところを見計らい…」 「…………………………ようするに、貴様の仕業か」 妙にドスの利いた声。普段聞きなれないその少女の声に、魯粛は愚か、諸葛亮でさえ思わず息を飲んだ。 言うまでもなく、その声の主は諸葛瑾である。 諸葛瑾がゆらりと立ち上がると、その背後は怒りのオーラで景色が歪んでいる。 「お、お姉様落ち着いて…まさか私も、効果が10年も持続するなんて考えても…ひぃッ!」 その言葉か聞こえていないかのように、壁際に追い詰めた妹の襟首を、諸葛瑾は千切りとらんばかりにねじ上げた。 「し、子瑜…アンタが怒るのも解るけど、そいつ殺したらヤバい事になるから…いろんな意味で」 「………直せ」 魯粛の言葉も無視し、諸葛瑾は普段より数段トーンの低い声で、妹に命令した。 「え? でもこれでお姉様の髪型は元通り…」 「いいから、私の髪型を普段通りに戻せと言っている…ッ!」 何故か目深になった前髪から、殺気立った目が覗く。 その形相に恐れをなしたらしい諸葛亮は、まるで壊れた人形のようにがくがくと首を縦に振った。 かくして一週間後、その特徴的な"ロバの耳"は再び元通りになった。 「いや〜、ホンッと良かったですねぇ、先輩。あの髪型もキマってたのに残念ですね〜」 こくこくっ。 「……黙れ、子山。元歎も同意すんな」 先日の一件で一番大笑いしてた張本人の一言に、直前まで上機嫌だった諸葛瑾はむっとした顔で二人を睨んだ。 「でもやっぱり、その髪型のほうが子瑜らしくていいと思うよ。可愛いし」 「それもそうですねぇ…いっそ、その根元にリボンでも結ってみます? もっと可愛くなるかも知れないですよ」 こくこくっ。 孫権の言葉に冗談とも本気ともつかない提案を投げてくる二人(?)。 「お前等なぁ…それより、今回は孔明のヤツも災難だったかもな」 「いいのよあのくらい。たまにはいい薬だわ」 そうである。 何せその薬そのものが残っていなかったため、諸葛亮はかつて自分が作った試作品のレシピをほじくり返し、急遽作ることになったのだ。 しかも、材料も入手困難なものばかりらしい。 その内訳が明かされることはなかったが、材料をかき集めて帰ってきた諸葛亮の白衣は見るも無残な状態で、しかも供をしたらしい趙雲たちに至ってはそれ以上の有様だったことを鑑みれば…。 「…………なんてーか、いろんな犠牲を払ったんだなぁ…その"ロバの耳"は」 孫権の言葉に再び上機嫌となった諸葛瑾の姿を眺めながら、魯粛はしみじみとそう言った。 そして、成都棟の(元)科学部部室では… 「!………う〜む、まさか、また何年後かに同じ事が起こるんではなかろうな………」 姉の見慣れない形相を思い出し、思わず身震いした諸葛亮であった。 ちなみに、諸葛姉妹の母親にこの薬が使われたか否か、定かではない……。 (終劇)
547:海月 亮 2005/01/30(日) 20:38 以上でござる(゚∀゚)> 「風を継ぐ者」の閑話休題的に書いたお話なのですが…出来上がってみるとまったく無関係に(オイ 時期的には長湖部&蒼天会が合肥と濡須でドンパチやる直前くらいになるでしょうか。 >ぐっこ様 留賛。そうなんですよ、彼女の散り様はいずれ書かねばならぬと思っておるのですよo(>ω<o) でも先に審配さんの散り際やっちゃいそうです。何気に、キャラデザがないのをいい事にイメージだけで描いていたら、その光景が脳裏に(ry とりあえず、それもうぷろだに置いて帰ります。
548:北畠蒼陽 2005/02/10(木) 16:26 [nworo@hotmail.com] ご無沙汰です。 えっと、まだ未完成の作品なんですが前に言ってた曹騰の話です。 実は今週引越し予定でして、しかもまだ引越し先にネット環境が整ってない、いつ復帰できるかもわからない状況なのでとりあえず出来ているところまで投下です。 ちなみに全8話の予定。ちょい長いですな……
549:北畠蒼陽 2005/02/10(木) 16:27 [nworo@hotmail.com] -Sakura- 第1話:紅華 時計の秒針が時を刻む音だけが聞こえる。 曹騰はうららかな昼下がり、1人で縁側に正座し緑茶をすすっていた。 すごくおばさんくさい。 しかし普段着ではなくぱりっとスーツを着ているのは違和感がある。 茹でた青菜のようにはんなりとした時間が過ぎていく。 自分の学生時代の激動からは考えられないようなゼイタクな時間に曹騰は人知れず笑みを浮かべた。 「あつつ……」 お茶の熱さに舌を火傷しそうになり苦笑する。 あの頃の熱さにもう一度戻ってきてもらいたいとは思わないが懐かしく感じることは事実だ。 「ただいま〜!」 静寂のときを破る声。 曹騰はぼんやりと時計を見た。 (あぁ、ほんと、学校の終わる時間だわ) かなり長い間、ぼ〜っとしていたことに気付き、少し赤面しながら曹騰は立ち上が……ろうとしてこけた。 足が痺れていた。 上半身を床に突っ伏したまま、ひくひくとうごめく。 虫みたいだった。 「お姉ちゃ〜……って、う……えっと……どうしたの?」 曹騰の頭上で本気で心配する声がした。 心配しなくていいから見ない振りをしてほしい。 「な、なんでもないわ、孟徳ちゃん。おかえり」 脂汗をかきながら必死で笑顔を浮かべる。 痛々しい。 「……!」 孟徳……自分を実の姉のように慕ってくれている従姉妹の曹操。今はエン州校区の小学校に通っている……に微笑みかけた曹騰の目に飛び込んだのは泥にまみれた服と無数の擦り傷だった。 「孟徳ちゃん、どうしたの!?」 「え、あ……なんでもない! なんでもないよっ!」 曹操は焦りながらぶんぶんと手を振った。 あからさまになにかある、という態度である。 曹騰は片ヒザ立ちで座り……足の指を両手でほぐして痺れを取ろうとちょっと必死になりながら……真剣な顔を曹操に向ける。 「孟徳ちゃん、ちょっとそこに座りなさい」 ちょっとホンキ。 こうなると曹操は弱い。 まず年齢が一回りも違うのだからその潜り抜けてきた修羅場の回数も当然のようにまったく違う。 その従姉妹の『ホンキ』に曹操の小学校レベルのキャリアが太刀打ちできるわけがない。 まるで『曹騰に怒られる曹操』のようにしゅん、となって曹騰の前に正座する。 比喩じゃなくてそのままである。 「孟徳ちゃん、いじめられたのね」 「……」 「返事は『はい』。それ以外認めません」 『はい』しか認めないんだったら聞く意味ないだろう! と、ちょっとだけ曹操は思ったが反論できない。 「……はい」 「私が『カムロ』だから『カムロの従姉妹』って言っていじめられたの?」 「……言いたくない」 とたんに曹操のほっぺたが曹騰に掴まれた。
550:北畠蒼陽 2005/02/10(木) 16:28 [nworo@hotmail.com] 「そんなことを言うのはこの口? この口?」 むにむにと引っ張る。 「ひ、ひたい! ひたいよぉ〜!」 むにむにむに。 ほっぺたをむにむにと引っ張っているとまた足の痺れが襲ってきて曹騰は再び突っ伏した。 「うぐ……と、とにかく孟徳ちゃんはそんなことを気にすることはないの! みんなに嫌われたら私がその分、愛してあげる。そして本当に友達、って言える人たちができるまでずっとずっと守っていてあげる」 曹騰はいいことを言った。 いいことを言ったのだがいかんせん上半身を床に預けたまま、お尻を上に向ける、といういかんせんはしたないポーズのためまったく威厳はない。 「……トモダチ」 そんなポーズながら曹騰の言葉は曹操の心に響いたようだ。 人間わからないもんである。 「トモダチ……よくわかんないよ」 従姉妹の夏侯惇や夏侯淵、曹仁や曹洪らは友達、と言えるかもしれないが、それ以外に自分が『カムロの従姉妹』と知っても付き合ってくれるようなトモダチなど曹操に心当たりはなかった。 「……」 曹騰は溜め息をつき再び足指をほぐしだした。 もうしばらく立ち上がれそうにない。 「『カムロの従姉妹』どころか『カムロ』にだって友達は出来るものよ。私にも高校の頃、とっても素敵な友達がいた」 「……え!?」 従姉妹の言葉に素っ頓狂な声をあげる曹操。 「失礼ねぇ……私が友達できないくらい性格悪いって?」 やや憮然とした声で曹騰が曹操を睨む。 もちろんそういう意味ではなく『カムロ』というものがそれくらい忌み嫌われている、という意味の驚きである。 曹騰は仕方がない、という顔をし短い髪をかきあげた。 「じゃあ……私の高校の頃の話……とても素晴らしい友達の話でもしてあげる」 どちらにしろ足の血行が戻るまでまだまだ時間がかかるだろう。 それに今日は…… まぁ、それまでの暇潰しに話をするのも悪くない。 そして曹騰は語りだした。 ……彼女たちは本当に輝いていた。 そして私の人生は彼女たちによって鮮やかに彩られた……
551:北畠蒼陽 2005/02/10(木) 16:28 [nworo@hotmail.com] …… とても目立つ少女だった。 遠目にもつややかな髪をばっさりとオカッパにまとめ、さらなる特徴として誰が見ても明らかな胸のふくらみのなさ。 そして制服も膝がちょうど隠れるくらいのショートパンツ。 典型的なカムロである。 解説しよう。 カムロとは髪をショートボブまで切り詰め、少年と見まがうばかりに胸がないブラジャーいらずの もののことである。 なぜそのような存在が学園に存在するか、についてはいろいろある、としか答えようがない。 答えたくとも説明が長くて答えるのが面倒だ、というのが本音である。 とりあえず今は話を少女に戻そう。 「なんでこの私の……曹騰の名前がないわけぇ〜ッ!?」 「さぁ、そんなことを私に言われてもねぇ……困るんですよ、とにかく。あなたの名前はこの名簿にありません。つまり入寮は許されません」 学生課…… そう書かれた看板の下で曹騰と係員が言い争っていた。 正確には言い争っている、と感じているのは曹騰だけであり、係員にとってはうるさいハエをつぶすことすら面倒だから放っておいている程度のことだろう。 「だいたいカムロごときが、この司隷特別校区にというのも、ねぇ」 係員の言い草に曹騰の怒りゲージは急速に溜まっていく。 今の曹騰であれば水温94度くらいでお湯が沸騰する。 『カムロ』というのはつまり学園の象徴である『学園都市女子高等学校連合生徒会代表会議』……通称、蒼天会の会長にはべり、連合生徒会との連絡、調整役を勤めるのが役目なのである。 もう少し世代交代すればそうでもなくなるが、現時点では勉強の成績もあまりよくない人間が多く、無教養で軟弱、と見られることが多かった。 曹騰とてあまり勉強ができるわけではないが、それでもこの言い方はあんまりだと思う。 だいたい曹騰なりにがんばって、ようやく掴み取った司隷特別校区……そう、蒼天会、生徒会などの全管理機能が集中している学園都市最大の『首都』への切符をこんな係員ごときにバカにされなければならないのか。 しかも入寮名簿に名前を書き漏らしたのはそっちだろうに……! 「とにかく本日の入寮は認められません。後日、書面で入寮申請をお願いします」 『お願いします』などとは言っているが明確な拒否である。
552:北畠蒼陽 2005/02/10(木) 16:30 [nworo@hotmail.com] 「……ッ!」 「それは酷くないですか?」 曹騰が口を開こうとした、まさにその瞬間、後ろからの涼やかな声がやんわりと割って入る。 「それに彼女だって遊んでここまでこれたわけではないはず。先ほどの『カムロごとき』という言葉は取り消すべきだと思います」 係員はぱくぱくと金魚のように口を開け閉めさせて顔を青ざめさせている。 いい気味、と思いながら曹騰は天使の声の持ち主を見た。 天使だった。 腰まで届くような長い髪。 優しげな顔。 曹騰は今まで『美人』に会ったことならあったが『天使』に出会ったのは初めてだった。 惜しむらくは胸の大きさが曹騰と比べても遜色ないところだが……まぁ、これは好みが別れるところであろう。 天地がひっくり返ってもこんな娘にはなれない……曹騰は人知れず敗北感に浸った。 「なんとか彼女を寮に入れることはできないのですか?」 「し、しかし……規則は規則ですので……」 抗弁を試みる係員。 「わかりました。もう頼みません。彼女は私と同じ部屋に来ていただきます。私もちょうど1人部屋でしたからちょうどいいですわ」 「あぁーッ!? そ、それはいけません!」 「もう決めました」 真っ青になる係員。 彼女ってば……こんな傍若無人な係員が一発で恐れ入っちゃうくらい良家のお嬢様なのかな? 曹騰はそっと彼女の顔を盗み見る。 目があった。 恥ずかしくなって顔を伏せる曹騰に彼女はにっこりと笑いかけ、手を差し伸べる。 「これからよろしくお願いしますね……私は劉保、と言います」 劉…… 蒼天会長の家柄……この娘が誰だかよくわからないけどいいとこのお嬢さん、という推測は間違っていなかったようだ。 「りゅうほ……劉保ね。私は曹騰! 季興って呼んでね。これからよろしく!」 曹騰が彼女の差し出した手を握り締める。 そのときの彼女のなぜか、曹騰に対して驚いたような表情が印象的だった。
553:北畠蒼陽 2005/02/10(木) 16:32 [nworo@hotmail.com] -Sakura- 第2話:琴平 「劉保ってお嬢様なんだよねぇ〜?」 「りゅ、りゅうほ……!?」 曹騰の言葉に劉保は目を白黒させた。 曹騰はくるくると逢魔が時の薄暗闇の中を回転しながら…… そして劉保はそれを楽しそうに眺めながらしずしずと、2人は並んで歩いていた。 「あっれ? 劉保って名前じゃなかったっけ? 違った?」 心底、不思議そうに曹騰が劉保に問う。 「いえ、劉保であってます。ただ……」 「ただ……?」 不思議そうな顔を浮かべる曹騰に劉保は苦笑を浮かべる。 「あまりそう呼ばれ慣れなかったものですから」 「呼ばれ慣れなかったって……」 自分の名前だろうに、と思いはしたがそれも家庭の事情なのだろうと思って言葉を飲み込む。 どういう事情だかはよくわからないが。 「……で、お嬢様なんだよね?」 露骨な曹騰の言葉に劉保は再び苦笑。 「そう、かもしれませんね」 思えば子供の頃から大事にされすぎて同年代の友達を得ることも出来なかった。 周りがみな自分の名前を知っているのだ。 近づいてくるのは自分の名前を利用して出世しようとするやつらばかり…… だから劉保にとって自分のことを知らないでいてくれる曹騰ははじめての興味深い存在だった。 「ねぇねぇ、劉保ってあだ名ってないの? あだ名」 「あ、あだ名!?」 劉保は一瞬、呆然としたがすぐににっこりと笑った。 「あだ名、というのはありません。私のことは劉保とだけ呼んでくれればそれで十分です」 「ふ〜ん……あ、そうそう……」 何気ない会話。 曹騰が振ってくる……彼女にとっては本当に何気ない話題なのだろうが……それは劉保にとってはとてつもなく新鮮な時間だった。 「……ってば! 劉保ってば!」 少しぼんやりしていたのだろう。 ふ、と気付くと曹騰の顔がほんの目の前にあった。 「は、はい?」 「あ〜、びっくりした。劉保ってば急に立ち止まるんだもん」 屈託なく笑う。 「ちょっと考え事をしちゃいました」 「わかるわかる」 なにがわかるというのか、曹騰は劉保の言葉にしきりに頷いてみせる。 それもまた……なにか嬉しかった。
554:北畠蒼陽 2005/02/10(木) 16:33 [nworo@hotmail.com] 「で、どうかしましたか?」 劉保の言葉に曹騰は『あぁ、そうそう』と言った。手をポン、と打つアクション込みで。 芸の細かい娘である。 「劉保って何年生なの?」 曹騰は学生課の係員を明らかに圧倒する存在感から自分よりも1歳か2歳は年上だと思っていた。 胸は……まぁ、成長期には個人差がある。きっとこれからだ。大丈夫。 「今年から高等部です。曹騰さんと同い年ですね」 劉保の言葉に曹騰はぴしっ、と石化した。 「あ、あの……えっと……季興さん?」 まるまる30秒固まってから曹騰は目をぐるぐるさせながら喚いた。 「お嬢様で、キレイで、私よりも年上かと思ったら実は同い年でーッ!? 完璧超人か、あんたはーッ!?」 「え、えぇッ!?」 劉保にとっては……まぁ、当たり前であろうが……はじめてこんなことで怒られているわけである。 「天は二物どころか森羅万象をあんたに与えたかーッ!?」 「そ、そんなッ!?」 理不尽である。 目をぐるぐるさせていた曹騰は……しかし、ある一点を見やってからふむ、と考えこんだ。 「き、季興さ……わひゃあ?」 劉保が変な声をあげた。 曹騰が劉保の胸を前から揉みはじめたからだ。 「ごめんごめん。完璧超人じゃなかったね」 「あ、いや。やめてください……季興さん」 ふにふにふに。 顔を真っ赤にして悶える劉保。 「これが劉保の完璧超人っぷりを阻害してる、と思うと愛しく思えるねぇ」 「あ、だめ。そこ……や、やめて、ください」 ふにふにふに。 ちっちゃいが感度はいいようだ。いいからどうだ、というわけでもないが。 不意に曹騰の手が止まる。 「あ、ん……え?」 「へへ〜、劉保ちゃん、感じちゃった? 可愛かったよ〜」 胸を揉まれたときとは違う気恥ずかしさで再び劉保の顔が朱に染まる。 「もう、季興さんなんて知りません!」 ぷいっ、とそっぽを向く。 「ごめんごめん」 へらへらと笑いながら劉保に謝る曹騰。 「許しません」 しかし劉保の口元はその言葉とは裏腹に笑みを形作っていた。 ……こんな友達なんてはじめてだったからだ。
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