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★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
59:玉川雄一 2002/03/18(月) 22:57 ◆ 学園世説新語 第3話・前編 ◆ 顧栄、字を彦先。長湖部の裏方を支えたかの無口っ娘丞相・顧雍の従妹である。 一家揃って長湖部の重鎮を務めてきたが、彼女が1年生の時に部は解散してしまう。 以後、新生徒会に入り、洛陽棟へと移ったのだった。 顧栄はあるとき、生徒会の定例会議に出席した。 そこでは、生徒会費の幾ばくかを投じて“おやつ”が出るのであるが… 彼女の元へ、雑務担当の女生徒が皿に山と盛られたそれを差し出してきた。 「あの… よかったら、どうぞ」 「あ、ありがと。 えっと…それじゃこれを」 お年頃の女子が揃うだけあり、コンビニをくまなく調べ尽くしたとおぼしきラインナップ。 顧栄はその中から、しかし場違いとすら言える「ビーフジャーキー」を選んだのだった。 「そ、それでいいんですか?」 軽く驚いた表情で女生徒が尋ねる。そもそもこんなおつまみが闖入していたというのも妙な話だが、 それをめざとく見つけてチビチビと囓る顧栄も変わり者と言えば変わり者に見えてしまう。 だが、当の本人はどこ吹く風といった様子で答えるのだった。 「んー? おいしいじゃない、コレ? ウチは一家揃って好きなのよね。従姉さんなんかと、よく食べたのよ」 「はあ、そうなんですか…」 女生徒はやっぱりピンとこないらしく、モグモグしている顧栄を不思議そうに見遣る。 それに気付くと、顧栄は皿をゴソゴソと漁り、数切れのビーフジャーキーを掴むと女生徒に差し出すのだった。 「ほい、貴女もどう?」 「え、わ、私ですか? でも私、ただの雑用だし…」 「いいっていいって! 遠慮しないでいいからさ、ホラ」 女生徒は正規の出席者でないことを理由に遠慮しているらしい。顧栄は笑ってそれを押しつける。 キョトンとしながらも、なし崩しに受け取ってしまう彼女。 そして、ちょっとバツの悪そうな顔をすると、端っこをちょっと囓ってみた。 「あ… おいしい、かも」 「でしょ? まあモノによって差があるけどねえ、これはまあ合格かな」 遠慮しいしいモグモグやっていた女生徒は、コクンと飲み込むとペコリと頭を下げた。 「ありがとうございました」 「いやまあ、そんな礼を言われるほどじゃあないけどね」 女生徒はもう一度頭を下げると、他の出席者の元へ皿を回してゆくのだった。
60:玉川雄一 2002/03/18(月) 23:04 そんな生徒会も、やがて未曾有の大混乱にみまわれる。蒼天会の内紛は拡大し、学園の威光は地に墜ちた。 ついには、今となってはあの伝説の名マジシャン司馬懿に最も近い血族でもある司馬倫が蒼天会長の座を強奪。 しかし程なくして、他の司馬一族が結束して司馬倫を追い落とすというめまぐるしい展開が繰り広げられるのだった。 顧栄はといえば、司馬倫が束の間の至尊の地位を占めた際、強制的に彼女の一派に組み込まれていた。 そのため、司馬倫失脚後に連座してしまったのである。 生徒会の一室には同じ運命の十数人ほどが集められ、もはや階級章の剥奪は時間の問題となっていた… 「すみません、執行部員の顧栄さんはどちらでしょうか?」 「あ、ああ… 私だけど?」 沈みきった雰囲気の部屋の中に一人の女生徒が入って来ると顧栄の名を呼んだ。 憔悴しきった表情で顧栄が答えると、起立を促して手を取る。 「一人ずつ順番に査問を行うとのことです。最初は貴女ということですので、同行をお願いします」 「そうなの。まあ、今更言うこともないけどねえ… じゃあ、行くとしますか」 手を引かれたまま、部屋を後にする。しばらく歩いたところで、女生徒が顔を寄せると耳元でささやいた。 「顧栄さん、こちらです。見つからない内に、早く」 「えっ!?」 驚く顧栄をよそに、手を握って走り出した。様子がおかしいと思いつつ、自分に敵対するでもない風を感じ取ると、 女生徒の導くに任せて後を追う。しばらく走り、人目から離れたところでようやく立ち止まった。 「ふう、ふう、はあ… ここまで来れば大丈夫ですね。ギリギリでした」 「はあ、はあ… 何で、私を? 助けてくれたんだよね?」 息を整え、顧栄は状況を整理した。今にも階級章を剥奪される寸前だったところを、この女生徒のお陰で脱出できたのだ。 行方をくらましたことが発覚すれば追っ手が放たれるかもしれないが、ひとまずの危機は乗り越えたといっても良さそうだった。 「ええ。貴女には以前、お世話になりましたから」 ここでようやく、相手が誰かをじっくり確認することができた。この声、そしてこの顔は… 「まさか、貴女は… あの時の!?」 「はい。私のこと、雑用だってバカにしないで、お裾分けまでして頂いて… いつか、ご恩をお返ししようと思っていたんです」 救いの主は、いつぞやの会議でビーフジャーキーを分けてあげた女生徒だったのだ。 顧栄は感謝の気持ちであふれる涙を抑えながら、女生徒の手を取って押し抱いた。 「ああ、ありがとう… 些細なことがきっかけでも、こうして忘れずにいてくれるなんて… 一宿一飯の恩とは、昔の人もよく言ったものだわ」 「そんな、私は貴女の心遣いが嬉しかったんです。いつか絶対にお役に立ちたい、って思い続けてました」 「そうだったんだ。今度は、私がいつかお返ししないとね」 「どういたしまして。 …でも今は、ここから逃げ切ることが先決です。急ぎましょう」 感謝の念は尽きないが、それはいずれまたゆっくりと味わえばよい。今はただ、身の安全を確保することが第一だった。 「そうね… それじゃあ、久々に帰るか、懐かしい湖南へ… よかったら、一緒に行きましょう」 「はい!」 顧栄と女生徒は、何とか揚州校区へとたどり着いた。道中様々な苦労はあったが、二人は力を合わせて困難をくぐり抜けたのである。 この後も顧栄は数々の動乱をくぐりぬけ、『東晋ハイスクール』設立当初の重鎮に名を連ねることになった。 その傍らには、常にかの女生徒の姿があったという。 この件に関しては、顧栄も従姉にならってか多くを語ろうとはしなかった。 彼女を影で支えた少女の名は、今となっては確かめる術もない…
61:玉川雄一 2002/03/18(月) 23:10 [sage] おっ、今回は省略されずに済んだか。 『世説新語』徳行編第25番目のエピソードでした。 といっても、ディテールは註に引かれた『文士伝』から採りました。 こっちの方が話が細かい。 ちなみに、何でビーフジャーキーやねん!っつうのは、 元ネタだと「炙(あぶり肉)」なんですね。 っつうかあぶり肉とビーフジャーキーが似てるかはよく知りませんが(^_^;) これ書くときにポッキーとかでもいいかな、って思いましたが、敢えてそのままにしました。 ビーフジャーキーをみんなで食べてる顧姉妹萌え♪ ちょびっとずつ囓ってはもそもそ食べてる顧雍姉さん萌え♪
62:玉川雄一 2002/03/18(月) 23:15 [sage] しかしコレ、時期的には東晋ハイスクールでしたわ。 そっちに書けば良かった。
63:玉川雄一 2002/03/18(月) 23:24 [sage] いけね、>>60が第3話後編ってことで。 ちなみに第1話、第2話は、鍾毓、鍾会の名前ネタです。
64:★ぐっこ 2002/03/20(水) 00:56 [sage] うを! 玉様マンセー! またあの新語ネタに追加せねば! 無口っ娘・顧雍の従妹! ビーフジャーキーをもそもそ…(;^_^A 時期的には確かに東晋ですが…ほんとだ、どっちに分類すれば いいんだろう。
65:玉川雄一 2002/04/01(月) 00:08 ◆ 学園世説新語・第4話 〜鍾姉妹のドキドキ☆メイクアップ大作戦!〜 ◆ 草木も眠る丑三つ時。っつぅ言い方は古くさいか。要するに、深夜。 良い子も悪い子も寝る時間、とりわけ女の子が夜更かししてちゃあいけない時間帯のこと。 ここは蒼天学園学生寮。ゴソゴソという物音に、鍾ヨウは目を覚ました。 もとより、“あの”張遼が寝ずの警備をしているという事実無根の噂が立っているぐらいのことはあり、 誰かが忍び込む、ということは万に一つもありえない。となれば、物音の主は同室の人物に違いなかった。 「ねえ士季、やっぱりやめましょうよ」 「大丈夫だって。お姉ちゃんは心配性なんだから…」 (あら、二人してなにやってるのかしら?) どうやら、ルームメイト、というか妹なのだが、鍾毓と鍾会が二人して何やらやらかしているようだ。 鍾ヨウは何とはなしに、声を掛けずに密かに見守ることにしてみた。気付かれないように体勢を変え、声のする方に注目する。 「えっと、確かここに…」 「ねえ、本当にあるの?」 鏡の前で、何かを探しているらしい。別に見つかって困るもの… は見つかるような所には置いていない(笑)のだが、 妹たちが何をしようとしているのかはまだ分からない。 「間違いないよ。朝、姉さんがここにしまうの見たもの。 …あ、あったあった!」 「ちょっと、声が大きいわよ! 姉さんが起きたらどうするのよ」 (…まあ、もう起きてるけどね) 鍾ヨウは心の中で苦笑する。ちなみに、鍾毓は姉妹の真ん中なので、鍾ヨウを「姉さん」と呼び、妹は「士季」と呼ぶ。 末妹の鍾会は、長姉の鍾ヨウを「姉さん」、次姉の鍾毓を「お姉ちゃん」と呼び分けていた。 ともあれ、二人は目当てのブツを発見したようだった。窓から差し込む月光のお陰で部屋の中はうっすらと明るくなっており、 目が慣れてきたこともあってその手にしているのが何であるかおぼろげながら分かるような… 「これこれ。新色なんだって。アタシも使ってみたい、って言ったら、 姉さんたら『あなたにはまだ早すぎるわ』って言うのよ。失礼しちゃうわよね」 「まあ、確かにねえ… でもどんなのかなあ。私にも似合うかな」 (なるほど… ホントに、あの娘は目ざといんだから) つまり、鍾ヨウのルージュを持ち出しているのだった。まったく大した姉妹である(笑) いい意味で大人びて見える鍾ヨウには、ちょっと濃いめの色が何とも艶やかなイメージを与える。 美女揃いの姉妹の中でセンスの良さも卓越しており、嫌味にならないのがさすがというべきか。 二人の妹も負けず劣らずで、三者三様の美少女っぷりをいかんなく発揮していた。鍾会は別の意味で特に。 どちらかというと小悪魔系の彼女には少々おマセなぐらいではあったが、素質は十分なのである。
66:玉川雄一 2002/04/01(月) 00:10 (続き) 「お姉ちゃん、コレ、使ってみようよ」 「ええっ! でも、いいのかな…」 まあ、持ち出したからにはそう来るとは十分予想できたが、やはり鍾会はただ者ではない。 躊躇う鍾毓に揺さぶりをかけていく。 「大丈夫! ちょこっとならバレやしないって!」 「う、うーん…」 (いや、もうバレてるけど) 鍾ヨウが一部始終を眺めているのも知らず、妹たちの謀議は続く。何やらヒソヒソと話し合っていたが、 どうやら鍾会が渋る姉を丸め込んだらしい。 「それじゃ、暗くちゃわかんないから電気点けよう」 「姉さん、起きたりしないかなあ…」 「ちょっとだから平気平気! それじゃはい、お姉ちゃん」 「え、私が先? しょうがないなあ…」 姉に先鋒を任せる辺り、無意識ではあろうが何か策士めいた物を感じさせる。ともあれ、鍾毓の方もまんざらではないようで、 妹からルージュを受け取ると、念のため部屋を見回してから明かりを付ける。鍾ヨウは薄目を開けた寝たフリでごまかした。 鍾毓はそこで、何故か鍾ヨウの方に向き直るとペコリと頭を下げ、「姉さん、ごめんなさい」と呟いた。 (?? あの娘、何のつもりだったのかしら) そして鏡に向き直り、キャップを外して数回ひねると色合いを確かめてからスウッ、と唇に這わせる。 「うわあ…」 大人びた姉、童顔気味な妹の間でまあ年相応の顔つきの鍾毓だったが、唇に引かれたルージュがこれまたよく映えていた。 上下二人がある意味自己主張が激しいので影に隠れがちだが、彼女もまた相当の美貌の持ち主である。 思わず、密かに盗み見ている鍾ヨウも感心してしまう。 (へえ、あの娘もなかなかやるじゃない) 「お姉ちゃんもよく似合ってるよ。やっぱり、もっとメイクに凝ってみたら?」 「そ、そう? それじゃ、考えてみようかな」 やはり満更ではなかったようで、少し照れながら鍾会へルージュを手渡した。 妹はそれを受け取ると躊躇うことなく、あたかも自分の物のようにヤケに慣れた手つきで手を動かす。 と、愛らしいとすら形容できる唇(吐かれる言葉は結構アレだが)が鮮やかな色に染まったのだった。 (うわ、これはまた… 我が妹ながら、侮れないわ) なんだかんだ言って妹馬鹿の鍾ヨウである。自らの美貌にはそれなりに自信があったが、 妹のそれはまた違った方向性で“そそる”ものがあったのである。 「どう、お姉ちゃん?」 「うーん… なんか、ミスマッチが却って効果的、っていうのかな…」 「えへへ、そう?」 二人はしばらく互いの成果を批評しあっていたが、やがて証拠隠滅とばかりに唇をふき取ると、ルージュを元の場所に戻していた。 (…なんか、ヤケに慣れた手つきねえ。まさか、今までにも…?) 鍾ヨウの胸にちょっぴり疑念がわき起こったが、始末を終えた二人が電気を消してベッドに潜り込んだのを見届けると、 おとなしく睡魔に身を任せたのだった。
67:玉川雄一 2002/04/01(月) 00:12 (続き) 「ふわあ… おはようございます」 「おはよう、姉さん。 …はあぁ」 「二人とも、おはよう。何だか眠そうね」 翌朝。何事もなかったかのように… にしてはやや眠たげな二人の妹の様子を見て、鍾ヨウはちょっとした悪戯心を起こした。 何気ない風を装って、さらりとカマをかける。 「…あら? 稚叔、パジャマの胸のとこ、何か色がついてない?」 「ええっ!」 「あ、お姉ちゃん…!」 必要以上に驚きを見せた鍾毓、だが、対応がまずかった。胸元より先に、唇に指が行ってしまったのである。 あちゃー、とうなだれる鍾会を横目で見ながら、鍾ヨウはニコニコと問いかけるのだった。 「あらあら、唇の方が気になるの? まあ、あなたにはちょっとあの色は合わないかな? もう少し淡いのが似合うと思うわよ」 「………あっ」 そこでようやく、罠に掛けられたと気付いて真っ赤になる鍾毓。一方の鍾会は、悪びれる風もなく問いかけた。 「姉さん、気付いてたの? 人が悪いんだから」 「まあ… ね。偶然よ。なんだかあなた達、面白そうなことしてたみたいだし」 「姉さん、ご免なさい。勝手に使った分は返すから…」 鍾毓はちょっと混乱気味。鍾ヨウそんな妹を苦笑しながら見つめると、咎める気がないことを示しながら言葉を返す。 「それは別に気にしなくていいのよ。 …それより、あなたそれを使う前に私に頭を下げたわね。どうして?」 「わ、それも見てたの? 参ったな… ほら、メイクも儀礼の一種でしょう? 姉さんのを勝手に借りてたこともあったし、そうしないわけにはいかなかったの」 いかにも、ヘンに生真面目なところがある鍾毓らしい答えだった。可愛い妹だと思えば自然と笑みもこぼれる。 次いで、相変わらずニコニコしている鍾会へと向き直る。 「士季、あなたはまた平然と使ってくれたわね。どうして?」 「姉さん、それはだって、アタシは姉さんのを盗んだんだもの。盗むのに礼もなにもあったものじゃないわ」 「…まったく、あなたらしいわね。まあ、それなりに似合ってたのが何だか悔しいけど」 いっそ心地よささえ漂うこのふてぶてしさ、将来が楽しみなんだか不安なんだか。 それでも、女子のたしなみと思えば許せる気がするのも、やはり妹馬鹿だからだろうか。 「そうね、今度いっしょに、あなた達に合うのを選びに行きましょうか」 「えっ… 姉さん、いいの?」 「やった、そうこなくっちゃ♪」 思わぬ姉の提案に、驚きを隠せないながらもパアッと顔をほころばせる妹たち。 今日も明日も明後日も、鍾姉妹の美への追究は飽くことを知らない…
68:玉川雄一 2002/04/01(月) 00:16 えー、今回は、世説新語言語編12番目のエピソード。 japanさんの「聖帝と小四姫」の次の話が元ネタです。 もちろん、元ネタではルージュじゃありません(笑) お酒(薬酒)を飲んじゃった、という話です。 ちなみに別バージョンがありまして、キャストは孔融と二人の子供。 まあやってることは同じですが。曲者親子ってのも共通かな(^_^;) しかし、鍾さんとこや陳さんとこのネタ多いですなあ、世説新語。
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