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592:北畠蒼陽 2005/03/04(金) 21:02 [nworo@hotmail.com] (そろそろ頃合かな……) 孫程はディパックからただ1冊…… マルクス全集を取り出す。 (この本もかなり読んだよね……) 本にすら愛しさを感じる。 だから今日、この場に持ってこようと思ったのだ。 「ふぅ……」 ディパックを肩に背負い、屈伸を2回してから孫程は西鐘校舎を背に歩き出した。 (次にこの校舎を見るとき、私は逆賊かな? 英雄かな?) 「江京様の悪知恵の働かれること、まったく鬼謀とはよくいったものですねぇ」 「こらこら、誰が鬼ですか」 そして笑い声。 秘書室の有力者たち、江京、劉安、陳達、李閏がまとまって帰宅しようとしていた。 (まだ仕事が残っているはずなのに……部下に任せて自分らはさっさと帰宅かぁ) ふぅ、と溜め息をひとつついてから孫程はそのまま足を進める。 最初に孫程に気づいたのは江京だった。 「あぁ、孫程……あんた今日、サボったわね。クビよ、クビ。明日から来なくていいわ」 江京の言葉に左右からどっと笑い声が漏れる。 孫程は目を伏せたまま近づき、20歩の距離を残して立ち止まる。 「……」 「なぁにぃ? 聞こえないわ?」 孫程が口の中でぼそぼそと呟くのを見て江京がはやし立てる。 また笑い声が上がる。 劉安が孫程の手に持ってるものに目を止めた。 「こいつ、マルクス全集!? 共産主義なんてバカみたい!」 共産主義がバカのように見えるのは民主主義が共産主義を駆逐した現在の歴史を知っているからだ。 ディパックを左手で捨てながら孫程は笑顔を江京たちに向ける。 「先輩、こんな言葉って知ってます?」 「……?」 孫程は笑いながら言葉を接ぐ。 「イギリスの元首相、チャーチルの言葉です……20歳をすぎて共産主義を信奉するようなヤツは知能が足りない。でも……」 孫程は笑みをたたえたまま…… 「20歳までに共産主義にかぶれないヤツは情熱が足りない。先輩たちに足りないものは……まさにそれ」 孫程はマルクス全集を空高く放り投げ、そして江京たちに向かって声も上げずに突進した。
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