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593:北畠蒼陽 2005/03/04(金) 21:02 [nworo@hotmail.com] 李閏は目の前で何が起こったのかわからなかった。 孫程がすすす、と近寄ってきたかと思ったら先頭の劉安がいきなり吹っ飛んだ。 なにをされたのかわからなかった。 孫程が手の甲を江京に向ける。江京は自分をかばおうとしてカバンを盾にした。そして次の瞬間、孫程のひじから先が消えたかと思うと江京が白目をむいてひざから崩れ落ちる。 なにをされたのかわからなかった。 そのまま回転するように孫程は陳達に近づく。陳達は逃げようとして……孫程が回転したかと思うと陳達は顔から地面に突っ込んでぴくりとも動かなくなった。 なにをされたのかわからなかった。 そして孫程はそのまま右手を高々と上げる。 空を舞っていたマルクス全集はまるでそこが安住の地であるかのように孫程の手の中にぴたり、と収まる。 まるでなにかのショーを見ているようだった。 ショーと違う点は次に襲われるのは自分だ、ということ。 李閏は左右を見回す。 江京、劉安、陳達……微動だにしない。 今、これだけの武威を見せ付けられ、抵抗してもどうにかなるとは思えない。 生き残ることは出来ない…… 絶望すら感じることが出来ずに李閏はぺたり、と座り込んだ。 目の前の今までバカにしていた孫程、という少女が怖くて仕方なかった。 「……さて」 李閏が息をすることすら忘れたようにじっと孫程のことを凝視している。 孫程は心の中だけで苦笑する。 自分、それほど怖くないのになぁ…… しかし相手が自分のことを怖がっているのならそれも武器には違いない。 李閏にマルクス全集が突きつけられる。 それを手にしているのはもちろん孫程。 「李閏先輩、あなたは秘書室内の諸先輩方の中でも『多少はまとも』と思われていますからあなただけは生かしておいて差し上げます」 孫程はゆっくりと言葉を紡ぐ。 「次期蒼天会長に……済陰の君閣下を推薦する、といえば良識人であるあなたのこと、当然賛成してくれるでしょうね?」 李閏はゼンマイの壊れたおもちゃのようにがくがくと頷いた。
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