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603:北畠蒼陽 2005/03/07(月) 02:48 [nworo@hotmail.com] 「……」 誰もいなくなった式場。 そこに袁紹はたった1人で座っていた。 曹操が自分のことをあれほどまでに思っていてくれたのが嬉しかった。 誰の祝福よりも胸を張って受け取れる、とそう思った。 ことり…… 後ろから物音。 「おめでとうございます、袁紹先輩」 袁紹がゆっくり振り返る…… 夏侯惇。曹操の腹心。 「孟徳も本当に忙しくて……今日、アレだけの時間をとるのも精一杯でした。先輩に直接、お祝いを言うんだ、って3日徹夜で政務を片付けてましたけど……すいません」 隻眼の少女が本当に申し訳なさそうに頭を下げる。 袁紹は微笑みながら首を横に振った。 「そんなことはない。むしろ孟徳が挨拶に来るとは思わなかったからびっくりしたわ」 来る、と知っていたら心構えも出来たのに、と苦笑する。 「それに『隻眼の鬼主将』様が忙しい孟徳の代理を務めてくれてるわけじゃない? 光栄に思わないわけがないわ」 夏侯惇が憮然とした顔をする。 それがおかしくて袁紹はまた笑った。 「さて、そろそろいかなきゃね……」 袁紹が立ち上がる。 「寮まで送りますよ」 その夏侯惇の言葉に袁紹は首を横に振る。 「……ここも私にとって馴染み深い場所だからね。最後に1人でゆっくりと歩いて回りたいの」 明日からはもう、この場所に帰ってきてはいけないんだよ。 「そうですか……」 目線をふ、と下に向けた夏侯惇に袁紹の手が差し伸べられる。 その手には…… 「袁紹先輩……?」 その手には今まで袁紹の髪に結ばれていたトレードマークとも言うべき黄色いヘアバンドが握られていた。 「これを孟徳に渡してくれないかな? 私はこの学園になにも残すことが出来なかったからこんなものしかないけど……ほんとにちっぽけなものだけど私からの礼だ、って」 「ありがとうございます。孟徳もきっと喜びます」 笑顔の袁紹に泣き笑いのような顔になって夏侯惇はヘアバンドを受け取った。 「じゃあ、そろそろいくね。見送りありがとう、夏侯惇」 夏侯惇は袁紹に頭を下げる。 袁紹は心地よい気分のまま式場をあとにする。 見上げれば3月の青い空。 その日差しに袁紹は眩しそうに目を細めながら笑った。
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