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★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
614:海月 亮 2005/03/16(水) 21:21 -銀幡流儀- そのに 「混沌の中の純潔」 「…くっ!」 執務室から離れて一人、凌統は壁に拳を打ち付けた。 惨めだった。 蒼天生徒会が誇る"鬼姫"張遼が、その威名だけで戦場を引っ掻き回していたあの日。凌統はすべての部下を戦闘で失い、蒼天生徒会五主将の一角・楽進を破るもその階級章を手にしたわけでもない。 残ったのは、全治一ヶ月の大怪我で戦える状態にない自分自身と…尊敬する姉から課外活動の舞台を奪い去った怨敵・甘寧の功績に対する見苦しいまでの嫉妬心。 「ちくしょう…ちくしょぉぉッ!」 獣の如き雄叫び…いや、慟哭の叫び声とともに繰り出される拳が、壁に自身の血を染め付けていく。 それでも、彼女はその行為を止めようとしない。拳は既に血にまみれ、一振りするごとに鮮血が舞う。 不意に、その手が掴まれた。 「………止めとけ」 「…ッ!」 振り向くと、其処には甘寧が居た。 振り解こうとするが、怪我の為に身体に巧く力が入らない。もっとも、万全の状態でも凌統が甘寧の力でねじ伏せられた場合抜け出すことはほぼ不可能だった。 「離せッ!」 もう片方の拳で甘寧の顔を殴りつけようとするが、それもあっさり止められてしまう。 そんな凌統を見つめる甘寧の眼は、何時ものそれではなく…酷く、哀しい眼だった。 その眼が、まるで自分を哀れんでいるように思えた。 その眼差しに、心の中を満たした悔しさと嫉妬が、暴れ狂うのがわかった。 「ちくしょう…さぞかし気分がいいだろうな! あたしはこの有様で、貴様は立派に面目を躍如して見せた! どうせこの負け犬みたいなあたしを嘲笑いに来たんだろうが!」 甘寧は無言だ。普段なら嫌味のひとつでも返してきそうな彼女がそんな態度をみせているのが、激昂した凌統をさらに苛立たせていた。 「何とか云えよッ!」 「なぁ凌…いや、公績」 不意に、自分のことを字で呼ばれ、凌統は驚いた。 本名でなく、字で呼ぶのは一種の礼儀である。自分のことを煙たがっていると思っていた甘寧が、自分に対して礼儀を払ってくれたことが、凌統には意外なことだった。 「お前が俺の行動に対して何思おうが勝手だ。確かに何時も何時もお前が突っかかってくるのは面倒じゃあったが…本音、嬉しくもあった」 「…え?」 「知っての通り、俺は不良上がりのはみ出し者だ。チームの頃からの仲間ならともかく、どいつもこいつも俺のことを怖がりこそすれ、親しく付き合ってくれるヤツなんて殆ど居なかったし、俺が不良上がりってことで馬鹿にするヤツだっていた」 甘寧の眼差しは、変わらない。凌統も、こんな甘寧を見るのは初めてのことだ。 「俺も俺で、そうやって意味なく怖がったり馬鹿にしたりするヤツ…お前のことだってうぜぇと思ってたのは確かだよ。だがな、思い返してみれば、それでも俺をかまってくれたのは子明さんと子敬と承淵、あとはお前くらいだって、気づいたんだ」 そう言って、寂しそうに微笑んでみせる甘寧。何時しか、凌統の心を満たしていたはずの負の感情は消え失せ、その一言一言に聞き入っていた。 「公績…お前が俺のことを嫌いだというなら、それでも構わない。でも、お前にもしものことがあって、俺に突っかかってこれなくなったら…やっぱり寂しいんだ」 甘寧は掴んでいた凌統の両腕を解放する。凌統は、自身の血で濡れた拳を、所在無さ気に下ろした。 「…言いたい事は以上だ。その怪我、ちゃんと診て貰えよ。じゃな」 それだけ言うと、甘寧は羽飾りを翻し、その場を立ち去っていった。 凌統には、その背中が、何時もよりずっと弱々しいものに見えていた。 「…公績さん」 はっとして振り返ると、そこには孫権の姿があった。どうやら、孫権も凌統の様子にただならぬものを感じ取って後を追ってきたようだった。 「公績さんの気持ちも、よく解るよ…でもね、興覇さんの気持ちも、すこし考えてあげて…」 泣きそうな顔でそう告げる孫権に、凌統は俯いたまま、無言でその場を立ち去っていった。 あの後、凌統は部屋の中で、今日あったことをずっと思い返していた。 姉の仇。不倶戴天の敵。打ち倒すべき相手。今日、自暴自棄になっていた自分を止めてくれた甘寧は、それまで自分が抱いていたどんな甘寧のイメージにも当てはまらないものだった。 (あいつは…あたしのことを純粋に心配してくれていた) 一番遠いところに居たと思っていた存在が、実は一番近いところに居たことを知って、正直、凌統は戸惑っていた。包帯の巻かれた両拳を見つめると、甘寧と孫権の言葉が、頭の中で繰り返される。 -お前にもしものことがあって、俺に突っかかってこれなくなったら…やっぱり寂しいんだ- -興覇さんの気持ちも、少し考えてあげて- 何時もなら、顔を思い浮かべるたびに不快感を覚えるというのに。 (あいつの力なら、何時でもあたし一人潰すくらいわけないのに…あいつが、あんなふうに考えてたなんて…なのに、あたしは…!) 初めて相対した舞台は、去年の年明けにあった長湖部体験入部。その大舞台で、"銀幡"の演舞に踊りこんだ自分が、衆人環視の前で敵対宣言したのが初め。それ以来、凌統は甘寧を敵視し、逆もまた然りだった…はずだった。 何時から、甘寧の中でそれが違ってきたんだろう。 自分は、変わることがなかったというのに… (違う…あたしは、最初はそんなこと、思ってなかった) (あたしは…彼女を…甘興覇を超えようと、そう思ったんじゃないか…) 凌統は、そんな自分の愚かしさに、ただ涙を流すのだった。 翌日。 「こぉの恥知らずの外道どもがぁぁ! あたし達の怒り、思い知れぇぇ!」 先鋒軍の先頭に、普段はバットを持つ手で竹刀をぶん回しながら、長湖部の軍勢に突っ込んでいくのは満寵。何時ものぽやんとした温和そのものの表情は何処にもなく、こめかみに青筋すら浮かばせ、憤怒を露に次々と長湖部員を薙ぎ払っていく。 「旗なんて飾りに過ぎねぇけどなぁぁ! ヤツらの奪ったのはあたし達の魂だぁぁ!」 「このあたしがついていながら! このザマは何事だぁぁ!」 その左翼から曹仁、右翼から夏候惇も怒号とともに突撃をかける。 蒼天会旗を奪われたことは、やはりというか、蒼天会の主将たちにも大きな衝撃を与えていた。もっとも彼女達の怒りは、「会旗を奪われた」と言うことではなく、むしろ「会旗の近くにいた曹操を危険に晒してしまった」ことによるものである。 更に言えば、曹操に危害らしい危害を与えず、自分達を小馬鹿にするかのような、そんな行為に対する怒りでもあった。 「あ〜むっかつく〜! 大体ブレーカー周りを無防備にさらしすぎだっつーの!」 蒼天会本陣・合肥棟の屋上で戦況を眺める曹操も、悔しそうに地団駄を踏んだ。後ろに侍した劉曄がぼんやりした表情で呟く。 「…今回の件が帰宅部連合へ知られれば、彼女達も何処かの局面で使ってくるかもしれません」 「解ってるわよそんなことっ。ねぇ子揚、何か対策とかできない?」 「前々から申し上げていると思いますが…やはり本来の電源とは別に存在する、各棟の予備電源の復旧作業を早めるべきでしょう」 「そ〜ね〜…」 曹操はふと、怪訝そうな表情で劉曄のほうを振り向いた。 「…ちょっと待て…何時言ったんだよ、そんなコト? てかそんなのあったの?」 「…………ごめんなさい、知ってると思ってました」 ぼんやりした顔のまま、劉曄は悪びれることなくさらっと言った。 実は蒼天学園の各学区には、棟ごとに緊急時の予備電源が存在するのだが…黄巾党蜂起のドサクサで学園全体にある八割以上の棟で予備電源が壊され、二年以上経った現在もそのままである。メイン電源の安全性が良過ぎる為にほとんど支障は出ず、それゆえに直されもせず放っておかれたのだ。 そんな説明を受けた曹操は、 「そんなの初めて聞いたよ…つーか何で誰もそんなこと言わなかったのよぅ?」 「さぁ…」 同じ表情のまま小首を傾げる劉曄に、曹操も呆れ顔になる。 「まぁいいや、知ったからにはどうにかしなきゃなんないわね。次の生徒会会議で優先事項として審議にかけないと…とりあえず勢力境界線にある合肥や襄陽、長安あたりのを速攻で直しておきたいわね〜」 なにやら懐からメモ帳を取り出し、メモをとりだした曹操の姿を見ながら、劉曄は相も変わらずぼんやりと突っ立っていた。
615:海月 亮 2005/03/16(水) 21:22 曹操と劉曄がなにやらやり取りしていた、同じ頃。 「ええ!? ちゃんと探したの!?」 「すいませんッ! あたし達がちょっと目を離した隙に…」 狼狽した表情で濡須棟執務室から飛び出した孫権。その後ろ、数人の少女達が後を追って出てくる。 「公績さん、絶対安静の大怪我なんだよ? …それに、武器だって壊れちゃったんでしょ?」 「え、ええ…確かに凌統先輩愛用の"波涛"は前の戦闘で壊れましたが…」 「…じ、実は凌操先輩の"怒涛"を持ち出したみたいで…」 「嘘ッ!?」 少女の言葉に、孫権は狼狽の表情を強める。 "波涛"とは、凌統の愛用していた両節棍(ヌンチャク)の名前で、先に凌統が楽進と戦った際、最後の一撃を繰り出した時に破壊されたモノだ。"怒涛"は凌統の姉・凌操が愛用していたもので、"波涛"よりも重く、棍の部分も長めなので、取りまわしが難しい。 凌統は、それゆえこれまでに参加した戦闘で一度も"怒涛"を使ったことがなかったのだ。 「無茶だよ! 普段だって使わなかったものなのに…」 「部長!」 正面から駆けて来たのは甘寧と、数人の"銀幡"の少女達だった。 「興覇さん! 公績さんが…!」 「解ってる、承淵のヤツが一度止めたらしいんだが…今あいつに後を追わせてる。俺もヤツを連れ戻しに出るが…」 どうやら甘寧も甘寧で、丁奉らに凌統の様子を見張らせていた様である。待機命令の出ている甘寧のことなので、恐らくここへは出撃許可を取りにきたというところであろう。 「御願い! 早く、早く連れ戻して!」 「承知ッ!」 言うが早いか、甘寧は窓を開け放つと、そこから一気に一階へと飛び降りた。 「はぁ…はぁ…」 戦場の一角、小さな林の中に、彼女はいた。 年季の入った大振りの両節棍をしっかりと掴んだ手の包帯は、紅い染みをつけている。 「やっぱり…まだあたしには早かった…かな?」 肩で息をしながら、自嘲気味に呟く。 顔は蒼白で、体中の包帯や湿布の存在が痛々しい。この満身創痍の状態のまま、凌統はこっそりと寮部屋を抜け出し、合肥と濡須の間にある戦場へと舞い戻ってきていた。 壊れた"波涛"の代わりに持ち出してきた"怒涛"の重さと長さは、傷ついた彼女の身体に予想以上の負担を強いていた。数人を薙ぎ払うだけで、かえって自分の体力を大きく奪われていったのだ。 「公績先輩っ!」 林の中に人影が飛び込んできて、凌統は弱った身体を叱咤して身構える。それが丁奉であることに気づくと、凌統は再び背後の木にもたれかかった。 「承淵か…」 「先輩、御願いですから戻ってくださいっ! 皆さん、先輩のこと心配してるんですよ! 部長だって…それに…興覇先輩だって!」 凌統の服に取りすがって、丁奉はなおも叫ぶ。 「先輩…先輩は御存知ないかもしれませんけど…興覇先輩、ずっと公績先輩のこと心配していて…今回、あえて出撃を辞退して待機しているのだって、公績先輩が戦えないって事を知ってたから…公績先輩と一緒に戦えないのが嫌だ、って言って…」 「解ってる…解ってるんだ、そんなコトは」 「…え」 丁奉はきょとんとした表情で、凌統を見た。 「つまらないことに固執して…あの人を…興覇のことを解ろうともしなかったのは、あたしのほうだったんだ…あたしは興覇を越えたい…そのために、この程度の怪我で寝てるワケにいかない…」 よろめきながら、凌統は再び立ち上がった。その表情からは、鬼気さえ漂い始めていた。 「…あたしの命に代えても…張遼を飛ばしてみせる!」 「いい心がけだ」 ふたりが振り向くと、そこにはひとりの少女が立っていた。 口元にはわずかに笑みがあるが、その瞳はあくまで冷たい。冷たいながらも、その瞳の奥には確かに憤怒の炎が燃え盛っているように思えた。 その正体に気づいた瞬間、丁奉の表情が恐怖に凍る。 (張遼さん! そんな…こんなところで…!) ふたりはまるで金縛りにあったかのように、微動だにせずその少女−張遼を見つめていた。 「ここで討つのは惜しい気がするが、文謙を倒すほどの力量を持った貴様をただで帰すつもりはない…手負いといえど加減は無いぞ!」 突きつけた竹刀を八相に構えると、張遼の周囲の木々が、僅かに揺れて音を立てた。まるで、その鬼気から逃れるかのように。 「…願ってもない相手だ」 「先輩!?」 震える足を、よろめく身体になんとか気合を入れなおして、凌統は構えをとった。 「承淵…あんたは逃げろ。張遼の狙いもあたしだ。あんたには関係ない」 そんな凌統に触発されたのか、丁奉も持っていた木刀を正眼に構える。恐怖のためか顔は強張っているが、それでも何とか、腹を括って踏ん張ってみせた…そんな感じだ。 「先輩を、置いてはいけません…それが、あたしの役目ですから」 「バカっ! そんなことはどうだって…」 「それに、ふたりがかりでも…あたしも、挑戦してみたい」 「承淵…あんた」 「いい根性だ…張文遠、参る!」 一瞬笑みを浮かべた張遼の形相は、次の瞬間、鬼のそれに変わった。 「くそっ…あいつら、いったい何処まで行きやがったんだよ…!」 甘寧は数名の“銀幡”メンバーとともに戦場を駆けていた。その表情には焦りの色も見える。 「多分ですけど、あいつ蒼天会の本陣にでも向かってるかもしれませんよ? あいつがリーダーに対抗意識を燃やしてること考えれば…」 「ちっ…他の奴等ならいざ知らず、公績なら十分有り得る! だが、承淵のヤツが何処で食いついたかさえ解れば…」 そして、数分前まで凌統たちがいたあたりに辿り着く。 そこには凄まじい戦闘の跡があった。細い木は悉く折れ、太い木の幹にも何かで抉り取られたような痕が生々しく残っている。折れた木の様子から、そうたいした時間が経っていない事も読み取れた。 「な、何これ…!」 「いったい…ここで何が…」 その時、木々の折れる音が聞こえる。その中にはかすかに…。 「居た! あいつ等だ!」 「って、ちょっと待って、まさか戦ってるの…」 その相手を類推し、少女達の顔から笑みが消えた。 「は…ははは…マジか、オイ」 甘寧も流石に苦笑するしかない。手負いの凌統と、素質はあってもまだまだ発展途上の丁奉の二人が、どのくらいの時間かは知らないが、あの張遼を相手に戦っているらしいことなど、考えもつかないことだった。 「…どうします? 向こうもひとりだと思うんですが…」 「どうしますもこうしますもねぇだろ…俺が張遼を食い止めるから、おまえ等は公績と承淵を抱えて逃げろ、いいな?」 少女達は一度、互いの顔を見合わせて、頷いた。 傍らの少女から愛用の大木刀“覇海”を受け取り、一振りする甘寧。 「いくぞおまえ等! 目的履き違えるなよ!」 「応ッ!」 甘寧が林の奥へと飛び込むとともに、少女達も次々と藪の中へ突っ込んでいった。 何度目だろうか。 張遼の鋭い一撃が、一瞬前まで自分の頭があったあたりを掠め、大木の幹に痕をつける。エモノが竹刀であるにもかかわらず、「学園最強剣士」の名をほしいままにする張遼が繰り出す一撃は、まるで鋼鉄の棒で殴りつけたような衝撃を生むものらしい。 ふたりは、その恐怖の一撃をカンと偶然だけでかわしていた。林という地の利が無ければ、恐らく一番最初に放ってきた一撃だけでふたりは飛ばされていたかもしれない。凌統も丁奉も、相手の力量と自分達の力量の差を読み違えていた愚を悟り、何時しか逃げることに専念していた。 走っているうち、不意に目の前が開けた。合肥棟の裏山、その反対側であるのだが、凌統たちにはそんなコトは解るはずも無い。しかし、自分達が絶体絶命の窮地に追い込まれたことは理解できた。 「…鬼ごっこは終わりだ。ここなら、遮るものは何も無いぞ」 振り返った先に姿をあらわした張遼は、まったく息を切らしている様子は無い。満身創痍の凌統は言わずもがな、その凌統を庇いつつ逃げてきた丁奉も完全に息が上がっている。 「覚悟しろ…貴様等の健闘に免じて、痛いと思う前に意識を飛ばしてやる」 踏み込みとともに剣閃が飛んでくるのが見えた。 ふたりは無意識のうちに、互いを庇いあうようにして目を閉じた。 (続く)
616:海月 亮 2005/03/16(水) 21:23 -銀幡流儀- そのさん 「果てしない青空に誓う」 まるで雷鳴のような音がした。 しかし、痛みのようなものは何処にもない。目を開けたふたりが見たのは、鮮やかな一対の羽飾り。 「…間一髪、だな」 「興覇先輩!」 甘寧は振り向いてふたりの無事な姿を確認し、口元を緩めた。次の瞬間、猛獣のような咆哮とともに、力任せに張遼の身体を後方へ突き飛ばした。 「…ぐ…!」 不意を突かれた張遼は大きく間合いを離されたが、それでも難なく踏ん張ってみせていた。 間髪いれず、茂みの中から飛び出してきた"銀幡"の少女達が、凌統と丁奉のふたりを護るように集まってきた。 「よし、そのまま行けッ!」 「おのれッ…!」 甘寧の合図とともに少女達が凌統と丁奉を抱えて逃げ出すのと、体制を立て直した張遼が再び踏み込んできたのはほぼ同時だった。 甘寧はその前に立ち塞がるように滑り込むと、再び覇海を縦に構えてその剣を受け止めた。 「そうはいかねぇぜ大将、ここからは俺様が相手だ」 「ふ…そう言えば貴様にも、蒼天会旗奪取の屈辱の件で、叩きのめす理由があったな…甘寧!」 「報恩と報復、それが俺達"銀幡"のモットーだ…てめぇがかましてくれた上等の礼、気にいったか?」 「ほざいてくれる…」 膂力は互角。少女同士の立ち合いとは思えない鍔迫り合いは、張遼が不意に力を緩めて後方へ飛びのいたことで均衡が崩れた。 「…!?」 勢い余ってバランスを失った甘寧。 その隙を逃すことなく、張遼は踏み込みと同時に袈裟懸けの一撃を繰り出してきた。 茂みの中でその様子を見た丁奉が堪らずに叫んだ。 「先輩!」 「ちっ…甘ぇんだよ!」 驚異的なバランス感覚で踏み止まった甘寧は辛うじてその一撃を払い返した。 しかし張遼は怯むことなく、その刹那の間に剣を柳生天に構え直す。 (!) 甘寧の背筋に一瞬、悪寒が走った。 先に放った"仏捨刀"はオトリ。本命は、この構えから繰り出される"逆風の太刀"。 「これで、終わりだッ!」 火の点くような速度と勢いで、逆風に切り上げられた竹刀の一撃が、甘寧のがら空きになった左脇腹へと吸い込まれていった。 かしゃん、と音をたてて、グラスが床で砕けた。 「わ! 仲謀様っ、大丈夫ですか!?」 「あ…う、ううん」 谷利が慌てて箒と塵取りを持ってきて、破片を手際よく片付ける。 「ダメですよぼーっとして…仲謀様、どうかなさったんですか? 顔色、良くないです」 孫権のただならぬ様子に気づいた谷利が、心配そうに主の顔を覗き込む。 「あ、えと…大丈夫だよ…ごめんね阿利」 「…そうです、大丈夫ですよ…興覇さんだったら、きっと巧くやってくださいますよ」 あわてて取り繕ってみせる孫権の心中を悟ったのか、谷利はそう言って元気付けようとする。 「うん…」 しかし、孫権の胸騒ぎは収まる気配を見せようとしない。 窓の外を眺める孫権の表情は、今にも泣き出しそうなくらい、不安に満ちていた。 ふたりは技の極まった体制で、ピクリとも動かない。 少女達も茂みの中で立ち止まり、その光景に釘付けにされている。 「…捕まえたぜ」 「な…!」 見れば、甘寧は技を極められた状態で、脇腹と肘で竹刀を受け止めている。 甘寧は技の極まる一瞬、僅かに前へ踏み込んで、鍔元を受けたことでダメージを減殺したのだ。 「今度は、こっちの番だ…喰らえッ!」 甘寧は張遼が見せた隙を逃さず、その肩口を掴んで思いっきり頭突きを食らわせた。 「ぐあ…!」 直接、脳へダイレクトに伝わった強烈な衝撃に、さしもの張遼も大きく体制を崩した。 軽い脳震盪を起こした彼女の膝が地に付く。 「よし、今のうちにずらかるぞ!」 「くっ…待てッ!」 「待てと言われて待つバカはいねぇよ! あばよ、張遼!」 甘寧が茂みに飛び込み、少女達とともに逃げ去るのを、張遼はただ眺めていることしか出来なかった。 それから数刻、凌統と丁奉の救出に成功した甘寧ら"銀幡"軍団は、引き上げにかかっていた周泰の軍団と合流し、誰一人欠けることなく濡須棟へ帰還してきた。その際、甘寧は帰路に立ちふさがった蒼天会の一軍を散々なまでに討ち散らし、その将と思しき少女を負傷させるという活躍を見せた。 その討ち漏らした少女が何者だったかなどと言うことは、甘寧以下誰も知ることはなかった。ただこの日の一戦で、蒼天会でも夙に名の知られた良将・李典が帰還中の長湖部軍と遭遇し、それとの戦闘によって受けた怪我が元で引退を余儀なくされたという記録が残っている。 この二つの記録に整合性があるのか否か、はっきりはしていない…何しろ、その記録もいわゆる風説の類であり、その根拠として信用できる史料がないのだから。
617:海月 亮 2005/03/16(水) 21:23 「公績さんッ!」 抱えられていた凌統の姿を認めると、棟の昇降口で待っていたらしい孫権が泣き顔で駆け寄り、その傷ついた身体を抱き寄せた。 「ばかばかっ! なんでこんな無茶なことしたんだよっ! どれだけ、どれだけ心配したと思ってるんだよっ…!」 「…すいません、部長」 その様子を見ていた甘寧が呟いた。 「部長…差し出がましいことかも知れねぇけど、公績の気持ちも酌んでやってください。コイツはコイツなりに、必死に考えた末の事だと思いますから」 そして、しゃがみこんで凌統の肩を叩く。 「無茶をやらかすのは結構だが、せめて怪我してるときくらいは大人しくしてな。お前が万全なら、張遼のタコに負ける要素なんて何処にもねぇんだからな?」 「…うん。た…助けてくれて、ありがと…先輩」 恥ずかしそうに俯いて、呟くように言う凌統に、甘寧は苦笑した。 「ああ…でも先輩は止せ、そんなの承淵だけでたくさんだ」 「…わかったよ、興覇」 そうやって笑いあう二人には、もうこれまでのようなわだかまりはすっかり消え去っていた。 だが、異変が起きたのはそのときだった。 「っと、これで…俺様の……仕事、は…」 立ち上がろうとした甘寧の体が、突如力を失ったようによろめく。 動かない世界の中で、まるでスローモーションを見ているかのように、その体が大地に倒れた。 「興覇さんッ!?」 「先輩!?」 一瞬置いて、孫権と丁奉の悲鳴が上がる。 慌てて身体を抱き起こす少女達。 「ちょっと、リーダー! しっかりしてくださいっ!」 「先輩っ! 先輩っ!」 「ちぃっ、救急車だッ…誰か救急車呼んで来いッ!」 その騒ぎに、帰還してきた呂蒙、潘璋、徐盛も慌てて駆け寄ってきた。 「そんな……」 その光景を眺めていた凌統は、呆然と呟いた。 それから一週間の時が過ぎた。 合肥・濡須の攻防戦は、秋口からの風邪の流行のせいもあり、合肥棟と濡須棟の中間点を長湖部・蒼天生徒会双方の勢力境界線とすることで和議が成立し、束の間の平和が訪れた。 凌統の怪我も、彼女の強い自己治癒力のせいもあってかほぼ平癒し、日常生活には殆ど支障がなくなっていた。 しかし、甘寧の容態は予想以上に深刻で、未だに揚州学区の総合病院の集中治療室にいるらしい。 総大将不在という事もあり、丁奉を含めた"銀幡"軍団は臨時に潘璋預かりになった。 濡須棟の屋上で、孫権と凌統は互いに顔を合わせることなく、戦場となった大地を見下ろしていた。 「…肋骨を2本、折ってたんだって。内臓も少し傷つけてるって…全治六ヶ月って、お医者様は言ってた」 「そうですか…」 凌統には、その原因はわかっていた。 (もし、あれを受けたのがあたしなら…今頃は土の下か) 凌統は、甘寧が張遼の逆風の太刀を受けたシーンを思い返していた。 やはり、いくら技の威力を減殺したとはいえ、受けた場所が悪かったのだ。 それでも、やはり甘寧だったからこそ、こうして生き延びることが出来たのだろう。 「あたしは…あいつが、興覇がいなければ、今此処に居られなかったんですね」 「え?」 自嘲気味に呟く凌統に、初めて孫権は振り返った。 「もしかしたら、あたしがそれと気づいていないだけで…もっと何回も、興覇に助けられていたような、そんな気がします」 「…うん」 「あたしがもっと素直に彼女のことを理解することができていれば、こんな気持ちになる事だって…」 「公績さん…」 凌統の目から涙が溢れ、俯いたその頬を流れ落ちる。 「…まだ、決着だって…つけてないのに…」 「縁起でもない事言わないでくださいッ!」 その時、屋上のドアを勢いよく跳ね飛ばし、丁奉がそこから踊り出た。 「興覇先輩はあんな程度でまいるほどヤワな人じゃないです! そんな言い方、先輩に失礼ですよっ!」 そう言って、ぷーっと膨れてみせる。 呆気にとられた孫権と凌統だったが、そんな丁奉の様子がおかしかったのか、つい噴き出してしまった。 「う、うん、そうだよ。承淵の言う通りだよ」 「…そうだな…こんな程度でどうにかなるようなヤツじゃないよな、興覇は」 「そうですよ」 ふたりが笑顔に戻ったことを確認し、丁奉も少し笑った。 「そうそう、今日ようやく…先輩と面会ができるようになったんです」 「本当!?」 「ええ…そんな長い時間は無理だったんですけど…それで公績先輩に、届け物を預かってきたんです」 そうして差し出されたのは、一通の手紙だった。 凌統がそれを開くと、そこには、 -じきにこんなトコ抜け出て来てやるから、そうしたらお前との勝負、受けてやるから覚悟しとけ!- そう簡潔に、勢いの良い字で書かれている。 「有難いこった…今からちゃんと技を磨いて、今度こそあっと言わせてみせるさ…」 どこか吹っ切れたように、凌統は手紙を握り締め、何処までも蒼く広がる空を見上げる。 その先で、苦笑する甘寧の顔が見えたように、彼女には思えていた。 余談になるが、公式記録では、この戦いののちにあった荊州攻略戦の参加主将の中に、甘寧の名を見ることはない。甘寧の武を誰よりも評価し、彼女を活かしてきた呂蒙が指揮していたハズのこの戦いにおいて、その名が見られないのは不思議である。 そのため、合肥・濡須攻防戦において華々しい戦績を挙げた甘寧は、その理由も定かならぬまま突如引退したとも囁かれたが…ある記録によれば、長湖部存続の危機とも言われた夷陵回廊戦の前哨戦にて、病に冒された身で出陣し、激戦の中で散ったとも伝えられている…。 (終わり)
618:海月 亮 2005/03/16(水) 21:42 なんだかSSを持ってくるのがえらい久方ぶりになってしまいました…ってなわけで、海月です。 まぁ、一話ずつ上がり次第持ってくれば良いような気もしましたけど、そうすると、多分完成しないような気がしたんで…所詮、人間失格ですので_| ̄|○ 前々から甘&凌の和解話を書こう書こうと思ってたんですが、なかなか構想がまとまらなくて(楽進も別件で飛ばされてしまいましたし;w)最終的にこの形になるまで随分かかりました。 甘寧の百人夜襲(ここでは十人ですが)もセットで。あと、「玉屋歴史館」(玉川様のページのコーナーですな)に取り上げられていた甘寧の最期に関する記事も取り入れてみたり。 でも出来上がってみると、拙作「風を継ぐ者」の冒頭展開につながってるようで居て、微妙につながってないような。 毎度の如く歴史考証もさっぱりだし…相変わらず承淵嬢ちゃんの出番むだに多いし…むぅぅ…いずれ書き直すかなぁ。
619:岡本 2005/03/17(木) 15:49 海月様 >久方ぶりのSS 私から見れば驚異的なハイペースですが。お話としては、甘寧&凌統の魏呉激突 前後の諍いと和解ですね。凌統の無双W登場もあって学三の気運を高めるには 効果的な話題ですね。 >楽進 個々人によって解釈や膨らませ方は違いますので、無理に先人の作品に こだわる必要はないと思いますよ。納得できない解釈がなされている作品例 も多々ありますし。異説によると...が蔓延しているのが学三ですから。 >丁奉の出番 呉の趨勢を長年見ていた人物としてはむしろ最適では。 そういえば蜀では廖化がいましたが、魏には該当する人物がいましたっけ? 私も関羽に比重が恐ろしく偏っていて、なんとか釣り合いをとらねばと 考えています。 気にされていると思われる、”贔屓がすぎて読者にひかれるのでは?”という 事に関しては、各筆者の常識と良識に任せるとしか申し上げれられません。 >痛い三国迷のコメント 私個人として、(張遼を持ち上げるためだけに) 逍遥津で凌統が楽進を倒したのと甘寧が李典を倒した設定は 蒼天航路の数あるミスでも容認できないものです。 魏書を読めば、李典や楽進は凌統や甘寧程度で釣り合う相手ではないと分かります。 (甘寧に関しては、限られた条件内では戦術能力で五覇に匹敵しえますが、将としてのトータルで 考えると大きく劣ると考えています。) そもそも、水戦ならいざ知らず、陸戦で呉が魏と互角に戦えるはずがありませんから。 逆も真なりですが。合肥・濡須を巡る戦いでは双方共に強化された防御線と兵科特性の相性の 悪さで決め手に欠いていたのが実状ではないかと。 大体、キャラ数を三国でそろえるためだけに、どう考えても”三国無双”にはほどとおい連中の 比率が呉では魏・蜀よりも圧倒的に高いです。 もちろん、呉で上から拾っていけば凌統は無視できる存在ではありません。
620:海月 亮 2005/03/17(木) 18:47 >異説 そいつを言われてしまうと… ただ、楽進vs凌統の展開は活かしたうえで話を書きたかったってだけでして。 満寵達がキレて突っ込んでいくのも、何気に「蒼天航路」のオマージュですからね。 >「蒼天航路」逍遥津 仰られる事、確かに一理あると思います。 将器そのものに釣り合いが取れているかどうかの解釈は、人それぞれではないかとは思いますが、少なくとも張遼、李典、楽進の三人に関しては、そこまで差があるのかとは思いますし。 というより、むしろ「張遼がそこまで抜きん出ていたのか?」というところでしょうか。 甘寧の百人夜襲もですが、騎馬八百で孫権の本陣を急襲した件のインパクトが強すぎるせいもあるかと。 結局、目立ったもの勝ちなんですかね?
621:北畠蒼陽 2005/03/17(木) 20:38 [nworo@hotmail.com] >海月 亮様 まずはわけのわからん名前でメールを出してしまったことに10万の謝罪を…… いや、あれ、私がネットゲームで使ってるキャラの名前なもので^^; んで感想ですけどまぁ、私はシーンが最初に頭の中に思い浮かんでそのシーンを描くためにストーリーを作っていく、っていう邪道1207%(約12倍の邪道)な人間なんで 『あ、このシーンいいな!』とかそういうこと思いながら読んでました! えぇ、孫権のばかばかっ!とか、ばかばかっ!とか、ばかばかっ!とか。 まぁ、全部の作品の設定をすべて包括しつつ描ければそれがベストなんでしょうけど、そげなこと難しいけぇ(方言)逆に学三、という世界の設定に幅が出て面白いんじゃないでしょうかね。 『この人はこう書いたけど自分はこう書くよー!』みたいな感じでしょうか。 そうでも思わなきゃ自分は……自分は……(ノ_・。 >今週の蒼天航路を読んでのご感想 ……牛金の話を書いた直後に……_| ̄|○ 近所のコンビニまで旅に出ます。探さないでください。
622:岡本 2005/03/17(木) 22:06 >結局目立った者勝ち? 大抵の人が三国志に足を踏み入れる原因が三国志演義であり横光であり人形劇 であったり三国無双であったりするわけです。客引きができないとお話にならないわけです。 目立った活躍をした人物に光があたり、さらにファンが煽って尾ひれをつけて 新たなファンを生むという構造上、目だった活躍をする人間のファンが持ち上げられる傾向 にあるのは必然でしょう。 受け入れられる裾野を広げる意味では当然の流れでしょうね。 ただ、よりこの時代に興味を持つと単なる荒唐無稽な英雄譚に飽き足らなくなって 実状はどうであったのか個人的に調べるようになり、新たな見方を見つけていくのだと思います。 三国迷の誕生ですね。そしてマイナーといわれる人物に目をむけ、彼らも決して メジャーな人物に引けをとるわけではないと見るようになるわけです。 学三で、”演義でメジャーな人物の登場が遅れる”というのもその例です。 ですが、最初っからそういう人物を好む傾向が現れるのは不気味でもありますよ。 例えば張遼の活躍する合肥戦役以前にも2,3回、孫権の10万の軍による襲来を合肥城は撃退 しています。これらの戦いには張遼は全く関係有りません。殊勲甲は揚州をにらむ上で合肥の重要性に 着目し廃城と化していた合肥城を整備して周辺の豪族を慰撫した劉馥です。 彼のような有能な人物が多数いたことが曹魏の強さの一つですね。 こういった人物の存在に気づくことで、張遼がいたから(もちろん、彼の果した役割も大きいですが) 合肥戦役で孫権を撃退できたわけではないと理解を深めていくことができるわけです。 けれども、蒼天航路で劉馥ファンになったならいざ知らず、最初から 「劉馥サイコー」といっている三国志ファンがいたらかなり怖いですよ。
623:北畠蒼陽 2005/03/18(金) 11:35 [nworo@hotmail.com] -どおきのきづな- ……同級生は仲がいいものだ、とか世間では思われているようだ。 ……確かに私にだって仲がいい人がいないわけじゃない。 ……でも、なぁ、とか思う。 「んあ?」 ……本当に同年代ってのは仲がいいものなんだろうか、そういったことを尋ねたとき彼女の第一声がそれだった。 ……私の同級生といえば彼女……寮でも同室の王昶……文舒のほかに諸葛誕、胡遵、昜、司馬姉妹。それから今、眼前の寿春棟に自分の妹、カン丘秀とともに立てこもる彼女、カン丘倹…… ……別働隊を率いている文欽、といったところだろう。 ……彼女は叛乱を起こし、私たちはそれを鎮圧に来ていた。 ……彼女がなぜ叛乱を起こしたか、ということはわからなくもないつもりだ。 ……年下ながらひときわ強い光を放つ夏侯玄に魅せられながら、同じく彼女の未来に夢を見ていた李豊が司馬師を失脚させ、夏侯玄をトップに据えよう、などと考えたことから夏侯玄もトばされ…… ……カン丘倹は夢を失った。 ……今、カン丘倹には司馬師に復讐することしか考えてないんだろうなぁ、と思う。 ……でも私には特にそれ以外の感慨も沸いてこない。 ……しょせんヒトゴトなんだろうな、と思う。 ……そんな関係の同級生が仲がいい、とかいわれてもぴんと来ないのである。 ……文舒にそう言うと…… 「伯輿ってば難しいこと考えてんね」 ……んっと、あなたは考えないの? あっそう…… ……私は王基、あだ名は伯輿。 ……荊州校区総代として王昶と一緒に長湖部を攻めたりしている。 ……自画自賛だけど文舒とのコンビプレーだったらそうそう負ける気はしない。 ……今回もそれを買われてカン丘倹の反乱鎮圧に送り込まれた、わけだ。 ……客観的に見てカン丘倹の叛乱は成功することはないだろう。 ……司馬師を筆頭に文舒、昜、諸葛誕、胡遵……そして私。 ……同年代のほとんどを敵に回したこの戦いで勝機など万に3つしかありはしない。 ……1つ、戦いの長期化とこの叛乱に呼応する長湖部の援軍。 ……2つ、戦いの長期化と病気なのに強行してこの戦いに参加している司馬師の病状悪化。 ……3つ、カン丘倹と一緒に叛乱を起こした文欽は寿春棟から出ているので、その別働隊としての動き。 ……まぁ、そういったことに気をつけていればほぼ負けはありえない。 ……だから逆にかわいそうなんだよね、カン丘倹。 ……滅びの美学、ってのは私も持ち合わせてるつもりだから。
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