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★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
661:雑号将軍 2005/06/15(水) 21:44 ■影の剣客 その一 この年の一〇月、この蒼天学園を根本から揺るがす大事件が起こった。 なんと張角をはじめとする「オペラ同好会」の会員が蒼天学園東部で一斉に蜂起したのである。それはもはや革命だった。 参加者は「オペラ同好会」の会員にだけにとどまらず、一般生徒も加わり、その数は見当がつかないほどだ。 この集団は「黄巾党」と呼ばれた。それは指導者である張角がいつも黄色のスカーフを巻いていたのにあやかって、参加者全員がどこかに黄色のスカーフを巻いているからである。 そして、その黄巾党の大軍が蒼天学園の首都ともいえる洛陽棟まで迫ろうとしていた・・・・・・。 そしてそんなある日の早朝 「皇甫嵩。そなたに左軍主将の位を与える。この学園の平和を取り戻すのだ」 「はっ、我が身に変えましても」 静まりかえった会場に、マイクを通した声が響き渡る。ここは司隷特別校区、洛陽棟の第一体育館。床には真っ赤なカーペットが敷き詰められ、その中央に大きな舞台が設けられている。 その舞台に立つのは二人の少女。ひとりは無表情で渡された文章を棒読みしている少女。彼女はこの蒼天学園の象徴である蒼天会会長・霊サマ。そして、いま一人・・・・・・皇甫嵩と呼ばれた少女は屹立して、それを聞いていた。 そして、少女はうやうやしく、任命書と金の勲章を受け取り、一礼した。 同時に一般生徒は少女にわれんばかりの拍手を送る。 この少女の名は皇甫嵩。親しい者は義真と呼ぶ。蒼天学園一の用兵巧者との誉れ高い人物である。今の蒼天学園を救うことができるとしたら、彼女、以外には考えられないだろう。 しかし、与えられたのは「黄巾党」討伐の総司令ではない。彼女に与えられたのは一方面軍の指揮官という役職で、総司令となったのは、また別の人物であった。 皇甫嵩は謀略だと気づき、自身の左前側に立っている、おかっぱ頭の女生徒を鋭い目つきで睨み付けていた。 その鋭い眼光で睨み付けられている、少女はすくんだ身をなんとか動かし、皇甫嵩から目をそらすことに成功した。 この皇甫嵩という少女は、このおかっぱ頭の少女たち、つまり蒼天会秘書室と正面から対立している。そのため、秘書室としては皇甫嵩の名声を高めるようなことは極力したくないのだ。 自らの地位を守ることしかできない。そんな秘書室に皇甫嵩は憤りを感じていた。 しばらくすると、皇甫嵩は憤りを押さえ込んで、一般生徒の方に振り返り、微笑を浮かべ右手を挙げてその拍手に答えようとした。 そのとき。まさにそのとき―― キャーという黄色い悲鳴が一斉に沸き起こったのである。なかには、涙を流している者さえいる。 皇甫嵩はこの歓声に顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。 彼女のすらっとした長身から発せられる男口調は一部の腐女子から偏った影響を受けているため、今日みたいなことがあると、こういうことになる。 もちろん皇甫嵩にその気はないのだが・・・・・・。 会場からでできた皇甫嵩を待っていたのは、最愛の友たちであった。 「義真、頑張ろうね!」 「ああ、もちろんだ!公偉」 皇甫嵩が多少顔をほころばせ、赤髪の少女としっかりと握手を交わす。 面倒な行事が終わりほっとしているのだろう。 彼女は朱儁。親しい者は公偉と呼ぶ。彼女もまた、黄巾討伐の一方面軍の指揮を任された逸材である。 皇甫嵩は朱儁の横にいた、もう一人の少女を見た。 「義真・・・・・・」 腰までありそうな緑色の長髪を赤いバレッタで結んだ少女が、力なく言う。その少女はただただ地面だけを見つめていた。 彼女は盧植。親しい者は子幹と呼ぶ。彼女こそが今回の黄巾討伐軍の総司令であった。 「どうした、子幹。顔色が良くないぞ?」 盧植を見た皇甫嵩があわてて言う。 それに盧植はうつむいたまま、呟くように答えた。 「・・・・・・私に司令官なんて、できるわけない・・・・・・。義真と公偉は別働隊で行っちゃうし、建ちゃん(丁原)は食中毒で倒れちゃうし・・・・・・。どうすればいいのかわからないの・・・・・・」 「そんな顔をしていてどうするんだ。それじゃあ、指揮に関わるぞ」 「・・・でも・・・・・・」 皇甫嵩の励ましはなんの効果もなかった。盧植はがっくりと肩を落とし、その声は今にも消えそうだった。 「子幹・・・・・・不安なのはわかる。私だって今回の作戦が成功するか不安だ。だがそんなことは言ってられない。ここで逃げたら、いったい誰がこの学園を守るんだ?だからお願いだ、子幹。今はその不安を押し隠してでもいい。総司令として、頑張ってはもらえないか?」 皇甫嵩は子どもをあやすように優しく語りかけた。 盧植は顔を上げて、皇甫嵩を見つめた。距離にして30センチ強。その潤んで光る盧植の両目を皇甫嵩はしっかりと見つめ返した。 そして、盧植が恐る恐る、口を開いた。 「・・・・・・ええ、そうね。私は総司令。弱音なんか吐いちゃいけないのよ・・・・・・。わかってる、わかってるの・・・・・・だけどっ!」 ついに堪えきれなくなった盧植の身体は地面から離れ、そして皇甫嵩にもたれかかってきた。 「おっ、おい!子幹!」 なんとか盧植を受け止めた皇甫嵩だったが抱きしめる形になり、あたふたしている。 皇甫嵩の狼狽ようは尋常でなく、眼をキョロキョロさせ、顔を真っ赤にして盧植から視線をそらす。 もちろん確信犯の盧植は離れる様子など無い。 「ごめんなさい・・・・・・。義真。帰ってくるまではもう絶対、弱音なんか吐かない・・・・・・だから、今だけ、泣いてもいいよね・・・・・・?」 盧植の嗚咽が自分の顔のすぐ側から聞こえることに皇甫嵩はますます困惑して、顔をしかめた。 しかし、皇甫嵩にはどうすることもできなかった。 「あ、ああ・・・・・・」 皇甫嵩はそれだけ言うと、盧植の長い髪をゆっくりと撫でてあげた。 盧植はただただ泣きじゃくっていた。 このとき、カメラのシャッターを切る音がしたのには、だれも気づいてはいなかった。 「・・・・・・義真に子幹。わ、私、兵の訓練をしなきゃいけないから、さ、先に行くね!そ、それじゃっ!」 居たたまれなくなった朱儁はそれだけ言うと、その場から逃げ出すように、猛スピードで走っていった。 それから、数分後。 「ありがとう。義真。おかげで楽になったわ。ごめんね。変なことしちゃって・・・・・・」 顔と眼を真っ赤にした盧植がそう言った。皇甫嵩は咎める様子もなく、ポケットから何かを取り出した。 「私からの総司令就任祝いだ。・・・・・・その、なんだ、一緒に戦場に行ってやれないせめてもの償いというやつだ。それなら、寂しくはないだろ?」 皇甫嵩は自分の言葉に恥ずかしさを感じ、口元を手で覆うようにして、照れ隠しした。 そして盧植の後ろに回り込むと、持っていたあるものを盧植の首からかけてあげた。 それは細い銀色のチェーンに繋がったロザリオだった。 「これ・・・。ありがとう、義真。これなら私、頑張れそう!・・・・・・でも、義真、知ってたの?自分が総司令になれないこと・・・・・・」 盧植は目を光らせ、大事そうにロザリオを両手で包み込んでいる。 「ふっ、薄々とはな。今の蒼天学園は秘書室が支配しているようなものだ。 そんな世界で、秘書室と仲の悪い私が総司令に慣れるはずもないだろう」 皇甫嵩は苦笑しながら言う。 その眼は雲一つ無い青空を見つめていた。 「そうね。変わってしまったのね。なにもかも。・・・・・・義真、私もそろそろ行くわ。このロザリオ大事にするからね。今日はありがとう。おかげで楽になったわ。公偉(こうい)によろしく」 「元気になったならよかった。さっきも言ったが、子幹ならできる。頑張れよ。子幹。絶対に飛ばされるなよ」 「義真も・・・・・・」 二人はそう言うと、皇甫嵩は東側に、盧植は西側へと歩いていった・・・・・・。
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