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698:北畠蒼陽 2005/07/03(日) 00:14 [nworo@hotmail.com] 王昶は思う。この目……まっすぐだな…… とてもうらやましいと思った。 そして自分がこれほどまでに汚れていることを悲しく思った。 諸葛誕は思う。自分の戦歴は負けで覆い尽くされている。 だから毋丘倹や王昶の才能に嫉妬を感じたことは一度や二度ではない。 それでも……と思った。 「はい、これまで」 首筋を撫でながら……先に視線を外したのは王昶だった。 「私は公休を手伝うつもりはない。でも邪魔はしない……がんばれ」 諸葛誕にとって王昶のその言葉は完全に満足のいくものではなかった。 だがそれでも王昶の考えからすれば最大限の譲歩なのであろう。 「ありがとう……」 そして諸葛誕は踵を返し、もう王昶のほうを振り返らなかった。 王昶はひらひらと手を振る。 振り返りもしない相手に手を振り続けることは自己嫌悪の裏返しか…… 「……そんなに悲しいなら公休を止めればよかったんじゃない」 王昶の横から声が投げかけられる。 王基……醒めた瞳の少女が階段の上から面白くなさそうに王昶を眺めていた。 「いつから聞いてた?」 「……多分最初から」 王基がいることなどわかっていたのだろうあまり驚いた様子もない王昶のもとに階段を二段飛ばしで王基は歩み寄った。 「……公休、叛乱起こすだろうね」 「だね」 王基の言葉に王昶は無理に笑みを形作り頷く。 「……『乱』を嫌う文舒がそれを止めようとしないのはなぜか。『お姉様』とまで慕っていた王凌先輩のときも毋丘倹のときも」 「私たちの代じゃ学園都市の統一が難しいから……だから妹の世代、玄沖たちに実戦の経験をさせなければならない……ゲームでいえば公休はただの経験値」 呟き……王昶は顔を覆った。 「私は最低なやつだ! 学園の平和のためとか言いながら友達を売ろうとしている! 公休は私のことを信じたのに! なのに……!」 いきなり泣き崩れる王昶を王基は後ろから抱きしめる。 「……大丈夫。あなただけの罪じゃない。私も半分罪をかぶってあげる……半分こだもの、それほどの重みでもないでしょ?」 王昶の頭を撫でながら王基は他の誰にも見せないようなやさしい顔をする。 「……それでも重かったら荷物を地面に置けばいい。疲れが癒えたらまた歩き出せばいい」 「……」 ひとしきり泣いた王昶が一瞬、沈黙したかと思うと……ひらひらと手だけ上げてみせた。 王基は苦笑し、上がった手に自分のポケットから取り出したハンカチを持たせる。 王昶がそれを受け取り、そしてもぞもぞと動き……涙を拭いているのだろう……そして次に顔を上げたとき、もういつもの王昶だった。 「うん……んじゃ視察はここらで切り上げて帰ろうか。おいしいラーメン屋見つけたんだ」 ににっと笑い、そして王基に背を向けて歩く。 王基はその背中に笑みを見せ…… 「……またつらくなったら泣き用の胸は用意しとくよ」 「ありがと」 前を行く王昶からそっと漏れ聞こえた言葉に王基は再び笑みを見せた。
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