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★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
702:海月 亮 2005/07/03(日) 16:13 「真冬の夜の夢」 「…と言うわけだ、皆の衆」 と、数人の少女たちを眼前に置き、その緑髪の少女はそう言った。 その少女と少女たちの間には、意味ありげに置かれた二つのケース。 「何が“というわけ”なのよ。突然呼びつけておいてなにやらかそうっての?」 「そうだよ〜、早く寝ないと、舎監の先生に怒られるよ?」 少女たちは一部除いてみな不満げだ。その一部だって、眠たいのかしきりに目をこすっているから、おそらく話の趣旨なんてまったく理解していないだろう。 「ふむふむ…諸君の言い分はもっとも。しかし、われわれ来年度新入生をお迎えになった先輩方が打ち上げと称して今も酒盛りの真っ最中。それなのにわれわれは何もなくただ不貞寝するしかないと来た。理不尽とは思わないか?」 「…そりゃあ…そうだけどさ」 「承淵みたく部員待遇でもなく、ましてやまだ高等部に入学したわけでもないあたしらを入れてくれるとは思えないわよ」 「その承淵だって、結局ここにいるわけだし…」 「………ふぇ?」 少女の一人が、隅っこでとろんとした表情をしている狐色髪の少女を小突く。その衝撃で、承淵と呼ばれたその少女も夢心地だったところから現実に引き戻されたようだった。 緑髪の少女はにっ、と笑った。 「そりゃそうだ。何せこれからやることに必要だったからあたしが引きとめたんだよ」 「どういうこと?」 柔らかなプラチナブロンドをショートカットにした少女が、怪訝な表情をして聞き返す。 「実は今日、確かな筋からの情報で舎監不在は確認済み。で、来年度の長湖部幹部候補生たる我々しかこの寮に残っていないことも確認済み。で、この場にはあたしら八人しかいない」 「え? え?」 「ちょっと敬風、もったいぶらずに本題言いなさいよ。あたしの予想が正しければそれ」 「…大歓迎だろ、世議」 「もっちろん! 他のみんなは?」 世議と呼ばれた、亜麻色のロングヘアの少女が嬉々とした顔で満座を見回した。 「あたしもいいけど…」 「でも敬風ちゃん、まさかただ延々と朝までそうしてるってのも」 「心配無用だ皆の衆。景品は用意済み、うちの堅物伯姉が珍しく手ぇ廻してくれたから…総合1位は豫州学区本校地下のバイキングタダ券一か月分!」 敬風と呼ばれた、そのリーダー格と思しき少女が懐から取り出した回数券の束を見て、少女たちから思わず感嘆の声が飛び出す。蒼天学園生徒の憧れの的とも言える、学園最高級との呼び声高い学生食堂のタダ券を目の前にしたのなら、それは当然の反応だ。 「そして当然、ノーマルな賭けも同時進行だ。世議や世洪は物足りないかもしれないけど、小遣い事情を考えて点五(千点=50円レート)で。その代わり回転数を上げるためのデンジャラスなルールも取り入れますんで」 「お、話わかるじゃん」 「というわけで、これからヨチカのタダ券を賭けた、旭日祭後夜祭麻雀大会の開催に異議あるものは!?」 「異議な〜し!」 その元気のいい満場一致を見て、敬風こと陸凱は満足そうに頷いた。 その参加者は陸凱以下、実に濃いメンツだった。 プラチナブロンドのショートカットを、ぱっちりとした大きな、かつ勝気そうな瞳が特徴的な顔に乗せているのは虞レ、字を世洪。 亜麻色のロングヘアをストレートに流している、ツリ目で長身の少女は呂拠、字を世議。 黒のクセっ毛を、ツインテールに束ねた童顔の少女は朱績、字を公緒。 セミロングの黒髪をうなじのあたりで二つ括りにした、どこか柔らかな雰囲気のある少女は丁固、字を子賤。 緑髪の少女があと二人いるが、そのうちのセミロングで陸凱によく似た顔立ちをしているのは、陸凱の双子の妹・陸胤、字を敬宗、もう一人の、ロングヘアにして三つ編みを作っているのは現長湖部の実働部隊総帥である陸遜の実妹・陸抗、字を幼節。 そして結局最後の瞬間まで夢うつつだった狐色髪の少女は、中等部生でありながらその陸遜軍団の突撃隊長として名を馳せる丁奉、字を承淵。 後に長湖部の柱石となり、あるいは外地でさまざまな功績をあげる事となる名臣たち…そんな少女たちが高等部入学を目前に控えたこの時期に、このような馬鹿をやらかしていたという話が学園史に残っていることもなかった。 八人が二卓を作り、最初は特に何もせず打って、その中で上位陣四人と下位者四名を分け、以降は一局終わる毎に上位者二名と下位者二名を入れ替える。 回転数を上げるために割れ目適用、二家和(ダブロン)あり、さらに上位陣では陸凱が定めたルール…というか、彼女が普段虞レや呂拠と卓を囲んでいるときのルールが適用される。 即ち、5・10のウマ、飛ばし賞あり、役満賞あり。サシウマと飛ばしで点五でも一局で万近い儲けまたは損が出る恐るべきシロモノだ。しかも上位者に名を連ねる陸凱たちはイカサマも平気でやるからそのハンデを埋めるため、いくつか厳しいルールも付け加えている。麻雀にあまり慣れてない陸胤は罰符の適用外であることもそのひとつだ。 そんなこんなで、慮江の中等部寮で長湖幹部候補生たちによる、学食のタダ券を賭けた血で血を洗う戦いの幕は切って落とされた。
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