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★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
703:海月 亮 2005/07/03(日) 16:14 「よし来た! リーチ一発ツモタンピン三色…裏乗ってドラ2、親倍満八千オール!」 「え、嘘っ!?」 「うっわ…いきなり飛ばしてきやがったなこの女…」 陸凱が倒した手は、まるで麻雀のガイドブックにお手本で載っているかのような、整った手役である。そのあまりの鮮やかさに、上家の虞レも呆れ顔だ。別卓の陸抗や朱績も思わず手を止めて覗き込んできた。 「そりゃあなんたってあんた、ヨチカのタダ券懸ってますから」 「あざといねぇ…子幹や敬宗もいるんだからちったぁ遠慮しなよ…あ」 清算を終えてがらがらと牌をかき混ぜ始めた陸凱を嗜める呂拠だったが… 「悪ぃ、あたしもツモだ。メンホン一通でハネ満、六千の三千」 「…世議も言えた義理な〜い」 「ホントだよぅ」 こちらも呆れ顔の朱績と陸抗のブーイングを食らうのであった。 (さぁて…世洪は多分万子の真ん中辺、敬風は張ってる気配ないな。問題は承淵だが…) 二局目。上位陣の構成メンツは周りの予想通り虞レ、陸凱、呂拠の三名、それに前局で後半に追い込みを見せた寝ぼけ眼の丁奉を加えた四名という顔ぶれ。呂拠は聴牌となった己の手牌と、場の捨て牌を眺めて思案顔。 (一色系なんだろうけど鳴いてないのが不気味なんだよな…てかコイツ、半分寝ってるせいか表情読めね〜…) ちら、と呂拠は下家の丁奉を見る。まだ眠いのかぼんやりしていて表情が読みにくいことが戸惑いに拍車をかけた。普段なら、読みたくなくたって考えが読めるほど解りやすい相手のはずなのだから。 (まぁいい…ヤツは放っといて一気に決めるか) 呂拠は思案の末捨てようとした索子の四を、瞬時に目の前の山の一牌とすり替える。 そこには先ほどすり替えた北の牌。 「リーチ」 まさに一瞬の動作で難なくそのイカサマを実行し、完全な安牌であると思われたその牌を横倒しにして置く。 ついでに言えば山に戻したのはちょうど自分のツモ牌、かつ高目のあがり牌だ。流石に百戦錬磨の玄人呂拠、そつがない。 そして、リーチ棒を置こうとすると…。 「あ、出さなくていいよ〜。それだからぁ」 「はぁ!?」 半分眠ったような顔で、ゆらゆらと揺れる丁奉の“意外な”反応に、捨てた呂拠どころか虞レと陸凱も思わず間抜けな声をあげて見事にハモってしまった。そして、パタパタと音を立てて倒れる牌を見て呂拠の表情が一瞬で凍った。 「えっとぉ、国士無双〜…割れ目で倍だから六万四千〜」 「えー!」 信じられない単語が飛び出して満座の注目を一気に集める。わらわらと集まってくる少女たち。 「…あ…有り得ねぇ…」 「なんか知らんけどナチュラルのコイツは得体の知れないトコ、あるからなぁ…」 呆然と呟く虞レと陸凱。 残った卓ではただ一人、朱績が自分の手役と牌の山から好き勝手に牌を弄くっていることに誰も気づかなかったという…。 試合開始からわずか三時間の間に、消化した局は六局にもなっていた。 一時休憩の間、談話室のホワイトボードに貼り付けられた点数表を目の前に、どっかりと陣取りながらにらめっこしている緑の跳ね髪少女が一人。言うまでもなく、今回の発起人である陸凱その人だ。 「…こりゃあ意外な展開になってきたな〜」 書かれた点数を計算してみると、1位はぶっちぎりで丁奉という有様。そのあとには朱績、虞レ、陸凱と続く。哀れなのは二局目で丁奉の割れ目役満に振り込んで以来ビリをひた走る呂拠だ。 「うわ、コレは思った以上にめちゃくちゃな順位ねぇ」 「まったくだよ…てか、今の承淵は一体何なんだろうな?」 頼まれていた緑茶の缶を渡し、横に腰掛けた虞レに陸凱が問いかける。 「そんなの私が聞きたいよ。それに公緒、アイツも結構やり口があざといわね」 「ああ…でも多分ヤツは次に討ち取れるよ」 「おや、これは自信満々な」 「まさかとは思ったけど…あの子のお姉さん、義封先輩とやり口が一緒だからね。承淵が国士あがったとき、アイツだけ顔見せてなかったから、そのときも何かやってたみたいだし」 陸凱の慧眼に思わず口を鳴らす虞レ。お茶を飲み干した陸凱が大きく伸びをした。 「さぁて、世議がへこんでいる今のうちに、せめて点数だけは荒稼ぎしておかないと」 「承淵は?」 「ほっとこう。あいつが勝てば、もしかしたら振舞ってくれるかもしれないし」 「……言えてる。あなたなら絶対そんなことしないでしょうけど」 「一言余計だ」 その会話が終わるころ、思い思いに休憩を取っていた少女たちが戻ってきた。 話題に上った丁奉が“目を覚ました”のはそれから五分後のことだった。
704:海月 亮 2005/07/03(日) 16:14 「いや〜…まさかあたしがそんなに勝ってたなんてねぇ…」 「本当に覚えてないの、しょーちゃん?」 「世議さんなんて魂抜けかかってたよ〜」 「覚えてない覚えてない…っと、これでリーチかな」 それから更に三局を消化して、何時の間にか総合得点がマイナスに転じていた丁奉は陸抗、陸胤、丁固を含めた下位卓の顔ぶれに混じって居たりする。 あのあと意識がはっきりするにつれて、彼女は人が変わったように負け始めた。自然体でのらりくらりとかわされて対策に頭を悩ませていた陸凱と虞レの集中攻撃を受けて、金額にすれば三万円近い勝ち分を一気に吐き出したのだ。同時に、仕掛けていたガンパイのタネを見破られた朱績も陸凱の逆襲を受けて大きくへこまされていた。 「まぁ、この手のゲームは欲がないほうが強い場合ありますからね」 言いながら丁固が、引いてきた牌と手役を見ながら言う。 「あと承淵さんは、半分寝てるときのほうが手強いかも、です」 その次に牌を捨てながら陸胤も続ける。 「そんなもんなのかな…あ、残念違うか」 「あ、それ当たりだよ〜」 「え、うっそ?」 丁奉が切った牌を取り上げて、手役を開陳する陸抗。 「だって普段のしょーちゃん、何考えてるか解りやすいんだもん。あ、断公のみで千点だよ〜」 「ちぇ〜」 素面に戻った彼女の周囲では、まぁそんな平和な空間が生まれていたわけである。 順位はほぼ固定されつつあった。一局ごとに陸凱、虞レ、そして調子を取り戻した呂拠の三名でトップの順位はめまぐるしく変わり、下位四名からちまちまと点を稼ぎながらやっとの思いで追随する朱績。 (まいったなぁ…おねーちゃんから教えてもらった手は敬風達に見破られてるみたいだし…何か良い手はないかなぁ) またしても下位卓に引きずり降ろされて来た朱績。対面の丁固が何か切ろうとしたが、それは今張っている朱績の当たり牌であることは彼女には解っていた。そういう仕掛けをしたからである。 しかし、どういうわけかそれが切って出されることはなかった。 (あれ…まさか、あんな牌を抱え込むなんて?) 一瞬、彼女は違和感を感じた。しかし、陸胤のことだから何か珍しい手を狙ってるのかもしれないと思い直し、上家の丁奉の牌を覗き込む。こちらにも、同じ牌を握っているようだ。 だが、彼女もそれを切ることはなかった。 (え…承淵まで…?) 偶然にしてはおかしい。いくらなんでも二人して示し合わせたように同じ牌を抱え込むなんて。 まさかこの二人にも仕掛けがばれたのだろうか。先の局も、陸抗に何故か狙い撃ちされている時点で、彼女は仕掛けがばれたことを疑うべきだったのだが…。 (はは…まさか、ね) タネをばらしてしまうと、彼女が何らかの“目印”をつけていたのは万子の一から三の牌。彼女はわずかな間に各二枚づつ計十八牌、両方の卓合わせて三十六牌に印をつけていたのだ。そして、彼女が引いてきたのは、今現在の手役に不要な二の万子。彼女の記憶が間違っていないなら、丁奉と陸胤の二人が抱え込んでいるのは一の万子。 捨て牌を見る限りではそれを利用できる手役ができているとも思えない…というのは、あくまで彼女の希望的観測でしかない。わずかな時間で牌に目印をつけるくらいの腕があるくせに、捨て牌から手役を読める能力がなかったことが致命的な弱点であった。 プラス、自分の力を過信していたことが朱績の命取りとなった。 彼女の姉・朱然なら、危険を察知し確実に戦略を切り替えていただろう。あるいは、そこいらの有象無象が相手なら、それでも良かったのかもしれない。だが今此処にいるのは、まかりなくも何か光るものを見出され、長湖部幹部候補生となった少女達なのだ。 「ロン、一通ドラ2で満貫です♪」 「同じく、純チャンドラ1。あたしは親満ですかね?」 「何でー!?」 同時に牌を倒す丁奉と丁固。 この瞬間、朱績はトップ争いの争奪戦から一気に引き摺り下ろされた。 対戦数は既に十回をとうに超え、薄く開いたカーテンの隙間から、弱々しい冬の朝焼けの光が入ってきた。 時間ももう朝の五時を指していた。そろそろ限界に近い者も出始めたようである。 「よ〜し…じゃあ泣いても笑ってもこれで最後にするよ〜」 「え〜?」 陸凱の提案にひとりだけブーイングを飛ばす朱績。 「これで終わったらあたし逆転できないよ〜」 「文句言うな。承淵や敬宗、子賤だって逆転不可能なんだからあきらめろ」 実は陸抗もなのだが、まぁ、とにかく陸凱、呂拠、虞レ以外は誰がどうがんばっても1位は望めない。暫定1位の呂拠を引き摺り下ろしたって虞レか陸凱が優勝を持っていく状態だ。 「そんなぁ…」 がっくりとうなだれる朱績を見かねたのか、その暫定1位が助け舟を出した。 「いいじゃないの敬風、最終戦くらい派手にサシウマつけよーよ」 「あぁ?」 「このままじゃどうせあたしか世洪かあんたしか得しなさそうだし…順位に応じて、サシウマの値を変えてやってもバチ当たんないでしょ?」 「それが勝負、ってモンでしょ。あたしはむしろ今止めたって文句言うつもりないよ」 「面白くないじゃん。最後の一発であたしら三人が負けたとき、あたしらの得点を0換算にして買ったヤツにつぎ込んでやるとかよくない? そうすれば計算上ドンケツの敬宗も逆転可能だし、あたしらが勝てば儲け倍だし、そのほうがスリルあっていいよ?」 「う〜ん…世洪は?」 「私は別にいいよ…ふぁ…そういう理不尽な大博打も、たまには」 あくびをかみ殺して虞レも同意する。 「なら認めてやるか。その代わり、あんたが悪戯した分の牌はとっかえて使わせてもらうから…いいわね公緒?」 「う…わかったわよぅ…」 渋々承諾する朱績。 予備に用意された牌と、印付けされた牌を交換する数分のインターバルを挟んだ後、運命の最終戦が幕をあけた。
705:海月 亮 2005/07/03(日) 16:15 上位陣。人のことをいえた義理もないあざとさで派手な手役を組み上げる陸凱だったが、南場に入る直前…。 「ちょっとタンマ」 牌を引く直前、不意に虞レに腕を捕まれ、しまった、という表情を一瞬見せる。そして普段出したことのない猫撫で声で言った。 「…えと、なんでしょうか世洪さん?」 「とぼけたって駄目。あんたらしからぬミスだわね敬風…そのお手々、開いて見せて?」 なんというか、そう言う虞レの笑顔はとてつもなく怖かった。かつて彼女の姉・虞翻をして「あの子の笑顔ほど恐ろしいものはない」と言わしめた、その“凍りついた”笑顔がそこにあった。 その異様な雰囲気のなか、恐る恐る覗き込んできた朱績と陸胤も、一歩引いた位置で成り行きを見守っている。 冷や汗とともに開かれた手からは、牌が二つ出てきた。よく見れば彼女の手牌も規定より一枚少ない。 つまり陸凱は、不要牌と山の牌を交換しながら牌を引いていたのだ。 「…この罰符、役満払いで文句なくて?」 「ちっ……………覚えてろコノヤロウ」 さらににっこり具合を強める虞レをジト目で睨みつける陸凱の背後では、呂拠と丁奉が必死に笑いをこらえていた。 「ふっふ〜♪」 イカサマ発覚のあと、トップ争いから外された陸凱を尻目に着々と点を稼ぐ朱績を見、虞レは怪訝そうな表情をした。 (おっかしいわね〜…この短い間でまた何をやったのかしら、コイツは?) 見れば陸凱も同じような顔だ。一瞬目が合ったが、彼女はぷいとそっぽを向いてしまう。まぁ、先ほどの一件を鑑みれば仕方ないとは思うのだが。 (駄目か。敬風も割りと根に持つからなぁ…彼女なら見破ってそうなんだけど、これが見破れないと、優勝さらわれちゃうかもね) そうして再び手役に目を戻す虞レ。 その隣の陸凱、朱績が何をしているかをほぼ九割がた、見破っている様子だ。 (世洪め、やってるれるわ本当に…それに公緒、コイツも懲りないわね。義封先輩なら見破られた戦法なんて二度三度と使ってこないわよ) おそらくその技は、先ほどと同じくガンパイであることは九割九部、間違いないようだ。ただ、先ほどとはその目印が違うらしい。 更に言えば、目印をつけた牌もそう多くなかろう。 だが、同じ技を使っている以上、決めてかかればタネを見破るくらい陸凱にとっては朝飯前だった。 そして、目当ての牌を引き入れ、わずかに笑みを浮かべた。 (見てろコノヤロウ…この陸敬風の本気、思い知れ!) 朱績の優位がひっくり返されるのは、その一巡後のことであった。彼女は陸凱がすり替えた牌を握らされ、ドラをたっぷり抱え込んだ倍満手を喰らい、一気に最下位に引きずり落とされるのだった。 波乱に満ちた最終戦、そのクライマックスを彩ったのは意外にも陸胤だった。 「えと…待ってくださいね……わ、すご〜い」 「え?」 パタパタと倒れた手牌。 「あがっちゃってます〜、しかも字の牌ばっかり〜」 「…………………!!」 天和、大三元、字一色。当然ながらこの組み合わせなら四暗刻もつく。親の四倍役満、十九万二千点…いや、割れ目ルールがあるから更に六万四千点加わって、その得点は計二十五万六千点也。 はっきり言って平打ちなら有り得ない展開だ。 呆気に取られて言葉を失う陸凱。しかし一瞬後、彼女はなんとなくだがその理由に気がついた。 このとき皆が牌を引いたのは、陸凱の積んだ山からだったのだ。陸凱はオーラスに最後の望みをかけ、盲牌で探り当てた字牌を自分のところにかき集めていたのだ。それが巧い具合に、彼女の対面に座っていた双子の妹のところに集まってしまった…。 (てとなにか、原因は…………あたし?) 隣では朱績と虞レが酸欠の金魚よろしく口をパクパクさせている。 呂拠、丁奉、丁固の三人も思わず目が点。 ただ一人陸抗だけが「すごーい」とかいって素直に喜んでいた。 この一発をもって、豫州地下学食のバイキングタダ券を賭けた少女たちの仁義なき戦いが幕を閉じた。 下位卓は呂拠が無難に勝ちを収めたが…陸凱と虞レのふたりを飛ばし、有り得ないほどのサシウマが加算された陸胤が総合優勝を掻っ攫うという、誰もが予期していなかった結果に終わったという。
706:海月 亮 2005/07/03(日) 16:19 その決戦の翌々日、件の豫州地下食堂には特徴的な緑髪の少女たちの一団がいた。 「じゃあ結局、敬宗がタダ券持ってったわけ?」 その顛末を聞き終えて、口火を切ったアップのヘアスタイルは、既に長湖部を引退して久しい陸績。 「え〜そうですよ〜。あたしと世洪が仲良く下からワンツーっておまけつきで」 ふてくされた様子でテーブルにへばっている跳ね髪は陸凱。 「それは災難ねぇ。でもあなた達の場合は因果応報ってトコだわ」 痛烈な台詞を吐くショートボブは陸遜。 「何でよ」 「どうせまたあざとい手使ってたんでしょ、あなたも虞レさんも」 「え〜使いましたともさ。だってヨチカのタダ券欲しかったんだも〜んだ」 更なる陸遜の追い討ちに、むくれてそっぽを向く陸凱。 そのとき、何か違和感を感じたらしい陸績。 「じゃああなた、負けたんなら余計に此処、いれないんじゃないの?」 「それは異な事を仰るな公(きみ)姉。なら前金制の此処に負け組のあたしや幼節その他がいてたまるか」 「そういえば…」 集まった面子はその夜の参加者八名を含んでいる。単なる打ち上げというなら、裏から景品を廻した陸遜はともかく、不参加の同級生や長湖部員でない陸績が呼ばれるのもおかしな話だった。 「コレはみんな敬宗のおごり。ついでに言えば、あたしたちは賭け金も鐚一銭払ってませんよ」 更なる証言に顔を見合わせる陸遜と陸績。 「勝負は勝負で面白かったからお金賭けるのナシ、とか言い出したんだよアイツ。ダントツの大勝がそんなこと言い出したもんだから他も何もいえなかったってオチだよ」 「はぁ…なるほど」 「あの娘らしいわね」 そこまで聞いて、二人も納得したようだった。 「しかも今日でタダ券もばら撒くつもりみたいだよ。みんなで食べたほうがおいしいです〜とか言って。こんな結果になるなら、一昨日のあれはなんだったんだか」 呆れた様な表情で息つく陸凱。 それを挟んで両サイドの陸績と陸遜が、 「いいじゃないの、楽しんだんだから」 「さしずめ“真夏の夜の夢”ならぬ“真冬の夜の夢”かしら」 「あ、巧いこと言うわね…差し詰めタダ券を廻してあげた私は、夢の運び手ってところかしらね」 そんなことを言った。そんな族姉ふたりの隣で陸凱は「勝手に言ってろ」とふてくされたように呟いた。 三人の振り向いた先には、わいわい言いながら色とりどりの食材を取って回る少女たち。 その中心では、 「それでも敬宗ちゃん凄かったよ〜」 「えへへ…まぐれですよ〜」 その状況を作り出した張本人が、はにかんだ顔で笑っていた。 (終わり) 裏「長湖・新春の攻防戦」、そのとき丁奉たちは何をしていたかを書いてみました。 最近になって気づいたことですが、海月が旭祭りに持ち込んだSSには丁奉がいなかったのですよ。 まさかヤツも人知れず暴れていた、というのも寂しい気がしたので… 密かに後期長湖部主要メンバーが勢ぞろいなSSであります。 実におばかな話で恐縮ですが(^^A
707:北畠蒼陽 2005/07/03(日) 18:31 [nworo@hotmail.com] >筆に馴染んだ こりゃまたありがたいお言葉で、いやはや。 今度はここらへん連中を建業あたりに遊びにいかせてみようかとか考えてます。 >義理 いや、私も毋丘倹はハチャメチャに義理堅い人だと思いますよ? 曹か司馬か、ってのはここらへんの世代の魏将だと常に考えさせられる問題でしょうからねぇ。 >んで麻雀かよッ!?(三村風 久しぶりに打ちたくなりました(笑 私も今、ちょっと別のことで麻雀を文章にする機会があったんですけど難しいんですよねぇ、文章だけで牌を書くの、って。 麻雀をよく知ってるの人に文章見せたら『わかりづらい』って言われてがっくりです。 とりあえずこういう日常が私ももっと書きたいですね、せっかくの女子高ですし(笑
708:海月 亮 2005/07/03(日) 21:13 >麻雀ネタ 確かに、文章で表現するのはかなり難しいですね。私は書いた当人だから、どんなシーンになってるか解らなかったら問題ありますけど(^^A で、本題ですが間違い数点。 >>703 第一段落 ×子幹→○子賤(実は最初、丁固じゃなくて鐘離牧がいたのです(^^A >>704 第二段落 一箇所だけ陸胤になっている箇所がありますが、丁固の誤りです。 以上。よく見てから投稿しない海月のせっかち加減に乾杯_| ̄|○
709:★教授 2005/07/03(日) 22:47 ◆◆ 大切なおくりもの ◆◆ 「公祐…何してんの?」 簡雍の第一声はこの言葉だった。 色彩感に溢れる毛糸玉達が小会議室のあちこちに所狭しと我が物顔に転がり、思わず足の踏み場に困る簡雍。更にそれを修飾するかのように型の崩れた雑巾みたいな物体が折り重なって倒れている。公祐こと、孫乾はその中心に正座して入り口に背を向けていた。 何かに集中しているのか簡雍の問い掛けに気付いた風もなく、黙々と上半身を揺らしている。 (あののんびり娘がこんなに集中出来る事があるなんて……) 簡雍はある種の異様な空間に思わず固唾を飲んでしまう。悪戯をしたいとは不思議と思わず、ただその後姿を見ているしかなかった―― ――3時間後 「出来た…」 「ほぇ?」 今まで黙々と作業を続けていた孫乾が小さく呟くと、障害物を横に避けて寝そべりながら海苔煎餅を齧っていた簡雍も変な声を出してしまった。 と、慌てた様子で孫乾が振り返り青いような赤いような驚愕の表情を簡雍に見せる。きょとんとそれを見ていた簡雍は『やぁ』と片手を挙げてそれに応えた。 それには不可思議な表情をしていた孫乾の顔がはっきりと赤くなった。そして目尻に涙が溜まっていくのが簡雍にも視認出来た。 「い、いたのなら声くらいかけてくださいー!」 「声掛けても返事しなかったじゃん………ってか、泣くなよ」 「だ、だってだって…恥ずかしいですぅ…」 「あーっ! 泣かないの! 私が悪かった!」 ぽろぽろと涙を零して泣き出した孫乾に白旗を挙げて降参する簡雍。宥めるのにこれまた時間が掛かって今度は簡雍も泣きたくなってしまった。 ――1時間後 「で、何してたわけ? 周りが見えなくなる程の事だから余程って感じがするけど」 簡雍は両手を出して毛糸を巻きつかせながら孫乾に尋ねる。 「えーと…マフラー作ってました…」 「まふらぁ? アンタ、まさか…おと…」 「違います違います違います!」 物凄い勢いで否定されて、一歩退く簡雍。孫乾は一息置くと先ほどまで格闘していたマフラーを広げる。 「私から…頑張ってるあの人に心を篭めたおくりものなんです。私にはこれくらいしかできませんから…」 所々がほつれたり形が崩れたりしている手製のマフラー、お世辞にも上手とは云えない出来栄えだ。しかし、空気を読めない簡雍ではない。 「いいじゃん、それ。高価なマフラーを贈るよりも下手でも手で編んだ方が美しいってね。贈られるヤツは三国一の幸せ者よ」 にかっと白い歯を見せて笑う簡雍に照れ笑いを浮かべる孫乾。 外はもうじき桜が満開になる季節、時期外れの贈り物は誰に贈られるのか。簡雍はそれには一切触れなかった。ただ、分かっている事が一つだけある。それは―― 「頑張り屋さんからの贈り物は同じく頑張ってる人に贈られるんだろうね」 そして、孫乾もまた贈る人にこんなメッセージも添えていた―― 「復帰おめでとう! これからも頑張ってくださいね、風邪なんかに負けちゃダメだよ」 ――30分後 「おーい…何とかしてよ…」 「あれ…こんなはずじゃ…」 毛糸でぐるぐる巻きにされて揉みくちゃにされた簡雍とそれを助けようとして一緒に絡まってる孫乾が小会議室に転がっていた。 この後、偶然通りかかった李恢に助けられ事無きを得たようです。
710:北畠蒼陽 2005/07/04(月) 01:57 [nworo@hotmail.com] >教授様 あ〜、ぐっこ様へ向けてのメッセージってのはこうやって発信するんかー!(目からうろこが5、6枚 大変勉強になりました(笑 >雑号将軍様 カキコに気がつかなくて申し訳ないです^^; 高句麗討伐については正史を読む限りは100%毋丘倹の功績ですねー。 ただ句麗王、位宮が率いた兵力が20000ってのは一国としては明らかに少ないのも事実。 これがなにを意味するのか、ってのは私も不勉強でわかってないんですけどね^^; でも20000の兵を10000で打ち破る、ってのはほんとありえない功績ですよ。
711:雑号将軍 2005/07/04(月) 22:11 ■卒業演奏 Part1■ 卒業式・・・ただの通過儀礼だと考える人も、どうでもいいと考える人もいます。でも私はそうは思えないのです。私にはどうしてもやりたいことがあったから・・・・・・。 そんな卒業式の一ヶ月前。私は洛陽棟の体育館に行きました。中央には大きく重厚なグランドピアノ。そして体育館を埋め尽くさんとする学園の生徒たち。そんななか、私はなにをするのか?それは・・・・・・。 「エントリーナンバー一四、劉協さん。演奏を始めて下さい」 体育館にアナウンスが響き渡る。 そう私の名前は劉協。一年くらい前までは「献サマ」と呼ばれていました。これでも蒼天会会長をしていたんですよ。でも、その位は別の方に差しあ げることにしました。 それから私はある目標のためだけに頑張ってきました。その目標を叶えるために今ここに立っています。 私は来て下さった生徒の方々に一礼し、椅子に座ります。そして、両手をグランドピアノにのせ、動かしました。 そう今日は卒業式のピアノ伴奏者選考会なのです。私はどうしても自分の卒業式で合唱のピアノ伴奏をしたかったのです。理由は簡単です。ただ、いつまでも、ピアノが弾いていたかったから・・・・・・。 劉協の奏でる音色は本当に美しかった。しかし、どこか悲しげであった。「哀愁に満ちた旋律」とでもいえばいいのだろうか。そんな劉協の旋律は それを聴いていた生徒たちの心を震わせていた。 そうして、劉協の演奏は終焉を迎えた。もう勝負は誰の目から見ても明らかだった。割れんばかりに響き渡る拍手が劉協の実力を照明していた・・・・・・。 「ふうー」 自分のやれる限りのことはやった。素直にそう思えます。心地よい達成感。それともこれは私の自己満足に過ぎないのでしょうか。・・・・・・やめましょう。 それを決めるのは私ではないのですから。 私は最初と同じように、来て下さった生徒の皆様方に深々と感謝の意を込めて頭を下げました。 そうすると、皆さんはもう一度大きな拍手を私に送ってくれました。本当にうれしくて、少しだけですが、私の目から涙がこぼれました。 その日の放課後。私は結果を聞くために控え室で待っていました。不思議と負ける気はしませんでした。 なぜなのかはわかりません。でも、そんな気がしたのです。 「劉協さん。おめでとう。あなたが卒業式のピアノ伴奏者に選ばれたわ。しっかり頑張ってちょうだい」 「は、はいっ!」 私は満面の笑顔でそれに答えた。自分で言うのもなんだが、ここまで笑ったのはいつ以来だろう。もしかしたら、生まれて初めてかもしれないと思えるほどでした。 それと同時になにか足りない。そう一つ欠けたパズルのような、何とも言えない空虚感に囚われていました。 しかし、その気持ちはすぐに解決することになります。 「あの子がいれば、周瑜さんがいたら、どうなっていたかわからなかったわね・・・・・・」 先生が、私から目をそらして、呟くように言いました。 私には「周瑜さん」がどなたかは知りませんでした。でも、知っているような気がしたのです。だから私は訊いてみることにしました。 先生は悲しそうに答えます。 「えーと、あなたとの一年先輩だったんだけど、事故があってね。今年、卒業できることになったの。黒髪で・・・腰くらいまであったかしら。ビックリするくらいピアノが上手かったのよ。でも、卒業する単位を取るだけで精一杯だったの。だからピアノを弾いてる時間がなかったのね・・・・・・」 私のある記憶にいる少女とその「周瑜さん」が一致しました。 いつだったでしょうか。あるとき、一人のミカン売りの少女がやってきました。彼女は私の部屋にあったピアノを弾きたいと言いました。 私は断る理由もないので、許可しました。そうして、私は横にあった椅子に腰掛けて、席を譲りました。 彼女は席に座るなり、ピアノの鍵盤に指をのせ、弾き始めました。その音色はもう言葉では言い表せないほどにすばらしく、人の心を震わせる力がありました。 彼女の演奏は、私の到底及ぶところではありませんでした。 それ以来、私はその少女を目標にピアノを頑張ってきましたの。無意識のうちにその少女・・・周瑜さんに勝ちたいと思っていたのかも知れません。 この場所で・・・・・・。 それが叶わなかったこと、それが私の身体の中に空洞を創り出していたのでしょう。 「・・・・・・協さん?劉協さん?」 考え込んでいて、意識が別の方にいってしまっていたようです。気がつくと先生が心配そうな顔でこっちを見ておられました。 「す、すみません。それでは、私、練習してきます。周瑜さんの分まで頑張らないといけませんから」 その気持ちにウソはありませんでした。せめて、私がどれだけ成長したのか、見せつけてやりたいのです。私だってここまで出来るんだって。 私って、もしかすると負けず嫌いかも知れませんね。 それから一ヶ月の間私は、練習に練習を重ねました。 周瑜さんが訊いて満足してもらえるような、一緒に卒業するみんなが納得してもらえるような、なにより、自分が納得できる演奏にするために・・・・・・。
712:雑号将軍 2005/07/04(月) 22:20 ■卒業演奏 Part2■ ついに卒業式がやってきました。 私は朝の光をいっぱい受けながら、大きく深呼吸をします。 「三年間、ありがとう。最後だけど、今日もよろしくね」 そう語りかけて、制服に袖を通しました。最後だと思うとなんだか悲しい気持ちになります。 それでも、私は新しい世界が待っています。そこへ進むためには私は前に進まなければなりません。だから私は自室を後にすることにしました。 洛陽棟第一体育館。もうたくさんの生徒でごった返していました。そこには私が知っている方々の姿がちらほら。 そんなことを考えながら、私は自分の教室に向かおうとしました。そのとき、ほんの一瞬でしたが、懐かしい人の姿が見えました。 「あ、あれは孟徳さん!?」 私が振り返ったとき、もうその姿はありませんでした。 曹操 孟徳・・・・・・私がこの学園で最も信頼していた先輩。中には彼女のことを悪く言う人もいたけれど、私は思います。あの人以上に学園の統一を望んでいる人はいない・・・と。 教室では担任の董仲舒先生が号泣していました。まだ卒業式も始まっていないのに。 そんな先生は私たちに卒業式の諸注意をすませると、体育館へと移動することを、促しました。 廊下に並んだ私たちは下級生から胸に付ける花を受け取り、体育館へと歩いていきました。 「卒業生入場」 司会の先生合図で私たちは会場へと向かいます。ここまでくると、やっぱり緊張するものです。私は何度も深呼吸をして、自分を落ち着かせようとしましたが、むしろ逆効果でした。 席に着いてから私は気が気じゃありませんでした。 失敗しちゃいけない・・・・・・。そんなプレッシャーが私の身体の中を満たしているみたいな気がします。 でも、私は負けるわけにはいきません。選考会で私と一緒に競い合った人たち、私に投票して下さった皆さんの想いを受けて、私はこの場に立つことができているのですから・・・・・・。 「卒業生全員合唱」 ついにこのときがきた。私はすっと席から立ち上がり、グランドピアノのある方へと向かいます。 こつこつと、革靴の乾いた音が体育館に響きます。それほどまでに体育館は静まりかえっていたのです。 席に着き、私は気持ちを指先に集めます。これは私がピアノを弾くときに必ずします。こうした方がピアノに気持ちが乗りやすいような気がして。 指揮者が私の方を向き、指揮棒を振り始めました。それに合わせて私も鍵盤に指を滑らせるようにして、ピアノを弾き始めました。 ♪僕らの前にはドアがある いろんなドアがいつもある ♪ドアを大きく開け放そう 広い世界へ出て行こう これは「広い世界」という名前の歌です。小等部の卒業式で歌った歌で、もう一度、歌ってみたくて、皆さんにお願いしてこの歌にしていただきました。 私はそこまでしてくださった皆さんに応えるために、必死に、全力で、自分の最高の演奏を目指しました。 周りではみんなが泣き声になりながらも歌っています。泣いていたのはみんなだけではありませんでした。私も、三年間を振り返ると、自然と涙が溢れて、止まってくれません。 それでも、私は持てうる力のすべて、なにより想いをピアノに載せて、ピアノを弾き続けました。 ♪雨に打たれ 風に吹かれ ♪手と手をつなぎ 心をつなぎ ♪歌おう 歌おう 歌いながら もう、この曲も終わりに近づいてきました。この歌が終わってしまうと、もうみんなは別々の道へと旅立ってしまう。 そう思うと、一度は止まりかけた涙が、もう一度、堰を切ったようにまた溢れてきました。もうこの想いは止められませんでした。 私はせめてこの想いをこの会場にいる皆さんに伝えるために、より一層、気持ちを前面に押し出し、ピアノと心を一つに、そして、最高の音色を響かせようと努力しました。 歌は終わりました。 すると、会場にいた皆さんが本当に、本当に、会場が揺れるんじゃないかというほどの拍手を私たちに向けて送って下さいました。 下級生、招待席に座っていた誰もが、涙を流してくれていました。 これが、多少なりとも自分の演奏のおかげだと思うと、今度はうれし泣きをしてしまいました。今日は泣いてばっかりです。 みんなに会場に来ているみんなと想いを共有することができるから、ピアノはやめられないのだなあと私は改めて思いました。 そして、私はそんな自分の気持ちがピアノで伝えられる。そんなピアニストになりたいです!それが私の夢・・・・・・。 卒業式は終わった。荷物をまとめ、懐かしい中等部時代の友だちと昔話を弾ませた後、私は体育館に舞い戻ってきていた。 体育館の舞台に上がった私は、その横に置かれている、漆黒でとても大きな友だちに触れました。 「二年間、ありがとう。あなたと一緒にいられて楽しかったです」 窓の隙間から差し込んでくる光は私の友だち・・・グランドピアノを鮮やかに輝かせます。その姿が笑いかけてくれているように見えました。 「最後にもう一曲だけ、一緒に・・・・・・ね」 私はそう言ってゆっくりとその頭を撫でてあげた後、椅子に腰を下ろし、このピアノとの最後の演奏をしようと鍵盤に手を添えたとき・・・・・・。 「伯和ちゃん!最後の演奏にあたしを呼んでくれないってのはどういうことなのっ!」 「ほんま、ほんま。伯和はん、つれないやないですか〜」 二人の少女の声が私の耳に響き渡ったのです。 この声の主を私は知っていました。私を「伯和」と呼んでくれる人なんて、あの二人しかいませんから・・・・・・。 「孟徳さん!玄徳さん!」 私はその名前を大きな声で呼びました。 「伯和ちゃん卒業おめでとっ!あたし感動して泣いちゃったんだから!」 そう言って、孟徳さん・・・曹操は私の方にパタパタと走って来ます。 その後ろを追うようにして、玄徳さん・・・劉備が私の方へと来てくれました。 「邪魔かも知れませんけど、伯和はんの高校生活最後の演奏、うちらも参加させてもらいますわ。うちもギターくらいは弾けますし!」 玄徳さんはそう言って、不敵な笑みを浮かべていました。この笑顔にはなにか人を惹きつける力があるような気がします。 「いいんですか?じゃ、じゃあお願いしてもいいですか?」 私はうれしさ半分、恥ずかしさ半分でそう言うと、二人は笑い、そして頷いてくれました。
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