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705:海月 亮 2005/07/03(日) 16:15 上位陣。人のことをいえた義理もないあざとさで派手な手役を組み上げる陸凱だったが、南場に入る直前…。 「ちょっとタンマ」 牌を引く直前、不意に虞レに腕を捕まれ、しまった、という表情を一瞬見せる。そして普段出したことのない猫撫で声で言った。 「…えと、なんでしょうか世洪さん?」 「とぼけたって駄目。あんたらしからぬミスだわね敬風…そのお手々、開いて見せて?」 なんというか、そう言う虞レの笑顔はとてつもなく怖かった。かつて彼女の姉・虞翻をして「あの子の笑顔ほど恐ろしいものはない」と言わしめた、その“凍りついた”笑顔がそこにあった。 その異様な雰囲気のなか、恐る恐る覗き込んできた朱績と陸胤も、一歩引いた位置で成り行きを見守っている。 冷や汗とともに開かれた手からは、牌が二つ出てきた。よく見れば彼女の手牌も規定より一枚少ない。 つまり陸凱は、不要牌と山の牌を交換しながら牌を引いていたのだ。 「…この罰符、役満払いで文句なくて?」 「ちっ……………覚えてろコノヤロウ」 さらににっこり具合を強める虞レをジト目で睨みつける陸凱の背後では、呂拠と丁奉が必死に笑いをこらえていた。 「ふっふ〜♪」 イカサマ発覚のあと、トップ争いから外された陸凱を尻目に着々と点を稼ぐ朱績を見、虞レは怪訝そうな表情をした。 (おっかしいわね〜…この短い間でまた何をやったのかしら、コイツは?) 見れば陸凱も同じような顔だ。一瞬目が合ったが、彼女はぷいとそっぽを向いてしまう。まぁ、先ほどの一件を鑑みれば仕方ないとは思うのだが。 (駄目か。敬風も割りと根に持つからなぁ…彼女なら見破ってそうなんだけど、これが見破れないと、優勝さらわれちゃうかもね) そうして再び手役に目を戻す虞レ。 その隣の陸凱、朱績が何をしているかをほぼ九割がた、見破っている様子だ。 (世洪め、やってるれるわ本当に…それに公緒、コイツも懲りないわね。義封先輩なら見破られた戦法なんて二度三度と使ってこないわよ) おそらくその技は、先ほどと同じくガンパイであることは九割九部、間違いないようだ。ただ、先ほどとはその目印が違うらしい。 更に言えば、目印をつけた牌もそう多くなかろう。 だが、同じ技を使っている以上、決めてかかればタネを見破るくらい陸凱にとっては朝飯前だった。 そして、目当ての牌を引き入れ、わずかに笑みを浮かべた。 (見てろコノヤロウ…この陸敬風の本気、思い知れ!) 朱績の優位がひっくり返されるのは、その一巡後のことであった。彼女は陸凱がすり替えた牌を握らされ、ドラをたっぷり抱え込んだ倍満手を喰らい、一気に最下位に引きずり落とされるのだった。 波乱に満ちた最終戦、そのクライマックスを彩ったのは意外にも陸胤だった。 「えと…待ってくださいね……わ、すご〜い」 「え?」 パタパタと倒れた手牌。 「あがっちゃってます〜、しかも字の牌ばっかり〜」 「…………………!!」 天和、大三元、字一色。当然ながらこの組み合わせなら四暗刻もつく。親の四倍役満、十九万二千点…いや、割れ目ルールがあるから更に六万四千点加わって、その得点は計二十五万六千点也。 はっきり言って平打ちなら有り得ない展開だ。 呆気に取られて言葉を失う陸凱。しかし一瞬後、彼女はなんとなくだがその理由に気がついた。 このとき皆が牌を引いたのは、陸凱の積んだ山からだったのだ。陸凱はオーラスに最後の望みをかけ、盲牌で探り当てた字牌を自分のところにかき集めていたのだ。それが巧い具合に、彼女の対面に座っていた双子の妹のところに集まってしまった…。 (てとなにか、原因は…………あたし?) 隣では朱績と虞レが酸欠の金魚よろしく口をパクパクさせている。 呂拠、丁奉、丁固の三人も思わず目が点。 ただ一人陸抗だけが「すごーい」とかいって素直に喜んでいた。 この一発をもって、豫州地下学食のバイキングタダ券を賭けた少女たちの仁義なき戦いが幕を閉じた。 下位卓は呂拠が無難に勝ちを収めたが…陸凱と虞レのふたりを飛ばし、有り得ないほどのサシウマが加算された陸胤が総合優勝を掻っ攫うという、誰もが予期していなかった結果に終わったという。
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