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★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
709:★教授 2005/07/03(日) 22:47 ◆◆ 大切なおくりもの ◆◆ 「公祐…何してんの?」 簡雍の第一声はこの言葉だった。 色彩感に溢れる毛糸玉達が小会議室のあちこちに所狭しと我が物顔に転がり、思わず足の踏み場に困る簡雍。更にそれを修飾するかのように型の崩れた雑巾みたいな物体が折り重なって倒れている。公祐こと、孫乾はその中心に正座して入り口に背を向けていた。 何かに集中しているのか簡雍の問い掛けに気付いた風もなく、黙々と上半身を揺らしている。 (あののんびり娘がこんなに集中出来る事があるなんて……) 簡雍はある種の異様な空間に思わず固唾を飲んでしまう。悪戯をしたいとは不思議と思わず、ただその後姿を見ているしかなかった―― ――3時間後 「出来た…」 「ほぇ?」 今まで黙々と作業を続けていた孫乾が小さく呟くと、障害物を横に避けて寝そべりながら海苔煎餅を齧っていた簡雍も変な声を出してしまった。 と、慌てた様子で孫乾が振り返り青いような赤いような驚愕の表情を簡雍に見せる。きょとんとそれを見ていた簡雍は『やぁ』と片手を挙げてそれに応えた。 それには不可思議な表情をしていた孫乾の顔がはっきりと赤くなった。そして目尻に涙が溜まっていくのが簡雍にも視認出来た。 「い、いたのなら声くらいかけてくださいー!」 「声掛けても返事しなかったじゃん………ってか、泣くなよ」 「だ、だってだって…恥ずかしいですぅ…」 「あーっ! 泣かないの! 私が悪かった!」 ぽろぽろと涙を零して泣き出した孫乾に白旗を挙げて降参する簡雍。宥めるのにこれまた時間が掛かって今度は簡雍も泣きたくなってしまった。 ――1時間後 「で、何してたわけ? 周りが見えなくなる程の事だから余程って感じがするけど」 簡雍は両手を出して毛糸を巻きつかせながら孫乾に尋ねる。 「えーと…マフラー作ってました…」 「まふらぁ? アンタ、まさか…おと…」 「違います違います違います!」 物凄い勢いで否定されて、一歩退く簡雍。孫乾は一息置くと先ほどまで格闘していたマフラーを広げる。 「私から…頑張ってるあの人に心を篭めたおくりものなんです。私にはこれくらいしかできませんから…」 所々がほつれたり形が崩れたりしている手製のマフラー、お世辞にも上手とは云えない出来栄えだ。しかし、空気を読めない簡雍ではない。 「いいじゃん、それ。高価なマフラーを贈るよりも下手でも手で編んだ方が美しいってね。贈られるヤツは三国一の幸せ者よ」 にかっと白い歯を見せて笑う簡雍に照れ笑いを浮かべる孫乾。 外はもうじき桜が満開になる季節、時期外れの贈り物は誰に贈られるのか。簡雍はそれには一切触れなかった。ただ、分かっている事が一つだけある。それは―― 「頑張り屋さんからの贈り物は同じく頑張ってる人に贈られるんだろうね」 そして、孫乾もまた贈る人にこんなメッセージも添えていた―― 「復帰おめでとう! これからも頑張ってくださいね、風邪なんかに負けちゃダメだよ」 ――30分後 「おーい…何とかしてよ…」 「あれ…こんなはずじゃ…」 毛糸でぐるぐる巻きにされて揉みくちゃにされた簡雍とそれを助けようとして一緒に絡まってる孫乾が小会議室に転がっていた。 この後、偶然通りかかった李恢に助けられ事無きを得たようです。
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