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769:海月 亮 2005/07/23(土) 23:29 降り注ぐ雨の中、向かい合った少女たち。 同じ長湖部の旗を持って対峙しているのだが、それが学園無双の演習などではないことは、双方の先頭に立つ少女ふたりがかもし出す異様な雰囲気が否定している。 目の前に立つかつての友を、何の感慨もない冷たい瞳で見据える、紅髪で長身の少女。 それと対峙する狐色髪の少女の表情は、困惑しきっていて…今にも泣き出しそうにも見えた。 「…どうして」 狐色髪の少女が、絞り出すように言葉を紡ぐ。 「どうしてなんだよっ、どうしてあんたが長湖部を裏切るんだよ…世議っ!」 「…裏切り、か」 紅髪の少女の吐いた言葉は、何処までも静かに…そして冷たかった。 「孫峻や孫チン、それに学外から紛れて来た雌ギツネに食い散らかされたアレを…あんたはまだ、長湖部だと言うの…?」 「…っ!」 「あたしは認めない。もう、長湖部なんてものは、存在しないんだ」 止まぬ雨が、彼女の涙にも見えた。 「いいかげんに目を覚ませ、承淵! あんたが真に“長湖部”を想うのであれば、もう終わらせてやるべきなんだ!」 「違うっ!」 狐色髪の少女が頭を降る。 「まだ…まだやり直すことだってできるんだよ! 幼節も、敬風も、公緒も…みんなみんな、そのために必死に頑張ってるんだよ!? まだまだこれから、ううん、むしろあたしたちの手で新しい長湖部を…」 「寝惚けるな!」 その大喝に、狐色紙の少女は口を噤まされた。 「あたしは、もううんざりだ…尊敬するひとたちが、大切な友達が、仲間が…あたしは部長の一門に使い潰されるなんて真っ平ご免なんだよっ!」 「…世議」 紅髪の少女が、背に差していた棍を取り、目の前の少女に突きつけた。 「だから、あたしが間違っているってなら…あんたがあたしを止めろ、承淵。あんなクズ共にあたしが粛清される前に、せめてあんたの手であたしを葬って見せろ…!」 その悲愴な宣言と共に、少女は棍を構えた。 決着は一瞬だった。 紅髪の少女の乱調子が、小柄な体を容赦なく打ち据えてくる。 狐色髪の少女は、紙一重でその乱撃をかわしながら、それでも尚、彼女を止めるべくその言葉を模索した。 だが、紅髪の少女の決心が変えられないと悟り…柳生天に構えた大木刀で、少女の棍を一撃で粉砕した。 そして、残りの部分で捨て身の攻撃を仕掛ける紅髪の少女と、狐色髪の少女が放った“月影の太刀”が交錯した。 淀みのない太刀筋は、一瞬で紅髪の少女の鎖骨を砕き、その意識を彼方へ飛ばした。 だが、捨て身に放った棍の一撃は、幼さを残した少女の顔を確かに捉えていた。 少女が昏倒するのにあわせて、その顔から血の飛沫が飛ぶ。 「…どうして…」 呟いた少女の顔から、紅の雫が涙のように滴り落ちて…秋雨に濡れる大地に溶けた。 -長湖に沈む夕陽- 「…夢、か」 まだ薄暗い部屋の中、目を覚ました丁奉はその痕を確かめるかのように、顔に触れた。 彼女の左目の下には、未だ消えることのない傷跡が残っていた。 半年前、晩秋の氷雨の中で戦ったかつての親友・呂拠の放った最後の一撃によってつけられたものだ。 それまで良く笑う素直で真面目な性格だった彼女は、その日以来、めっきり口数も減り、笑うこともなくなっていた。 公式記録によれば、呂拠は孫チンのもとに長湖勢力が力を結集したのを知り、自ら階級章を返上したことになっていた。 それ以後、呂拠の姿を長湖部管轄校区で見たものは誰もいない。
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