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★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
797:海月 亮 2005/08/17(水) 00:39 そして国家予算くらいの金が欲しいけど、使い道の思い浮かばない海月が来ましたよ(え? 満寵…いや、王昶もだけど…このあたりの連中の描写は流石の一言に尽きます。 つかどーしてそんな格好良く書けるのやら。私めもあやかりたいものです^^A そしてキャラの年齢設定とかわりとどうでもいいことが気になる海月…
798:北畠蒼陽 2005/08/17(水) 18:43 [nworo@hotmail.com] はいほう! 格好よくかけないよ! かけないよ! 書きたいよ! いや、ほんと精進が必要です^^; >年齢設定 女の子に年齢を聞いちゃいけません! うそです、ごめんなさい! 満寵/曹丕・陳羣・鍾ヨウ・趙雲と同世代 王凌/曹叡・曹真・司馬懿・孫権・陸遜と同世代 王昶/劉禅・姜維・昜・司馬師・司馬昭と同世代 王渾/司馬炎・孫晧と同世代 ……ってつもりで書いてます。 海月様キャラで言えば王昶&王基世代は丁奉たちの1個上ってつもりで書いてます。 王渾は丁奉たちの1個下ですね。 満寵>王昶>羊コというのが私の中では対長湖部戦線黄金リレーですだよ。 王凌は……ん〜、どうなんだか、あのひとは……
799:北畠蒼陽 2005/08/20(土) 16:01 [nworo@hotmail.com] 冷気が立ち込めている。 上弦の月が天に輝き、その光はやけに眩しい。 冬の長湖湖畔。 水面は月の光を照り返し、幻想的ですらあった。 そこに1人の少女が立っている。 この寒空の中、稽古着と稽古袴。 八尺槍……長さ3.6mもの稽古槍を手に幾度も幾度もゆっくりと構えを取る。 激しい動きなどなにもなく、ただ静寂に包まれた基本の動作。 その張り詰めた空気が……わずかに揺らいだ。 「伯輿、待ったか?」 言葉とともに缶コーヒーが投げつけられる。 「……ううん、そう待ってもいないわ」 伯輿……王基は構えをとき、投げられた缶コーヒーを受け取った。 缶の熱気が冷えた指にしみわたる。 「さみぃなぁ、しっかし」 あとから来た少女……令孤愚が肩をすくめる。 湖畔に2人の少女が対峙する。 冷気の天秤 「……悪かったわね、こんなときに呼び出して」 王基はゆっくりと缶コーヒーのプルトップを開け、口に含み、あまりの甘さに顔をしかめた。 「いやいや、王基主将の相談とあればいつでも駆けつけるさ」 ひょい、と肩をすくめる令孤愚。 そのおどけた仕草に王基は苦笑を浮かべる。 「で、実際のとこ、相談ってなんなの? まぁ、私だけを呼んだってことで文舒には内緒のことなんだろ?」 「……そう。そうね……文舒のことだから気づいちゃうかもしれないけど……基本的には内緒にしておきたいわね」 わかりにくい王基の言葉に苦笑を浮かべる令孤愚。 「まぁ、気づかれても仕方ないけどあまり気づかれたくない、ってことか……ってことは基本はオフレコ、だろ?」 頷く王基。 「オッケーオッケー。ま、なんで私なのかはわからんがな」 王基に背を向け、長湖に向かって石を投げる。 「私が王基と会うことは彦雲姉にすら言ってないわ。ほんっとにオフレコの相談乗っちゃうぞ」 彦雲姉……王凌の名前を出して確約する令孤愚。 風のない長湖に石が飛び込んだ波紋が広がっていく。 王基も令孤愚もただ黙ってその光景を見ていた。 「いいにくそうだなぁ」 「……まぁ、ね。でも言わなきゃいけないことでもあるからね」 ため息をつき王基は令孤愚の背中に語りかける。 「……まず公治。基本的に私はあなたのことを高く買ってる」 「おやおや、そりゃありがたいねぇ」 石が投げ込まれる。波紋。 「……王凌さんのブレーンとして、その能力は過はあっても不足はまったくない。私がもし委員長であればあなたを側近として指名したいくらい」 「えっと……そんな手放しで褒められると恥ずかしいぞ」 照れたように頭をかく令孤愚。 そして王基は決定的な言葉を投げつけた。 「……曹彪さんはなんて言ってる?」
800:北畠蒼陽 2005/08/20(土) 16:01 [nworo@hotmail.com] びくり、と令孤愚の背が震える。 「なんのことかな?」 「……無理に答えなくていいわ。質問の形式をとってはいるけど実際はただの確認だから」 王基の言葉に黙り込む令孤愚。 「……文舒も気づいてるけどね。あの子はクーデター……というか乱というものを許せない性質だからね。あの子、あれで意外と生真面目なとこあるから……だから今回、王凌さんとクーデター阻止の板ばさみで結構、つらい思いしてる」 ……誰にも言わないけどね、そんなことは、と付け加える。 「……私は公治ほどには王凌さんを買ってない……あなたさえいなければ……」 令孤愚の背が王基の隙をうかがっているのがありありとわかる。 王基もすでに稽古槍を両の手に持ち、戦闘体勢に入っていた。 「……あなたさえいなければ……クーデターは失敗する」 「文舒のために戦うって? かっこいいねぇ」 「……えぇ、私は文舒の剣だもの」 誇り高く答える王基。そして…… 「あっそう」 言葉とともに令孤愚が動く。 渾身の抜き手が王基の眉間を正確に狙う。 会話の最中に戦闘に移行…… 無手として槍という武器を対峙するために相手のタイミングを完全にはずした攻撃。 それは間違いなく令孤愚のこれまでの人生で最高の一撃だった。 王基は目をつぶり…… 令孤愚が湖畔に倒れていた。 その一撃は王基に届くことなく…… その手は天に届くことなく…… 槍の間合いに素手で飛び込むなどという無謀。 そうせざるを得ないよう仕組んでいたのは自分だ。 「……」 令孤愚の胸からはずした蒼天章を手のひらの上で弄ぶ。 そしてなにも言わずに倒れた令孤愚に一礼し、王基は歩き出した。 …… …… …… 新野棟の一角の兵団長執務室。 放課後の倦怠感の中、王基と王昶はぼーっとしていた。 王基はクロスワードパズルの雑誌を手にソファに寝転び、王昶もファッション誌などを手にポテトチップなどを食べている。 「……文舒……薩摩鶏、名古屋コーチンと並ぶ日本三大美味鶏ってなに? 5文字で2文字目が『ナ』」 ポテトチップをとる手を止め、一瞬、記憶を探るかのように視線をさまよわせる。 「あ、『ヒナイドリ』だね」 「……さんきゅ」 そしてまた沈黙。 「そうそう。公治が病気療養のために蒼天章の返上をしたんだってね」 「……へぇ」 ……さすがに情報が早い。 内心の想いを顔に出すことなく王基は軽く返事をする。 王昶が立ち上がったのが視界の隅に見えた。 そして近づく気配。 王昶は王基の横で立ち止まり、その肩に手を置く。 「ごめん……いやな仕事押し付けた」 「……気にしなくていい。文舒と私は一蓮托生だもの」 ……さすがに気づかれたか。 苦笑しながら……王基はそれでも満足感を感じていた。
801:北畠蒼陽 2005/08/20(土) 16:02 [nworo@hotmail.com] 祭りは今日までッ! まだのひとはお早めにねっ! さて、評価が微妙な令孤愚です。 最初、私はムノーモノのつもりで令孤愚を書いてたわけですが正史を読み返してみると……なんつか、いいよ、このひと。 田豫が蛮族討伐で功績を挙げたときに、ちょっと規律違反があったんで令孤愚が取り締まったら帝に『バーカ!』ってすげぇ怒られたよ。 とか書いてあるんですけど……まぁ、状況がわからんから断言はできませんけど一読してみると帝(曹丕)怒った理由って『功績のある人間をそんな些細なことで陥れるな』ってこと? ……いやいや、それを取り締まるから有能な官僚っていえるんでしょ。わかってくれよ、曹丕サン。 まぁ、性格とか結構恨みを忘れないようなとこはあったみたいだけどそれは決して無能の証ではないわけで。 もっとも『清潔でつつましく質素でゴホウビなんかはみんな部下連中にあげてたんだってさ。蛮族の贈り物なんかも全部帳簿につけて上に納めて、家には入れなかったから家族みんな超貧乏だったんだって』とか書かれる田豫にどういう違反があったのか、なんて上層部が取り合わないのもそれはそれでわかる気はしますがねー。そんでも一方的に令孤愚がワルモノってのはどうよ? と。 そんなわけで今回は王基主人公ですが、それも令孤愚のアシストがあってこそですよー。
802:雑号将軍 2005/08/20(土) 23:16 北畠蒼陽様、お疲れ様ですっ!僕は最近いつも疲れてますけど…。ではでは感想を…まずまず最初に感じたのは「令孤愚ってだれ?前にも出てきたような…」という非常に申し訳ないものでした…。今回は王基が汚れ役を演じていたことろがすごいかっこよかったですっ!あと3m強ある槍を練習では使われるんだなあと、感心していました。 >令孤愚とか田豫とか 僕は令孤愚をよく知らないのでとくに言えたことはないのですが、北畠蒼陽様がおっしゃる通り、「性格とか結構恨みを忘れない≠無能の証」だと思います。その代表として法正がいますし…。 田豫の慎ましさには敬意を表しますが、家族みんなが貧乏になるまでする必要はあるんですかね
803:北畠蒼陽 2005/08/21(日) 00:12 [nworo@hotmail.com] >令孤愚さん 令孤愚は王昶のお姉さまの従妹です。わかりにくい関係ですな(苦笑 エン州校区総代に赴任し、当時車騎主将だった王凌とともにエン豫青徐あたりを牛耳る一大勢力にー。 んで叛乱を起こそう、ってことになって曹彪のとこに使者を送った……直後くらいのシーンですね、これは。 毋丘倹ほどではないけど味のあるひとだと思いますよー。 >法正さん ……ほど実力はないけどね(笑
804:北畠蒼陽 2005/08/27(土) 19:39 [nworo@hotmail.com] 「ッ!? ……そう、わかったわ。ありがとう」 報告を受けた毋丘倹の顔が一瞬こわばり……しかしそれでもそれをできる限り表に出さないよう、平静を装おうとする。 寿春棟、揚州校区兵団長の執務室。 そこに集った毋丘倹をはじめとした、その幕僚たちの顔には隠すことのできぬ疲労の影が落ちていた。 校舎の外からは騒がしい声。 蒼天会において曹操が卒業した翌年に高等部に進学した世代の中で突出した実力と実績を誇った戦乙女、毋丘倹。彼女は曹家蒼天会を裏で操ろうとする司馬師に反発し、やはり同世代の文欽とともに揚州校区を中心として大規模な叛乱を起こした。 その趣旨は『対司馬師』の一点のみであり、まぎれもなく政治の領域の話であった。毋丘倹にとって不幸なことに毋丘倹にも文欽にも、またその幕僚たちにも司馬師に対抗できるほどの切れ者はおらず、この叛乱はまさに暴発という色すら帯びていた。まさに『不幸』である。 そして今…… 校舎外でゲリラ活動をしていた盟友、文欽が司馬師の本隊に遭遇し、その最精鋭MTB部隊によって壊滅させられたとの報告が寿春棟に届けられていた。 とびっきりのバッドニュース…… 「仲恭姉さん……どうするの?」 毋丘倹の妹の毋丘秀が、その顔を歪めながらそれでも気遣うように問いかける。 もう敗北は決定付けられた……どんなに残酷でも、ここは主将に決断してもらわなければならない。 「落ち延びよう。これ以上は……もう無益」 悔しそうに唇をかみ締め、毋丘倹が呟くように言う。 「でもッ! ……外はあんなに敵に囲まれてッ!」 叫ぶように反論する毋丘秀。 毋丘倹はゆっくりと顔を上げた。 「私が……みんなが落ち延びる時間を稼ぐ」 殺戮の戦乙女 普段はクローゼットの奥にしまわれたままの幹部生徒専用の制服に身を包んだ王昶はパイプ椅子に座ったまま遠く寿春棟を眺めた。 そして周りを見回す。 荊州校区総代、王基。 征東主将、胡遵。 豫州校区兵団長、諸葛誕。 エン州校区総代、昜。 そして連合生徒会会長、司馬師。 この世代を代表するメンバーである、が…… 裏を返せばそれだけ仲恭が恐れられてる、ってことか。 確かに仲恭は並外れた実績がある。 私ですら彼女の功績の前には一歩譲らざるを得ない。 それだけに…… 今、仲恭は追い詰められている。 仲若を失い、また助けのない籠城戦を強いられるという屈辱。 翼を失い堕天した戦乙女。 今、彼女は焦っているだろうか…… 自分の考えにバカバカしくなって王昶は苦笑をもらす。 仲恭は追い詰められても冷静を欠くことはない。それは実績が証明していることだ。 だったら…… 「おね……主将、どう動くの?」 傍らの王渾が声をかけてくる。 「玄沖、毋丘倹はどう動くと思う?」 「え、えっと、仲若ちゃ……文欽がもういなくなった以上、撤退を考えてると思うの。バンザイアタックとかって毋丘倹に似合わないもんね」 そう、仲恭は撤退を考えているだろう。
805:北畠蒼陽 2005/08/27(土) 19:40 [nworo@hotmail.com] すべての部下に戦ってトばされる……華々しく散ることを強要する毋丘倹など想像も出来ない。 「じゃあ……玄沖、こっちがそれに対してどう動く?」 「う……え……」 王渾は王昶の問いに一瞬、言葉を詰まらせたがそれでもなんとか答える。 「このまま包囲、かな。どう考えても人数も戦意も上なんだから撤退のための道を作らせない。数で圧倒するのがいいんじゃない……かなぁー?」 自信なさそうなその答え。 しかし王昶は内心、笑みを浮かべる。 パーフェクトな解答だったからだ。 だったら…… 「よし」 満足して王昶はパイプ椅子から立ち上がる。 「玄沖。今からの指揮権を委任するわ……私はちょっと出かけてくる」 「え! し、指揮権!? えう!? いや、だ、だめだよぉ!」 慌てる王渾。いつかはまっとうな主将になってもらわなければならないのにこの引っ込み思案は困ったものだ。 「玄沖は私のあとを継がなきゃいけないんだからこの程度でびびってどうすんのさ」 王昶の言葉に王渾は不安げに顔を歪める。 「で、でも……お姉ちゃんはどこにいくの?」 泣きそうな顔の王渾。 「あぁ……なんつーか……」 王渾の問いに言いにくそうに頭をかく王昶。 「今からの私の行動は悪い見本だ。立派な主将になるために絶対に真似するんじゃないぞ」 その王昶の言葉とほぼ同時に校舎南側でひときわ大きな声が上がった。 包囲網の薄そうなところを切り取っていこうと思ったが……なるほど公休の陣だったか。 毋丘倹は妹や自分につき従ってくれた幕僚を先に落ち延びさせるためにたった1人、ここに立っていた。 堅実な陣ね。 堅実なだけに読みやすい。 木刀を振るい、諸葛誕の部下たちを叩き伏せながら冷静に考える。 まぁ、それはそうだろう。 諸葛誕は心情的に対司馬の曹寄りであることは間違いない。だからこそ親曹の旗の下、叛乱を起こした私とは戦いづらいのだろう。 その想いが部下にも伝染し……私がたった1人でここにいることに困惑と弱気を隠せないでいるのだろう。 私を討ちたくない……そう思う諸葛誕の弱気こそが私の勝機だ。 時間は稼げそうね、なんとか…… 毋丘倹は木刀をだらりと下げ笑ってみせる。 ホンキで振るった木刀…… もう幾人もその額から血を流し、地に横たわっている。 そして私は体中、その返り血に塗れ、制服もところどころ破れ泥や血や埃やいろいろなもので汚れている…… 「道をあけろ……貴様ら、皆殺すぞ」 これが公休の部下たちの目にどう映るか。 返り血で真っ赤に濡れた、その中の凄惨な笑み。 自分が相手であれば……こんなビジュアルのシーンを前に立っていたくないと思う。 ま、これくらいの演技は許されるよね。 苦笑しながら自分の左肩をちらと見る。 さすがにこれだけの人数を相手に無傷というわけにはいかない。左肩は脱臼し、まったく使い物にならなくなっていた。 救いがあるとすれば返り血か私自身の血か見分けがつかず、相手は誰も私の負傷に気づいていないということだろう。
806:北畠蒼陽 2005/08/27(土) 19:40 [nworo@hotmail.com] 「聞こえているのか、ゴミムシども……まぁ、いい。このぶんだと地獄に雀卓があといくつ立つか、楽しみじゃないか?」 余裕を装い、右肩に木刀を乗せる。 疲労は体中を覆い、今すぐにでも倒れてしまいたい。 それでも毋丘倹は立ち、そして笑っていた。 諸葛誕の部下たちが目に見えて戦意を失っている。 もうちょっと……もうちょっとだけ時間を稼ぎさえすれば十分かな。 もうちょっとだけ脅して……そして倒れよう。もう疲れたしね…… 毋丘倹は薄く笑い一歩踏み出す。 包囲網が一歩後ろに下がる。 毋丘倹はもう一歩踏み出そうとして……足を止めた。 文舒…… 肩に棒を担いではいるがその一見、緊張感のない顔は戦場に不似合いだ。その不似合いさが実際の戦場においてどれほどの一瞬の集中力につながるかは味方として戦っていたときから十二分に理解していたが。 「さすがだなぁ、仲恭」 王昶ののんきな言葉に思わず苦笑する毋丘倹。 王昶はその光景を見回し…… 「凄惨だねぇ」 ヒトゴトのように言う。 「やぁ、文舒。この光景の一部になりにきてくれたのかい?」 挑発する毋丘倹。 王昶の手の棒を見たときから毋丘倹はなんとなく気づいている…… 「あぁ、秀たちは包囲網を抜けたみたいだぞ」 そうか……なんとか抜け出してくれたか。 毋丘倹は王昶の言葉に感謝する。 「さて……おい、こいつは私がもらうぞ。公休には悪いが手柄は私がかっさらう」 王昶が冗談めかして諸葛誕の副官である蒋班に声をかける。 ……包囲網はそのまま観客にかわった。 「すまないわね」 「あぁ、気にするな」 毋丘倹の短い感謝にどうでもよさそうに答える王昶。 いくさ人であれば戦友を看取るのは当然である。 それが自らを囮にして部下たちを落ち延びさせ、そして自分はトばされてもかまわない、と戦っているものならなおのことだ。 王昶は戦友、毋丘倹を自ら看取るためにここに立っていた。 「さて……んじゃやるか、仲恭。泣いて許しを乞う準備はできてるか?」 「文舒もうがいとかはちゃんとしてる? 汚い舌で靴を舐められても嬉しくないわよ?」 2人は笑顔で対峙する。 片や柳生新陰流、毋丘倹。 片や神道夢想流杖術、王昶。 2人ともが黙ったまま…… 「? ……仲恭」 やがて王昶が毋丘倹の左肩の異変に気づき口を開くが……なにもなかったかのように口を閉じる。 これで王昶は間違いなく左肩を狙ってくるだろう。 相手の弱点を狙うことは卑怯ではない。むしろ自分の力の及ぶ限り、相手の弱点を叩くことが礼儀ともいえる。 毋丘倹は内心の苦笑を押し殺す。 少しの手加減も望めない相手に弱点を知られた。 恐らくはかなり痛い目にあわせられることだろうなぁ…… でも……こうして最後の戦いに立ち会ってくれる親友に心からの感謝を。 毋丘倹は……今までで一番澄み切った境地に立っていた。 風が吹く。 2人が同時に動いた。
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