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★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
804:北畠蒼陽 2005/08/27(土) 19:39 [nworo@hotmail.com] 「ッ!? ……そう、わかったわ。ありがとう」 報告を受けた毋丘倹の顔が一瞬こわばり……しかしそれでもそれをできる限り表に出さないよう、平静を装おうとする。 寿春棟、揚州校区兵団長の執務室。 そこに集った毋丘倹をはじめとした、その幕僚たちの顔には隠すことのできぬ疲労の影が落ちていた。 校舎の外からは騒がしい声。 蒼天会において曹操が卒業した翌年に高等部に進学した世代の中で突出した実力と実績を誇った戦乙女、毋丘倹。彼女は曹家蒼天会を裏で操ろうとする司馬師に反発し、やはり同世代の文欽とともに揚州校区を中心として大規模な叛乱を起こした。 その趣旨は『対司馬師』の一点のみであり、まぎれもなく政治の領域の話であった。毋丘倹にとって不幸なことに毋丘倹にも文欽にも、またその幕僚たちにも司馬師に対抗できるほどの切れ者はおらず、この叛乱はまさに暴発という色すら帯びていた。まさに『不幸』である。 そして今…… 校舎外でゲリラ活動をしていた盟友、文欽が司馬師の本隊に遭遇し、その最精鋭MTB部隊によって壊滅させられたとの報告が寿春棟に届けられていた。 とびっきりのバッドニュース…… 「仲恭姉さん……どうするの?」 毋丘倹の妹の毋丘秀が、その顔を歪めながらそれでも気遣うように問いかける。 もう敗北は決定付けられた……どんなに残酷でも、ここは主将に決断してもらわなければならない。 「落ち延びよう。これ以上は……もう無益」 悔しそうに唇をかみ締め、毋丘倹が呟くように言う。 「でもッ! ……外はあんなに敵に囲まれてッ!」 叫ぶように反論する毋丘秀。 毋丘倹はゆっくりと顔を上げた。 「私が……みんなが落ち延びる時間を稼ぐ」 殺戮の戦乙女 普段はクローゼットの奥にしまわれたままの幹部生徒専用の制服に身を包んだ王昶はパイプ椅子に座ったまま遠く寿春棟を眺めた。 そして周りを見回す。 荊州校区総代、王基。 征東主将、胡遵。 豫州校区兵団長、諸葛誕。 エン州校区総代、昜。 そして連合生徒会会長、司馬師。 この世代を代表するメンバーである、が…… 裏を返せばそれだけ仲恭が恐れられてる、ってことか。 確かに仲恭は並外れた実績がある。 私ですら彼女の功績の前には一歩譲らざるを得ない。 それだけに…… 今、仲恭は追い詰められている。 仲若を失い、また助けのない籠城戦を強いられるという屈辱。 翼を失い堕天した戦乙女。 今、彼女は焦っているだろうか…… 自分の考えにバカバカしくなって王昶は苦笑をもらす。 仲恭は追い詰められても冷静を欠くことはない。それは実績が証明していることだ。 だったら…… 「おね……主将、どう動くの?」 傍らの王渾が声をかけてくる。 「玄沖、毋丘倹はどう動くと思う?」 「え、えっと、仲若ちゃ……文欽がもういなくなった以上、撤退を考えてると思うの。バンザイアタックとかって毋丘倹に似合わないもんね」 そう、仲恭は撤退を考えているだろう。
805:北畠蒼陽 2005/08/27(土) 19:40 [nworo@hotmail.com] すべての部下に戦ってトばされる……華々しく散ることを強要する毋丘倹など想像も出来ない。 「じゃあ……玄沖、こっちがそれに対してどう動く?」 「う……え……」 王渾は王昶の問いに一瞬、言葉を詰まらせたがそれでもなんとか答える。 「このまま包囲、かな。どう考えても人数も戦意も上なんだから撤退のための道を作らせない。数で圧倒するのがいいんじゃない……かなぁー?」 自信なさそうなその答え。 しかし王昶は内心、笑みを浮かべる。 パーフェクトな解答だったからだ。 だったら…… 「よし」 満足して王昶はパイプ椅子から立ち上がる。 「玄沖。今からの指揮権を委任するわ……私はちょっと出かけてくる」 「え! し、指揮権!? えう!? いや、だ、だめだよぉ!」 慌てる王渾。いつかはまっとうな主将になってもらわなければならないのにこの引っ込み思案は困ったものだ。 「玄沖は私のあとを継がなきゃいけないんだからこの程度でびびってどうすんのさ」 王昶の言葉に王渾は不安げに顔を歪める。 「で、でも……お姉ちゃんはどこにいくの?」 泣きそうな顔の王渾。 「あぁ……なんつーか……」 王渾の問いに言いにくそうに頭をかく王昶。 「今からの私の行動は悪い見本だ。立派な主将になるために絶対に真似するんじゃないぞ」 その王昶の言葉とほぼ同時に校舎南側でひときわ大きな声が上がった。 包囲網の薄そうなところを切り取っていこうと思ったが……なるほど公休の陣だったか。 毋丘倹は妹や自分につき従ってくれた幕僚を先に落ち延びさせるためにたった1人、ここに立っていた。 堅実な陣ね。 堅実なだけに読みやすい。 木刀を振るい、諸葛誕の部下たちを叩き伏せながら冷静に考える。 まぁ、それはそうだろう。 諸葛誕は心情的に対司馬の曹寄りであることは間違いない。だからこそ親曹の旗の下、叛乱を起こした私とは戦いづらいのだろう。 その想いが部下にも伝染し……私がたった1人でここにいることに困惑と弱気を隠せないでいるのだろう。 私を討ちたくない……そう思う諸葛誕の弱気こそが私の勝機だ。 時間は稼げそうね、なんとか…… 毋丘倹は木刀をだらりと下げ笑ってみせる。 ホンキで振るった木刀…… もう幾人もその額から血を流し、地に横たわっている。 そして私は体中、その返り血に塗れ、制服もところどころ破れ泥や血や埃やいろいろなもので汚れている…… 「道をあけろ……貴様ら、皆殺すぞ」 これが公休の部下たちの目にどう映るか。 返り血で真っ赤に濡れた、その中の凄惨な笑み。 自分が相手であれば……こんなビジュアルのシーンを前に立っていたくないと思う。 ま、これくらいの演技は許されるよね。 苦笑しながら自分の左肩をちらと見る。 さすがにこれだけの人数を相手に無傷というわけにはいかない。左肩は脱臼し、まったく使い物にならなくなっていた。 救いがあるとすれば返り血か私自身の血か見分けがつかず、相手は誰も私の負傷に気づいていないということだろう。
806:北畠蒼陽 2005/08/27(土) 19:40 [nworo@hotmail.com] 「聞こえているのか、ゴミムシども……まぁ、いい。このぶんだと地獄に雀卓があといくつ立つか、楽しみじゃないか?」 余裕を装い、右肩に木刀を乗せる。 疲労は体中を覆い、今すぐにでも倒れてしまいたい。 それでも毋丘倹は立ち、そして笑っていた。 諸葛誕の部下たちが目に見えて戦意を失っている。 もうちょっと……もうちょっとだけ時間を稼ぎさえすれば十分かな。 もうちょっとだけ脅して……そして倒れよう。もう疲れたしね…… 毋丘倹は薄く笑い一歩踏み出す。 包囲網が一歩後ろに下がる。 毋丘倹はもう一歩踏み出そうとして……足を止めた。 文舒…… 肩に棒を担いではいるがその一見、緊張感のない顔は戦場に不似合いだ。その不似合いさが実際の戦場においてどれほどの一瞬の集中力につながるかは味方として戦っていたときから十二分に理解していたが。 「さすがだなぁ、仲恭」 王昶ののんきな言葉に思わず苦笑する毋丘倹。 王昶はその光景を見回し…… 「凄惨だねぇ」 ヒトゴトのように言う。 「やぁ、文舒。この光景の一部になりにきてくれたのかい?」 挑発する毋丘倹。 王昶の手の棒を見たときから毋丘倹はなんとなく気づいている…… 「あぁ、秀たちは包囲網を抜けたみたいだぞ」 そうか……なんとか抜け出してくれたか。 毋丘倹は王昶の言葉に感謝する。 「さて……おい、こいつは私がもらうぞ。公休には悪いが手柄は私がかっさらう」 王昶が冗談めかして諸葛誕の副官である蒋班に声をかける。 ……包囲網はそのまま観客にかわった。 「すまないわね」 「あぁ、気にするな」 毋丘倹の短い感謝にどうでもよさそうに答える王昶。 いくさ人であれば戦友を看取るのは当然である。 それが自らを囮にして部下たちを落ち延びさせ、そして自分はトばされてもかまわない、と戦っているものならなおのことだ。 王昶は戦友、毋丘倹を自ら看取るためにここに立っていた。 「さて……んじゃやるか、仲恭。泣いて許しを乞う準備はできてるか?」 「文舒もうがいとかはちゃんとしてる? 汚い舌で靴を舐められても嬉しくないわよ?」 2人は笑顔で対峙する。 片や柳生新陰流、毋丘倹。 片や神道夢想流杖術、王昶。 2人ともが黙ったまま…… 「? ……仲恭」 やがて王昶が毋丘倹の左肩の異変に気づき口を開くが……なにもなかったかのように口を閉じる。 これで王昶は間違いなく左肩を狙ってくるだろう。 相手の弱点を狙うことは卑怯ではない。むしろ自分の力の及ぶ限り、相手の弱点を叩くことが礼儀ともいえる。 毋丘倹は内心の苦笑を押し殺す。 少しの手加減も望めない相手に弱点を知られた。 恐らくはかなり痛い目にあわせられることだろうなぁ…… でも……こうして最後の戦いに立ち会ってくれる親友に心からの感謝を。 毋丘倹は……今までで一番澄み切った境地に立っていた。 風が吹く。 2人が同時に動いた。
807:北畠蒼陽 2005/08/27(土) 19:40 [nworo@hotmail.com] 「あ、ぐぅ……ぅ、あああ……」 勝負は一瞬。そしてあまりにもあっけないものだった。 毋丘倹は迷うことなく必殺の突きを王昶に見舞う。 王昶は毋丘倹の左肩を狙うように見せかけ、突きにあわせるように木刀に焦点を絞り、それに向かって棒を叩きつける。 毋丘倹は折れた木刀にこだわることなく王昶の棒の軌跡から体を翻すように王昶の胸に右正拳を叩き込んだ。 「あ……がはっ。ぐ……ぅ」 胸を押さえ片膝を地に付ける王昶。 それを立ったまま見下ろす毋丘倹。 「お、おま、えなぁ……ろ、肋骨が、お、折れたらどうす、んのよ」 はぁはぁと息を荒げ王昶が抗弁する。 「大丈夫だって。手加減はしてないけど」 毋丘倹の返答に苦笑する王昶。 「どうす、る? しょ、勝者のけん、りだ。もって、いくか?」 脂汗を流し、それでもにやり、と笑って自分の胸を指す王昶。そこには蒼天章が光っていた。 「いや、やめとくわ。せっかくここまで来てくれた親友をリタイアさせる趣味はないしね」 「けっ……呪われろ」 毋丘倹の答えに王昶は笑いながら毒づく。 「仲恭、南に進め。ここを抜けたらそれ以降はまだ包囲網は完成していない……長湖部領内に入れば私らでも追うことはできない」 荒い息の下、王昶はウィンクしながら毋丘倹に進む道を示す。 「……私も疲れてるのに……さらに前に進めって言うのね、あんたは」 「当たり前だ。私に勝ったやつにこんなところでトんでもらうと困る」 あきれたように苦笑する毋丘倹。 そして王昶は自分の手にしていた棒を毋丘倹に放る。 「もってけ。折れた木刀よりゃマシだろ」 「ありがとう……さよなら、文舒」 棒を手に背を向け歩き出す毋丘倹。 「じゃあな、バ毋丘倹」 王昶は毋丘倹をを目で追うこともなくそっと呟き、そして前のめりに倒れ、そのまま気を失った。 …… …… …… 寿春棟、旧揚州校区兵団長の執務室。 部屋の元の持ち主の性格を物語るかのような実用性のみの無骨な部屋に生徒会のトップたちが集う。 「やぁ、みんな。ご苦労ご苦労♪ バ毋丘倹は逃がしたけど十分じゃない? もう二度と歯向かおうって気にはならないだろうさ♪」 執務机に座りご機嫌な司馬師。 王昶はあきれたような視線を向けた。 毋丘倹はそんな小さな人間じゃない。 長湖部まで逃れることさえできれば……そう彼女はあまりにも強大な敵になるだろう。 王昶の脳裏にはすでに対毋丘倹の作戦がダース単位で練られていた。 この胸の痛みは7京倍にして返してあげるから楽しみにしてなさい……内心の想いを隠し切れず口元に笑みを浮かべる。 「大変です!」 だからそのとき執務室に飛び込んできた伝令にも特に注意を払うことはなかった。 「毋丘倹が安風で見つかりました! その班長の配下の張属というものが毋丘倹をトばしたそうです!」 「お〜、ハッピー♪ いいねいいねぇ、最高じゃない!」 司馬師の歓声が遠く聞こえる。 言葉が嘘に聞こえた。 でも嘘とは思えなかった。 ひとつ大きなため息をついて王昶はソファに深く座り込んだ。
808:北畠蒼陽 2005/08/27(土) 19:41 [nworo@hotmail.com] ラスト・オブ・淮南三叛の第2弾です。 令孤愚-王基 毋丘倹-王昶 ……第3弾は地味なひとを目立たせようかと。 今回ので思い知ったのですよ、あまりにも悲しかった事実。私、萌えを書くの無理(ぁ もうかっこいいのほう専門で。あとギャグと。ちなみにギャグのほうはかなりの割合ですべるので注意が必要です。逃げてーッ! ……かといってかっこいいほうもかっこよく書けるわけではなく。なんとかしたいもんです。 いや〜、萌え文章書こうとすると、なんか違和感ががが。他のひとのを読むのは好きなのにねぇ……
809:雑号将軍 2005/08/27(土) 20:45 おお!今度は毋丘倹がやられましたか…。どうなんでしょう?彼がもう少し我慢(司馬師が死ぬまで)していれば、魏国でまだまだ活躍できたんでしょうか? 今回、毋丘倹の強さを改めて思い知らされたような気がします。王昶でさえもやられることになるとは…。それとも王昶はわざと・・・・・・。 第三弾は誰が来るんでしょう?文鴦とかでしょうか?いや、奴は地味じゃあないか…。
810:北畠蒼陽 2005/08/28(日) 00:28 [nworo@hotmail.com] >わざと いやいや、超ホンキですよ。 毋丘倹はそういうことに関しちゃ図抜けてる、と思うのでー。 まぁ、ちょいとやりすぎ気味なモノなんで……まぁ、ねぇ? >ラスト 文鴦は書くつもりないですけど……あー、その意味で言えば文欽もありなのか。 まぁ、文欽はいずれってことで。
811:海月 亮 2005/08/29(月) 18:08 なんと申しますか、海月的にはこういう展開が大好きなのですよ。 コブシとコブシのぶつかり合いでしか語れぬ、そんな不器用さがたまりませんね。 展開からいえば楽リン→諸葛誕&文欽とかいうのが自然な流れのような気もしまふが…。 それと地味っ娘胡遵は、終始地味なままで終わっちまうんですかね? そろそろいつぞやの話の続き書かないとなぁ…。
812:雑号将軍 2005/10/29(土) 18:52 Memory that should be abhorred 〜忌むべき記憶〜 夏休みも終わり、幾分か夏の暑さも和らいできた。もうそろそろ、冬用の制服も出さなければならないのだろうか?できればもう少し、地肌に日光を浴びていたいものだなあ。 そんなことを考えながら、皇甫嵩(義真)は頬杖をつきながら、窓から見える景色を眺めていた。 ここまで、私はいろんなことをしてきた。しかし、今はそんな血なまぐさい世界から抜け出したただの隠居人だ。もうなにもすることはないだろう。 皇甫嵩はぼんやりと空の景色を眺めながらそんな取り留めのないことを考えていた。 そんなとき、皇甫嵩の親友である盧植が教壇の中央に立った。彼女の腰まであるライムグリーンの髪と犬のように愛らしい眼は男女問わず人気がある。もっとも、皆、恐れ多くて一歩下がって憧れるしかないのだが・・・・・・。 「今日は今年の華夏大学園祭での、我がクラスの出し物を決めたいと思います。何か意見のある人はいますか?」 盧植の言うように、毎年一〇月にこのでは華夏大学園祭――世間一般に言う文化祭や学園祭――が催される。これは華夏学術学園都市に所属するすべての教育機関合同で行うため、さすがに規模も広い。そして内容も凝っているのでちょっとやそっとのものでは客が見込めない。 だから、今回、文化委員になった盧植は皆に意見を求めているのだ。 しかし、盧植はなんとも嬉しそうに頬を転ばせている。いや、にやけていると言った方が正しいだろう。まるで、好きな人への想いが届いたかのようなのだ。 (子幹の奴・・・・・・なにかあるな)と皇甫嵩は勘づいた。 これはただの行き当たりばったりなどではなく、盧植とのつき合いからのデータによる確率計算による。 しかし、所詮数字では次のような言葉が飛び出すことは予測不可能であった。 盧植に呼応するように、金髪の少女・丁原(建陽)が右手を天井に向けて高々と上げた。そして、恐るべき一言を繰り出した。 「はい〜はい〜!あたいは『コスプレ喫茶』がいいと思いまーす!」 すぐにクラスの中がざわつく。当然である。急に「コスプレ喫茶」をすると言われればそうもなる。しかし、それも彼女の一言に一蹴され、歓声へと変体することとなる。 「あたしもー!それがいい!みんなも義真のコスプレ見たいでしょ?」 さらには赤紙のひとふさが飛び跳ねている少女であり、皇甫嵩の親友である朱儁(公偉)までもがクラスの出し物に「メイド喫茶」を開くことに賛同したのだ。 すると、辺りから一斉に歓声が上がった。キャーキャーと黄色い悲鳴さえも響いてくる。皇甫嵩はそのルックスと物言からどうも女生徒から人気がある。だからこそ、この一言には万金の重みのがあった。 皇甫嵩はこのとき「しまった」と本気で後悔した。 「なぜもっと早くきがつかなかったのか」そんな無念でいっぱいであった。気付く機会ならいくらでもあった。 なぜなら最近、彼女ら三人は何かと集まっていたのだ。どうやら皇甫嵩が反対することを見越して、三人で話を進めていたのだろう。 (あの子幹のことだ。票集めは完璧だろう・・・。さらにあの公偉の言葉でクラスの浮動票もすべて賛成に変わるだろう。だとすれば、私がその悪鬼から逃れる方法は・・・・・・)
813:雑号将軍 2005/10/29(土) 18:53 「義真・・・・・・すっごい似合ってる!」 「シンちゃん(皇甫嵩)ってこんな服も似合うんだ・・・・・・」 「こっ、こっちを見るな!あっちを向け、あっちを!」 皇甫嵩が耳の先まで真っ赤にして、賛美の言葉を贈る朱儁と丁原に怒鳴っている。それに対して、朱儁と丁原は品定めするように皇甫嵩を凝視し、ときどき下衆な笑みを浮かべていた。 とうとう皇甫嵩は悪鬼の軍勢から逃げ延びることはできず、今こうして彼女らの餌食となっているわけだ。 それで、皇甫嵩の着ている服装なのだが・・・・・・。 「・・・・・・義真・・・そのメ・イ・ド・服、ばっちりみたいね。流石は私の義真だわ」 盧植はしたたかな女だ。「メイド服」と「私の」をしっかりと強調し、皇甫嵩が照れるのを狙ってきた。もちろんそんな言葉を書けたのは皇甫嵩が照れるところを見たいからだとは言うまでもないだろう。 盧植の言うように、皇甫嵩が着せられたのはメイド服だった。 フリルがちりばめられていることは当然として、ミニスカート調のワンピースに純白のエプロンドレスにカチューシャ、さらに白のロングニーソックスも忘れてはいない。 盧植はこのときに備えてある人物に皇甫嵩にぴったりのメイド服の製作を要請していたのだ。もっとも自らにもナース服を用意していたようだが・・・・・・。 その証拠に急造仕様の更衣室から出てきた盧植は桜色のナース服に着替えている。もちろん頭にはナースキャップがピンで留められていた。 それは盧植のライムグリーンの髪と合わさって、まるで草原に花開く白菊のようであった。 「いつから子幹のものになったか。私は?」 皇甫嵩が左手を腰にあて、普段の低い声で盧植に抗議する。どうやら冷静であるとみせようとしたのだろう。しかし、顔が真っ赤であるため照れ隠しにさえなってはいない。 盧植はまったく気にする素振りも見せずに、あるいは聞こえていなのか、ただくすっと口元に手を当て微笑して、メイド服姿の皇甫嵩を見つめている。 流行りの服を着せられたマネキンのような気がして、皇甫嵩はどうも落ち着けなかった。 そんな皇甫嵩に魔の手が伸びてくる。 あろう事か、盧植がじりじりと歩を進め始めたのだ。皇甫嵩にとっては、森の中で熊に狙われたも同じであった。 「こ、こら!近づくのはやめろ!頼むから、な、子幹!」 皇甫嵩が珍しく取り乱し、両手を前に突き出して盧植をこちらに来させまい必死である。しかし、盧植にはそんなものは通用しなかった。蛇のように身体をくねらせ、城門を突破し、本陣へと飛び込んだ。 皇甫嵩が声を掛けようとしたとき、皇甫嵩の首に盧植の両手が迫った。皇甫嵩は今度はなにをされるのかと焦りを隠せなかった。 だが、それは全くの杞憂であった。盧植は襟元に着いているピンク色のリボンを直しただけであったのだ。 「義真・・・。あなた、リボンを結んだことないでしょ?もうめちゃくちゃよ。じっとしててよ。今なおすから・・・・・・患者さま、じっとしていて下さいね」 「し、しかたないだろう。今までこんな、女っぽい服は着たことがないのだから・・・・・・」 皇甫嵩の視線がわずかにうつむいた。それと同時に声にも力がない。 なにやら不安そうにも聞こえてくる。 無論、盧植が看護師になりきっているのがその原因ではない。まあ、まったく違うとは言わないが・・・・・・。 彼女は今まで、ジーンズやカッターシャツやトレーナーなどどちらかといえば、男装をすることの方が多い。なにぶんと皇甫嵩にはこんなフリルの付いたスカートを履いたことがないのだ。 そんなことを知ってか知らずか、自らの衣装に身を包んだ朱儁が皇甫嵩の両肩に手をのせ、その愛嬌のある顔を覗かせる。 「だいじょぶだって!義真は十分に綺麗だからっ。こんなメイドさんならみんな自分に仕えてほしいって思うよ!」 「な、なにを言うか!わ、私が、き、綺麗なはずなどあるか!そ、それにな、なんだ公偉、その白一色の服は?」 「綺麗」とひとさら強調された皇甫嵩は気恥ずかしくなってどもってしまった。むしろ「仕えてほしい」のほうが皇甫嵩の自尊心の高さから気になるのだが・・・・・・。 なんだかんだ言っても皇甫嵩も女子高生のようだ。 「かわいいでしょー」と言って朱儁はその場でくるりと回ってみせる。 朱儁は白一色のワンピースを着ていた。 もっともところどころにピンクのリボンがあしらわれているので完全な白とは断言できないのだが。 ワンピースは胸元までのミニスカート調で、両腕には純白のアームカバー(日焼け防止が目的ではない)をつけ、首には首輪とおぼしきものが付いている。さらに衣装の先端という先端にはフリルがあしらわれている。なんとスカートのフリルはなんと二段になっていた。 「これこそ、白ロリファッションよ!」 朱儁は目を輝かせてそう言い放ち、見事にポーズを決めた。 そんなとき、朱儁と入れ違いに更衣室に入った丁原が弾丸のように飛び出してきた。そして、皇甫嵩と朱儁の間で見事に止まる。 「じゃーん!見て見て、シンちゃん!こーちゃん!この耳としっぽ、かわいいと思うでしょ!」 丁原が教室中に響き渡るような大音量で言う。さらには右手を猫手にし、それを付け耳にあてて、ポーズを取っている。 猫だ。丁原はセーラーブラウスに猫耳としっぽを付けていた。 しっぽはスカートの下から垂れるように伸び、耳の毛は茶色で肌触りも良さそうである。着衣もセーラーブラウスこそ、学園のものだが、スカートはミニもミニ、なんと、膝上十五センチという驚異の短さである。 しかし、これが背の低い丁原2は恐ろしいほどに映えていた。 皇甫嵩は朱儁と丁原、さらに思い思いのコスプレを施した、クラスの面々を眺め、最後にメイド服を身に纏った自分を鏡越しに見た。 かつては「生徒会の剣」として、畏敬の対称となった皇甫嵩が今はメイド服を着ている・・・・・・。そんな自らの姿にあきれるのも無理のないことだった。 しかし、皇甫嵩もまんざらではないようで、クラスメイトに「メイド服姿かわいいっ!」とか「綺麗よね。義真って」とか言われるたびに否定をしながらもどことなくうれしそうだった。 そんな姿を盧植はちらちらと皇甫嵩の方を見やり、そのつど、笑みを浮かべている。その笑みも微笑といえるような見やすい者ではなく、ニヤリと笑う下卑な笑みを浮かべて愉しんでいた。 が、しばらくして、思い立ったように椅子からすっと立ち上がり、再び教壇に上がった。 「皆さんー!集まってください。学園祭までもう日にちがありません。したがって、これから練習に入ります。今日はプロの方にも来て頂きました。それでは、以下の班に分かれてください。一班・・・・・・・・・・・・」 皇甫嵩は盧植の言葉を聞いたとき、なぜか背筋に冷たいものが流れた。 (なにやら、そのプロとやら・・・・・・。いやな予感がする)自らの勘がそう訴えかけていた。
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