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807:北畠蒼陽 2005/08/27(土) 19:40 [nworo@hotmail.com] 「あ、ぐぅ……ぅ、あああ……」 勝負は一瞬。そしてあまりにもあっけないものだった。 毋丘倹は迷うことなく必殺の突きを王昶に見舞う。 王昶は毋丘倹の左肩を狙うように見せかけ、突きにあわせるように木刀に焦点を絞り、それに向かって棒を叩きつける。 毋丘倹は折れた木刀にこだわることなく王昶の棒の軌跡から体を翻すように王昶の胸に右正拳を叩き込んだ。 「あ……がはっ。ぐ……ぅ」 胸を押さえ片膝を地に付ける王昶。 それを立ったまま見下ろす毋丘倹。 「お、おま、えなぁ……ろ、肋骨が、お、折れたらどうす、んのよ」 はぁはぁと息を荒げ王昶が抗弁する。 「大丈夫だって。手加減はしてないけど」 毋丘倹の返答に苦笑する王昶。 「どうす、る? しょ、勝者のけん、りだ。もって、いくか?」 脂汗を流し、それでもにやり、と笑って自分の胸を指す王昶。そこには蒼天章が光っていた。 「いや、やめとくわ。せっかくここまで来てくれた親友をリタイアさせる趣味はないしね」 「けっ……呪われろ」 毋丘倹の答えに王昶は笑いながら毒づく。 「仲恭、南に進め。ここを抜けたらそれ以降はまだ包囲網は完成していない……長湖部領内に入れば私らでも追うことはできない」 荒い息の下、王昶はウィンクしながら毋丘倹に進む道を示す。 「……私も疲れてるのに……さらに前に進めって言うのね、あんたは」 「当たり前だ。私に勝ったやつにこんなところでトんでもらうと困る」 あきれたように苦笑する毋丘倹。 そして王昶は自分の手にしていた棒を毋丘倹に放る。 「もってけ。折れた木刀よりゃマシだろ」 「ありがとう……さよなら、文舒」 棒を手に背を向け歩き出す毋丘倹。 「じゃあな、バ毋丘倹」 王昶は毋丘倹をを目で追うこともなくそっと呟き、そして前のめりに倒れ、そのまま気を失った。 …… …… …… 寿春棟、旧揚州校区兵団長の執務室。 部屋の元の持ち主の性格を物語るかのような実用性のみの無骨な部屋に生徒会のトップたちが集う。 「やぁ、みんな。ご苦労ご苦労♪ バ毋丘倹は逃がしたけど十分じゃない? もう二度と歯向かおうって気にはならないだろうさ♪」 執務机に座りご機嫌な司馬師。 王昶はあきれたような視線を向けた。 毋丘倹はそんな小さな人間じゃない。 長湖部まで逃れることさえできれば……そう彼女はあまりにも強大な敵になるだろう。 王昶の脳裏にはすでに対毋丘倹の作戦がダース単位で練られていた。 この胸の痛みは7京倍にして返してあげるから楽しみにしてなさい……内心の想いを隠し切れず口元に笑みを浮かべる。 「大変です!」 だからそのとき執務室に飛び込んできた伝令にも特に注意を払うことはなかった。 「毋丘倹が安風で見つかりました! その班長の配下の張属というものが毋丘倹をトばしたそうです!」 「お〜、ハッピー♪ いいねいいねぇ、最高じゃない!」 司馬師の歓声が遠く聞こえる。 言葉が嘘に聞こえた。 でも嘘とは思えなかった。 ひとつ大きなため息をついて王昶はソファに深く座り込んだ。
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