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830:海月 亮 2005/11/16(水) 20:56 次の日の朝。 あたしはいつもより一時間半早い目覚ましに起こされ、晩秋の冷たい空気から逃れるように布団の中に…戻ろうとしたところでようやく、目覚ましを早くセットした理由を思い出した。 半信半疑というか、あたしはまったく信じていないし、はっきりいって騙されるのは癪だったけど…まぁウソならウソで、たまには朝から勉強してもいいかなと思ってとりあえず起きることにした。 …確か中庭を見てみろ、とかぬかしてたよね。 いいわよ、見てやろうじゃないの。どうせまだ街灯がついたままの、寒々とした石畳の景色が見えるだけなんだから。 そうして、あたしはカーテンを明け払った。寮の三階にあるあたしの部屋のその位置からなら、ちょうど中庭が見れるはずだったから。 そうして辺りを見回す。窓を閉めた状態では見える位置も多寡が知れているので、あたしは強烈な冷気が部屋に入るのを承知の上で窓まで明け払い、寒さを感じる前にベランダに飛び出し…そして見えたのは。 「…誰もいないじゃない」 まぁ予想していたとおり、あたしはまたしても彼女に一杯喰わされたわけだ。 結局彼女の言葉を少しでも信じようとした自分に腹が立つと同時に、一気に寒気が襲ってきてあわてて部屋の中へ戻ろうとした。 「あれ…?」 もしそのときそれに気がつかなければ、あたしは今日も敬風にいわでもなことをいって、散々馬鹿にされたのかもしれない。 振り向きかけたとき、寮の玄関に人影が見えた。 遠目でもはっきりわかる学校指定の青いジャージ、そしてその特徴的なプラチナブロンドの髪は…。 「…世洪?」 見間違えようがない。彼女みたいな目立つ容姿の娘はそういない。 それに自慢じゃないけど、ゲーマーでも本の虫でもないあたしの視力は両目とも1.5あるからはっきり解る。 みれば彼女、手には棒の様なものを携えている。 中庭に出てきた彼女はストレッチを始め、よく身体を解している様子。ストレッチを終えると、身体も温まってきたらしい彼女はジャージの上を脱ぎ、袖を腰のあたりにまき付け縛り付けている。そして、おもむろに手に持った得物を構える…次の瞬間。 「…やっ!」 凛とした、よく透る声の気合一閃、彼女の技が、放たれた。 踏み込んで突き。横薙ぎ。打ち下ろし。突き上げ。 時折織り交ざる掛け声で技はどんどん変化していく。総ての技がまるで流れる水のように、まったく無駄のない連なったひとつの動きを…ううん、もう言葉じゃ全然説明できない。 「…綺麗…」 素直に、そう想った。 例えるなら、日本刀の美しさに近い。 引き込まれそうな美しさを持ちながら、あの前に自分がいたら…という恐怖感も併せ持つ…そんな美しさ。 あたしはその見事すぎる"練武"から、何時の間にか目が離せなくなっていた。 「…お〜い、公緒、起きてるか〜?」 不意に真下から軽そうな声が聞こえてくる。 その声に、あたしは現実から引き戻された。下を見れば、上着を脱いだままの世洪がいる。 「お〜、珍しいじゃない。寝惚けて這い出てきたってワケでもないみたいね〜」 彼女は何時もの彼女に戻っていた。 これがついさっきまであの見事な技を繰り出したのと同一人物とは信じられなかった。 あたしは自分の目に写ったものの真実を確かめるため、自分もジャージに着替えてその上からパーカーを羽織り、中庭に出てきていた。 「…おはよ」 「うむ、おはよう」 挨拶を交わす。 でも、そのあとの言葉が続いてこない。 訊きたい事が多すぎて、一体何から話したらいいのか…そう思っていたら、彼女のほうから口火を切ってきた。 「…あたしがこんな事してるなんて、やっぱり意外だった?」 「あ、えっと、その」 「あたしも隠すつもりはなかったけど、あんまり騒がれるのって、好きじゃないから」 その淡々とした口調に、なんだか悪いことをしてしまったんじゃないかという気になってくる。 「ごめん…でも、気になったから…敬風が言ってたことが本当かどうか…」 「ええ? まさかアイツこのこと知ってんの? 巧く隠してたと思ってたんだけどな〜」 驚いてる。なんだか意外なことだったらしい。 「…見てるヤツは結構見てるもんねぇ。それであんたはまたしても敬風に一杯食わされて見ようと此処に出てきた、というわけね」 あたしは頭を振る。半分はあたりだけど、もう半分の理由。 「それもあるけど…あたし、これが本当だったら…世洪に、訊きたい事があったから」 「ふむ」 彼女は腕組みしてちょっと思案顔。 「あたしに答えられる範囲でならいいけど…後で良いかな。流石にそろそろ皆起きだしてくるし、朝食の準備もあるからね」 「う、うん」 そしてあたしも彼女にくっついて自分の部屋へと戻っていった。
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