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853:弐師 2006/02/05(日) 18:16 遂に来た。 続からの連絡、「あと二十キロほどの地点に到着、合図は狼煙によって行う。」 ついに、越の敵をとれるのだ。 白馬義従に出撃の準備をさせる、あと少し、あと少しだ。 じりじりするような焦燥、そして興奮が私を支配する。 それからしばらくして、黒山の方に狼煙が上がった。 「よし!我が精鋭達よ、出陣だ!」 あたしは、範さまと一緒に、空を見ていた。 文安棟から見る空は、易京の空と変わらないはずなのに、どこか寂しく映る、それは、範さまも同じだと思う。 あれ? 「範さま、あれって。」 「狼煙ね、張燕さんはいつもああやって連絡を取るの。」 「へえ・・・」 「でも、少し妙ね。」 「と、いうと?」 「いえ、ちょっとね、なんかいつもより上げかたが下手な気がするの。」 「そうなんですか、あたしにはぜんぜんわからないです」 「うん・・・私の気のせいかもね。」 「そんな・・・」 違う、あの狼煙は違う。 お姉さま・・・そんな 「ちっ・・・袁紹め」 張燕さまも口惜しそうに俯く。 どうする、どうするのよ・・・ 考えるのよ、公孫続! そうだ・・・ 「張燕さま、バイク部隊を、私に貸していただけないでしょうか。」 私には、それしか考えつかなかった。全力で行っても、間に合わないかもしれない。 しかし、何もしないのは最悪だ。 「続、落ち着け、あんたが行ったところで、伯珪さんは救えない、それより、あんたが飛ばされずにいる方が大事じゃないか?」 「でも、でも・・」 そんなこと、私にはできない。 お姉ちゃんを、見捨てるなんて、できない。 「・・・本気だな?」 何も言わず、頷く。 「ふぅ、わかった、其処まで言うならこの黒山の飛燕、断るわけにはいかないな。」 「本当ですか!ありがとうございます!」 そう言って、私は、バイクに乗った。 エンジンの震えが伝わってくる、深呼吸して、みんなに呼びかける。 「皆さん、行きますよっ!」 風を切っていく。 袁紹軍の先頭とぶつかり、押し込み始める。 私が突破したところを、田揩と単経が左右から挟撃する。 先頭が崩れ、退いていく。 だが、何か妙だ、退くのが早すぎる。 嫌な予感がする、全軍一旦退け。そう言おうとしたところで、敵の伏兵が現れた。 あの狼煙は偽報ということか。 「退け、退け!易京棟まで退くのだ!」 今度はこちらが挟撃される。 私の周りにいる娘達も少なくなっていく。 どうやら囲まれてしまったようだ、全軍で、ではなくまだ一部の連中なだけましか。 だが、どうしたものか、そう思っていると、いきなり一隊が囲みを突き破ってきた。 「単経!それに・・・続!?」 「お助けに参りました、伯珪さま。」 「同じくだよ、お姉ちゃん!」 相変わらず無表情な単経と、疲れ切った様子だが、笑顔を作る続。 多勢に無勢には変わりない、が、今の私にはとても心強かった。 文安棟に届いた使い、それがもたらした報せは、衝撃的なものだった。 「なんですって!」 伯珪さまが・・・危ない。 さっきの範さまの言ったとおりだったのか。 どうしたらいい? 周りを見ても、みんな驚き、考えが回らないようだ。 こんな時、範さまが居れば・・・ 彼女は、用事があるからといって、どこかに行ってしまった。 此処にいる娘達は、いわゆる「文官」というやつで、戦うのは得意でない。 むろんあたしも含めて、だ。 だけど、此処でじっとして居ちゃだめだ、それじゃ、あのとき、伯珪さまと初めてあったときと変わらないじゃない! 今度は、あたしが助けるんだ! 「ちょっと、どこに行くのよ。関靖ちゃん。」 「伯珪さまを、助ける。」 「助けるって言っても、無茶よ!」 「それでも、行かなくちゃいけないのっ!一人でも、あたし行くよ。」 それに、あたしがあのとき止めなかったら、単経さんの言うとおりにしていれば・・・ そう思えば、なおさらだ。 「そうだ、無茶だね。」 この声は、範さま!? いつの間にか帰ってきていた範さまが後ろにいた。 「あなたまで、そんな・・・」 「第一、 あなた免許持ってないでしょ、そんなんでどうするつもりだったの?」 「でもぉっ!」 「わかってるわ、行くな、って言ってるんじゃないの、私の後ろに乗っかっていく気はない?って言ってるの。」 「えっ・・・」 「ほら、どうするの?」 「い、行きます、お願いします!」 ガレージに向かう範さまの後についていくとき、後ろから呼び止められた。 「あの・・・関靖ちゃん、頑張ってね。」 其処にいた三人、確か劉緯台ちゃん、李移子ちゃん、楽何ちゃんだったか。 「伯珪さまは、いじめられていた私たちに、まるで兄弟みたいに接してくれた・・・私たちが行っても、足手まといになるだけ、だから・・・」 「うん、わかった!みんなの分まで頑張るよ。」 「ありがとう・・・」 「お別れは終わった?」 「あ、はい!済みませんでした、じゃあ、行って来るね。」 「うん・・・頑張ってね。」 それ以上何も言わず、あたしは笑顔で手を振った。 「ねえ、士起ちゃん。」 そう声をかけたのは、文安棟を出て、暫くしてからだった。 「なんですか?」 「あのね、私今まで貴女に嫉妬してたの。」 ああ、言っちゃった、もう戻れないぞ。 「えっ、あっ、その。」 はは、戸惑っちゃてる、それはそうよね、今まで信じてきた人からこんな風に言われたんだもんね。 「だって、普通そうじゃない?私はさ、董卓と戦ってた頃、いや、もっと前から居たのよ? それがいきなり新しく来た貴女に負けたのよ?」 「えっと、えっと・・・すいません・・・」 本当に、この娘は。なんでこんなこと言ったのにそんな綺麗な瞳で私を見れるの? 「いいの、言ったでしょう?今まで、って。」 「え?」 「さっきもさ、実を言うとね、貴女と居たくなかったから、貴女と居るのが怖かったから、用事って言って逃げたの。でもそれも虚しくなって戻ってきたらさ、伯珪姉がピンチって聞いて、その上貴女が思い詰めた顔でどっか行こうとしていたんだもの、驚いちゃった、でも、その時思ったの、ああ、この娘には勝てないな、ってさ。」 この娘の気持ちは本当、そう痛感したから、私はふっきれた。 「でも・・・範さまの方が綺麗で、優しくて、思いやりがあって・・・」 「そんなの関係ないよ、さっきの貴女を見て、本当にそう思った・・・格好良かったよ、士起ちゃん!自信もって良いよ!」 「は、はい!ありがとうございます!」 そう、その笑顔。 その笑顔に私は負けたの。 ずっと、そのままの笑顔で、ね・・・ 「よし、じゃあ話は終わり!ほら、戦場が見えてきたよ。」 本当だ・・・あ!あれは 「伯珪さまぁ!」 思わず涙がこぼれる、だけどそんなこと気にしている場合じゃない。 「よし、飛ばしていくよ!」 「はい!」 待っててください、伯珪さま。 ある程度は退いてこれたのだが、最早周りには続しかいない。 単経は、私のために殿を努め、 田揩も、乱戦の中で見失った。 「どうしよっか、お姉ちゃん。」 「うむ・・・」 最早、道はないのか、そう思っていると、聞き慣れた声がしてきた。 「伯珪さま!」 「士起!?」 そんな、馬鹿な。 何故士起が此処に? 「関靖先輩!?」 何でこいつが居るのよ、そんな怖がっちゃって。 馬鹿じゃないの? 本当に馬鹿じゃないの? 「あ〜もう!どうでも良いです!とにかく先輩は伯珪お姉ちゃんと退いてください。 ここは私がくい止めます!」 「貴女だけじゃないわよ?私だって居るわ。」 「あ、あたしも・・・」 「先輩は早く行ってください!」 伯珪お姉ちゃんとあいつが遠ざかっていく。 「貴女、士起ちゃんが嫌いなんじゃなかったの?」 範お姉ちゃんが面白そうに聞いてくる。 「あの人は馬鹿です!ついさっきわかりました!でないとろくに戦えないくせに此処まで来ようなんて思いません!でも・・・」 「でも?」 「私は、馬鹿は嫌いじゃないんです。」 「なるほど、良い答えよ。」 そんな話をしていると、袁紹軍が迫ってくる、ざっと五十人ほどだ。 「じゃあ、振られた者同士、いっちょやりますか?続ちゃん?」 「振られた、って言うのがなんか引っかかりますけど・・・まあいいです。」 「よし、行くよ!」 私たちは、敵の群に突っ込んでいった。 関靖先輩、お姉ちゃんを頼みましたよ。 なんとかあたし達は、易京棟まで戻ってきた、ほとんど全員を連れて出陣したらしく、棟内はがらんとしていた。 「ありがとうね、士起。」 「いえ、伯珪さまのためですから。」 「ふっ、そうか・・・なあ士起、私は階級章を返済しようと思う。」 「えっ、そんな・・・」 わかっている、それしかないのだろう、袁紹に奪われるよりはましだ。 でも・・・ 「済まなかったな、今まで本当に苦労をかけた。」 「いえ・・・お世話になったのはこちらです、貴女に会えなかったら、あたしは弱虫のままでした。」 「そうだな、私も貴女に会えなかったら、私は一人ではないことにずっと気がつかなかっただろう。」 越がいた、厳綱がいた、単経がいた、田揩がいた、範がいた、続がいた。廬植先生だって、玄徳だって、子竜だっていた・・・みんな、私の周りにいてくれた。なのに、私は気がつかなかった、ひとりぼっちだと思っていた。 「貴女がそれに気づかせてくれた、そして、こうしてそばにいてくれる。 私は幸せ者だ。」 そうだ、玄徳、貴女は、もう気づいてたんだね、一人じゃ何もできないって。 最早夢の終わりだというのに、不思議と口惜しくはなかった。 楽しい、夢だった。 みんな、ありがとう。
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