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870:弐師 2006/02/19(日) 19:58 それから、一週間ほど彼女、田揩と過ごした。 やはり、そう簡単に性格など変わるものではない、彼女はまだおどおどしていることには変わりない。 だが、少しは変化があった。 私には、何故か常に笑顔で話してくるようになったのだ。 まあ、それは良い傾向なのだろう。 彼女の笑顔を見るのは、私も嫌ではない。 それに、段々と彼女の話を聞くのが楽しくなってきたのだ。 他愛ないような話。 例えば、今日は誰々と話すことができた、こんな話をできた。 私からしてみたら、あまりにも「普通」なこと。 それでも彼女は、まるで子供のように、目を輝かせながら話してくれる。 そしてそのたび、「ありがとう」と私に言う。 「あなたのおかげです」と。 彼女は私のことをまだ凄いと思っているのだろうか? こちらにしてみれば、彼女の方が偉いと思う。 私も、変わりたいと思っていた。 そう、私は、彼女とどこか同じ部分を持っていた。 それなのに彼女は、変わっていっている。 私を、残して。 「君は・・・偉いな。」 「え、何がですか?」 「いや・・・この少しの間に、君は確実に変わっていっている、それに比べ、私は情けないな。」 「そんなことないです、単経さんだって、変わって来ていると思いますよ?」 「私が?」 「そうです、こんなこと言ったら失礼かもしれないですけど、単経さん、笑うようになりました。」 「私が、笑う?」 「はい、私と話しているとき、楽しそうに笑ってくれてますよ。だから、いつも言うんですよ?私の話を微笑みながら聞いてくれてありがとうって、あなたが微笑んでくれてるから、私も、同じように笑いながら話せるんです、変わって来ていると言うのなら、それはあなたのおかげです。」 「そうか、いや、むしろ、礼を言わないといけないのは私の方だな。ありがとう」 「いえ、そんな・・・じゃあ、お互い様って事で。」 そう言って彼女は笑う、竜胆の花のように。 可憐に、それでいて控えめに。 そんな彼女につられ、私もいつの間にか笑っていた。 笑うというのは、良いものだな。 今は、本当にそう思う。 そう思えるのも、彼女のおかげだ。 彼女が居てくれたから、私も、変わっていけた。 心から、感謝している。
871:弐師 2006/02/19(日) 19:59 単経さんに弟子入りしてから二週間、私と単経さんは、北平棟の棟長室に呼ばれた。 伯珪さんが言うには、私たちに烏丸工の抑えをして欲しいとのことだ。 それまでは、彼女の一つ下の妹である越ちゃんと、その越ちゃんと同じ学年の厳綱ちゃんがその役を負っていたのだが、彼女たちでは抑えきれなくなり、私たちに変わって欲しいと言うことらしい。 私では、力不足かもしれない、だけど、伯珪さんの期待を裏切るわけには行かない。 それに、私一人では無理でも、単経さんがいてくれる。 「わかりました。」 「が、頑張ります!」 「じゃあ、頼んだよ、二人とも。」 漁陽棟を出て、少し北に奴らはいた。 見回りの中、数人の娘しか連れてないが、こんな連中にはこれだけで十分だ。 「田揩、私はあいつらの中に突っ込むから、君は後詰めを頼む。」 「え・・・でも・・・こちらの人数が少な・・・」 「大丈夫、私があんな奴らに負けると思うのか?」 そう言って、私はバイクを走らせる。 皆、敵に突っ込んでいくのは恐ろしいという、伯珪さまですら、そうなのだそうだ。 何故、私はそうじゃないのだろう? 私は狂ってでもいるのか? 皆、そんな私を賞賛しながら不気味がっている。 田揩も、こんな私を見たら、嫌いになってしまうのだろうか? だが、敵が近づいてくると、そんなことはどうでも良くなった。 連中の一人を、バイクから叩き落としてやる、それで、怖じ気づいたか、あいつらは逃げて行く。 それを私は追い討つ、有る程度痛めつけてやった方が良いだろう。 そして、気付いたら、少し深追いしていた。 まずい、戻らなくては。 そう思ったとき、後方から悲鳴が聞こえた。 まさか、罠? だとしたら、田揩が危ない。 そう気付いた瞬間、背中に悪寒が走る。 頭が上手く回らない。 血の気が引いていく。 これが、恐怖という物か? 気付けば、私は叫び声を上げながら引き返していた。 田揩・・・! どうか、無事で。 ――――――――私は、生まれて初めて、神に祈った。
872:弐師 2006/02/19(日) 20:00 この娘達は、飛ばさせない。 元はといえば、私の油断のせいだ。 単経さんを追いかけて前進したところに、物影から彼らが襲ってきた。 なんとか一撃目は避けたものの、向こうの方が人数が多く、取り囲まれてしまった。 「皆さん!私のあとに続いてください!」 一点に集中攻撃、包囲をうち破る。 「皆さん、先に退いてください。」 「え・・・でも田揩さんは・・・」 「いいから!早く退いてください!」 私は一人残る、所謂「殿」と言う奴だ。 相手の木刀を摺り上げ、手元を打つ。 突っ込んで来るところに、突きを放つ。 面を打つふりをして、思いっきり逆胴を決める。 襲いかかってくる人たちをあしらっていく、だが、バイクの乗り方は向こうが上、段々押されてくる、まだ倒したのは二、三人程。 もう、無理か。 そう思ったとき、奴らの後ろから、白い学ランを着た男が現れた。 この人は、蹋頓! 烏丸工のナンバー2まで出てきちゃったか、これは私も年貢の納め時ってやつかな。 「ふん、なかなかの根性だな、気に入った。一騎打ちをしないか?子分には手出しさせない。あんたが俺と戦っている間は、あんたの部下の連中を追っかけたりしない。それでいいかい?」 「へえ、話がわかりますね。」 もちろん、ただの強がりだ。 怖い。 とても、怖い。 だけど、私が戦わなきゃ。 「はっはっは、可愛い顔して、言ってくれるねえ!」 何も言わず、私は隙を探す。 バイク同士での一騎打ち、向こうの方が運転技術が上なら、私は一撃に賭けるしかない。 「一撃に賭ける、か?いいぜ、来いよ。」 二人の間の緊張が高まる。 まだ まだ まだ―――――――― 「よし!」 一瞬できた隙、そこに、私は迷わず突っ込んでいった。 胴を薙払う、しかし、それは紙一重でかわされ、学ランを裂いただけ。 そして、肩に響く一撃。 さっきのは、誘いか。 体が宙に舞い、次の瞬間激しく地面に打ち付けられる。 まずい・・・体が言うことを聞かない・・・ 「惜しかったな。」 そんな声も遠く聞こえる。 蹋頓が、階級章に手を伸ばしてくる。 そこに、いきなりバイクが走り込んでくる。 単経さん!? 「貴様・・・よくも田揩を・・・許さん、絶対に許さんぞ!」 単経さん、駄目だよ。 そんな怒ってたら、せっかくの綺麗な顔が台無しだよ・・・ 「ほう、あんた、そいつの友達かい?」 「そうだ。彼女は、田揩は私の親友だ。」 え・・?今、私のこと親友って・・・ 「そうか・・・」 新しく出てきた女の放った言葉。 親友。 俺には、使う資格のない言葉。 その言葉を聞いて、今も思い出すのは、俺が守ってやれなかったあいつ。 張純のこと。 俺がもう少し強ければ、あいつも烏桓高でやっていけたはずなのにな。 結局、あいつは此処にもいられなくなって鮮卑高まで逃げて、そこで・・・ くそっ!! 「よし、今日は、退いてやる。」 「な・・・!貴様!逃げるか!」 「勘違いするな、おまえなんかには負けないよ、それに、そんなことよりそいつを早く病院にでも連れていった方が良いんじゃないかい?」 「ちっ・・・」 「じゃあな。」 そう言って、彼は走り出した。 だが、暫くして振り返り、一言だけ、私たちに話しかけた 「親友は・・・大事にしろよ・・・」 その後、私は立ち上がりバイクにまたがろうとした。 だけど、もう意識も遠のいてきて・・・だ・・・め・・・だ・・・・・
873:弐師 2006/02/19(日) 20:01 目覚めたのは、夕方。 清潔な部屋、真っ白なシーツ、此処は北平棟の保健室か。 そっか、あの後、此処に・・・ それまでの経緯を思い出そうと寝返りを打つと、そこにいたのは・・・ 「単経さ・・・」 一瞬大声を出しかけたが、すぐに彼女が眠っていることに気がついて、口をつぐんだ。 期せずして凝視することになってしまった、単経さんの寝顔。 思わず、息をのんでしまう。 そこには、いつものクールさより、どこか年相応の可愛らしさを感じた。 「む・・・田揩、目が覚めたのか。」 「え、わ!その!」 今度こそ本当に大声を出してしまった。 恥ずかしい・・・ 「よかった・・・本当に、良かった・・・」 しかし、次の瞬間には、彼女は涙を流し始めた。 またもや初めて見ることになった、単経さんの涙。 どうしよう、と思っていると、いきなり彼女から抱きしめられる。 「本当に・・・心配した・・・」 「・・・単経さん・・・」 初めて見る、彼女の無防備で、弱い部分。 そんな彼女の頭に、そっと手を置く。 「大丈夫ですよ、私はここに、ちゃんと居ますよ・・・」 「うん・・・」 「ほら、笑ってください!笑ってる単経さんの方が、綺麗ですよ?」 そう私が言うと、単経さんは、照れたように微笑んだ。 純白のカーテンの隙間から差し込む夕日が、彼女の微笑みを照らす。 それは、今まで見たどんな物より、綺麗だった。
874:弐師 2006/02/19(日) 20:03 ども、宣言と全く関係ない物を書いてしまいました・・・ >冷霊様 二人の先輩達の覚悟が格好いいです。 に、しても! 楊 懐 さ ん の 初 陣 気になりますねーw ぜひそちらも読んでみたいですね。 >北畠蒼陽様 いいですね、夏ですね、堪りませんね!(何が? な ん で わ ざ わ ざ 建 業 棟 ま で 泳 ぎ に 来 る の か し ら ? がつぼにはまりましたw 諸葛誕さんもかわいくていやなんとも・・・ 本当に夏が待ち遠しくなってきました。 >海月 亮様 凄まじい逃走劇の中、丁奉さんの部屋に集まってしまった皆様方と、仲謀さんと仲翔さんのほのぼのさが最高です! 特に仲謀さん、萌え殺されるところでしたよあなたw こんな感じの季節ネタが書けるのは流石ですね。 堪能させて頂きました。 あと、関靖!良かったです! ちょうど私の中のイメージとぴったりですよ! ありがとうございました。
875:海月 亮 2006/02/19(日) 22:34 >弐師様 いやいや、貴殿こそGJでござるよ(<何時の時代の人間だw というか女の子同士の友情は萌えるのでつよ。 不器用なふれあいが何時しか絆に変わる、その過程がよいのです。 で、私なんぞはそれが無残にも砕け散る一瞬もまた好きだとか(オイ そしてそれがまた新たな絆を生むとかだったらもうさらに以下略w 余談ですが…。 馬忠(阿撞)と蘇飛がどうなったのか知りたい方は>>431を、 甘寧&呂蒙&魯粛がやらかした悪事wについては>>385を参照のこと。 引用失礼。
876:海月 亮 2006/02/19(日) 22:37 いやまて、>>431は「参照」じゃないな。「参考」ですなw あと関靖が御気に召していただけたようで一安心でつ^^A
877:北畠蒼陽 2006/02/19(日) 23:43 [nworo@hotmail.com] >海月 亮様 のー、バレンタイン! バレンタインですから! 蒼天長湖部方面軍の連中のバレンタインは……諸葛誕くらいしか思い浮かばないなぁ。あの子に彼氏がいるのは私の中では確定だし(ぁ あぁ、毋丘倹は多分チョコは作るけど渡せないの。乙女だから。 あ、そうそう。最近思いついたネタで丁奉使いたいと思ってるんですが、丁奉はいつごろから悪丁奉ちゃん予定です? 悪丁奉ちゃんvs某人をかいてみよーかなー、と(笑 >弐師様 ごきげんよう、三国志大戦で公孫サンだけはどう使っていいのか見当もつかない北畠です。というか使ってる人見たことないしっ! 劉虞に至っては登場すらしてませんっ! あと昔は単経のほうな娘が好きだったものですが最近は田揩のようなストレートな子の可愛さが身にしみるお年頃で、あぁもう! とりあえずgjですよー。
878:海月 亮 2006/02/20(月) 08:17 >豹変の話 うーむはっきりとは考えてませんが…諸葛誕が飛ぶ頃かも。 帰宅部消滅の頃には間違いなく変わってるかと。 これまでバレンタインという大ネタの主役って言えば関羽だったからなぁ…。
879:北畠蒼陽 2006/02/27(月) 05:25 [nworo@hotmail.com] 「……聞いてるの、承淵」 黎斐が声をかけてくる。 うるさい。うるさい。うるさい。 他人の戦場に駆り出されてなにをしろというんだ。 ふざけやがって。どいつもこいつもどうせ私の前から去っていってしまうんだ。 強くならなきゃ…… もっと……強くならなきゃ…… 新陰流の系譜 眼前の戦場の様子に丁奉は鼻で笑い飛ばした。 まるでお遊戯…… 蒼天会はトップクラスのメンバーを総動員してこの戦いに挑んでいる。 こちらはそれに引き換えはるかに小勢。 蜂の一刺しでどの程度のダメージが与えられるものか。 季文もこんなどうでもいい戦いの責任を押し付けられてかわいそうに。 校舎を見る。 あの校舎に立て篭もっているのは今まで敵だった人。 諸葛誕先輩。 蒼天会の中で……蒼天会の今の三年生世代の中でずば抜けて軍事的才能がなく、しかしその圧倒的な政治力を駆使して長く長湖部のマウントを取り続けた女性。 そして毋丘倹の乱で長湖部に身を寄せた文欽先輩もまたあの分厚い包囲網の中にいた。 どうということはない、もともとは蒼天会の内部分裂。 こんなどうでもいい場所でなぜトばされなくてはならないのか。 丁奉はあきれたようにため息をつく。 「季文からの伝令よ、承淵。できるだけ包囲網を崩して欲しい、って」 黎斐が返事もしない丁奉に気分を害したように、それでも事務的な口調で伝えた。 「はぁん? これを抜けろっていうの?」 季文もよほどテンパってるらしい。 まぁ、いい。やれるところまでやるだけ、だ。 そう思い木刀を握った丁奉に1人の人影が飛び込んできた。 それは戦場から離れたところにたった1人でたたずんでいる人だった。 戦場の様子を遠めに見ている一般生徒…… 一見そう見える……だが…… 丁奉の唇が獰猛な笑みを形作る。 「……承淵?」 丁奉の様子を不審に思ったのだろう、黎斐が声をかけてくる。 「あぁ、黎斐。ちょっとだけ出かけてくる……包囲網の切り崩しはそのあとね」 「ちょ……ちょっと!」 黎斐の呼び止める声にもかまわずに丁奉は駆け出していた。
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