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930:北畠蒼陽 2006/06/11(日) 23:50 「うちはトぶのが怖いんちゃいますえ……貴女が失われるのが、その覚悟がなにより怖いんや! そうでしょう……答えてや、子師はん!」 子師……王允に呼びかけるその声。 「蔡ヨウさん、貴女の蒼天章を奪うことはあなたに対して悪いと思う。でも私にはそれしか思いつかなかった」 王允は黒髪の少女、蔡ヨウの名を呼び、また一歩近寄る。 「呂布は……学園史に残したくもない、ただの猛獣だ。私はあの魔王、董卓を排除するためとはいえあのような者と手を組んでしまったのです」 私の手は汚れている、と自嘲する風すらなく言い放つ王允。 「さらに私がここで貴女を……名図書委員たる貴女をトばせばさらに私の悪名は高まる。そのときこそ……悪逆非道たる私と呂布をトばした人間を英雄として学園史は迎えてくれることだろう」 自分が悪名を高めれば高めるほど、それを倒すものは祝福とともに迎えられる。 蔡ヨウはいやいやするように首を振る。 「子師はんがその猛獣を御せばえぇ! 貴女にはそれだけの力がある!」 「残念ながら……」 王允は蔡ヨウの言葉に……初めて自嘲の笑みを浮かべた。 「私の器はあの魔王よりも下だよ。魔王すら御し切れなかった猛獣は私の手には余る」 「あんたたちは……王允もあんたもそれでいいのか!」 10年も20年も…… ずっと学園史の闇の部分を背負って…… 生きていくというのか。 皇甫嵩は震えながら口を開く。 歴史に残る消せない汚名……それは死ぬよりも苦しいことなんじゃないだろうか。 「正直ね、怖いよ。いやだよ、私だって」 皇甫嵩の頬を打った右手が痛むのだろう、左手で押さえながら士孫瑞はそれでも皇甫嵩から視線をそらさずに言い放つ。 「でもね、嫌われるから官僚なんだ! 嫌われない官僚になんの価値がある!」 「……なにか私にできることは?」 皇甫嵩の言葉に鼻で笑い飛ばす士孫瑞。 「ここは官僚の戦場だ。戦争屋はすっこんでろ」 士孫瑞の言葉に……皇甫嵩はその小柄な体を強く抱きしめた。 「……あんたも……王允も本当にバカヤロウだ」 士孫瑞はその言葉に微笑みすら浮かべる。 「皇甫嵩さん、貴女は朱儁さんや丁原さんや盧植さんと一緒に卒業するって、そう約束してるんでしょう? 私たちにとってね、それが守られることがなによりも嬉しいことなのよ……私たちは卒業式に出ることはできないけど……約束して。ちゃんと4人そろって……私たちのかわりに卒業してくれる、って」 「約束する。約束するさ……」 「蔡ヨウさん、別にあなたにはなんの恨みがあるわけじゃない。ただ正義という名前の旗印として適当だったというだけ。だからとばっちりで蒼天章を奪う私のことをどれだけ恨んでくれてもかまわない」 「恨めるわけ……あらしませんやんか……」 王允は蔡ヨウの胸元に……蒼天章に手を伸ばす。 蔡ヨウは抵抗をするが……それはもはや形だけのものに過ぎない。 「本当に……ごめん」 王允の言葉とともに蔡ヨウは蒼天章を失った。
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