★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
949:弐師2006/08/26(土) 15:30
「あ、あの・・・有り難うございました」
「・・・」
「えっと、お名前を聞かせてもらえませんか?」
「・・・公孫伯珪」
「え・・・!?」

名前は聞いたことがある。北平の雄、公孫伯珪。
幽州、いや、中華市では、その名は鳴り響いていると言っても良い。


曰く「冷酷非道、血も涙もない外道」

だが、今目の前にいる人物からは全く違った印象を受けた。
確かに顔は綺麗で、逆にそれは人間らしさ、暖かさを感じさせない類の美しさだった。
一目見た人が、冷たそうと感じるのも無理はないだろう。

しかしその瞳だけは、何かを失ってしまったような寂しそうなものだった。

この人の傷を、痛みを、治してあげたい。開いた穴を埋めてあげたい。そばにいてあげたい、そう思わせるような、悲しい瞳――――――――――――


「一人で帰れる?家は何処かな?」
「えっと・・・あの・・・あたしを北平棟まで連れていって下さい!」

伯珪は、一瞬きょとんとした顔になった。
いきなり予期していないことを言われてしまったのだから当然と言えば当然なのだが。
と、いうより関靖の発した言葉はまず質問の答えにすらなっていない。
しかし、彼女はすぐに元の表情に戻った。

「駄目だ。危なすぎる。今、北平は戦闘の準備に入っている。逆に言えば周りから攻められるかもしれないと言うことだ」
「あ、戦いの準備とかならあたし計算とかそんなの得意ですし!
それに・・・あなたのお役に立ちたいと思ったんです、駄目でしょうか・・・?」

今度は伯珪は困った顔になる。今の彼女の表情をこんなにも変えられるのは関靖くらいな物だろう。
彼女はじっと関靖の瞳を見つめた。そして、相手に諦める気がないことが分かったのだろう、今度は呆れ顔になった。

「わかった。だが、役に立たなかったら帰って貰うよ?」
「分かりました!伯珪さま!」
「「さま」って貴女ねぇ・・・」
「え、ならご主人様とか・・・」
「・・・「さま」でいい。ところで貴女の名前は?」
「関靖・・・関士起です」

「士起、ね。分かった」

そう言うと伯珪はもう一つヘルメットを取り出して関靖に投げてよこした。
今度は、関靖が戸惑う番だった。

「後ろに乗って。ちゃんと捕まらないと落ちちゃうから気をつけるようにね」
「は、はい!」


「何やら、妙なことになってしまったな」とキーを刺しながら伯珪は思わずつぶやいた。
だが、不思議と不快感はなかった。逆に何か懐かしさ、安らぎすら感じた気がした。

それはあの日、髪を切ったとき以来久しぶりに抱く感情だった。

エンジンがかかった。関靖を後ろにのせて発進する。
そういえば、誰かを後ろに乗せて運転するのは、いつか越を乗せて以来だな、と伯珪は思った。
1-AA