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953:韓芳 2006/09/18(月) 01:57 咲かぬ花 終章 さよならの言葉 あれから数日が経ったが、事態は一向に進歩しなかった。いや、むしろ悪化していた。 呂布の候成解雇は、陳宮の裏工作により何とか降格処分で済んだが、あれ以来、下丕棟には会話と言う会話が存在しなくなった。皆、報告以外はほぼ無言だった。 「・・・ついに来たのね。」 その報告を聞いたのは昼食を終えてすぐの頃だった。 ――――曹操・劉備連合、侵攻の気配有り 「呂布様より伝言です。放課後すぐに集合とのこと。」 「分かった。ご苦労様。」 「はっ。」 伝令が廊下を急いでかけて行った。 「・・・まるで図ったかのようなタイミングね・・・ 密偵でも潜んでいたのかしら・・・。」 高順に少し嫌な予感がよぎった。 放課後、高順が棟長室へ行くと、主だった面々はすでにそろっていた。 「遅かったじゃない。高順が最後なんて珍しいじゃない。」 「申し訳ありません。」 「いいわ、ちょうどこれからだし。陳宮、作戦は?」 この戦闘前の重苦しい中、呂布のみ元気だった。この状況の中、ただ戦闘を楽しもうとするその真意は誰にも分からなかった。 「作戦は特にありません。3階を呂布様と高順に固めてもらい、下の階が敵を押していたら加勢してそのまま突撃してください。もしもの時の為に、私が3階に待機しておきます。2階は、魏続と宋憲、候成に固めてもらいます。貴方たちも同様に、下の階が敵を押しているようならば、呂布様と高順と共に敵へ突撃。その他諸将は、半々に分かれて1階と下丕棟周辺を固めてください。」 「了解しました。」 諸将が指示を受け、部屋を出ようとした時・・・ 「何で私は留守番なの〜?」 呂布が不満を言い始めた。だが、これはいつもの事で、皆少し飽き飽きしていた。 「留守番ではありません。それに、守りの戦いで軽々しく総大将が最前線で戦ってはいけません。もし捕らえられたらどうするのです?」 「大丈夫だって!現に今こうして――」 「駄目です!」 陳宮の睨み付ける様な視線と、周りからの冷たい視線に、呂布は仕方なく作戦を了承した。 「・・・こほん。でわ、皆の武運を祈るよ!」 「はっ!」 皆、勢い良く棟長室を出て行く。いつかのことを忘れようとするかのように・・・ ―――ついに戦闘が始まった。 高順は窓から眺めていたが、外の戦況は明らかに劣勢であった。 廊下を伝令がバタバタと駆けていく。嫌な予感は増すばかりだった。 5時を過ぎた頃に、微かに下の階から騒ぎ声が聞こえた。どうやら1階に侵入されたようだ。 「だらしない、といったら可哀想だけど、これで打って出られなくなったわね・・・」 高順は、伝令の報告を聞きながらつい言葉を漏らしてしまった。 「・・・あの〜、高順様?」 「どうかした?」 「魏続様がお呼びです。何か深刻な顔をしてましたが・・・」 「・・・分かった。すぐ行くわ。」 「では、失礼します!」 深刻な顔?一体何があったのだろうか?高順の不安は頂点に達しようとしていた。 2階へ降りると、騒ぎの声がかなり大きくなった。下は大混戦のようだ。 ふと近くの教室を覗くと、ぼんやりと魏続が窓を眺めていた。 「魏続!何かあったの?」 魏続は、はっとした様子で高順を見ると、 「実は、その・・・」 と、うやむやな返事をした。 「・・・はっきり言ってみなよ。」 こうは言ったものの、正直なところ、自分の方が緊張しているように感じた。 「じゃあ、言うよ・・・けど、その前に・・・!」 ふっと後ろに人の気配を感じた。振り向くと、それは宋憲と候成だった。 「もう、脅かさないでよ〜。」 「脅かしじゃないよ。脅しだよ。」 魏続ははっきりと言い放った。 「脅しって・・・一体何の――」 突然の出来事で、高順は何もできなかった。高順は宋憲と候成に取り押さえられ、手足を縛られていた。 「一体どういうつもり!何故こんなことをっ!!」 「・・・もう、疲れたのよ・・・」 候成は静かに話し出した。 「今までこの軍団が、最強で最高の存在だと信じてきた。だからこそ、ここまで付いてきた。けど、それは違った。本当は・・・本当は、ただ呂布が自分の武をこの学園に見せ付けるだけのものだった!周りのみんなを信用せず、信じるのは自分の武だけなのよ!・・・そんなの、悲しすぎるよ・・・」 候成は泣いていた。高順は、胸が苦しくなった。 「・・・それで・・・ついに、決心が付いたの。」 「決心・・・?」 「そう・・・あなたと陳宮を捕らえて曹操と劉備を引き込む。それで、この戦いも終わりよ・・・」 「・・・」 「でも、あなたも投降するのなら・・・曹操と劉備に会ったときに話してみるわ。」 高順は悩んでいた。自分自身、確かに呂布に疑いを持っていた。だが、ここでその疑いを晴らしてよいものか、と。そして――― 「私は・・・・・・ごめん。投降は、出来ない」 「何故?あんなやつの為に何故!?」 宋憲の目には怒りと共に、涙が光っていた。 「宋憲、落ち着いて。・・・お願い高順、あなたの忠誠は認めるわ。けど、この状況でその選択は・・・」 「ごめんね、魏続。泣かないで。私は・・・たとえあんな人でも・・・好きだった。この軍団が・・・好きだったのよ。この軍団が終わるとき、それは、私の終わるときなの。」 高順もいつの間にか涙が出ていた。 「・・・さあ、陳宮を捕らえて来なさい。終わらせるんでしょ?この、戦いを・・・」 「・・・宋憲、候成、お願い・・・」 宋憲と候成は3階へと上って行った。魏続は2人が陳宮を捕らえてくるまで、ずっと高順のそばで泣いていた。さよならは、お互い言わなかった。
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