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966:海月 亮2006/10/08(日) 00:12
関平と趙累が最期を迎えていた時…それと知らず潘璋はただその光景に言葉を失っていた。
戦闘に入ってから既に十五分余りを経過し、関羽軍団の軍団員はほぼ討ち果たされていたものの…肝心の関羽は討ち取るどころの騒ぎではなかった。

関羽一人をめがけて殺到する少女達の体が、まるで紙吹雪のように吹き飛ばされていく。
それが紙吹雪では断じてない事は、その剣が振るわれる度に飛び散る血飛沫が物語っていた。

それはまさに悪夢のごとき光景だった。


関羽の剛剣が振るわれるたび、少女数人が吹き飛ばされ、その一回ごとに戦闘不能者が生み出されている。
正面に立てばある者は肩を砕かれ、ある者は額を割られ、ある者は血反吐を吐いて悶絶する末路が待っていた。組み付こうとしてもその剛拳で強かに顔面を薙ぎ払われ、強烈な裏蹴りで肘や二の腕を破壊されてしまう。
何時の間にか、関羽の周囲はそうした脱落者ばかりになり始めていた。

「…なんだよ…」
潘璋はその凄惨な光景に、泣き笑いのような表情で呟く。
「こんな…こんな馬鹿な話ってあるかよ…?」
その問いに答えるもののないまま。

「関雲長、覚悟ッ!」
飛んできた怒声に、潘璋は漸く現実に引き戻された。
声の主は蒋欽。吹き飛ばされた生徒達の間を割って飛び込んできた彼女は、握り締めた鉄パイプを関羽の脳天めがけて猛然と振り下ろす。
背後から、人込みに紛れての奇襲。本来ならば、彼女ほどの猛者が好んで使うような戦法ではないはずだ。
だが一方で、蒋欽は己のプライドなどというものがこの戦いに何の利益ももたらさないことをきちんと理解していた。

もっと言えば、ここで関羽を確実にツブせなければ後がないだろうことも。
だからこそ、彼女はこの一瞬の中に総てをかけた。

次の瞬間。

鉄パイプはあらぬ方向を向いていた。
いや、あらぬ方向を向いていたのは、それを持つ蒋欽の左腕そのもの…その肩口に、関羽が振るった剣先が食い込んでいた。
「公奕さんッ!?」
その潘璋の悲鳴が届いていたかどうか。
その身体は大きく宙を舞った。

関羽は、ここまでの間、一度も振り返ることはなかった。


宙を舞うその身体に目を奪われた少女達の動きが一瞬、止まった。だが関羽はそれにさえ目もくれず、なおも眼前にある"敵"を屠りつくすために再度その剣を振り上げた。

「文珪先輩ッ!」

少女の絶叫で我に帰った潘璋は、次の瞬間思いきり地面に叩きつけられた。
いや、どこからか組み付いてきた少女とともに地面を回転しながら受身を取らされた格好だ。
その一瞬、地面に叩きつけられる太刀が見える。恐らく、その少女がいなかったら自分はとっくの昔にその餌食となっていたことは想像に難くない。
「承淵!」
覆いかぶさったその少女からは返事が無い。
恐らくは飛びついた際、同時に地面を振るわせた一撃の生み出した衝撃をもろに受け、意識を飛ばされたのだろう。潘璋はこの少女が身体を盾にしてくれたお陰で、その影響をほとんど受けずに済んだのだ。
その恐ろしい事実は、その切っ先がめり込むどころか文字通り叩き割ってるという凄まじい状況からも理解できた。

関羽は潘璋の姿を認めると、再びその切っ先を天に振りかざした。
彼女は丁奉の襟首を掴むと、横へ飛びのこうとするが…その切っ先の落ちてくる速度のほうがずっと速い。
そして動かない己の脳天めがけ、その剣が振り上げられるのを、潘璋ははっきりと見ていた。
その刃は、まるで総ての命を刈り取る死神の刃のように思えた。


だが、その刃が届くことは無かった。


自分たちと関羽の間に割り込んできたひとつの影が、その剛剣をものともせず、棒のようなもの一本で受け止めていた。
濃紺のバンダナから覗く、白金の髪。
「…これ以上」
言葉を失ったはずの少女が、声を発した。
潘璋はそのこと以上に、その声の主に心当たることにかえって驚愕を隠せなかった。
「これ以上、貴様如きに好きにさせるかぁぁっ!」
かつての孫策直属の側近の一人で、飛び切り不器用な性格の才媛と…目の前の少女のイメージが、潘璋の中でそのときひとつになった。


(続く)
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