★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
223:彩鳳2003/03/06(木) 03:10
并州校区は学園北部のに位置しており、劉備の新野棟並みに辺鄙な校区である。袁紹が華北を
制した際に高幹が校区総代に就任し、それ以来彼女が校区を管理している。
 前年の年末に南皮棟の袁譚を下し、冀州を制した曹操は、年度の始めから李典と学進を派遣して
并州校区の攻略に着手した。
 高幹と生徒会の戦力差は大きい。しかし、高幹には強力な切り札が残されていた。
 その切り札こそ「壺関ロック・ガーデン」(Rock garden=岩が主役の庭園・築山)である。

 岩山で構成されたこの自然公園は登山同好会の上級練習コースとしても使用されており、
屈強な要塞としての高い評価を得ている。高幹はこの公園を決戦場に選択し、地形を駆使しての
防衛戦を目論んだのである。
 
 高幹の判断は正しかった。狭く急な道を登ってくる生徒会の大部隊は、進撃ルートを制限されるが
故に用兵家のタブーである戦力の分散・逐次投入を半ば強制されたのである。
 生徒会勢は狭い道の中でダンゴ状態となり、味方同士で立ち往生しているところへ高幹の手勢から
容赦の無い十字砲火を浴びせかけられた。
 地形が地形だけに、生徒会勢は兵力の優位を生かした車懸かり(連続波状攻撃)戦法や
機動包囲戦法を取る事が出来ない。このため生徒会勢の連日の攻撃はワンパターン化してしまい、
生徒会の手勢は次々と倒れた。
 「ロック・ガーデン」はその前評判を裏切らず、未だに生徒会勢の攻勢を跳ね返し続けている。
 生徒会側も何とかしようと打開策を考えてはいたのだが、その答えはまだ出てきてはいなかった。

 「―――と言う訳で、残念ですが并州攻略の目処は今のところ立っておりません。」

 半ば予想された報告ではあったが、どうしても皆の口から溜息が出てしまう。重い空気の中、曹操が
口を開いた。
 
 「流石は壺関と言うところね。打開策は考えているけど・・・。子孝?壺関では薔苦烈痛弾のみんなに
頑張ってもらうから、そのつもりでいてね。この雪だから今日は無理だけど、雪が消えたら仕掛けるよ。」
 「―――っし!待ってました!! それで、何をすれば良いんだ?」

 曹操が考えていたのは、薔苦烈痛弾の面々による少数精鋭での奇襲作戦だ。先にも述べたが
「ロック・ガーデン」は大人数での戦闘には全く不向きな地形である。ならば、戦闘能力の高い者を
少数差し向けたほうが却ってやりやすいのではないか?と考えたのである。
 口には出さないが、すでに南の荊州・揚州校区の動向に目を向け始めている曹操としては、
ここで時間を取られるわけにはいかない。春休みまでに北方を制し、春休みを南方(特に荊州校区)
制圧のための準備期間に充てたいのが曹操の本音なのだ。

 「要するに殴り込みか! ・・・上等だ・・・!!」

 曹仁の身体から、心なしか激しいものが発せられる。その“気”を受けとめながら、曹操は次々と
指示を出す。

 「曼成と文謙はしばらく休みね。薔苦烈痛弾の皆が動く時は陽動で動いてもらうけど、こっちからは
仕掛けなくて良いよ。
 それから元譲は、南の抑えをお願いね。劉表や長湖部が動くとは考えにくいけど、元譲がいるなら
向こうから仕掛けて来る事は無いと思うから。あ、もちろんだけど北の方が片付くまでは仕掛けちゃ
駄目だよ。」
 「「分かりました。」」
 「了解。任せてもらう。」

 「・・・あの〜・・・私は何をするの?さっきから呼ばれてないけど・・・。」

 口を開いたのは、最後まで呼ばれなかった曹洪だ。参謀の郭嘉もまだ呼ばれていないので

 (最後に呼ばれるからには、きっと大事な仕事を・・・)
 
 と半ば覚悟していたのだ。が、それに反して曹操の言葉は彼女の全く予想しないものであった。
 
 「あっ、ごめ〜ん。子廉の仕事は大事だよ。并州と幽州を取ったら祝勝会を―――」
 「ゲぇッ!!!」

 曹洪の顔が一気に青くなる。そして、彼女に寄せられる同情の眼差し。

 「何よ〜『ゲッ』って。―――祝勝会をやる予定だから、会計係として頑張ってもらうってだけなのに〜。」
 「はぁ・・・新年会の残務処理が終わったばかりなのに・・・。」
 
 ゲンナリする曹洪。一方、それを見ていた夏侯惇や李典の脳裏には、書類の山と格闘する曹洪の
壮絶な姿が思い出されていた。
 冬休み期間中はクリスマス会や忘年会、そして新年会と大きなイベントが連続する。無尽蔵に等しい
資金力を持つ蒼天学園の生徒会ともなれば、その支出は半端ではない。
 増してや、曹操はこういう時はド派手に金を掛けるのだ。

 盛大に行われる大パーティ。そして、パーティにつぎ込んだ金額に比例して増える書類と会計係の仕事。
 
 冬休みが終わってから一気に寄せられてきた書類の山は、さながら霊峰・泰山の様だった。
 書類の山の麓では、曹洪が印を傍らに置きながら、必死の形相でペンを走らせている。

 寝不足気味で赤くなった目、目の下の隈、そして沢山並んだ栄養ドリンクのビン。
 年頃の女子高生のあるべき姿でない事は、誰にも分かるであろう。
 
 「けどさ、あの時は時間も掛かったけど、どうにかなったでしょ?今回は一回だけだからそんな
気にしなくて良いよ。」
 「はは・・・その『一回』が問題なのよ・・・その『一回』が。」
 
 「じゃあ会長、資金調達の方はオレに任せてもらうけど、構わないよな?」
 「うん、そっちは奉公にお任せするから、どんどん稼いじゃってね!」
 「ああ、今度は500円から頑張ってみるよ。どこまで稼げるか・・・オレの腕の振るいどころだ・・・!!」

 半ば放心状態の曹洪を脇に見ながら、郭嘉と曹操が言葉を交わす。思いっきり不謹慎な会話だが、
この生徒会が公認しているので特に問題は無い。 

 「500円って、お前本気か?0が一つ足りないんじゃないか?」
 「いや、奉公さんの事です。多分なんだかんだで大儲け・・・」
 「なんと言うのか・・・よくやるよ・・・」

 いつの間にか、ミーティングはお喋りへと変わってしまった。しかし、誰もそんな事を咎めはしない。
もう先に言うべきことは言ってしまったのだから。

 楽しげに話すその姿は、一般生徒たちのそれと何の変わりも無い。
 身も蓋も無く語り合う少女達の声は、他の生徒たちの声と重なり合い・・・喧騒となって
広い学食を満たしてゆく・・・。
 
 時間は午後の一時を回ったばかり。
 まだしばらくは、この喧騒が続きそうな気配であった。

 ―第三部 END―

 ■作者後記■
 すみませぬ。思ったよりも長くなりました。今のところ、一部と二部を合わせて26kbだったのですが、三部はそれ自体で27kbに達しました。ちょっと余計な話が多かったかも知れません。
 第四部では、いよいよお待ちかね、放課後編となりますので、どうか気長にお付き合い下さい
(m‐‐m) 

 あ、ここだけの話、壺関の攻防戦は信州上田城の真田昌幸の戦い方を参考にしております。 
 (多分気付かれた方も多いのではと・・・汗)
1-AA