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★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
258:★ぐっこ@管理人 2003/04/25(金) 22:11 うほ! 早速新設定投入の岡本作品が! 短編にまとめるのは惜しい舞台ではありますが、新設定のお披露目として、後続作品 や演義で補完するとしましょう! さておき! いきなりの神聖Aカップ同盟設定ワロタ。そこまで由緒正しい組織だったのか…(;´Д`) そして露骨に借り物っぽい演説の袁紹ステキ…♥ 逆に袁術お姉様もカコイイ! すみれ嬢ばりの女傑でございますな…。 あと、カムロじゃない証拠を見せる女子生徒たん萌へ…
259:雪月華 2003/04/27(日) 13:31 広宗の女神 第一部・洛陽狂騒曲 第一章 宿将たち 「…以上の証言、証拠から、盧植の備品横領の罪は明らかである。よって、対黄巾党総司令官職の罷免と二週間の謹慎を申し渡す」 執行部長、張譲の酷薄な声が洛陽棟生徒会室に響く。被告の席に立った盧植は、無駄だとわかりきっているからだろうか、うつむいたまま反論もしない。 何か違うな、と副官として生徒会長、何進の傍らに席を置く、書記長次席・袁紹は思った。 袁紹は公明正大、清廉潔白で知られる盧植を、生徒会の中では誰よりも、いや、蒼天会会長、劉宏よりも尊敬していた。1年生の時は何度か勉強を教わりに行ったことがあるし、生徒会に入って間もない自分の面倒を何かと見てくれたものだった。 対黄巾党総司令官として盧植が黄巾党の本隊600人を正規軍450人でじわじわと圧倒し、250人までその数を減らして黄巾党の本拠地、広宗音楽堂の攻囲に取り掛かったのは昨日のことである。攻囲の陣中に左豊という監査委員がやってきて露骨に賄賂を要求してきた。盧植は「陣中の備品は公のもの。あなたにそれを私物化する権利はありません!」と明言し、左豊を叩き出したのだが、唐突に翌日召還され、この結果である。少し握らせればおとなしく左豊は帰ったのだろうが、盧植にはそれができなかったらしい。 退室を命じられた盧植がうつむいたまま生徒会室を出て行く。今度食事にお誘いしてみようか、そう思ってしまうほど、盧植の背中は袁紹には頼りなく見えた。盧植の退室に続き、後任の総司令選抜の協議が始まった。が、協議とは名ばかりで、執行部、つまり張譲らの一方的な提案を何進がそのまま承認しただけだったが。 選抜された人物の名が、袁紹をますます暗鬱な気分にさせた。 うつむいたまま生徒会室を出た盧植を、皇甫嵩、朱儁、丁原の三人が心配そうに迎えた。三人とも、高等部進級以来の友人同士であり。皇甫嵩と朱儁、丁原と盧植は寮のルームメイトでもある。 皇甫嵩、あだ名は義真。体育委員会所属の格闘技術研究所所長と生徒会執行部員を兼ねる生徒会の重鎮中の重鎮であり、知勇の均衡が取れた生徒会随一の用兵巧者との名が高い。174cmの長身、誇り高い気質と、男性的な言葉遣いとがあいまって、一般生徒からの人望はきわめて高い。生徒会、蒼天会には絶対の忠誠を誓っているが、張譲ら執行部の上層部へは、あまり好意をもっていないようである。 朱儁、あだ名は公偉。皇甫嵩に次ぐ用兵の腕を持つ生徒会の宿将。機動性に富んだ速攻の用兵に定評があり、皇甫嵩を『静』とすれば朱儁は『動』。前髪のひとふさが天を向いて逆立っており、その速攻の用兵とあいまって、好意を持つ者からは「紅の流星」と呼ばれ、悪意ある者からは「シャ○専用」と呼ばれている。成績は中の上。噂好きで口は悪いが、人情家で屈託のない性格のため、あまり他人に恨まれることはない。皇甫嵩とは悪口をたたき合う仲ながら、小等部時代からの無二の親友である。 丁原、あだ名を建陽。匈奴南中学出身で、あの鬼姫・呂布と、後の生徒会五剣士筆頭・張遼の先輩にあたる。4人の中では一番小柄だが、特に武芸を嗜んでいるわけでもないのに、ケンカは一番強い。并州校区総番…もとい総代であり、部下を率いての突撃力は目を見張るものがあるものの、他の三人と違って、学業成績は壊滅的によろしくなく、三年生に進級するために、全教科の補習、追試を受けねばならなかったほどで、すべてを切り抜けることができたのも盧植の「3日連続徹夜猛勉強」によるところが大きい。なぜか近々統合風紀委員長に就任することが内定しており、様々な儀式や雑務のため、ここ数日は洛陽棟に詰めている。盧植とは蒼天学園高等部入学からの親友である。 「しーちゃん(※子幹)…やっぱ、コレ?」 丁原が手刀で首を切るジェスチャーをして尋ねた。 「階級章は何とか無事だけれど、2週間の謹慎よ」 盧植は力なく頷く。謹慎、とはいっても授業には出ることができる。ただ、階級章を剥奪された者と同様に課外活動への参加は厳禁される。言ってみれば、期間を限って「死んで」いることになるのだ。 「自分で自分の首を締めるとはこのことだな。生徒会も、そしておまえ自身も」 「シンちゃん(※義真)、言い過ぎだって!」 「いえ、義真の言うとおりよ建ちゃん(※建陽)。もう少し融通が利いていれば、今日にでも黄巾党を壊滅させえたのに…」 「ああ、惜しいことをした。そう思うよ」 執行部の策謀だな、と皇甫嵩は察した。本来、カリスマ性と集団指揮能力に秀でた皇甫嵩が総司令となり、盧植が参謀としてそれを補佐し、別れた敵に対しては遊撃隊として皇甫嵩に次ぐ指揮能力を持つ朱儁と、突撃力に優れた丁原がそれぞれあたる、というのが生徒会側にとっては最高の布陣であったはずだ。しかし、それでは常々執行部上層部に反感を持っている皇甫嵩ら4人の力が強くなりすぎ、張譲らに都合が悪い。そこで一番武官らしく見えない盧植を総司令とし、その下に皇甫嵩らをつけ、4人の分断を狙ったものだろう。しかし、盧植は意外に将才を発揮し、その配下となった皇甫嵩らも進んで協力したため、戦局が有利に運んだ。そのため執行部は左豊を送り込み、盧植を失脚させたのだろう。目先のことに気を取られて小細工を繰り返し、大局の見えない張譲らが皇甫嵩には腹立たしいかぎりである。 「義真…」 盧植が考え込んでいた皇甫嵩の手を取り、彼女を慌てさせた。 「な、なんだ?」 「後のことはお願いするわ。そして、あの子を、張角を救ってあげて。あの子はとても苦しんでる。私にはわかるの…」 盧植の手に力がこもる。力強くその手を握り返して皇甫嵩は頷いてみせた。 「わかった。この皇甫嵩、必ずこの乱を鎮圧し、あの子を救ってみせる。そう、誓おう」 「ありがとう、義真…」 そこまで言うと、堪えきれなくなったのか、盧植の頬に一筋の涙が光った。 突然、弾かれたように盧植が皇甫嵩の胸に飛び込んできた。 「お、おい、子幹!?」 あまりのことにあわてる皇甫嵩。盧植は答えず、皇甫嵩の胸に顔を埋めたまま、少女のように泣きじゃくっていた。 皇甫嵩はとりあえず、慰めるように盧植のふわふわの髪を優しく撫でた。さわやかなシャンプーの芳香が立ち昇り、皇甫嵩をますます困惑させた。皇甫嵩は学園内の一部腐女子から偏った人気を得ており、よからぬ噂もいろいろあったが、本人はそういうことはいたって苦手な真人間であった。一部の者には感涙ものであるこのシチュエーションも、本人にとっては、ただ迷惑なだけでしかない。 朱儁と丁原が顔を見合わせ、小声でささやきあった。 「あーあ、完全に二人の世界に入っちゃった…」 「マズイよ〜、こーちゃん(※公偉)…ここ結構人通り多いのに…やばっ!あの人達アタイら見てる!」 「えーと、あの、義真、子幹。あたし達これから用事あるから、これで…」 「シンちゃん、しーちゃんを寮まで送っていってあげて。あーそれから、くれぐれも成り行きで変なことしないように!」 「な、何だ!?変なこととは!?」 皇甫嵩は慌てて盧植を引き離す。盧植も我に返って赤面していた。 「じゃあ、ごゆっくり、ご両所」 「鳳儀亭なんか行っちゃダメだよー!」 朱儁と丁原は笑いながら走り去っていった。 「まったく、あいつらは…」 「あの、義真、これから二人で…」 「お、お前まで何を言い出す!私にはそのケはないと常々…」 「そ、そうじゃなくて…」 赤面してうつむいた盧植が消え入りそうな声で誤解を打ち消した。 「これまでのこととか、これからの戦略を引継ぎしたいから、これからファミレスにでも行こうかなと…」 「そ、そうか、そうだな。何を勘違いしたんだろうな、ハハ…」 「…」 「時間は…5時か。ちょっと夕食には早いが、とりあえずピーチガーデンに行くか」 皇甫嵩と盧植はややぎこちなく、連れ立って昇降口へ向かった。
260:雪月華 2003/04/27(日) 13:34 広宗の女神 第一部・洛陽狂騒曲 第二章 トラブル・メイカー 皇甫嵩らが去ってから約10分後、何進ら生徒会の重役達がぞろぞろと生徒会室を出てきた。最後に冴えない表情で袁紹が生徒会室を出てくると、大きく伸びをして、湿って汚れた空気を肺から追い出す。 「ずいぶん浮かない顔してるねぇ、袁紹」 手持ち無沙汰で生徒会室前の掲示板を見ていた大柄な女生徒が、からかうように尋ねた。 文醜。袁紹の入学時からの腹心であり、後日、ナイトマスターと呼ばれることになる勇猛の士である。 猪武者との周囲の評判だが、優れた集団指揮能力と戦術立案能力を有するため、袁紹は重用していた。 袁紹が棟長を勤める汝南で剣道部の指導にあたっている顔良と仲がよく「心の姉妹」の誓いを結んでいるらしい。 「機嫌も悪くなるわ、文醜。自分で望んで入った世界だけど、梅雨時の地下室みたく湿っぽくて汚れていると、いつか自分まで汚染されそうな気がするのよ。こんなことならいっそ…」 「「私が」かい?いずれはそうなるとしても、そこから先をこの場で言うのは危険すぎるよ」 軽く文醜が嗜めた時、 「あっ!本初ー!」 快活な声が廊下の奥から響いてきた。誰かな、と思ったがすぐにわかった。自分を本初と呼び捨てる人間はいまのところ校内に一人しかいない。 声のした方から軽快な足取りで小柄な少女が走ってきた。曹操、あだ名を孟徳。袁紹よりひとつ下の幼馴染であり、つい最近、袁紹の推薦で生徒会書記、騎隊長に任じられている。先の頴川における野戦では派手な戦功もたてていた。 「何の用…あっ!?」 駆け寄ってきた曹操はそのまま袁紹の胸に飛び込んできた。あまりのことに文醜も唖然とし、とっさに動けないでいる。 「ちょ、ちょっと孟徳!いきなり何するのよ!」 「だって、本初っていつもいい香りするんだもの。う〜ん、高貴な香…今日はジャスミンかな?」 「そんなことはいいから早く離れて!恥ずかしいでしょ!」 「…87、いや、88!また大きくなってる…この牛乳女!」 「な!!…」 ズバリと当てられ、耳まで真っ赤になる袁紹。曹操の数ある特技の一つである。抱きつくだけで胸の大きさわかるのだ。確度は99%(自称)であり、荀掾A張遼、関羽らの他、数十人がその被害に遭っている。3年生になってからは不思議とやらなくなったが、その理由は「狼顧の相」状態の司馬懿に試みてトラウマになったからだといわれているが、真偽は定かではない。 「お馬鹿ッ!」 「遅いよっ!」 横薙ぎの平手打ちを、曹操は跳び退って難なくかわした。踏み込みと共に襲い掛かる返しの平手も軽く屈んでかわす。燕が身を翻すように反転して駆け出そうとしたとき、素早く回り込んだ文醜が両手を広げて立ち塞がった。 「ここは通さ…あっ!」 サッカーのスライディングの要領で、曹操は文醜のわきの下をくぐりぬけた。さらに、立ち上がりざま片手を跳ね上げ、文醜のスカートを思い切りめくり上げる。 「わっ!」 「あれ残念、スパッツか。相変わらず色気「ゼロ」ですね〜。文醜先輩?」 「き、貴様ぁ〜!!」 ことさらに「ゼロ」を強調され、激怒した文醜は、笑いながら逃げ出した曹操を追いかけようとしたが、袁紹の笑い声が、それを押し止めた。 「…笑わないでよ。ま、元気になったようで良かったけどね」 「ええ。あの子を見てるとなんだか楽しくて」 「無礼だけど、不思議な奴だね」 「そういえば…何の用だったのかしら?」 疑問がわきあがり、袁紹は軽く首をかしげた。 昇降口を走り出た曹操は、一台のバイクと、その傍らに立つ女生徒を見つけ、駆け寄った。 「やっほー、妙才、みんなは?」 「惇姉は礁棟で剣道部の練習。子孝は相変わらずパラリラやってるし、子廉は相変わらず取り巻きと一緒に闇マーケットに入り浸ってるわね」 「いつもどおりってことね」 「そろそろ風紀も集団で駆けつけてくるから…って、孟徳、さっきから何見てるの」 「さっきの生徒会幹部会の議事録」 「幹部会って、あんた、確かまだ下っ端じゃ…」 「さっき本初からスってきたのよ」 「そんなもの、何に使うのよ?」 「近代戦の基本は情報だよっ!正確で有為な情報をなるべく早く入手すればそれだけ今後の戦略が組みやすくなるの!」 「戦略…ねぇ」 「なにせアタシの学園生活の目標は『目指せ!蒼天会会長!』だからね。時間を無駄にしてる暇は無いのよ」 「今、何かとんでもないこと口にしなかった?」 「気のせい気のせい…さて、そろそろかな?」 「え?」 曹操がファイルに目を通していると、校舎の奥から絹を裂くような悲鳴が聞こえてきた。周囲にいた生徒達が、何事かと校舎の奥を見やる。 「さっすがお嬢様。悲鳴もお上品であらせられること」 「…孟徳、あんた、袁紹先輩に何をしたのよ?」 「別れ際にスカートのホックとファスナーに細工をね。40歩くらい歩くと自然にスカートがストーンと落っこちる仕掛けだから、誰がやったのかはわからないよ。本初ってば、今日は珍しくパンストはいてなかったからすごいことに…」 「孟徳ーーーーーーーッ!!!!」 校舎の奥のほうで怒りに燃えた叫びが轟いた。雷喝、というべきで、様子をうかがっていた生徒たちが思わず一歩跳び退くほどの怒りがこもっていた。 「『怒声もお上品』ってとこかしらね?ところで、あっさりバレてるみたいだけど?」 「そーだね。じゃ、礁まで逃げるよ。あっ!田豊せんぱーい。これ本初に返しといてくださーい!」 偶然、近くにいた袁紹の腹心、田豊にスってきたファイルを投げ渡すと、夏侯淵に渡された半球型のヘルメットを素早く被り、バイクの後部座席に身軽に跨る。夏侯淵はすでにフルフェイスヘルを被り、エンジンを始動させていた。 「待ちなさい!孟徳ーッ!!」 「そこのバイク!止まれー!」 腰のあたりを押さえた袁紹と風紀委員一個小隊がそれぞれの目的で昇降口を走り出てきた。だが、時すでに遅く、後輪を派手にスピンさせてバイクが走り出しており、どちらもその目的を果たすことはできなかった。 「アディオス・アミーゴ(※さらば我が友)、キャハハハハ!」 「孟徳ーッ!おぼえてなさいよーッ!」 曹操の高らかな哄笑に袁紹の無念の絶叫が重なる。黄巾の乱の最中だが洛陽棟は騒々しくも平和のようだった。 1−1 >>259
261:雪月華 2003/04/27(日) 13:44 岡本様の力作に続くことになって恐縮ですが、以前ちょっと話題にした歌合戦SSです。といっても前フリですが。 実を言うと、全部できてます(^^;。歌合戦より、皇甫嵩がメインですが… 皇甫嵩。横光では登場1コマ、白目、台詞なしと、部下の雛靖よりひどい扱いですが、後漢書ではやたらカコイイエピソードが目立ちます(なにか高順と似てる)。 まあ、劉備や呂布とほとんど関わっていないので演義では目立たないのも無理ありませんが… 残りは、空気を読みまして追々…
262:★ぐっこ@管理人 2003/04/27(日) 17:21 あいっ! 拝読いたしました! あははは、雪月華さま、うまいっ! 皇甫、朱、盧、丁の4先輩たちといい、彼女らより格下とはいえめきめき 頭角を現している袁紹と言い… その袁紹と曹操のフランクで油断も隙もない関係がまた(;´Д`)ハァハァ… ていうか今回のお話は、お嬢様袁紹たんに存分に萌えますた…! 88!? …となると袁術たんは87か…? 文醜も何だかんだでイイ(・∀・)! このテンション好きだな〜 自作期待! って既に完成…!? 皇甫嵩ですか〜。楽しみ〜!
263:アサハル 2003/05/01(木) 01:07 何よりも「シoア専用」で大ウケした私を許して下さい。 そしてうっかり文醜に萌えた私を許(ry 袁紹&曹操と愉快な仲間達(違)もさることながら やっぱり生徒会カルテットの連帯が大好きです。 盧植たんもちゃんと女の子だったんだな…とか思ったり。 同じく、続きが楽しみであります!!
264:★玉川雄一 2003/05/03(土) 21:39 少々(かなり)長くなりますがこちらに投下します。 分かる人(岡本さんなら…)には分かりますが、 ネタをまんまパクってあるので演義扱いということでよろしこ。
265:★玉川雄一 2003/05/03(土) 21:41 ▲△ 震える山(前編) △▲ 雍州校区の西の端、狄道棟。 棟長・李簡の帰宅部連合への内応に端を発した姜維四度目の北伐は、数で優る生徒会の反攻に遭いまたも頓挫。狄道棟一帯は雍州校区総代・郭淮の動員した生徒会実動部隊の重囲下に置かれていた。ここ数日は一般生徒に限って臨時休校となるほどの有様であり、帰宅部連合の立て籠もる棟内への突破口を開くべく生徒会勢の攻勢が開始されていたのだった。 「第11小隊突撃開始! 第21、24小隊は後方で待機せよ!」 バリケードで固められた正門を避け、裏門あるいは塀からの突入を図るべく生徒会勢が取り付く。後方からは支援射撃も行われているが、対する棟内からの応戦は至って僅かであり、戦力を既に喪失しているか、あるいはいまだ温存しているかのどちらにせよ大勢はあらかた決しているはずだった。そのことが油断を誘ったわけでもないのだろうが… 「う、わっ、きゃああああああッ!」 「ど、どうした− ああッ!」 突如矢のように躍りかかった人影から発せられたサバイバルゲーム用ゴム製ナイフによる斬撃で、二人の女生徒が倒れ伏した。思いも寄らぬ白兵による反撃に生徒会勢は混乱し、隊列が崩れる。ようやく後方からの支援班が射線を移し始めたが、この地方独特の複雑な地形を縫うように駆けてゆくその人影に追随しきれず空しく地面に、あるいは壁にペイント弾の染みを作るだけだった。それどころかその人影から打ち出されたエアガンの弾は恐るべき精度で生徒会勢にヒットしてゆく。狄道棟裏門付近を文字通り飛ぶように走り回り、生徒会の前進部隊をひとしきりかき回して潰走に追い込んだ少女は引き上げざまに振り向くと、苦々しげにつぶやいた。 「フラットランダーが、生徒会にも山岳部隊はいるだろうに…」 汗をひと拭いして、歓喜の声に迎えられながら棟内に姿を消した少女の名は張嶷、字を伯岐。帰宅部連合の盪寇主将を務める、いまや残り少ない武闘派の筆頭格である。 それまで南中校区越スイ棟長を長らく務めてきた張嶷は、帰宅部連合総帥代行・姜維の要請に応じて今回の北伐に随行していた。利あらずして窮地に立たされたものの、南中校区で一癖も二癖もある女生徒達と渡り合ってきた彼女は今なお戦意旺盛であり、姜維らが狄道棟からの脱出策を練る間に生徒会勢の攻勢を撃退したことで他の部員達もいくらか士気を取り戻すことができたのだった。だが、数に優る生徒会側がいつ総攻撃に訴えるとしても不思議はなく、益州校区への帰還は半ば絶望視されてさえいたのである。 棟内に引き上げた張嶷がクールダウンを終えて一息ついていたところへ姜維がふらりと現れた。他の部員達は皆それぞれに用事があるのだろう、辺りに二人以外の人影は見えなかった。 「お疲れさま。噂に聞いた以上の実力じゃない。惜しいわね、貴女をもっと早く招いていれば−」 「いや、私は南中での仕事が気に入っているよ。こんなのは性に合わないな」 姜維は苦笑した。性に合わぬと言いながらも遠征随行の要請は請けてくれた上にこの戦果である。それに噂に聞いたところでは元々彼女が名を知られるようになったきっかけはといえば、劉備が益州校区入りを果たした際のどさくさで彼女が本籍を置いていた南充棟が蜂起した反対派の手に落ちた際、単身乗り込んで副棟長を救出したからだという。その度胸を買われて抜擢され、反覆常ならぬ南中校区を剛柔両面を駆使して巧みに治めてきたその手腕は帰宅部連合の中でも抜きん出ていた。だが何故、彼女は北伐への随行を承諾したのだろうか… 「さあ、ね… ただ、引退するまでにもう一暴れしておきたかったのかもしれない。 …はは、結局はそういうことなのかな」 そう言うと張嶷は少し照れたような顔で笑って見せた。その顔を見て、姜維もどこか安心できたような心地がしたのである。 −すると、張嶷がやおら立ち上がると軽くジャンプを繰り返し、腕を二、三回クルクルと回して体をほぐすと姜維に向かった。 「さてと、それじゃ、出るか…」 「ええっ!? 貴女、どうするつもりよ」 「退路は私が開く。アンタは全員を連れて脱出するんだ」 そう言うと、腰に差したゴム製ナイフを取り出し軽く振るうと、肩から下げたエアガンの動作を確認し、予備弾倉のチェックを始めた。 「そんな、まさか一人で… 無茶だ!」 だが張嶷はその言葉を遮る。姜維に向けた瞳には決意の光を宿していた。 「私に任せろ。この狄道の山、南中の奇峰に比べればどうということはない。それに、あれも役に立つ」 そういうと窓の外を指差す。校庭には部員達が構築したバリケードがさながら迷路の様相を呈していた。なおも不安の色を隠せない姜維に向かい張嶷は言葉を継ぐ。 「蒼天学園での3年間の価値は、何をなしたかで決まる。アンタの役目は連合を導くために戦うこと、私はそれを助けることが今の役目だ」 そう言うと、もはや議論は不要と背を向けて歩き出す。姜維は呼び止めようと一旦は伸ばした手を、胸の前できつく握りしめた。 「止めることなんて、できない……」 何かを思いきるようにギュッと目を閉じ、しばらく後に開く。張嶷の背中は、もう届かないほどに遠ざかっていた。 「伯岐にもしもの事があったら、私のせいか… その時には、一人でいかせはしない……ッ!」 姜維もまた己の責務を果たすべく立ち上がると、振り返ることなく歩き出した。彼女には、導かねばならぬ仲間がいる。
266:雪月華 2003/05/03(土) 22:26 広宗の女神 第一部・洛陽狂騒曲 第三章 優しいヒト 全国の中規模以上の都市に、一軒は必ずある、大手ファミリーレストランチェーン「ピーチガーデン」。後日、劉備三姉妹の結義の場として、幽州校区店は、味やサービスとは無関係なところで、人気を得ることになり、それに便乗して、当日三姉妹が頼んだメニューが「桃園結義セット」とされ、おおいに話題を呼んだが、季節ごとにメニューの組み合わせが変わるため、本当に劉備三姉妹の頼んだものであるかどうかは、怪しいものであった。 客層の99.99%が女子高生であるため、通常にメニューに加え、サラダ系のダイエットメニューやデザートの種類が通常の店舗より豊富である。客層をかんがみてか、オーダーストップは午後八時半と早めで、午後十時には閉店となる。 皇甫嵩と盧植が司州回廊店に入ったときは、5時過ぎという時間帯のためか、あまり客は多くなく、奥の日当たりのいい席に、二人は向かい合って座ることができた。 まだ夕食には早いが、皇甫嵩は、数種類のパンとロールキャベツ、ザッハトルテ、アイスココアを。盧植はエビピラフといちごのタルト、エスプレッソ・コーヒーを注文する。 50分後、食欲を満足させ、取り留めの無い雑談を一区切りさせると、盧植は手提げカバンから数冊のファイルを取り出し、テーブルの上に広げた。すでに食器は片付けられている。 「随分、びっしりと書き込んであるな」 「文字は手書きが一番よ。なまじワープロを使っていると、読みはできても実際に漢字を書けなくなるから。それに、手書きに勝る暗記方法があれば教えてもらいたいものだわ」 「同感だな」 近視用の眼鏡をかけた盧植がこれまでの経過の説明を始めた。皇甫嵩も眼鏡を取り出して装着する。 二人とも、普段は眼鏡をかけてはいないが、授業中や読書の時には、少し度の入った眼鏡をかける。とくに盧植の文字は綺麗で細かい。罫線も引かれていない紙に、少しのずれも歪みも無しに、書き込むことができるのだ。 眼鏡をかけると、盧植は、より優しそうに見えるのだが、皇甫嵩はその逆できつめの顔がよりいっそうきつく見えてしまう。さながら頑迷な女教師のようであり、皇甫嵩も密かにそれを気にしていた。 傍から見れば、仲のいい優等生同士の勉強会に見えるだろう。実際、二人とも3年生では、トップクラスの秀才ではある。しかし、話し合われている内容は、数学や物理ではなく、各校区の黄巾党の動き、戦場に適した地形とその利用法、敵味方の主だった者の緻密な情報、「後方」への対策etc…etc…およそ女子高生同士の会話とは思えない内容である。これも、武と覇を実地で学ぶ、蒼天学園ならではであろう。 手書きの地図やグラフなども交えて、盧植が説明し、時折、皇甫嵩が質問をする。わかり易く筋道を立てて盧植が答え、皇甫嵩が頷き、分厚いノートにメモを取る。一通り終わったとき、すでにとっぷりと日は暮れており、時計の針は八時半を指していた。 「これまでの経過を聞くと、作戦自体は成功しているが、思ったように隊伍を動かせずに後手後手に回っていることが多いようだな」 「私は作戦立案や情報収集、分析は得意だけど、実際に他人に命令するのが苦手なの。義真がいればと、何度思ったことかしら」 「それは光栄なことだな。場合によっては、飛ばされて来いも同然のことを、部下に言わなければならないのも、将たる者のつらいところだ。ま、お前は優しすぎるからな、なかなか部下にきついことも言えないのだろう」 皇甫嵩はわずかに身じろぎし、すらりとした長い足を組み替えると、やや照れたように付け加える。 「それが、お前のいいところでもあるのだがな…」 「ふふ、ありがと。でもね、私は学業でも、戦略戦術でもあなたに負けない自信はあるのだけど…」 「随分とまた、はっきり言ってくれるものだな」 傷ついたように横を向いた皇甫嵩に、盧植がいたずらっぽく微笑みかけた。 「そう不貞腐れないで。それでね、あなたにどうしても勝てないことが3つあるの」 「伺おうか」 「第一に、実際に部下を指揮したときの動きの機敏さ。第二に自然に敬意を寄せられるカリスマ性。そして…」 「そして?」 「その優しさよ」 しばらく、二人の間を沈黙の神が支配した。ややあって、皇甫嵩が照れ隠しに硬い笑いを浮かべて口を開く。 「何を言うかと思えば…『鬼軍曹』と呼ばれたこともあるのだぞ?私は」 「あなたが部下に対して厳しくするのは、本当に大事に思うからでしょう?」 「厳しくしなければ、集団の規律が乱れる。規律の乱れた集団が真の意味で勝利を収めた例は、歴史上まず無いからな」 「厳しいだけだったら、一段高いところから、ああしろこうしろ命令するだけでしょう?あなたはいつもみんなと苦労を分かち合っているじゃない」 「遠くから見るだけでは小さなほころびを見逃してしまう。それに、部下と苦労を分かち合うのは将たる者の最低限の義務だ」 盧植は、さも可笑しそうに低い笑い声を立て、皇甫嵩は怪訝な顔で彼女を見やった。盧植は、友人として得がたい存在なのだが、思わせぶりな言動と態度で、他人を揶揄する癖はどうにかならないものかと、皇甫嵩は思った。 「ふふ…やっぱり評判どおりね。義真って」 「評判?どんな」 「見た目はキツそうでとっつきにくいけど、その実、愛情深く、慎重で、生真面目。人の上に立つ者がどうあるべきか心得ていて、常に、そうあろうと振舞う。下級生はみんな、義真を尊敬しているわ。悪く言うのは張譲たちくらいのものよ」 皇甫嵩は、やや呆然としていたが、我に返ると、無理矢理しかめつらしい表情を作ってみせた。 「…面と向かって褒めないでくれ。つい増長してしまうじゃないか」 「はいはい。あ、もうこんな時間。建ちゃんが、ある意味心配するからそろそろ切り上げましょう?」 「そうするか」 盧植は机の上のファイルを片付け始めた。皇甫嵩も、ノートを閉じてショルダーバッグにしまう。 「義真、寮まで送っていってくれる?」 「ああ、いいとも」 「そのさりげない優しさが、あなたのいいところよ」 「…やっぱり一人で帰れ!」 「あらあら、心にも無いことを言うのね。さては義真、照れてるのね?」 「誰が照れるか!」 やや乱暴に伝票を掴んで、皇甫嵩は椅子から立ち上がった。だが、それはどう見ても照れ隠しでしかなかった。 「あっ、義真。こんな遅くまで何やってたのよーっ!まさか…不純、不純よっ!」 「不純が服を着込んだような奴に言われたくないな」 盧植を寮の「玄関」まで送り届け、別の棟の自分の部屋に戻った皇甫嵩を、朱儁の軽口が迎えた。時刻はすでに九時を過ぎている。 「がっかりさせてすまないが、何もやましい事はしていない」 「ホントー?ま、そういうことにしとくわね。あれ?義真、そのネックレスどうしたの?」 皇甫嵩の胸にシンプルなデザインのロザリオが光っており、それは細い銀色のチェーンに繋がっていた。気づいた皇甫嵩が、慌ててブラウスの内側にしまいこんだ。 「ん、ああ、これか?…別れ際に子幹から預かった物だ…公偉、何をニヤニヤしている?」 「愛のしるしってやつ?」 「世迷言を。もともとは私が子幹に贈った物だ」 「やっぱり…」 「邪推するな。総司令就任の祝いとしてだ」 「お気の毒に、気に入らないから、つき返されたのね?」 「いいかげんに恋だの愛だのといった話題から離れてくれ。司令官職の引継ぎの証だそうだ。まあ、あの金モールのついた悪趣味な腕章よりは、よほど気分が引き締まるというものだな」 無論、それだけではない。参謀として同行できない自分の、せめてもの「代理」だそうだ。だがそれを話せば、余計な誤解を招くことになる。特に、この噂好きの朱儁に対しては… 「後任の総司令の発表がある、明日の放課後を楽しみに、ってやつね。あ、それから義真」 「何だ?」 「いつまで眼鏡かけてるの?」 そのときになって、皇甫嵩はファミレスからずっと、眼鏡をかけっぱなしだったことに気がついた。 1−1 >>259 ・1−2 >>260
267:雪月華 2003/05/03(土) 22:32 広宗の女神 第一部・洛陽狂騒曲 第四章 青空の下の憂鬱 ──2日後の昼休み 洛陽棟屋上にて 六月半ばの梅雨どきにしては、奇妙に晴れた日がここ数日続いていた。気温はすでに七月半ばと同様であり、衣替え宣言は、まだ出ていないが、気の早い生徒が、すでに半袖のブラウスを着用している姿を、ちらほら見かけることができる。 生徒数、三学年あわせて一万人弱を誇る洛陽棟は、蒼天学園の中枢ということもあって、学園中で一番大規模な建築物である。通常の棟の約30倍の敷地を有し、屋上からの眺めは、後漢市でも五指に入る。 屋上は、洛陽棟に籍を置く生徒達の憩いの場であり、基本的に一日中、出入りは自由であるので、昼休みを利用して、ビーチバレーやバトミントン、バスケに興じる者や、所々に置かれたベンチで昼食をとる者、滅多に居ないが、授業を抜け出して昼寝を楽しむ、不届き者の姿も見られる。 その一角に、日除けのついたベンチのひとつを占領して、昼食をとる皇甫嵩、朱儁、丁原の姿があった。三人とも、どうにも隠しようもない仏頂面をしている。その原因は、昨日の放課後発表された、盧植の後任の人事にあった。ややあって、ベンチから立ち上がった丁原が、鉄柵を蹴りつけて喚いた。 「あったま来るな!もー!」 「よりによって子幹の後任があの董卓だなんて、下馬評では義真が最有力だったのにね」 「人事の決定権は、事実上、張譲ら十常侍にある。まめに金をくれる董卓と、一円も寄付していない私と、どちらを選ぶか、明白だろう。それに私は張譲に嫌われている。もっとも、無理に仲直りをしようとは思っていないが」 「そういえば、この間、趙忠の備品購入費のピンハネ、暴いたばっかりだしね」 「張譲発案の執行部協力費、五万円の集金も「執行部の規約に明記されていない」って言って、平然と無視してるし」 「今に始まったことではない」 BLTサンドをコーヒー牛乳で胃に流し込むと、皇甫嵩は人の悪い笑みを浮かべた。 1年生の頃、蒼天会会長直々の招聘で学園評議会議員に就任してから、上層部の汚職や無法な集金を皇甫嵩は弾劾し続けている。彼女が蒼天会会長に宛てた「上奏」は三年間で500通を超えており、その結果、張譲らも幾度か譴責処分を受けているため、皇甫嵩を逆恨みする始末である。そのため、一般生徒からの受けは極めてよいが、反対に執行部上層部からの心証は壊滅的に良くない。 さらに皇甫嵩は、黄巾事件勃発の際、張譲らの「党箇」で解散させられた優等生組織「清流会」が、黄巾党にシンパシーを抱き、協力することを警戒し、霊サマに、「党箇」を解いて清流会を復活させるべし、と上奏して、それを実現させている。そのため、まったく意外な形で清流会の支持をも得ることになり、張譲らの逆恨みも、それに比例して増加の一途を辿っている。 結果、洛陽棟内外に「皇甫嵩を執行部長に」という声も高く、張譲らにとって、皇甫嵩は二重三重に気の抜けない、いまいましい「競争相手」なのである。もっとも、さほど出世や権力に、興味の無い皇甫嵩にとって、張譲などに競争相手に擬せられるのは、不本意と迷惑の極みでしかなかったが。 「高い地位にある者が権力を濫用して不正を働いても、それを公然と非難できないことを体制の腐敗というんだ。だから私は日々、偽善者だのチクり屋だのいう陰口を甘受しつつ、上奏を続けている。もっとも、残念ながら周囲は腐敗しはじめているようだが…」 「ホントだよねー。前の執行部長で蒼天通信編集長も兼ねてた陳蕃サンが、党箇で飛ばされてから、蒼天通信も、すっかり御用新聞に成り下がっちゃって。生徒会の公表を過剰に装飾して発表するだけで、その裏面のことなんて考えもしないし。ジャーナリスト精神も何もあったものじゃないよねー」 「ありゃ単なる紙資源の無駄遣いだよ」 「建陽の場合は、読めない漢字が多いから、余計に読みたくなくなるんだよね?」 「そうそう…って、こーちゃん。アタイのことバカにしてない?」 「この間、月極を「げっきょく」、給湯を「きゅうゆ」と読んだだろう?社会に出てから困ることになるぞ」 「うぐぐ…意味が通じれば、いいんだって!」 朱儁と丁原はすでに半袖のブラウスを着用している。皇甫嵩は生真面目にブレザーを着込んでいるが、その下はやはり半袖のブラウスである。夕方、急に冷え込むことを警戒しているのだが、素肌にブレザーの裏地が心地いいというささやかな楽しみもあるのだ。 「さっきから随分落ち着いてるけど、義真。総司令の人事、怒ってないの?」 「さあな、なにか、こうシラけてしまってな。例えていうなら、前日必死で勉強したテストが延期になった気分だ」 「あっ、それわかる。なんとなくほっとするんだけど、何の解決にもなってないから余計イラつくんだよねー」 「ま、何にせよ、董卓がうまくやれるわけないよ。すぐシンちゃんに出番が回ってくるって!」 「それはどうかなー?董卓以外にも献金がまめな奴はごまんといるよ?」 「奴らがすべて飛ばされるのを待つしかないか…」 「シンちゃんってば、随分と極悪非道なことを言うんだね」 「悪いか?それはともかく、建陽。いつまで洛陽棟に居られるんだ?」 「就任の儀式練習や手続きにあと二日ぐらいかかりそうでさ、まったく、いろいろ無駄が多いんだよね。正直言うとさ、早く并州校区に帰りたいんだよ。そりゃ、シンちゃん達と一緒に居られるのは嬉しいんだけどさ…」 丁原は、深く深くため息をついた。 「青い草の海…それを渡ってくる甘い風、授業サボって昼寝するには最適な気温と湿度!匈奴高や鮮卑高といった、ケンカの相手には年中事欠かない!!并州校区は、冬は寒いけど、夏が涼しいから、これからがいい季節なのにー!何でこんな、真夏でもジメジメと蒸し暑い、ろくでもない校区に詰めなきゃならないんだっ!!?」 「田舎の番長か、お前は」 「并州校区を田舎って言うなーっ!…そりゃ確かに、校舎は昭和初期に建てられた木造だし、冷房なんて当然無いし…正直言うとさ、こっち来て、ちょっと面食らってるんだよね」 「大丈夫よ。建陽の野生動物並の適応力があれば、校舎にも仕事にもすぐに慣れるから」 「蒼天風紀委員長か…アタイが自分でいうのもなんだけど、あんな皇宮警察みたいな仕事、ガラじゃないんだよね」 唐突に、丁原は左手のヤキソバパンを前に突き出し、あのポーズをとった。 「スケ番まで張ったアタイが何の因果か落ちぶれて、今じゃマッポの手先…」 「似てる似てないは置くとして、たしかにガラじゃないようだな」 「どっちかと言うと、建陽は追っかけるより、追いかけられるほうが似合ってるし」 「そうそう…って、二人とも重ね重ねバカにするなーッ!」 「どうどう、落ち着け」 「アタイは馬か!?」 「まあ、それはおいといて…」 大きなメロンパンの最後のひとかけを飲み込んだ朱儁がやや強引に話を変える。 「私たちの敬愛する新司令官殿は今日、自分の部下100人に子幹の率いてた450人を加えた550人で広宗を攻めるそうよ。董卓からは張宝、張梁に備えて待機って命令来てたけど、二人とも先日の大負けですぐには動けないから、部下は雛靖に任せてさ、視察って名目で見物に行かない?」 「賛成。涼州校区総代の用兵手腕を見せてもらおうか」 「アタイはパス。并州校区のことや委員長就任の事でいろいろ面倒な事があるから」 「それは残念。総代も大変だな。ところで…」 飲み終わったコーヒー牛乳の紙パックを、くずかごに放ると、皇甫嵩が座りなおして丁原を見つめた。 「子幹の具合はどうだ?」 「やっぱ気になる?シンちゃん?」 「邪推する者が、そこにいるから付け加えるが、友人としてだ」 「はっきり言うと、良くない。熱は高いし、食欲はないし…」 解任直後、盧植は過労から夏風邪を引きこんでしまい、授業にも出れない有様だった。 「しーちゃん、毎日、3時間しか寝てなかったから…」 「子幹は気になることがあると眠れない体質だったからね、昔から」 「高い地位にある者は、それだけ地位に応じた責任を抱え込まねばならない。ある程度のところで「何とかなる」と割り切れればいいんだが、子幹はそれができるほど、横着ではなかったということだな」 「誰でも他人のことはよくわかるものよねー?」 「…どういう意味だ?公偉」 「ま、ま、二人とも、おさえておさえて」 そのとき、授業開始5分前を告げる予鈴が鳴り響き、慌しく3人は別れた。洛陽棟は、ただでさえ広いので、この場から教室まで相当急がなければ、始業ベルに間に合わないのである。 1−1 >>259 ・1−2 >>260・1−3 >>266
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