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260:雪月華 2003/04/27(日) 13:34 広宗の女神 第一部・洛陽狂騒曲 第二章 トラブル・メイカー 皇甫嵩らが去ってから約10分後、何進ら生徒会の重役達がぞろぞろと生徒会室を出てきた。最後に冴えない表情で袁紹が生徒会室を出てくると、大きく伸びをして、湿って汚れた空気を肺から追い出す。 「ずいぶん浮かない顔してるねぇ、袁紹」 手持ち無沙汰で生徒会室前の掲示板を見ていた大柄な女生徒が、からかうように尋ねた。 文醜。袁紹の入学時からの腹心であり、後日、ナイトマスターと呼ばれることになる勇猛の士である。 猪武者との周囲の評判だが、優れた集団指揮能力と戦術立案能力を有するため、袁紹は重用していた。 袁紹が棟長を勤める汝南で剣道部の指導にあたっている顔良と仲がよく「心の姉妹」の誓いを結んでいるらしい。 「機嫌も悪くなるわ、文醜。自分で望んで入った世界だけど、梅雨時の地下室みたく湿っぽくて汚れていると、いつか自分まで汚染されそうな気がするのよ。こんなことならいっそ…」 「「私が」かい?いずれはそうなるとしても、そこから先をこの場で言うのは危険すぎるよ」 軽く文醜が嗜めた時、 「あっ!本初ー!」 快活な声が廊下の奥から響いてきた。誰かな、と思ったがすぐにわかった。自分を本初と呼び捨てる人間はいまのところ校内に一人しかいない。 声のした方から軽快な足取りで小柄な少女が走ってきた。曹操、あだ名を孟徳。袁紹よりひとつ下の幼馴染であり、つい最近、袁紹の推薦で生徒会書記、騎隊長に任じられている。先の頴川における野戦では派手な戦功もたてていた。 「何の用…あっ!?」 駆け寄ってきた曹操はそのまま袁紹の胸に飛び込んできた。あまりのことに文醜も唖然とし、とっさに動けないでいる。 「ちょ、ちょっと孟徳!いきなり何するのよ!」 「だって、本初っていつもいい香りするんだもの。う〜ん、高貴な香…今日はジャスミンかな?」 「そんなことはいいから早く離れて!恥ずかしいでしょ!」 「…87、いや、88!また大きくなってる…この牛乳女!」 「な!!…」 ズバリと当てられ、耳まで真っ赤になる袁紹。曹操の数ある特技の一つである。抱きつくだけで胸の大きさわかるのだ。確度は99%(自称)であり、荀掾A張遼、関羽らの他、数十人がその被害に遭っている。3年生になってからは不思議とやらなくなったが、その理由は「狼顧の相」状態の司馬懿に試みてトラウマになったからだといわれているが、真偽は定かではない。 「お馬鹿ッ!」 「遅いよっ!」 横薙ぎの平手打ちを、曹操は跳び退って難なくかわした。踏み込みと共に襲い掛かる返しの平手も軽く屈んでかわす。燕が身を翻すように反転して駆け出そうとしたとき、素早く回り込んだ文醜が両手を広げて立ち塞がった。 「ここは通さ…あっ!」 サッカーのスライディングの要領で、曹操は文醜のわきの下をくぐりぬけた。さらに、立ち上がりざま片手を跳ね上げ、文醜のスカートを思い切りめくり上げる。 「わっ!」 「あれ残念、スパッツか。相変わらず色気「ゼロ」ですね〜。文醜先輩?」 「き、貴様ぁ〜!!」 ことさらに「ゼロ」を強調され、激怒した文醜は、笑いながら逃げ出した曹操を追いかけようとしたが、袁紹の笑い声が、それを押し止めた。 「…笑わないでよ。ま、元気になったようで良かったけどね」 「ええ。あの子を見てるとなんだか楽しくて」 「無礼だけど、不思議な奴だね」 「そういえば…何の用だったのかしら?」 疑問がわきあがり、袁紹は軽く首をかしげた。 昇降口を走り出た曹操は、一台のバイクと、その傍らに立つ女生徒を見つけ、駆け寄った。 「やっほー、妙才、みんなは?」 「惇姉は礁棟で剣道部の練習。子孝は相変わらずパラリラやってるし、子廉は相変わらず取り巻きと一緒に闇マーケットに入り浸ってるわね」 「いつもどおりってことね」 「そろそろ風紀も集団で駆けつけてくるから…って、孟徳、さっきから何見てるの」 「さっきの生徒会幹部会の議事録」 「幹部会って、あんた、確かまだ下っ端じゃ…」 「さっき本初からスってきたのよ」 「そんなもの、何に使うのよ?」 「近代戦の基本は情報だよっ!正確で有為な情報をなるべく早く入手すればそれだけ今後の戦略が組みやすくなるの!」 「戦略…ねぇ」 「なにせアタシの学園生活の目標は『目指せ!蒼天会会長!』だからね。時間を無駄にしてる暇は無いのよ」 「今、何かとんでもないこと口にしなかった?」 「気のせい気のせい…さて、そろそろかな?」 「え?」 曹操がファイルに目を通していると、校舎の奥から絹を裂くような悲鳴が聞こえてきた。周囲にいた生徒達が、何事かと校舎の奥を見やる。 「さっすがお嬢様。悲鳴もお上品であらせられること」 「…孟徳、あんた、袁紹先輩に何をしたのよ?」 「別れ際にスカートのホックとファスナーに細工をね。40歩くらい歩くと自然にスカートがストーンと落っこちる仕掛けだから、誰がやったのかはわからないよ。本初ってば、今日は珍しくパンストはいてなかったからすごいことに…」 「孟徳ーーーーーーーッ!!!!」 校舎の奥のほうで怒りに燃えた叫びが轟いた。雷喝、というべきで、様子をうかがっていた生徒たちが思わず一歩跳び退くほどの怒りがこもっていた。 「『怒声もお上品』ってとこかしらね?ところで、あっさりバレてるみたいだけど?」 「そーだね。じゃ、礁まで逃げるよ。あっ!田豊せんぱーい。これ本初に返しといてくださーい!」 偶然、近くにいた袁紹の腹心、田豊にスってきたファイルを投げ渡すと、夏侯淵に渡された半球型のヘルメットを素早く被り、バイクの後部座席に身軽に跨る。夏侯淵はすでにフルフェイスヘルを被り、エンジンを始動させていた。 「待ちなさい!孟徳ーッ!!」 「そこのバイク!止まれー!」 腰のあたりを押さえた袁紹と風紀委員一個小隊がそれぞれの目的で昇降口を走り出てきた。だが、時すでに遅く、後輪を派手にスピンさせてバイクが走り出しており、どちらもその目的を果たすことはできなかった。 「アディオス・アミーゴ(※さらば我が友)、キャハハハハ!」 「孟徳ーッ!おぼえてなさいよーッ!」 曹操の高らかな哄笑に袁紹の無念の絶叫が重なる。黄巾の乱の最中だが洛陽棟は騒々しくも平和のようだった。 1−1 >>259
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