下
★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
342:★教授 2003/09/14(日) 23:09 ■■ 帰宅部連合夏の陣! 〜第三章〜 ■■ 「あの〜…これでいいんでしょうか…?」 孫乾がもじもじと恥ずかしそうにプールサイドに現れる。 「スレンダーでええなぁ…うん、よく似合っとる」 劉備の微妙な褒め言葉。しかし、それも孫乾には嬉しかったらしく素直に安心したようだ。 ちなみにこの水着は孔明が『こういう事もあろうかと…』とか言いつつどこからか取り出したのだ。 しかし、その水着はスクール水着。明らかに萌えを狙ったもので『そんかん』と平仮名で書かれたネームラベルが綺麗に縫い込まれていた。その場にいた一同が変な汗を流した一時であった。 「うむ。萌えポイント1000点を献上しよう」 「う、嬉しくないです〜…」 満足げな孔明の言葉には複雑な顔をする孫乾。 そんな彼女を二人の刺客が挟撃する。 「よーし、第二ラウンドだーっ!」 「いぇーっ!」 張飛と雷同が絶妙なテンションで孫乾を担ぎ上げると、そのままプールの中に拉致していった。 「ふぇぇ…」 困ったような泣き出しそうな表情で大人しく攫われる孫乾。彼女らしいと言えば彼女らしい。 「さて、私達も泳ぎにいきましょうか」 黄忠と厳顔もゆっくり立ちあがると軽く柔軟体操を始める。 「孔明と子仲はどうするの?」 すっかり回復した法正が何故か着崩れしていた水着を物陰で直しながら二人に尋ねた。 「私は遠慮しておきましょう」 「私も…もう少し眠ります」 やんわりと遊泳を拒否する孔明とビ竺。一体何しに来ているのだろう。 「ウチはそろそろ泳ごかな…」 ストレッチを入念に行いながらメガネを外す劉備。その途端、孔明の目の色が変わった。 「総代! 今日は泳がれない方がよろしいかと!」 「な、なんやねん。ウチが泳ぐくらい別にええがな」 「いいえ。今日のプールには不吉な空気が漂っております! 何かに取り憑かれますぞ!」 ずずいと劉備に迫る孔明。目がかなり真剣だ。 「さ、さよか…。でも、今泳いでるあいつらにも言うたらな…」 「彼女達ならば大丈夫でしょう。紛がりなりにも我等が帰宅部の強者、凶兆など撃退する事です。しかし、総代にもし何かあれば…私は悔やんでも悔やみきれませぬ!」 「孔明…ウチの事をそこまで考えてくれてんのやな…。よし、分かった! 今日はここで日光浴してる事にするわ」 孔明の言葉に感銘を受けた劉備はメガネを掛け直すとビニールシートの上に横になった。 「………(ふぅ…これで総代がメガネを外すという緊急事態を回避する事が出来たな。流石は私、見事な口上だ)」 単にメガネを外されたくなかったらしい孔明は安心しながら自画自賛を脳内で行っていた。 「あっつぅ…」 簡雍はアイスキャンディーを口にしながら気だるそうにプールサイドで足だけ水に浸けていた。元々インドア派の彼女にはそろそろ夏の日差しがきつくなってきている模様。 「それそれ〜っ」 「きゃーっ!」 一方、プールでは猛烈な勢いで泳ぐ張飛に引張られる孫乾が可愛い悲鳴を上げていた。 少し離れた所では雷同が黄忠にラリアットを、厳顔にドロップキックを食らっている。鬼神と化した二人の攻撃によって沈められた雷同の手には二人分の水着の上が握られていた。 固く握り締められた手を無理矢理こじ開けようと奮闘する黄忠と厳顔。相当焦っている事が誰の目にも明らかだった。当然、こんなおいしい演出を見逃すパパラッチはいない。 「ナイスショット。連写モードで撮るよ〜」 だらだらとアイスを咥えていた簡雍が突如覚醒。デジカメとビデオを構えて激写し始める。 「こらぁっ!」 やっと雷同の手から自分達の水着を取り戻した黄忠と厳顔が簡雍に向かって猛然と水を掻き出した。 「あははっ。捕まるようなヘマは私はしないよ〜」 悪戯っぽく笑うと手提げバッグから『ある物』を取り出して二匹の野獣に投げつける。 「な、なんだ…コレ。…いいっ! 誰の下着だよ!」 黄忠は掴み上げたその『ある物』…誰かさんの下着に動揺と驚きを隠せない。大人っぽいその黒の下着に完全に困惑しきってしまう。 「ああああっっっっ!!!! それ…私の下着だーっ!!!」 簡雍と反対側のプールサイドで法正が真っ赤な顔をしながら叫び声を上げた。 「今日は楽しかったよ♪ じゃ、また明日ねー」 全員に向けて投げキッスを贈ると簡雍はさっさとプール場から出て行く。 「ま、待てえええぇっ!」 怒りと羞恥で完全に紅潮しきった法正が簡雍を追っかけていく。 「法正まで行っちゃった…。…これ、どーしよ」 びよーんと下着を広げながらまじまじと見つめる黄忠と厳顔。後で返せばいいと思う。 「もう一本いくぞーっ!」 「うう…もう勘弁してくださいー…っきゃー!」 半べその孫乾を引張りながら縦横無尽に泳ぎまくる張飛。楽しそうではあるが中々に可哀想な光景だ。 そんな喧騒を目を細めながら見ている劉備と孔明もいそいそと撤退準備を始めていた。 こうして、騒がしくも楽しい一日が終わりを迎える。 乙女達を照らしていた太陽が沈み、再びその姿を現す。 それは飽くなき戦いの日々の訪れを乙女達に知らせる。 これより後、今までよりも過酷な運命が彼女達を待ち受けている事を誰も知らない―― ――翌日 「待てっ! 憲和ーっ!」 怒りのオーラを発しながら簡雍を追いかける法正。 「そんなに怒るなよー。…あ、そうだ」 逃げながら何かを思い出した簡雍。その直後に彼女の口から飛び出した言葉は法正の怒りに油を大量にぶちまける結果になる。 「昨日…『のーぱん』で帰ったの?」 「こ、ここここ…コロスーっ!!!」 髪を逆立てながら簡雍を追う鬼女、法正。その目は殺意に満ちていた。 いつもの鬼ごっこを繰り広げる二人が劉備の横を走りぬける。 「…本当にいつも通りやなぁ。さ…漢中制圧作戦、気張ろか…」 ふぅと溜息を吐くと劉備は静かに会議室のドアを開く――
343:★ぐっこ@管理人 2003/09/15(月) 00:32 >>341 見のがしたっ!スマソ、10日遅れのレスですが… むう、確かに周瑜のキャラ造形、それくらいのアクがあった方がいいですねー! どうも、私の中のキャラだといい娘ちゃん過ぎて。いわばキルヒアイス。 孫策と同レベルのバカ騒ぎしながら、常に二手先を読む知将ぶり!曹操がたじろく ほどの美貌!…案外、学三は凄い周瑜像を世に送り出すやもしれぬ…(;´Д`) あと、長湖さん(^_^;) あ、わたし乗れますよーって孫権たんが! 首長竜いいなあ… 歩騭たんとの絡み、ちょいと設定で考えてみますね〜。 おまけ…本家のガンダムスレでネタとして借用します、今から。 >>342 教授様グッジョブ! 以前の水着祭りの続きか〜。サリゲに悲惨な目にあってるライダー雷銅たん… そして予告通り、お使い乾ちゃんの虜のようですな!教授様! あっはっは!ヤッサバ隊長! 旧すくですよ旧すく!萌えポイント1000点!? 孔明め…さすがにあなどれんわ…! しかしやはり学三における萌えは、法正が持っていってしまうのか…(;´Д`)ハァハァ 黒い下着…そしておそらく黒ストも所有しているでありましょう… 将来、手に負えない娘になりそう…。
344:ヤッサバ隊長 2003/09/16(火) 08:45 >>342 旧スク…旧スク…旧スク……。 やってくれすぎですぞ教授殿! 俺の萌えハートは爆発寸前!! いや、今爆発!! …暴走失礼しました。 想像しただけで、余りにも強烈なモノが脳裏に浮かんでしまったもので。 とにかく教授殿グッジョブ!!でしたw
345:★教授 2003/10/10(金) 23:21 ■■ 成都棟制圧 劉備と簡雍の決意 ■■ 「…ちゅーわけで、これから成都棟を包囲するって事でええか?」 「異議無し。うー…燃えてきたぜ!」 「力に物を言わせて陥落させるんじゃないですよ、張飛さん」 ここはラク棟会議室。最前線に立つ上将達が、今まさに成都棟に立て篭もる劉章達を降伏させる術を話し合っていた。 論場で説き伏せようと意見する者、攻め落としてしまおうと意見する者。様々な意見が飛び交う中、最終的に決定されたのが『取り囲んで降伏させちゃおう』作戦だった。 圧倒的な戦力差を見せつけ、アテもなく篭城を決めこむ生徒達の恐怖を煽る――そこはかとなくシンプルな手段だが、これ以上に効果的な手段もない。 先日から法正が幾度と無く降伏を促す黒手紙を書きつづけているのも相乗効果をもたらしている。結構毒々しい内容なので割愛させてもらう事にした。 「ふむ…まあ伏線も引いてある事ですから、降伏して出てくるのにそう時間は掛からないと思いますが…」 白羽扇を口元に当て、劉備一同及び会議室全体を見渡す諸葛亮。そして天井を仰ぐ。 「長引くと士気の低下、及び周辺組織の攻撃…特に曹操辺りでしょうか。…その辺りが心配になりますので…その際は諸将の方々、頼みます」 「…そうはならないようにしたいなぁ。劉章はんも頑張らんと降伏してくれればえぇんやけど…」 劉備は溜息を吐くと窓を開けて成都棟の方角を哀しげな眼差しで見つめた。 「ふー…」 簡雍は溜息を吐きながらラク棟をとぼとぼと歩きまわっていた。 いつもの感じとは違う、少しアンニュイな表情を浮かべている。傍目から見ても悩みを抱えている事が誰の目にも明らかだった。 彼女の心の中にあるのは、『益州校区成都棟総代』劉章の事唯一つ。 劉備達と共に益州校区に入ってすぐに劉章に気に入られ、いつ何時でも彼女は簡雍を誘ってきた。色々な所へ連れて行ってもらったり色々な物を貰ってきた。自分達が益州校区を乗っ取るつもりで来た事も知らずに――。 それだけに気に入られた自分が劉章を追い落とす…未だかつて経験した事のない『恩を仇で返す』事。それに戸惑いを覚えていたのだ。 「あの娘には法正同様裏切り者だって思われてるんだろーな…」 ラク棟の中庭、池の側のベンチに腰を掛ける。自然と溜息が零れた。 「…玄徳の事だから降伏論で制圧論をねじ伏せてるんだろうけど…」 そう呟きながらちらりと会議室のある棟を見上げる。丁度同じ時間に会議が終わっていた。簡雍の読み通り、劉備の降伏論で締めくくられて。 「最初は私もノリノリだったんだけどなぁ…らしくないや」 ごろんとベンチに横たわると青々とどこまでも広がる空を、雲の流れを見ながら目を閉じる。 浮かんでくるのは劉章の笑顔、声、そして哀しげな後姿。その背中が自分を『裏切り者』、『恩知らず』、『卑怯者』と蔑んでいる様に映った。 (違う! 裏切るつもりなんて…なかった!) 心の中で全てを否定する。しかし、声は尚も簡雍を締めつける。木霊の様に、残響を残しながら全身を駆け巡る。 (違う! 違う! 違う!) 何が違うのか、それすらもどうでもよくなっていた。とにかく否定する事しか出来なくなっていた。 劉章の体がこちらを振り返る。哀しくも憎悪に満ちた目を向けながら。 『何が違うの? 仕方なかったなんて言わせない!』 怒号が体の中に染み渡る。切り裂かれるような、引き裂かれるような…そんな痛みが突き抜けて行く。 逃げ出したかった。形振り構わず、自分の立場もプライドもかなぐり捨てて遠く…遠くまで逃げ出したかった。 だが、出来なかった。自分にしか出来ない事があったから―― 簡雍は心の中の劉章に真っ直ぐ目線を向けた。 (私は…君を…) 「…劉章はん。何で出てきてくれへんのや…」 成都棟を取り囲んで既に何時間も経過していた。 周囲には張飛、趙雲、馬超、黄忠といった名だたる将…そして帰宅部連合に降ってきた益州校区の雄将達が、攻め込む為の最終調整を行っていた。 劉章の降伏をひたすらに待ちつづけた劉備にも焦りの色が強く浮かんでいる。 そんな劉備に諸葛亮が最後通告を言い渡す。 「…部長。そろそろ…攻め込む時間です。これ以上は待てませんぞ」 「…仕方あらへんな…」 最後通告、即ち劉章への死刑宣告に等しい言葉を劉備は苦々しく受け入れる。 そして手を高らかに挙げると率いる全ての隊に号令を下した。 「全軍…とつげ…」 「あーあー…物々しいったらありゃしない」 号令は最後まで続かなかった。眠そうなトボけた声が軍の中を割って飛び出してきたのだ。 全員が声のする方を振り向いた。 「何? そんな大勢で取り囲んじゃ降伏できるものも出来ないっつーの」 軍を割って簡雍が酒瓶を片手に劉備の前に立った。 「憲和…何しに来たんや? 今はあんたの出番とちゃうで」 きっと簡雍を睨みつける劉備。しかし、それを涼やかに受け流す。 「玄徳。すこーしだけ時間ちょーだい。私が行って口説いてくるからさ」 「は、はあ? そ、そんな事したらあんた階級章取り上げられて追い出されるで!」 「大丈夫大丈夫。まあ、仮にそうなっても別にいいんだけどね」 ぐいっと酒をラッパ呑みする。景気付けのつもりかどうかは分からないが豪気である事には違いない。 「憲和…あかんて」 劉備は心配そうな眼差しを向ける。長い間ずっと自分に付いてきてくれた友人を失いたくはなかったのだ。 「あー…もう! 大将がそんなツラしてどーすんだよ、周りの士気も考えろっつーの。じゃ、行ってくる!」 「あ! 憲和!」 簡雍は劉備の制止の声を聞かずに成都棟に向かって歩き出した。 うなだれる劉備の肩に諸葛亮が手を置く。 「…今は簡雍殿にお任せしましょう。もし、簡雍殿の身に何かあった時は…」 「分かってる。でも…ウチはまだ憲和を失いたくない」 「…簡雍殿の仰られた通りですぞ。貴方がそのような顔をされると貴方に付いてきた全ての生徒が不安になられます。貴方は…我々の担ぐ神輿なのですから」 「…そやな。よしっ! 全軍、このまま待機! 指示があるまでそのままの態勢やで!」 パシッとハリセンで地を叩く。その顔に迷いの陰はどこにもなかった―― 「劉章…」 簡雍は成都棟の正門前に立っていた。窺いを立てるので暫く待っててくれと言われているので大人しく待っているのだ。 「君は…私が…」 天を仰ぎ、そして酒瓶を投げ捨てる。 「私が救ってみせるから!」 ――簡雍が成都棟に入って1時間余り後 劉章は簡雍に連れられて成都棟から出てきた――
346:★ぐっこ@管理人 2003/10/11(土) 21:22 (゚∀゚)簡雍たんが初めて活躍らしい活躍を! 劉璋とは妙にウマがあったんですよねえ…。 しかし…孔明の前で堂々と酒をあおれるのはこの娘だけ。 あの自由奔放な生き様の裏には、イロイロと悩みも葛藤も あったわけで。 ところで学三演義にて、簡雍たんにちょっとした設定追加予定。 たぶん皆さんが簡雍萌えになること間違いなし。
347:★アサハル 2003/10/12(日) 16:19 簡雍たんはきっと普段のちゃらんぽらんな「萌え請負人」は仮の姿で 実は帰宅部連合の初期メンバーの一人として(或いはジャーナリストとして) 真面目で熱い娘なんだろうなあ、と思いました。 しかし降伏勧告に行くのに酒の香り漂わせてるのはマズいぞ簡雍さん!!(w そういえば劉璋とか劉表辺りってまだキャラ絵ありませんでしたよね?
348:★玉川雄一 2003/11/09(日) 21:15 とりあえず、以前書きかけてた『震える山(前編)』のケリつけちゃいます。 相変わらず元ネタモロパクリでお恥ずかしい限り。
349:★玉川雄一 2003/11/09(日) 21:21 前編>>265 前編の2>>273 前編の3>>276 前編の4>>279 ▲△ 震える山(前編の5) △▲ その頃、張嶷は徐質と対峙しつつ姜維たち本隊の脱出のタイミングを計っていた。しばらくは体勢を立て直した徐質の斬撃をいなしていたが、頃合いはよしと見計らうと地を蹴って猛然と反撃を開始する。 「それじゃ、そろそろ仕掛けさせてもらうよ!」 「くっ…」 先程までの守勢が嘘のように積極的に打ち込んでくるその鋭い太刀筋に、一転して徐質は防戦一方となってしまう。辛うじて左腕のシールドで受け止めてこそいるものの、このシールドというものはあくまでも補助的な装備であって連続した打撃を完全に防ぎ止めるための物ではない。打ち込まれた衝撃は吸収しきれずに腕にまで届いており、このままでは骨折、とまでは行かないにしても腕を痛めるのは確実だった。 「くうっ… 離れろーっ!」 徐質は隙を見計らって後ろに跳び、距離を空けるとエアガンを放つ。だがその射線は張嶷のシールドに弾かれて空しく飛び散るばかり。本来ならその時点で速やかに射撃を中止せねば無駄に弾を消耗するだけなのだが、徐質はトリガーから指を離せなかった。張嶷を相手に白兵戦を挑むことを心のどこかで恐れているのだろう。そして程なくしてガリガリッ、という嫌な音を発したかと思うと案の定エアガンは沈黙してしまったのだった。 「弾切れ!?」 双方は睨みあった体勢のままでしばらく時が流れる。徐質は相手の様子を窺いつつ腰のベルトに装着した予備弾倉のパックにそっと手を伸ばすが、張嶷がそれを制するようにエアガンを構える。身動きがとれないままでさらに沈黙が続いたが、再び張嶷から距離を詰めると嵩に懸かってナイフを振るう。弾切れを起こした徐質も接近戦で応じなければならず、弾倉交換のために距離を取るだけの余裕は皆無だった。しかし度重なる衝撃に耐えかねたのか、シールドを腕に固定するバンドの一本がバツン、と弾ける。こうなると効果的なガードはもはや不可能となってしまい、腕への衝撃は一層激しさを増す。だがそれでもなお斬撃をシールドで受け続けることができているのは彼女もまたいっぱしの格闘センスを有している証でもあった。 「はッ、反射神経だけはいいようね!」 張嶷も相手がそれなりの力量を備えていることを確信したが、さすがに業を煮やしたかこれまでの連続した攻撃から一旦呼吸を置くとナイフを持った右腕を振るう。 「だけどこれが… 避けられるかッ!」 瞬間、放り出されたナイフがあらぬ方向に飛んで行くのが徐質の視界に入る。 −そして、ついそれを目で追ってしまったのだ。 (しまった!) 近接格闘戦では、ほんの一瞬でも相手から視線を逸らしてしまえば致命的な隙を生むことになる。その間隙を埋めるべく視線を戻した時にはもう、眼前には急突進してきた張嶷の姿が迫っていた。 「目の良さが命取りよ!」 ズンッ! 「ぐうっ…」 肉薄した張嶷が放った拳が徐質の鳩尾に吸い込まれる。このままではやられる… と遠のいてゆく徐質の意識は、しかし途切れる直前に投げかけられた声で辛うじて引き上げられた。 「まだ終わっちゃいない。悪いけど、もう少し生きててもらうよ」 背後に回った張嶷が、がっちりと徐質の腕を絡め取る。動きを封じられた徐質は、これから自分はどうなるのだろうと考えようとしたが、茫洋とする意識の中でその答えは浮かんでこなかった。 「し、主将!」 「なんてことよ…」 デポ(装備補給所)で弾薬を補充して駆けつけた胡烈と牽弘の目に最初に映ったのは、ぐったりとした徐質と背後から彼女の動きを封じている張嶷の姿だった。 「畜生、弾を補充しに行ってみりゃこのザマか…」 「そのままじゃアンタらもやられてたわよ! 今は狙撃班を死守よ、死守!」 ぼやく胡烈に楊欣が半ばヤケになって応じる。張嶷は徐質の腕を固めながらも器用に自らのエアガンの弾倉を交換していたが、胡烈らがやってきたのを見ると徐質をグイと立たせてその姿を見せつけると、挑発するように言い放った。 「安心しなさい… まだ、この娘は『生きて』いるわよ!」 張嶷は実質上ダウンしている徐質のとどめを刺そうとはしないでいた。彼女の存在を人質をすることで08小隊や狙撃班の行動を掣肘し、ひいては姜維らの脱出へ時間を稼ごうと企図していたのだ。牽弘は不安げに徐質の様子を窺ったが、目立つ傷こそないものの表情は朦朧としており、張嶷から受けたダメージは確実に利いているようである。 「主将… 私達、どうすればいいの…」 残念ながら徐質にその声は届いてはいない。だが、その意識の中では何かが少しずつ浮かび、形を結びつつあった。 続く
350:★玉川雄一 2003/11/09(日) 21:24 前編>>265 前編の2>>273 前編の3>>276 前編の4>>279 前編の5>>349 ▲△ 震える山(前編の6) △▲ (あ、ここは…) 朦朧とする意識の中、徐質はある光景を『思い出して』いた。そう、これは現実ではない。半覚醒状態にある意識が辛うじてその事だけは気付かせている。 (そうだ、これは主将の任命式ね) 無数の女生徒で埋め尽くされた大講堂。その壇上に横一列に並んだ女生徒の、さらに筆頭に彼女はいた。蒼天学園生徒会による主将の任命式で、徐質はこの度の首席たる栄誉を担ったのである。通常は各校区、あるいは各所属組織単位で行われる主将位の授与だが、この時は折しも夏侯玄、張緝、李豊らによる執行部中枢でのクーデター未遂が発覚した直後であり、生徒会長である司馬師が自己の権勢を誇示するデモンストレーションの一環として大々的に執り行ったものだった。そんな中、雍州校区代表であった徐質はその成績優秀なるをもって全校区(とはいえ現在蒼天会および生徒会の威令が及ぶのは学園の半分に過ぎないのだが)から選抜された任命者の首席として式に臨むことになったのである。 (あの場所で、あの人たちの前で… 私の実力を、認めて貰えたんだ) 彼女は高等部に進級して以来、いささか腕に覚えのあることもあって体育会系を志していた。進級する以前より高等部の先輩たちのさまざまな活躍の噂は流れてきていたが、彼女の心を捉えたのはやはり『武勇伝』の数々だったのだ。 学園史上最強とも評された孤高の戦士・呂布。 王道を夢見てひた走った顔良と文醜。 万人の敵と称された関羽と張飛。 長坂を単騎駆け抜けた趙雲。 義心あふれる神箭手・太史慈。 湖上を駈ける無頼の女夜叉・甘寧。 無双のファイター・許チョ。 長湖部の心胆を寒からしめた張遼。 中でも張遼の活躍は中等部を席巻し、「夜更かししていると張遼が竹刀持ってシバきにやってくるぞ!」と喧伝されたものであり、皆がその噂を冗談半分に楽しむ中で徐質は一人、“鬼姫”の名に似合わぬお下げ髪だという姿が本当に現れはしないかと密かに期待を抱いてみたりもしたのだった。だが、今やこういった人々はみな既に学園を去っており、『伝説』として語られるのみである。そして昨今の学園においてはといえば、残念ながらあの頃に匹敵する伝説を築くべき者は見られなかった。 (それならば、私がなってみせる!) 徐質は己の鍛錬に務めて主将の座を勝ち取った。そして、あの晴れの場において生徒会長の司馬師から直々に主将の任命書と徽章を授与されたのだった。 『おめでとう。貴女の力、存分に発揮してね。 ……期待しているわ』 『は、はいっ! 頑張りますっ!』 今をときめく学園の支配者の言葉は、いまだ夢見る少女の心をどこかに持ち続けていた徐質に染み渡った。この時の晴れがましい気持ちは強く心に刻み込まれ、支えとなったのである。しかし、あくまでそれは彼女にとって通過点として位置づけられるべきものだった。目指す高みは遥か先にあり、その途中には挫けそうになることもあるだろう。だが、それを乗り越えた者こそが伝説を残す資格を許されるのである。 (だから、こんな所で負けるわけにはいかない…!) 徐質は強く念じた。そしてそれが彼女のスイッチを再び入れる。澱んでいた意識が急速に鮮明化してゆく。辛うじてエアガンを保持していた手がピクリと震えると、それに気付いた張嶷は待ちかねたように不敵な笑みを浮かべた。 「あら、ようやくお目覚めのようね?」 「くっ…… そっ、れーーっ!」 闘争本能を急速に再充填し、全身にくまなく行き渡らせる。異常なく身体が動くと認識できた瞬間、景気づけとばかりに抑え込まれた体勢のまま両脚を跳ね上げると、背後の張嶷に向けて思いきり蹴り飛ばした。予想以上の再始動に思わず二、三歩後ずさった張嶷だが、そうこなくっちゃ、とばかりに体勢を整え、先程放り投げたナイフを回収する。その間に徐質は左腕から半ば外れかかっていたシールドをもぎ取ると、それを振りかざしてしゃにむに打ち掛かった。 「私はっ、勝つッ!」 「くっ… ふんッ!」 この時、徐質の攻撃は技量うんぬんというよりは気迫に支配されている。それだけに先を読むことは困難であり、張嶷はしばし防戦に徹していたのだが、何度目かの打撃とともに徐質の放った言葉が彼女をとらえた。 「勝ち抜いて… 学園の頂点を極めるッ!」 「なにっ!?」 昨今ついぞ耳にしたことのなかったその言葉に思わず張嶷の動きが止まりかける。学園の頂点を? 己の腕一本で? 数年前ならばともかく、この膠着した情勢下で… いや、今であればこそその『若さ』が輝くというわけか… 恐らくは深く意識して発せられた言葉ではなかっただろう。だが、その偽らざる覇気が老練な張嶷に空隙を作った。あるいは彼女もまた、入学当初の自分の姿に重ね合わせていたのだろうか。しかし、その空隙は徐質にとって好機以外の何物でもなかった。続いて繰り出された一撃が張嶷の側頭部を捉える。 「くうっ…!」 もとより決定打とはなり得なかったが、頭を揺らされた張嶷は一旦退いて体勢を立て直すことにした。あるいは、先程の徐質の言葉が思いのほか後を引いていたのかもしれない。 (自分の腕前で、やれるところまでやってみる、か… そういうの、最近忘れてたかもね…) 張嶷が姿を消した後、牽弘と胡質が徐質の元へと駆け寄る。土壇場からの復活を喜び合う三人だったが、楊欣の声がそれを遮った。 「みんな、まだ終わってないわよ! 本隊のお出ましだわ…」 「ええっ!?」 その一言で粛然とする08小隊の面々。帰宅部連合に対する脱出阻止体勢が大幅に崩れつつある今、再包囲を行わなければ大魚を取り逃がす事になりかねなかった。だが、以前その包囲網を単身押し返した張嶷はいまだ健在である… 続く
351:★玉川雄一 2003/11/09(日) 21:25 前編>>265 前編の2>>273 前編の3>>276 前編の4>>279 前編の5>>349 前編の6>>350 ▲△ 震える山(前編の7) △▲ その頃裏門では、脱出体勢を整えた帰宅部連合本隊がいよいよ行動を開始しようとしていた。最前列にはなけなしの射撃班が銃口を揃え、押っ取り刀で駆けつけた生徒会勢の小隊へと狙いを定める。 「…撃ちます」 夏侯覇が前方を見据えたまま投げかけた起伏を欠く声に、姜維もどこか冷めたような表情で応じた。 「では、始めよう」 それを合図に、夏侯覇は差し上げた手を前方へ向かって振り下ろす。タタタンッ、という一連の銃声と共に生徒会勢が倒れ伏したのを見届けて、姜維は麾下の総勢に向かい直ると今度こそ辺りを圧する声を放った。 「突撃開始! 先鋒は夏侯覇、続いて傅僉! 中軍は句扶、後衛は廖化! 殿は私が引き受ける!」 号令一下、一団、また一団と裏門を飛び出てゆく。この中でどれほどが帰還することができるか… そう思うと、姜維の口は我知らず動いていた。 「…みんな、南鄭まで生きて戻るのよ!」 「おーーーっ!」 次々に駆け抜けてゆく女生徒達の顔には皆、深い疲労の色が浮かんでいる。だが、彼女らを辛うじて奮い立たせているのは意地と、気力と、そして奮戦する張嶷の雄姿だった。誰もが全て、彼女のような超人的な活躍ができるわけではない。だが、その姿は多くの少女達の目に焼き付き、胸に刻み込まれた。そして今、挫けそうな心を支える巨大な拠り所となっていたのである。 −それはもう、ひとつの新しい伝説の始まりでもあった。 (貴女には、まだみんなを導いてもらわなければ… だから、必ず…!) 姜維は今一度、張嶷が残っているであろうグラウンドに視線を向ける。そして強く念じるように胸の前で手を握りしめると、最後尾の集団に加わって走り出した。 校舎裏手から聞こえてくる微かな喊声に気付いたとき、張嶷は再び徐質と対峙していた。双方とも右手にナイフを構え、間合いを保って睨みあったまま互いに機を窺っている。そんな中、張嶷は目の前の少女の言葉に思いを馳せていた。 (いい気概ね。腕の方はまだまだ伸びるでしょう。後はあの気持ちを忘れなければ、あるいは本当に…) そこまで考えて、不意に笑いがこみ上げてきた。とんだ迷い言を… 現にあの娘の目の前には、“私”がいるではないか。単身での要人救出という華々しい学園デビュー以来築き上げてきた功績は数知れず、今や帰宅部連合でも五指、いや三指に数えられるまでに上りつめた。徐質に比べれば、『頂点』は遥かに近いはずだった。だが彼女もかつては輝かせていたはずの大望は、日々の忙しさにかまけていつしか心の奥底に澱んでしまっていた。それを、この少女が再び揺り起こしたのだ。 (もっとも、頂点を目指すだけが『華』じゃないわね。自分が満足して戦えるなら、今ここで…) 「学園の頂点を極める、か。案外と、手に届く夢かもよ… でも、負けないッ!」 万感の思いを込めて全身に闘志を充填し、張嶷は真っ直ぐに徐質へと向けて駆け出す。この一撃で決まる− 徐質も自然にそれを悟った。ナイフを握った右手を振りかぶり、一気に距離を詰める。その瞬間、張嶷が地を蹴って覆い被さるように飛びかかってきた。 「!!」 徐質を驚愕させたのは、明らかに実態以上に視界を圧する張嶷の姿− 否、厳密にはそうではない。まったくのガラ空きとなったその体… 乾坤一擲というにはあまりにも無防備すぎるその体勢に、考えるより先に体が反応した。防ぐもののない張嶷の左脇腹めがけ、ゴム製のナイフがしたたかに打ち付けられる! だが… 「勝ったぞ!」 その声を発したのは張嶷だった。徐質の背にゾクリと走る悪寒。そして頭上に響くエアガンの連射音。 タタタタタッ! 「きゃあああああっ!」 「しまった!」 最後の一連射、その射線が吸い込まれてゆく先には、狙撃兵301嬢。 肉を切らせて骨を絶つ、文字通り捨て身となった張嶷の一撃は狙い過たず最後の狙撃手を葬り去った。だが同時に、何の防御も考慮していない左脇腹への一撃は徐質の名誉に賭けて『致命傷』たり得ていた。詰まる呼吸、薄れる意識… 刹那、南中校区での日々が頭をよぎる。苦難の末に結ばれた固い友情の絆、皆の笑顔… そして張嶷は己の最後の戦果を確認すると、意識を闇に委ねる。 (伯約、約束は守ったぞ… 後は、アンタ、が…) 張嶷はそのまま崩れ落ちると、乾いた地面にひとしきり砂埃を舞い上げた。 −停止した時間の中で、徐質は時間の感覚はおろか一切の外部情報から途絶していた。恐怖すら抱いた敵への確かな一撃と、『護るべき者』の悲鳴。その二つの事実の整合性が取れずに頭の中でグルグルと回っている。勝利− 何が我々の勝利か? 喜びの浮かばぬ勝利があるというのか… やがて真っ白になっていた彼女の中で少しずつ時間が流れ始める。最初に目に映ったのは、右手に握りしめたナイフ。続いて、眼前に横たわる少女。己に課せられた責務を成し遂げたその顔は埃にまみれながらも安らかで、意識こそ失っているが胸元は規則的に上下動を繰り返していた。 「そうだ、私が、倒したんだ、この人を…」 いまだおぼつかない足を数歩踏み出し、跪く。バトルでうち倒した相手からその身の証を奪い取るのは学園の規則、バトルのルール、そして勝者の権利。青いジャージに留められたゼッケンを丁寧に取り外すその瞬間、いまだ目覚めぬ体がピクリと震えたのは気のせいだったろうか? 徐質はゆっくりと立ち上がり、新たなる伝説の体現者に一礼する。 帰宅部連合所属盪寇主将、張嶷、字を伯岐。仁・智・雄を折り重ねてきた学園活動は、そのおそらくは本分とするところをもって幕を閉じた。 −彼女の最後の死闘は新たなる伝説として、これ以後学園の歴史の中で長く語り継がれることになるだろう。 (私は、伝説に名を連ねるだろう。でも、それは添え役として… 私が、自身が、主役となるためには、まだ…!) そこに駆け寄ってくる仲間達の声が、急速に徐質を現実へと引き戻してゆく。 「主将、無事だったか!」 「アイツを… 倒したんだね! やったじゃないか!」 「でも、狙撃班は…」 そう、局地戦は一つの幕切れを迎えたが、まだ敵は、敵の『本隊』は残っているのだ。目の前の敵を一つ一つうち倒し、そしていつかこの手に栄誉を勝ち取る日まで。戦いの道を志した少女の前に開かれた修羅の道、その終着点は遥か遠くか、あるいは一寸先か… 今また新たな一歩を踏み出す徐質の全身に、一回り強さを増した力がみなぎり始めていた。 「遺憾ながら、狙撃班は全滅した… 今、追撃の先鋒は我々だ。 …行くぞ!」 「おーっ!」 学園の戦雲は、いまだ果てることなく激しく渦巻いていた。 『震える山(前編)完』
上
前
次
1-
新
書
写
板
AA
設
索
★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★ http://gukko.net/i0ch/test/read.cgi/gaksan2/1013010064/l50