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★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
351:★玉川雄一 2003/11/09(日) 21:25 前編>>265 前編の2>>273 前編の3>>276 前編の4>>279 前編の5>>349 前編の6>>350 ▲△ 震える山(前編の7) △▲ その頃裏門では、脱出体勢を整えた帰宅部連合本隊がいよいよ行動を開始しようとしていた。最前列にはなけなしの射撃班が銃口を揃え、押っ取り刀で駆けつけた生徒会勢の小隊へと狙いを定める。 「…撃ちます」 夏侯覇が前方を見据えたまま投げかけた起伏を欠く声に、姜維もどこか冷めたような表情で応じた。 「では、始めよう」 それを合図に、夏侯覇は差し上げた手を前方へ向かって振り下ろす。タタタンッ、という一連の銃声と共に生徒会勢が倒れ伏したのを見届けて、姜維は麾下の総勢に向かい直ると今度こそ辺りを圧する声を放った。 「突撃開始! 先鋒は夏侯覇、続いて傅僉! 中軍は句扶、後衛は廖化! 殿は私が引き受ける!」 号令一下、一団、また一団と裏門を飛び出てゆく。この中でどれほどが帰還することができるか… そう思うと、姜維の口は我知らず動いていた。 「…みんな、南鄭まで生きて戻るのよ!」 「おーーーっ!」 次々に駆け抜けてゆく女生徒達の顔には皆、深い疲労の色が浮かんでいる。だが、彼女らを辛うじて奮い立たせているのは意地と、気力と、そして奮戦する張嶷の雄姿だった。誰もが全て、彼女のような超人的な活躍ができるわけではない。だが、その姿は多くの少女達の目に焼き付き、胸に刻み込まれた。そして今、挫けそうな心を支える巨大な拠り所となっていたのである。 −それはもう、ひとつの新しい伝説の始まりでもあった。 (貴女には、まだみんなを導いてもらわなければ… だから、必ず…!) 姜維は今一度、張嶷が残っているであろうグラウンドに視線を向ける。そして強く念じるように胸の前で手を握りしめると、最後尾の集団に加わって走り出した。 校舎裏手から聞こえてくる微かな喊声に気付いたとき、張嶷は再び徐質と対峙していた。双方とも右手にナイフを構え、間合いを保って睨みあったまま互いに機を窺っている。そんな中、張嶷は目の前の少女の言葉に思いを馳せていた。 (いい気概ね。腕の方はまだまだ伸びるでしょう。後はあの気持ちを忘れなければ、あるいは本当に…) そこまで考えて、不意に笑いがこみ上げてきた。とんだ迷い言を… 現にあの娘の目の前には、“私”がいるではないか。単身での要人救出という華々しい学園デビュー以来築き上げてきた功績は数知れず、今や帰宅部連合でも五指、いや三指に数えられるまでに上りつめた。徐質に比べれば、『頂点』は遥かに近いはずだった。だが彼女もかつては輝かせていたはずの大望は、日々の忙しさにかまけていつしか心の奥底に澱んでしまっていた。それを、この少女が再び揺り起こしたのだ。 (もっとも、頂点を目指すだけが『華』じゃないわね。自分が満足して戦えるなら、今ここで…) 「学園の頂点を極める、か。案外と、手に届く夢かもよ… でも、負けないッ!」 万感の思いを込めて全身に闘志を充填し、張嶷は真っ直ぐに徐質へと向けて駆け出す。この一撃で決まる− 徐質も自然にそれを悟った。ナイフを握った右手を振りかぶり、一気に距離を詰める。その瞬間、張嶷が地を蹴って覆い被さるように飛びかかってきた。 「!!」 徐質を驚愕させたのは、明らかに実態以上に視界を圧する張嶷の姿− 否、厳密にはそうではない。まったくのガラ空きとなったその体… 乾坤一擲というにはあまりにも無防備すぎるその体勢に、考えるより先に体が反応した。防ぐもののない張嶷の左脇腹めがけ、ゴム製のナイフがしたたかに打ち付けられる! だが… 「勝ったぞ!」 その声を発したのは張嶷だった。徐質の背にゾクリと走る悪寒。そして頭上に響くエアガンの連射音。 タタタタタッ! 「きゃあああああっ!」 「しまった!」 最後の一連射、その射線が吸い込まれてゆく先には、狙撃兵301嬢。 肉を切らせて骨を絶つ、文字通り捨て身となった張嶷の一撃は狙い過たず最後の狙撃手を葬り去った。だが同時に、何の防御も考慮していない左脇腹への一撃は徐質の名誉に賭けて『致命傷』たり得ていた。詰まる呼吸、薄れる意識… 刹那、南中校区での日々が頭をよぎる。苦難の末に結ばれた固い友情の絆、皆の笑顔… そして張嶷は己の最後の戦果を確認すると、意識を闇に委ねる。 (伯約、約束は守ったぞ… 後は、アンタ、が…) 張嶷はそのまま崩れ落ちると、乾いた地面にひとしきり砂埃を舞い上げた。 −停止した時間の中で、徐質は時間の感覚はおろか一切の外部情報から途絶していた。恐怖すら抱いた敵への確かな一撃と、『護るべき者』の悲鳴。その二つの事実の整合性が取れずに頭の中でグルグルと回っている。勝利− 何が我々の勝利か? 喜びの浮かばぬ勝利があるというのか… やがて真っ白になっていた彼女の中で少しずつ時間が流れ始める。最初に目に映ったのは、右手に握りしめたナイフ。続いて、眼前に横たわる少女。己に課せられた責務を成し遂げたその顔は埃にまみれながらも安らかで、意識こそ失っているが胸元は規則的に上下動を繰り返していた。 「そうだ、私が、倒したんだ、この人を…」 いまだおぼつかない足を数歩踏み出し、跪く。バトルでうち倒した相手からその身の証を奪い取るのは学園の規則、バトルのルール、そして勝者の権利。青いジャージに留められたゼッケンを丁寧に取り外すその瞬間、いまだ目覚めぬ体がピクリと震えたのは気のせいだったろうか? 徐質はゆっくりと立ち上がり、新たなる伝説の体現者に一礼する。 帰宅部連合所属盪寇主将、張嶷、字を伯岐。仁・智・雄を折り重ねてきた学園活動は、そのおそらくは本分とするところをもって幕を閉じた。 −彼女の最後の死闘は新たなる伝説として、これ以後学園の歴史の中で長く語り継がれることになるだろう。 (私は、伝説に名を連ねるだろう。でも、それは添え役として… 私が、自身が、主役となるためには、まだ…!) そこに駆け寄ってくる仲間達の声が、急速に徐質を現実へと引き戻してゆく。 「主将、無事だったか!」 「アイツを… 倒したんだね! やったじゃないか!」 「でも、狙撃班は…」 そう、局地戦は一つの幕切れを迎えたが、まだ敵は、敵の『本隊』は残っているのだ。目の前の敵を一つ一つうち倒し、そしていつかこの手に栄誉を勝ち取る日まで。戦いの道を志した少女の前に開かれた修羅の道、その終着点は遥か遠くか、あるいは一寸先か… 今また新たな一歩を踏み出す徐質の全身に、一回り強さを増した力がみなぎり始めていた。 「遺憾ながら、狙撃班は全滅した… 今、追撃の先鋒は我々だ。 …行くぞ!」 「おーっ!」 学園の戦雲は、いまだ果てることなく激しく渦巻いていた。 『震える山(前編)完』
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