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★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
356:★教授 2003/11/18(火) 22:49 ■■突発ショートショート 〜場繋ぎでごめんなさい編〜■■ ▲ある日の光景 「あ…」 「あーっ! 入稿2日前なんやでーっ!」 インクまみれの原稿用紙。劉備のハリセンで星になった張飛。 「音悪いなぁ…ぐええっ!」 「なんですって!?」 孫策が周喩のチューニングにケチを付けた結果が首締めだった。 「…煙草やめよっかな…」 「ね、熱でもあるの?」 ぼそっと呟いた郭嘉に変なツッコミを入れる陳グン。 「法正〜、何読んで…」 「………見たわね」 法正がゆらりと簡雍を追い詰める。その手には『究極のバストアップ術』が…。 「闘魂注入!」 「ぬぁ…」 甘寧の平手打ちが凌統に炸裂。 「今年こそ張遼を葬りたいです」 「今年は李典を滅殺したいです」 李典と張遼の書初めを見ながら胃薬を飲む楽進。 「義真…おねーさまから電話だよ…」 「んなっ! 切れ! 若しくはいないって言え!」 姉からの電話に本気でびびる皇甫嵩。朱儁も小刻みに震えてた。 「………」 「………」 明りも付けずに部屋の隅。黄忠と厳顔が20本の蝋燭の立つケーキを無表情に見つめていた。 「興覇のマネ」 「びみょー…」 甘寧のコスプレをする魯粛。苦笑いするしかない呂蒙。 「待った…一生のお願い!」 「一生のお願いを一日に何回してんだよ…諦めろって」 将棋盤を前に曹操、渾身の土下座。呆れる夏侯淳も仕方なく了承。 ▲ちょっと気の早い正月ネタ 「………くー…」 「………ぐぅ…」 「…蜜柑美味しいですね」 「…うん」 麻雀牌が転がるこたつを囲んで法正と簡雍の寝正月、蜜柑を頬張る伊籍と馬良。新年早々やる事はないのだろうか。
357:★玉川雄一 2003/11/19(水) 19:49 >一生のお願いを一日に何回してんだよ 激しくワロタ。 乱世の姦雄たるもの、こうでなくっちゃね! ……ね?
358:★ぐっこ@管理人 2003/11/20(木) 01:01 ワロタ! 教授さまグッジョブ! わあ、なんかこういうショートショートもいいなあ! なにより姐さん達が。めっさ風景想像しちまう! 誰がローソク立てたんだ!
359:★ヤッサバ隊長 2003/11/27(木) 19:02 ネタ投下。 「ごきげんよう」 「ごきげんよう」 さわやかな朝の挨拶が、澄みきった蒼天にこだまする。 中華(なかはな)の地に集う乙女たちが、今日も(一見すれば)天使のような無垢な笑顔で、背の高い門をくぐり抜けていく。 汚れを知らない心身を包むのは、深い色の制服。 スカートのプリーツは乱さないように、赤いクロスタイは翻らせないように、 ゆっくりと歩くのがここでのたしなみ。 もちろん、バイクや自転車に乗って遅刻ギリギリで走り去るなどといった、はしたない生徒など存在していようはずもない。(ごく一部除く) 蒼天学園。 戦後創立のこの学園は、もとは良家のご令嬢が帝王学を学ぶためにつくられたという、 伝統ある超お嬢さま学校である。 華夏学園都市。東に長湖を、三方に山を望む緑の多いこの地区で、鍾馗に見守られ、幼稚舎から大学までの帝王学の一貫教育が受けられる乙女の園。 時代は移り変わり、始会長・政の時代より年号が三回も改まった今日でさえ、 十八年通い続ければ立派な財閥主席秘書、女総帥、大奥様などが世に送られる、 という仕組みが出来上がっている尚武と権道を重んじる貴重な学園である。 学三を「マリみて」風にしてみますた。 しかしグコ兄ィが考えてる「学三演義」の冒頭と被ってる可能性大(^^; ところで、「学三」の舞台って後漢市なのか、それとも中華市なのか、どっちなのでせうか?
360:★ぐっこ@管理人 2003/11/27(木) 23:41 (((( ;゜Д゜)))ガクガクブルブル…かぶってるよ…かぶってるよ! どうしよ…出だし…まあいいか…ガイドラインになるくらいなんだから… ちなみに後漢市は年代を限定してしまうので、中国史全般に使えるよう、中華市に改名されました(^_^;)
361:★ヤッサバ隊長 2003/11/28(金) 09:23 ぐは…やっぱり被ってましたか(^^; ただ、漏れのはまだまだ精錬が足りん訳で、グコ兄ィには学三演義で是非「完全版」などを頂けたら幸い。 >中華市 ふむ、やはりそうでしたか。 んじゃ、これからもそう認識させて頂きますわ。
362:★アサハル 2003/11/28(金) 17:25 >スカートのプリーツは乱さないように、赤いクロスタイは翻らせないように、 >ゆっくりと歩くのがここでのたしなみ。 思いっきり「うそぅ!?」(by無双袁紹の中の人with裏声)と叫んでしまいますた(w いや、間違いなく登校がてら犬の散歩をする人(竇武裏設定)とか遅刻ギリギリでも ないのに窓から入ってくる人とか(忍者部)セスナで登校する人(誰だ)とか 毎日変な乗り物で参上し毎日墜落させる人(諸葛亮?)とか寧ろ校舎に住み着いてる 人とか何とかその他諸々絶対いる!と思ってました(^_^; どうでもいいですが「華夏」って「かなつ」だと思ってました。 「はななつ」だったんですね…
363:★ぐっこ@管理人 2003/11/29(土) 14:11 >>361 ドンマイ! ノシ つうか、現在の党錮SSに、「司隷特別校区」バージョンとして一部採用。 学園全土で言えば、「毎日変な乗り物で参上し毎日墜落させる人w」とかが続出 してそうですが、司州に限っていえば、「古き良き時代」は皆お嬢さまめかして たんではないかと推測。 >>362 竇武裏設定ゲト。というか、竇武たんの従妹の竇紹たんがマイブーム。元ヤンキー(;´Д`)ハァハァ… ところで「学三マリみて」たる「仲挙さまがみてる」は、突然「李膺さまがみてる」に 変更になりました…やはり離れて見る観察対象としては、突っ走りやすい陳蕃の方が面白そう。 逆に融通がきかないけどお人好しの李膺さんこそ、主人公のお姉様にふさわしくて…
364:雪月華 2003/11/30(日) 08:39 白馬棟奇譚 ─前編─ 深夜11時。河水のほとり、エン州校区白馬棟の二階の一室には、まだ明りが灯っていた。おりしも曹操が下[丕β]棟にて呂布一党を覆滅し、宛棟の張繍、寿春棟の袁術、揚州校区の孫策らを相手に謀略戦を仕掛けながら、カントにて袁紹勢力との緊張が高まりつつある、まさにそのときである。曹袁両勢力の境目である白馬棟は、いわゆる最前線であり、来るべき決戦に備え、劉延をはじめとする30人が遅くまで居残り、校門やバリケードの補修、新規敷設や、サバゲーの訓練などを行っていた。 分厚いカーテンの隙間から漏れる明りの質は弱々しく、光源は蛍光灯や白熱灯ではなく、ランプかロウソクの類である事が推測できた。当然、棟の外からは中の様子を窺い知る事はできない。 白馬棟二階の、今は空き部屋となっている化学準備室。その部屋に漂う妖気は、この世のものではないようであった。ガラスの髑髏や奇妙な形の燭台、出所の知れない骨etcetc……ありとあらゆる黒魔術の小道具が、ある種の法則性に基づいて、いたるところに配置され、複雑な意匠の入った六芒星が描かれた魔方陣のシートが、四方の壁と床、天井に貼られていた。 床の魔方陣の傍に、制服の上に西洋の魔女、いわゆるウィッチの纏う、人血で染め上げたかのような真紅の裏地を持つ、闇を固めたような黒いマントと、これまた魔女の用いる漆黒のトンガリ帽子をかぶった、つややかな黒髪の女生徒が佇み、怪しさ満点の分厚い書物に見入っていた。 「………」 左手に書物を持ち、空いた右手で空中に印を結んでいる。ぼそぼそと呪文らしきものを呟いているが、あまりにも小さい声なので、たとえ傍らに居たとしても聞き取る事はできないはずであった。たとえ聞き取れたとしても、書物はラテン語で記されており、必然的に少女の呪文もラテン語となるため、内容を理解できる者は、ごく僅かであろう。 怪しい彫刻が入った蝋燭の炎が揺らめき、それまで影になってよく見えなかった少女の顔が一瞬、明らかとなった。学園全体でも十指に入るであろう、憂いをたたえた瞳が印象的なその美貌を、蝋燭の心細い光が妖艶に浮かび上がらせている。 「……?」 突然、少女の動きがぴたりと止まった。その視線は、床の魔法陣に釘付けになっている。それもそのはず、今まで何の反応も示さなかった魔方陣が、淡い燐光を発し始めていたのだ。その光は徐々に強さを増し、それに共鳴するかのように、天井と壁の魔方陣も輝きを発し始めていた。 「………!」 狼狽し、それでもミクロ単位でしか表情を変えずにいた彼女の目の前で、突如、光が奔騰し、もと化学準備室は無彩色に染め上げられた。 次の日 夜 深夜10時 明りの消えた白馬棟の校門前に、二台のMTBが滑り込んできた。 「夜の学校という存在は、どこか得体の知れない雰囲気があるものだな、張遼」 「まったくですね、雲長」 駐輪場が無いため、校門脇にMTBを止めたのは、先日、生徒会入りしたばかりの、もと呂布部下であった張遼と、現在、許昌棟でかごの鳥も同様の扱いを受けている、豫州校区総代にして蒼天会左主将である劉備の、義妹である関羽の二人であった。 とりあえずその場にMTBを置くと、護身用の木刀を携え、六時の時点で、居残りの生徒が怖がって帰ってしまったため、全ての明りが消えている校舎に、二人は足を踏み入れた。問題があった、どうやら棟全体のブレーカーが落ちたままになっているらしく、昇降口の電灯スイッチが何の反応も示さないのだ。懐中電灯の持ち合わせも無いので、月明かりだけを頼りに、二人は夜の学校の奥へと、足を踏み入れていった。 二人がこんな時間にここを訪れる羽目になった原因は、今朝、白馬棟にて、昨夜最後まで居残っていた生徒十四人が、校舎外で折り重なって倒れているのが発見された事にある。全員、二階の廊下の窓から外に落ちたらしいが、幸いにも、誰もが重くとも腕の骨折程度で済んでいた。だが、何者かとの闘争の結果、で片付けるには、奇妙な点が二つあった。 ひとつは、階級章には手がつけられていなかった事。もうひとつは、落下時の捻挫、骨折以外に外傷が無いにもかかわらず、今朝からずっと、14人全員に昏睡状態が続いている事である。 まがりなりにも、白馬棟は対袁紹勢力の最前線である。おかしな噂が立っては来るべき決戦に差し障りが出るとして、放課後一番に現場検証が行われたが、2階の落下地点の窓が枠ごと外れていた事以外は、何ら収穫が無かったと言ってよい。一応、落下した窓と、廊下を挟んで対面に位置する、もと化学準備室も調査されたが、もぬけの殻で、壁にかけられた、姿見の大きな鏡以外に、何の発見も無かった。 「それで、会議が開かれまして、深夜に調査員を送ることになったのです。そこで、真っ先に自分が行くと言い出したお調子者が1人いましてね」 「曹操殿だな」 「御名答。まさか副会長を行かせるわけには行きませんので、武道の経験のある者から、くじ引きで決めることになりまして」 「それで、おぬしが選ばれたわけか。しかし、何故拙者を誘ったのだ?呂布時代の同僚で、同じ剣道部の魏続や宋憲がおるであろうに」 関羽の問いかけに、張遼は憮然として答えた。 「下[丕β]棟の陥落以来、彼女達とは気まずくなっていまして。私自身は気にしていませんが、彼女達は、呂布を売った事を過剰に気にしているようで、避けられてしまうのですよ」 さらに言えば、張遼は剣道部にも上手く溶け込めていない。呂布討伐後、張遼をはじめとする新規生徒会入会者への歓迎会の座興のひとつとして、蒼天会長観覧のもと、公認剣道場『玄武館』で御前試合が開かれたことがある。 その試合において、張遼は防具をつけずに、李典、楽進、徐晃を、まったく竹刀を打ち合わせることなく撃破し、于禁とは、一度竹刀を打ち合わせただけで、わざと時間切れで引き分けたのである。それ以来、比較的に人あたりのいい、楽進や徐晃とはうまくいっているものの、李典からは血縁者の仇と憎まれ、かたぶつの于禁は、不遜な張遼をあからさまに嫌っていた。また、実戦で剣術を磨いてきた張遼は、剣道の基本である、打ってはポンと跳ね上げる『打突』や、肌の前でピタリと止める『寸止』が上手ではなく、つい、いつもの癖で打ち抜いてしまうため、一般部員からの評判も良くなかった。得物が竹刀であり、防具があるとはいえ、小手を打ち抜けば手首が腫れ上がり、面を打ち抜けば重度の眩暈を起こし、胴を打ち抜けば吹き飛んでしまう。それでいて、受け太刀というものをまったくせず、相手の打ち込みを足捌きのみでかわしてばかりいるので、まったく稽古にならないのである。そのため、一応は徐晃、楽進と同列である剣道部師範の肩書きはあるものの、張遼は放課後、玄武館には顔を出さず、MTB機動部隊の訓練に専念していた。 「音無しの剣か。あの徐晃すら軽くあしらったおぬしに、はじめて竹刀の音を立てさせるとは、于禁殿も伊達で公認剣道部の部長を張ってはおらぬということだな」 「雲長、意外に見る目がありませんね。なるほど、于禁さんの風格や、剣の知識は人一倍ですが、実際はたいした剣士ではありませんでしたよ。ただ、あの状況では、彼女の顔を立てておかないと、ただではすまなかったでしょうから」 「并州の孤狼、『剣姫』張遼も、さすがに命は惜しいか」 「何を勘違いしているのです?袁紹との決戦を目前に控えているのに、剣道部を全滅させるのは、さすがにまずいと思ったからですよ」 傍若無人ともいえる張遼の放言に、関羽は眉をひそめた。 「不遜だな、張遼」 「他人のことが言えるのですか、雲長?」 「拙者はまだ、おぬしの返答を聞いてはおらぬぞ、何故拙者を誘った?」 「では、あなたは何故ここにいるのですか?」 「色々と、おぬしに聞きたいことがあったからだ」 「奇遇ですね。私も、そういう理由からあなたをお誘いしたのですよ。卒業まで肩を並べているにせよ、今から1分後に、どちらかがどちらかをトばしているにせよ、お互いのことをよく知るにしくはありませんからね」 数十秒前から、二人の間で高まりつつある殺気が、臨界点に近づきつつあった。近くに誰かいれば、その殺気だけで失神してしまうかもしれない。 「……じつに後者を選択したくなってきたぞ、張遼」 「今、ここで決着をつけますか、雲長?」 「望むところだ」 「仕事を終えてからです。着きましたよ」 関羽の威圧を、さらりと張遼は受け流した。いつのまにか、二人はもと化学準備室の前に到着していた。廊下を挟んで向かい側の窓には、応急処置のベニヤ板が張り付けられ、外からの月光を遮っている。奇しくも、満月の夜であった。 「カギはかかっておらぬのか?」 「空き部屋ですので、普段はかけていません」 「では、行くぞ」 そう言って、関羽が、引戸の取っ手に手をかけようとした。
365:雪月華 2003/11/30(日) 08:42 白馬棟奇譚 ─後編─ 「……!雲長、危ない!」 何かを感じ取った張遼が、関羽の肩をつかんで思い切り引き戻したのと、内側から爆発的な勢いで引戸が弾き飛ばされたのは、ほぼ同時であった。弾き飛ばされた引戸は、関羽をかすめ、窓代わりのベニヤ板に衝突し、それを突き破りつつ、3m下の地面へ落下していった。 室内を覗き込んだ張遼は、驚きの色を隠せなかった。数時間前までは、完全な空き部屋であったはずの、もと化学準備室内は、完全な悪魔召喚の間と化していたからだ。天上、壁、床に貼られた魔方陣は、淡い燐光を発し続けており、室内の各所に幾何学的に配置された小道具の類は、それ自体が生命を持っているかのように、カタカタ揺れ動いている。 そして、床の魔法陣の中央にうずくまっていた黒い影が立ち上がった。マントの襟をそばだて、とんがり帽子を目深にかぶっているため、その顔は良く見えないが、マントの下には、張遼と同じ制服を着ていることから、同じ高校生と知れた。 「張遼、これは一体……」 「何者かに憑かれているようですね。先程の衝撃波といい、彼女にとり憑いたモノが、今朝の事件の犯人に違いありません」 そう言いつつ、一歩室内に踏み込んだ張遼に、水晶の髑髏が唸りを上げて飛来してきた。張遼は、それを難なく払い落とし、床に叩きつけて粉砕した。続けざまに飛来する、色とりどりの瓶や、出所の知れない骨も、次々とそれに倣った。 突然、室内が夕暮れ色に染まった。いつのまにか、天井近くまで浮き上がっている女生徒の両手に、炎が燃えあがっており、熱気が張遼と関羽に向かって吹き付けてきた。 「な、何が起こっている!?どうするつもりだ、張遼!」 さすがの関羽も動揺が隠せない。一方の張遼も、一瞬驚いたようだったが、すぐにあることに気付き、木刀を右手に下げたまま、無造作に女生徒へ詰め寄っていく。 宙に浮いている女生徒が、バスケットのチェストパスの要領で両手を前に突き出した。燃え盛る紅蓮の炎が渦を巻いて、張遼に絡みつく。 「張遼!」 関羽が悲鳴をあげた。だが、張遼はまったく表情を変えず、絡みつく炎を無視し、何事も無かったかように、ゆっくりと歩みを進めている。宙に浮いた女生徒に僅かに狼狽の色が浮かんだ。 赤一色の世界が、一瞬のうちに白一色に染まった。いつの間にか、女生徒の両手から放出されている炎は、凍てつくダイアモンドダストへと変化している。晴れた日の早朝、低温により空気中の水分が氷結し、まるで氷の妖精のように輝く自然現象だが、これが魔術となると、魂魄をも氷結させる悪魔の業となる。 しかし、それすらも無視しして歩き続ける張遼に、少女にとり憑いた何者かは、明らかに狼狽していた。そのまま、少女のすぐ傍まで歩み寄った張遼は、右手の木刀を空中の少女に突きつけた。 張遼の口から、凄絶な気合がほとばしった。 もと化学準備室の扉を開け放った関羽の目に、四方の壁、天井、床に貼られた魔方陣と、幾何学的に並べられた数種類の魔術の小道具類が飛び込んできた。そして部屋の中央の魔法陣の傍らには、黒いマントを羽織った少女がうつ伏せに倒れている。 「い、今、何が起こったのだ、張遼?」 「……一種の精神攻撃ですね。この部屋と廊下の一部を、ある種の魔術的な場で包み、踏み込んだ者を術にかける。先程、ドアを吹き飛ばした衝撃波も、私に対して放たれた火炎や冷気も、実際には発生していません。あの時、精神的に負けていれば、現実の私は、かすり傷一つ無いまま『焼死』もしくは『凍死』していました。ですが、それに打ち勝てば、術の効果はそのまま術者に跳ね返ります。つまり、彼女にとり憑いた何者かに」 「やけに詳しいな」 「こう見えても結構、オカルトに興味がありますので」 張遼は倒れている少女に歩み寄ると、仰向けに抱き起こし、頬を軽くはたいた。少女が、物憂げに目を開ける。 「我々は生徒会の者です。大丈夫ですか?」 「………」 こくり、と少女は無言で頷いた。 「まず、あなたはどこの棟に在籍している誰で、ここで何をしていたのですか?」 「………」 ぼそぼそと何か言ったようだが、あまりに小さい声だったので、関羽には聞き取る事ができなかった。 「え?揚州校区の会稽棟在籍で、名前は于吉?この場所の気脈がピークだったから、死んだお祖父さんを呼び出そうとしていたが、本のページを間違えて、変なものを呼び出した後は記憶が無い?なるほど、わかりました。ここは生徒会にとって重要な場所ですので、できれば、もう来ないでほしいのですが……」 「………」 再びぼそぼそと何か言ったようである。やはり関羽には聞き取れなかった。 「え?この場所の気脈はピークを過ぎたから、もう来ない?それはなにより。ちゃんとひとりで帰れますか?え?夜目は効くから大丈夫?わかりました。ちゃんと片付けていってくださいね」 こくり、と于吉と名乗る少女は無言で頷いた。 校門を出たところで少女と別れると、関羽が張遼に溜息をついた。 「あのまま帰してよかったのか?」 「拘束してどうにかなるものではありません。とりあえず、副会長には見たままを報告して、もっともらしい理由は、程イクあたりに考えてもらいますよ。それに、于吉と言う名前も、おそらく本当のものではありません」 「何ゆえ?」 「西洋の魔術では、真実の名前を知られると、それに呪いをかけられてしまう恐れがあるので、たいていの魔術師は魔術用の名前を持っているそうです。見たところ、召喚の儀は本格的でしたし、偶然とはいえ、あれほどの精神攻撃を仕掛けられる悪魔を呼び出せた事から、彼女は相当、高位の魔術師と思えましたのでね。それより……」 「仕事は……終わったな」 二人はほぼ同時に跳び退った。そして7mほどの間をあけて睨みあう。関羽は木刀をしっかりと正眼に構えて張遼を見据え、張遼は両手をだらりと下げ、悠然と立っているように見えた。徐々に殺気が高まり、雲ひとつ無い夜空に浮かぶ月ですら、息を呑んで二人の剣士を見下ろしているように思えた。 関羽が、すり足で一歩間合を詰め、張遼もそれに応じて間合を詰めた。そして関羽が剣尖を上げようと、やや前傾した瞬間。 「スト────ップ!」 爽快なほど快濶な声が、一面に満ちていた殺気を吹き消してしまった。関羽と張遼は、ほぼ同時に声のした方を見やり、腕を組んで二人を睨んでいる小柄な少女を見出した。 「曹操殿?」 「副会長ですか」 「二人とも何やってんだよっ!」 曹操の声が、憤りのあまりやや震えているように、関羽には思えた。 「いい?アンタたち二人は献サマと蒼天会に仕える身だよ。それにアタシの大切な友人なんだから、こんなところで軽々しく決闘に及んじゃダメだよっ!」 もっともらしい台詞の中に、関羽は微かに違和感を感じた。 「副会長。今のお言葉、まことの事でござるか?」 「当然だよっ!アンタだけじゃなく、劉備や張飛だって、大切な友人なんだよっ!」 「拙者の疑問は、その前の言葉にござる。……近頃の、蒼天会に対するなさりようを見ていると、その言葉に違和感を感じるのですが」 関羽が言い終えた瞬間、先程、張遼と関羽との間に発生した殺気とほぼ同種のものが、曹操と関羽との間に発生した。 「……関羽、本当はやりたくない、とは言わないよ。好きで生徒会役員やってるんだし、本当にやりたくないなら、とっとと階級章を返上すればいいんだしね。いい?やらなきゃ、アタシがやられるんだよ。アタシが言えるのは、それだけ」 「それはそうと副会長。どうしてこんな時間にここにいるのですか?」 「え?えーと、それは……」 突然、張遼が気難しい顔で曹操に話し掛けた。明らかに曹操は動揺している。 「その、何と言うか……」 「おひとりで、夏侯惇さんも、虎ちょもいないようですし……。無断で調査に来ましたね?」 「うぐ……」 「来ましたね?」 「…ご、ごめん。文若や于禁には黙っててね?あの二人、いつまでもくどくどうざったいからさ」 心から情けなさそうな表情をした張遼は、大きくため息をついた。 「まったく、いち勢力の首領にしては無用心すぎますよ……。わかりました。あの二人には黙っておきます」 「やったー!恩に着るよ張遼!」 「そのかわり、今夜は夏侯惇さんに、こってりと油を絞ってもらいましょうか」 「げ……、か、関羽も何か言ってよっ!」 「張遼。それはいい考えだな」 関羽は苦笑を浮かべつつ、重々しく張遼に賛同した。 午後11時半。中央女子寮C棟4階。 黒絹のような髪のもつ、物憂げな瞳をした美少女が、『顧雍&顧譚』というドアプレートのついた扉を開けた。先程、白馬棟で大騒ぎを起こした、于吉である。部屋の中で、クッションにうつ伏せになってティーン雑誌を読んでいた、于吉にそっくりな少女が、驚いた表情で彼女を見つめた。 「あ、元歎姉さん。昨日は帰ってこなかったけど、どこ行ってたの?龍の巣にもいなかったみたいだけど?」 「………」 「え?憶えてない?まったく、ボーっとしすぎるのも限度があるわよ。まあ、無事だったからいいけど」 「………」 こくり。 于吉、いや後の長湖部副部長となる顧雍は、少し恥ずかしそうに頷いた。黒魔術は、彼女のひそやかなる趣味である。 『学園正史長湖部記 怪異説集』によると、この後、会稽棟に戻った顧雍は、夜な夜な怪しい儀式を繰り返したり、自家製の栄養ドリンクを長湖部員に無償で配ったりしていたが、そのことで孫策に目をつけられてしまった。そして、オカルトや占いを毛嫌いしている孫策に、降水確率0%の日に、雨を降らせる事ができなければトばす、という理不尽な命令を受けてしまう。結果的に、雨雲の召喚は成功し、あたり一帯は豪雨となったが、そのことで逆上した孫策に、秣陵棟じゅうを追い掛け回される羽目になってしまう。そのまま夕暮れ時まで逃げ回り、最終的に更衣室に追い詰められてしまったが、魔法で鏡の中に逃げ込むという荒技により、オバケ嫌いの孫策を失神させ、その隙に逃げ出す事に成功した。 その後、そのときのショックが尾を引いた孫策は体調を崩しはじめ、夏休み突入後、周瑜や張昭の反対を押し切って参加した部内対抗の紅白試合で、人為的な事故に巻き込まれて重傷を負い、そのまま引退してしまう事になる。 顧雍自身は、孫策リタイア後、生徒会から長湖部に復帰した張紘により、その吏才を見出され、長湖部の経営に携わる事となる。幸い、顧雍=于吉であると気づく者はひとりもおらず、最終的には副部長職まで務めたが、週3回ほどのペースで、黒魔術は続けていたらしい。 ほぼ同時刻、中央女子寮B棟5階の自室に戻った関羽に、劉備が深刻な表情で、重大なことを告げた。 「関さんがおらん間に、えらい事あったで…」 「何事でござる?」 「…董承が、訪ねてきおった」 「蒼天会の車騎主将が?いったい何用で?」 「…曹操打倒のために、勤王の志士を集めてるんやて」 時代が急速に動き出す音を、関羽は聞いたような気がした。
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