★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
377:那御2003/12/08(月) 02:41AAS
柔能ク剛ヲ制ス

柔軟な者は、かえって勇猛な者を制することができる、という意である。
盧植は、公孫サンが学問においても、兵法においても、柔軟な考えに欠けているということを懸念して、
この言葉を肝に銘じるよう言ったのであった。

しかし、公孫サンはこの言葉に反し、
領地を増やすために冀州に進入し、総代の座を奪うために劉虞を飛ばすなど、
直情的な行動が多かった。

(そのツケが今頃回ってきたってかい・・・)
こうしている間にも、袁紹軍はいろいろと仕掛けてきているのであろう。

(何か手を打たなければ・・・)
だが、考えれば考えるほど、盧植の言が頭を過ぎり、公孫サンを憂鬱な気分にさせるのであった。



遂に、公孫サンは前線に立つことを決意した。
というのは、遥か遠くに狼煙が上がっているのを確認したからである。
「ようやくご到着かい・・・」
公孫サンは、黒山賊ことBMFに使者を送り、増援部隊の派遣を要請したのである。

BMFのトップには、戦闘力に優れた張燕がいる。
(張燕の元までたどりつければ・・・この状況を打破できる!)
そう考えた公孫サンは出陣を決意した。

公孫サンは、僅かに残った部下にこう下知した。
「黒山の張燕が援軍として到着した!
私は、いったん張燕のもとへ身を寄せ、そこで再起を図ろうと思う!」

そう一声言うと、公孫サンは、愛車にまたがり、薙刀を手にし、弓を担ぐと、
一気に易京棟を飛び出し、狼煙に向かって真一文字に突き進んだ。


だが・・・
狼煙まであと百メートル、というところで、突如公孫サンの目の前に、伏兵が現れた。
「ちっ・・・蹴散らせ!」
公孫サンは、薙刀を振り下ろし、2人を倒した。
目の前が開けたところで、公孫サンはスロットルを全開にし、一気に突っ切った。

そして、狼煙が段々近づいてくる。
50メートル・・・30メートル・・・

「なっ・・・どういうことだっ・・・」

公孫サンが驚くのも無理は無かった。
狼煙を上げていたのは、張燕などではない。
事もあろうに、あの袁紹であったのだ。

「だから田舎娘は単純って言うのよね・・・」
袁紹が不適な笑いを浮かべる。

「貴様ッ!」
公孫サンが袁紹に斬り掛かるも、袁紹の隣に侍立していた文醜が、これを受け止めた。
「生徒会に歯向かおうなどたぁ、いい度胸じゃないかい!」
ナイトマスターと呼ばれ、恐れられた猛将である。

篭城の疲れと、盧植の言葉の苦悩により、公孫サンにもはや戦う余力は殆ど無かった。
一、二合交えたところで、公孫サンは撤退の指示を出した。
(とはいえ・・・もはや易京棟は落ちていよう・・・。かくなる上は、斬り死にするのが武人の名目ッ!)
公孫サンは、悲壮の覚悟で、敵軍に再び突入していった。

公孫サンの姿が見えなくなると、袁紹はとんでもないことを言い出した。
「田豊、易京棟を彼女に返して差し上げなさい。」
「・・・は?」
「公孫サンを易京棟に撤退させなさい、と言ったのよ。」
「なぜです!わが軍の勝利は決定的、それをみすみす・・・」
「あの田舎娘に、思い知らせてやるのよ・・・」
「そのようなことをすれば、わが軍に降伏してくるものはなくなります!」
「今回だけよ、あの女は・・・あの女だけは許さない!」
「・・・」

田豊は呆れ返ってしまった。
袁紹は、一時期公孫サンに苦戦したことを、かなり根に持っているようだった。
(これは・・・諌めても聞き入れて下さらないだろう・・・)
剛直で知られた田豊も、これには矛を引っ込めるしかなかった。

(どういうことだ?)
なぜか無事に易京棟に入ることができた公孫サンは、考え込んでいた。
敵軍の勝利は確実であった。にも関わらず、袁紹は易京棟を取らず、自分に棟を明け渡した。
(侮辱・・・としか思えん・・・)
この露骨な侮辱も、公孫サンの心に大きなダメージを与えた。

(姐さん・・・私は間違っていたんだろうか・・・)
公孫サンの頭に、再び盧植の言葉が浮かんだ。

自分の力、自分の意志、自分の心、それが、この動乱を切り開く唯一の武器である。
そう信じていた。そう信じて突き進んできたのだ。
だから、心から信じることが出来る人間は、殆どいなかった。
逆に、自分を信じてくれる人間も、少なかったように感じられる。

姐さん・・・アイツは・・・劉備は今どうしてるんだろう・・・
アイツらだけだったよ・・・後輩で私になついたのは・・・

玄徳・・・

つかみ所がないタイプの後輩だった。
しかし、不思議と自分と馬が合った。
ともに盧植の部屋で語らったこともあった。
自分が唯一心から信じられた後輩であった。

玄徳・・・アンタは、私と同じ路を辿っちゃならない。
乱世を切り開くには・・・力だけじゃダメだったんだ。
私は身を以てそれを知ったよ・・・

最後くらいは・・・カッコイイ事言わせてくれ・・・
アンタは、間違いなく大物になる・・・そんな気がするよ・・・


翌日、公孫サンは階級賞を自主返済し、群雄割拠の時代から、その名を消した。
心の中に、ひとりの後継者を残して・・・
1-AA