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413:7th(ver.祭り) 2004/01/18(日) 20:52 「か〜ん〜よ〜う〜、あんたもうちょっとシャキッとしなさいよ!」 「………何で?」 だらしなくテーブルに突っ伏していた簡雍に法正が抗議の声をあげる。 髪はくしゃくしゃになり、服はヨレヨレ。おまけにテーブルの周りには酒瓶が何本か転がっている。 「んも〜、よく見れば素は悪くないんだからもっとこう……」 「へいへい…」 法正が説教をたれ、簡雍が生返事をする。彼女たちにとってはごくありふれた光景である。 「う〜ん、そうよね。素は悪くない、そうなのよ、うん。」 「もしも〜し」 何やら自分の発言に思うところを見つけた法正。既にインナーワールドへとトリップし始めている。 「そうよ、もっとしっかり着飾らせればいい感じになるわね」 「…孝直?」 「先ずはその安っぽい髪留めを外して、そんでもって服を………」 「…いや〜な予感が…」 本能的に身の危険を感じてその場を逃げ出そうとする簡雍。誰だって自分の身は可愛い。 「んじゃ、あっしはこれで」 「ま・ち・な・さ・い」 こそこそと逃げ出す簡雍の襟首をぐわしっ、と掴む法正。その目は獲物を狙う猛獣の目をしていた。 猫を持つように簡雍をひっ掴んで自分の前に座らせると、法正はおもむろに口を開いた。 「というわけでここに『第一次簡雍改造計画』の開始を宣言します!」 〜〜簡雍改造計画〜〜 何が「というわけ」なのか。しかも改造計画!?本人の意思は関係ありませんか。…ありません?そうですか。そうですか。 ……冗談ではない。 何でそんな事されないといけないんだ。他人のオモチャになるのは御免被る。 日頃の自分の行いを棚に上げて、かなり身勝手な事を考える簡雍。そんな懊悩はお構いなしに法正は携帯電話に手をかけた。 「みんなにも知らせておかないと。楽しいことは大勢でしろ、ってね」 法正がボタンをプッシュし始めたその瞬間、信じられないような瞬発力で、まさに脱兎の如く簡雍は逃げ出した。法正がそれに気付くより速くドアを通り抜け、愛用のキックボードに乗り、疾風の如く去って行く簡雍。 「ふ…ふっふっふ……イイ度胸してるじゃない」 不適な笑みを浮かべ、今し方かけようとした番号とは違う番号をプッシュする法正。数回の呼び出し音の後、電話は取られた。 「もしもし、部長ですか?法正です。大至急、手の空いてる人全員に召集をかけて下さい!」 「何や、随分と唐突やな。何やらかす気や?」 「大捕物です。詳しくは後で説明しましょう」 かくて前代未聞、帰宅部連合全てを巻き込んだ大捕物の幕が切って落とされた…。 かんかん照りの太陽の下、簡雍は独り道を歩いていた。 どうせ何時もの法正の気まぐれだ。ほとぼりが冷めるまでぶらぶらしていよう。 …それにしても暑い。既に外気は35℃を越えている。何処か涼める所はないだろうか、そう思い辺りを見渡す。…ふと目に付いた喫茶店。丁度良かった。思い立ったが早いか、手で押していたキックボードを店の前に停めて、簡雍は喫茶店のドアを開けた。 カランカラン、とドアに付いたベルが鳴る。と同時に店内の空気がひんやりと肌をなでる。 簡雍はカウンターでアイスコーヒーを注文した後で、クーラーの風が最もよくあたるポジションを確保して座った。 そして改めて店内を見渡す。しっとりと落ち着いた店内に、ゆったりと優雅なクラシック音楽が流れている。そして照明は目に悪くない程度に薄暗く、気分を落ち着かせてくれる。 良い店だった。学園都市という性質上、喫茶店、またはそれに類する店が多数存在するこの中華市において、簡雍が知る限りでも五指に入るであろう。 注文したアイスコーヒーが簡雍の前に運ばれてくる。それにストローをさし、口を付けようとして――――硬直した。 一瞬前まで只の客だった少女達が揃って簡雍を囲み、彼女に銃口を向けていた。 「簡雍さん、ですね?」 その内の一人が簡雍に問う。その全身から放たれる、殺気にも似た圧迫感。下手に答えようものなら即座に撃たれかねない。そう判断し、簡雍は素直に肯いた。 「説明を要するわね。いったい何事?」 「部長命令です。詳しくは後で法正さんに聞いて下さい」 法正、その一言で理解した。 つまり、意地でも着せ替えをさせたい、そういうことか。 …それだけでこんな大事にするか普通?しかも部長命令。劉備がからんでいるということは、捕まったら間違いなくさらし者だ。意地でも捕まるわけにはいかない。 席を立とうとする簡雍。それに合わせて上へあげられる銃口。 簡雍が立ちきったと思ったその瞬間、その姿がまるで手品のようにかき消える。 椅子から滑り落ちるように足下へと転がった簡雍は、そのまま転がり出るように店を出る。 「お客さん、勘定」 「帰宅部の法正にツケといて!」 「了解した」 こともなげに他人のツケにしていく簡雍。それにあっさりと答えるマスター。……いいのかそれで。 後ろから数人が走って追いかけてくるが、キックボードに追いつけるはずもない。ぐんぐんと距離は離れてゆく。 「くそっ、逃がすな!」 叫びはすれども足は動かず。追跡を諦めようとした彼女たちの後ろから、不意に声がかけられる。 「苦戦しているようね。まぁ見てなさい」 その声の主はクラウチングスタートの姿勢をとると、一気に駆けだした。 「待ちなさーい!」 簡雍の後方よりかけられる声。ありえない、さっきの連中は振りきったはずだ。大体、そこらの一般生徒が本気を出した簡雍のキックボードに走って追いつけるはずがない。 「待ちなさいってば!!」 声は遠ざかるどころかさらに近づいてくる。いったい何者か!?と訝しんだ簡雍は後ろを振り向いた。 「あーもう、待ちなさいって言ってるでしょう!!」 赤い髪に虎の髪留め。そして陸上部のジャージ。 「ばっ、馬超!?」 帰宅部連合、いや学園きってのスプリンター、馬超が鬼のような形相で簡雍を追いかけていた。 あわてて地面を蹴る力を強める簡雍。それによりキックボードはスピードアップするも、馬超との距離は依然として離れない。むしろ逆に縮まっている。 馬超はタイミングを見計らうや、一気に簡雍の横に躍り出た。かつて曹操を追いつめた健脚は、帰宅部入りを果たした今なお健在である。 「さーて、もう逃げられないわよ。大人しく捕まりなさい」 「くっ…さすが馬超ね。『錦』の二つ名は伊達じゃない…か。だけど!」 前輪を浮かせ、後輪のみで急ターンする簡雍。その向かう先は階段。 「こんな所で捕まってたまるかー!!」 キックボードのノーズを持ち上げ、階段の手摺りに引っかける。そして90°回転。ボードの腹を手摺りに乗せてそのまま滑りおりていく。金属の擦れ合う音と火花を撒き散らしながら最下段に到達するや、そのままの勢いでジャンプ!空中で両足をキックボードの上に乗せ、そのまま着地し、何事もなかったかのように走り去っていく簡雍。 「あーっ!それインチキよー!!」 階段の上で馬超が何か叫んでいるが簡雍には聞こえていない。追われる者は常に余裕がないのだ。 「待ちなさい。ここから先へは行かせません」 「んげっ、姐さん方」 曲がり角を曲がった簡雍の前に立ちはだかったのは黄忠と厳顔。両人とも胴着に黒袴、そして弓を携えての出で立ち。明らかに本気である。 「てか何で姐さん達まで出て来るんですか!?」 「それは……」 「……ねぇ」 顔を見合わせる黄忠と厳顔。 『一度見てみたいからに決まってるでしょう!』 …一番聞きたくなかった答えだった。しかも二人してハモって言わなくても…。 「一つ言わせて貰って良いですか?」 「ん?なにかしら。最期の一言くらいは聞いてあげるわよ」 「…いいトシしてそういう趣味はどうかなー、と」 ………プチーン。 何かが切れた音。実際にはそんな音はしていないのだが、簡雍は確かに聞いた。 『ふ、うふふふふふふふふふふふふふふふ』 黄忠と厳願は笑っている。否、嗤っている。 その表情はまさに悪鬼羅刹の如く。額には血管が浮き、頭からは角が生え、躯からは陽炎のように謎のオーラが立ち上っている……ように簡雍には見えている。 「どうやら」 「お仕置きが必要のようね」 予備動作無しで弓を引き、マシンガンの如く次々と矢を射掛けてくる二人。 鏃の部分をゴムに替えてあるとはいえ、当たればシャレにならないほど痛い。ましてやこの二人の弓はかなり強い。その威力、推して知るべし。 「ち、ちょっとタンマ!待った!ストーップ!!」 文字通りの矢の雨を潜り抜け、簡雍は一目散に逃げ出した。 人を斬る風だった。 とっさに飛び退った簡雍の目の前を、風を切る音と共に白刃が通過する。はらり、と前髪が数ミリ、頬を伝って落ちた。 「ち、趙雲……真剣は反則……」 「何を今更」 随分と物騒なことを趙雲はあっさりと言ってのける。 「銃刀法などこの学園では無意味でしょう?」 「イヤそれ絶対違うから」 誓って言うが、この学園内が治外法権などということは絶対にない。……多分。 「大体何でアンタまでっ!(割と)良識派だと思っていたのにっ!」 「だって…アトさんが見たいって言うから」 ……あきれたを通り越してもう馬鹿馬鹿しいの領域である。そんな理由で命狙われるなんてたまったモンじゃない。 「趙雲、アンタもっと行動に主体性を持った方がイイよ」 「そう…ですか?」 「アトちゃんが可愛いのは解るけどさ、それだけじゃなくてもっと自分のことを考えてみたらどう?」 「でも、そしたらアトさんが」 「アンタが何でもしてたらアトちゃんは成長しないよ?それにアンタだって何時かは卒業する。何時だってアトちゃんの側に居られる訳じゃないんだからさ」 「そう……ですよね」 「アンタはもっと自己中心的になってもいいの。きっとその方がアンタのためになるよ。これ、先輩からの忠告。覚えときなさい」 「はい、ありがとうございました」 深々とお辞儀をして去っていく趙雲。彼女が見えなくなった後、簡雍は大きく安堵のため息をついた。 「いやー、まさかアレで何とかなるとはね」 当然、先ほどの言葉は口から出任せである。 「うん、なかなか真に迫った演技だったかも。アカデミー賞ものだね」 命がけでやれば何とかなる、ということの好例だろうか。尤もこの場合、比喩表現ではなくホントに命がかかっていたのだが。 「さて、このまま逃げているのも疲れるし…どっかに隠れようかな」 脳内の簡雍データベースから当該箇所を見つけると、そこに向かって簡雍はキックボードを走らせはじめた。
414:7th(ver.祭り) 2004/01/18(日) 20:53 荊州校区と益州校区のちょうど境界に一つの建物が建っている。 「いや〜助かったよタマちゃん」 「いえ、大したことはありませんよ」 簡雍の言葉に、タマちゃんと呼ばれた少女が返事する。 彼女の名は劉璋、あだ名は季玉。故に簡雍はタマちゃんと呼んでいる。前益州校区総代であった彼女は、総代の座を劉備に譲り渡してから、この建物でまったりしていることが多い。ご多分に漏れず、この日も彼女はここにいた。 「大変だったようですね。…お茶でも淹れましょうか?」 「あ、いいねぇ。お願い」 喫茶店でコーヒーを飲みそびれたことを思い出し、簡雍は肯いた。 お茶を淹れに席を立つ劉璋。それを見送る簡雍。 ふと窓の外を見つめる。その目が捉えたのは違和感。 良く目を凝らして物陰を見遣る。そこにあったのはかすかな人の影。 気付かれたか?いや、それにしては早過ぎる。 5分ほどそうしていただろうか。そちらへ向けていた意識を、劉璋の声によって引き戻された。 「お茶がはいりましたよ〜」 劉璋がお盆の上にのせたお茶を持ってくる。よく冷えた麦茶だった。 やはりおかしい。差し出された麦茶を前に簡雍は考える。 冷えた麦茶。冷蔵庫から出してコップに注ぐだけの手順の筈が、何故こんなにも時間がかかる? そして向かいに座った劉璋の態度が、かすかだがそわそわと落ち着き無い。 もう一度、窓の外を見遣る。巧妙に隠れてはいるが、明らかに人の数が増えている。 …つまり、結論は一つ。 「タマちゃん、アタシを売ったね?」 じっと劉璋を見据える簡雍。 「…何のことです?」 あくまで平静を装う劉璋。だがその目が泳いでいるのを簡雍は見逃さない。 「…ならアタシの前のこの麦茶、飲んでみせて」 「……っ!それは…」 思った通りだ。多分その麦茶の中には睡眠薬か何かが入れられているのだろう。 「ごめんなさい……私…」 俯いたまま泣き出しそうな声で謝る劉璋。 「ん、いいよ別に。タマちゃんが悪いんじゃないし」 彼女にそんな悪知恵があるとは思えない。きっと誰か……諸葛亮あたりに入れ知恵されたに違いない。 さて、また逃げないと。幸い、まだこの建物の周りの追っ手は少人数だ。何とか撒くことも出来るだろう。 簡雍はそう判断し、ドアを開けた。 『うえるか〜む!』 ドアを開けた先に待ちうけていたのは追跡者の皆さん。開けた早さに倍する速度でドアを閉め、鍵をかける簡雍。 「謀ったね!タマちゃん!!」 一連の劉璋の行動は全て時間稼ぎ。ここの包囲がまだ完成していないと錯覚させつつ、わざとダミーの計略を看破させ、着々と包囲を進めていたのだ。 今更気が付くも既に遅し。出口は既に固められている。 簡雍は部屋の中に入れてあったキックボードをひっ掴むと、窓の方へ向かって走る。 「か、簡雍さん、ここ二階…」 「てりゃっ!」 劉璋が止めるより先に、簡雍は窓から飛び出した。 着地。そして尻もち。落ちた先は幸運にも花壇の中だった。 「…へっへ〜、日頃の行いが良かったせいかな」 軟らかい土にショックは吸収されたせいか、服は汚れたものの、体はほとんど無傷である。 頭上から心配そうに見下ろす劉璋に親指を立てて無事をアピールすると、簡雍は少々痛む体を引きずって逃走を再開した。 「ふんふふふ〜ん♪」 鼻歌混じりに何やらごそごそと物をあさる簡雍。 あまたの監視の目をくぐり抜け、やってきたのは寮の一室…というか簡雍と法正の部屋である。灯台もと暗しとはまさにこの事か。 ポーチにフィルムその他を詰め、カメラのコンディションを確認する。 「よし、完璧」 簡雍、完全装備完了。本気の相手…タイガーファイブ級を相手取るにはこのくらいしないと、逃げ切るのも容易ではない。 「さーて、また逃げるかね」 「そうはいかないわよっ!!」 簡雍の言葉を遮る雄叫び。一瞬の後、大きな音を立てて開けれる鉄製のドア。 「…もうもうと土埃の立つ中、逆光を背負って現れたるは『漢・魏延』!」 「そこ!地の文にかこつけて口に出さない!てか絶対わざとでしょ、それ!!」 竹刀をづびしぃ!!と突きつける魏延。どうでもいいがアンタ乙女志望はどうなった? …そんなことはどうでもいいとばかりに簡雍から目と竹刀を逸らさず、後ろのドアを蹴り閉める魏延。これで退路は窓だけとなった。 「どうする?また飛び降りてみる?尤も、ここは四階だけど」 張飛あたりならともかく、簡雍にそれは無理だ。例え無事飛び降りたとしても、下に待ちかまえているであろう連中に捕まって終わり、のはずだ。 だが簡雍に動揺はない。にいっと口の端をゆがめて、勝ち誇ったように宣言する。 「甘い」 そう言っておもむろに天井からのびたロープを引っ張る。刹那、ブラインドが下り、さらに暗幕がかかる。部屋の明かりはついていない。すなわち、真っ暗闇。 写真の現像のために、部屋を暗室にするギミックを簡雍は施していた。…まさかこんな用途で使うことになるとは思っていなかったが。 勝手知ったる自分の部屋。ベッドの位置、冷蔵庫の位置、果ては法正の持ってるぬいぐるみの位置までつぶさに記憶している。簡雍にとっては、この暗闇の中でドアまで辿り着くことなど朝飯前だ。 だが魏延は違う。暗闇に慣れぬ目を凝らし、簡雍を見つけようとするも何も見えず。駄目か、と諦めかけたそのとき、目に飛び込んでくるかすかな赤い光。 光の正体はカメラの発光ダイオード。その光の動きで簡雍の位置は手に取るように解る。 竹刀をひと振りして足下に障害がないか確認。足下の安全を確信した魏延は、一足飛びに間合いを詰める。そして竹刀を振り下ろそうとしたその瞬間――――視界が真っ白に染まった。 必殺簡雍フラッシュ。部屋が暗かった事もあって威力は倍増だ。あまりの眩しさにもんどりうって転げ回る魏延。 「あ、散らかしたのは片付けといてね」 そう魏延に告げて悠々と外へ逃げる簡雍。その言葉が魏延に聞こえているかは怪しいが。 さて、どうしたものか。このまま逃げ続けても、いずれ捕まるのは目に見えている。 ならどうするか。臭い物は元から絶つべし。ということで、この騒動の元凶である法正をとっちめて、例の言葉を撤回させれば良い。 結論は出た。ならば後は実行するのみ。 「ふっ、法正。首を洗って待ってなさいよー!」 「魏延の突入、失敗しました」 「呉班のD班、目標をロスト。現在、呉懿のB班・雷銅のF班が周辺を捜索中」 次々に持ち込まれる報告に、劉備はやれやれと嘆息した。 「無理やろな。連中ごときに見つかる程、憲和は甘ないわ」 「ほう、どういうことですかな?」 傍らに立った諸葛亮が問う。 「実戦経験の差やな。考えても見ぃ、憲和は黄巾騒動の時からウチらと一緒だったんやで?踏んだ修羅場の数なら馬超や漢升はん、子龍でさえ及ばんやろな。まして新入りの魏延や争いの少なかった益州の連中ならなおさらやな」 学園一のトラブルメーカー、劉備新聞部の初期メンバーにしてカメラマン簡雍。その役目柄、危険にさらされたことは数知れずある。しかし、彼女はトばされてはいない。 その逃げ足の早さを以て知られる劉備だが、彼女すら逃げ足という一点においては簡雍に一歩の遅れをとると思われる。 「言い出しっぺはどした?」 「法正殿なら何人か連れて外に行きましたが、何か?」 「…ま、あっちはあっちで何か企んどるんやろ」 こと戦略・戦術においては諸葛亮すらしのぐ才を持つ彼女だ。何か罠を仕掛けていることだろう。 「張飛より入電!『我、目標を発見。追いつき次第交戦を開始する』以上です!」 「益徳か!?そら拙いわ。ウチも後詰めに出る!…ちゅーことやから孔明、後頼むわ」 「お任せ下さい」 慇懃に礼をする孔明の姿を目の端に留め、劉備はその身を戦場へと赴かせた。 ばんっ!! 聞こえてきたのは炸裂音。それが聞こえた方へ劉備は走る。 校舎の角を曲がった劉備が目にしたものは、目を回してぶっ倒れている張飛と、その傍らに立つ簡雍の姿。 張飛のことだ。多分、飛びかかっていった瞬間、簡雍に返り討ちにあったと思われる。 「言わんこっちゃ無い…」 先程の音、あれはおそらくスタングレネードを使用した音。至近距離で炸裂したならば、その音と閃光によって一発で戦闘不能に陥るシロモノだ。 「丁度良かったわ。玄徳、法正は何処?」 「知らんな。それよりも憲和、そろそろお縄についた方がええんちゃうか?」 「話す気はない……ようね」 「そっちも捕まる気はないようやな」 どこからともなくハリセンを取り出し、慎重に間合いを計る劉備。 右手にカメラを、左手にスタングレネードを構える簡雍。 凍り付く気配。流れる一触即発の空気。 先に動いたのは簡雍。左手のスタングレネードを劉備に向けて投げる。 「甘いわっ!!」 気合い一閃、弾かれたグレネードは2秒後、劉備の頭上で爆発した。 ハリセンをヒュンヒュンとガン=カタばりに回し、簡雍に近づく劉備。 「さーて、そろそろ年貢の納め時やで?大人しく捕まってゴスロリを着ぃ」 「ごっ、ゴスロリぃ!?待て待てまてマテ、なにゆえゴスロリか」 「決まっとるやん。そっちの方がおもろいからや」 きっぱりはっきり断言する劉備。それを聞いて、簡雍はげんなりした。 この部はアホばっかりか?そう考えざるを得なかった夏の日だった。 「ほれほれ、考え事しとる場合やないで!」 目の前に迫る劉備の顔。そしてハリセン。紙一重でそれを避けるも、続いて二撃、三撃目が飛んでくる。いつしか背後には壁。完全に追いつめられていた。 「今大人しく捕まったら手荒なことはせんが、どや?」 完全に劣勢のこの状況。選択肢は降伏か死かと思われるこの状況下で、あろう事か簡雍は唇の端をゆがめて嗤った。 「断る」 そう言って左手に持った物体を地面に投げつける簡雍。地面にたたきつけられたそれは、凄い勢いで煙幕を吹き出した。 煙に紛れて劉備の横をすり抜ける簡雍。だがそれに気付いた劉備はしつこく簡雍を追う。 不意に、劉備の鼻先に投げつけられたボール。それは破裂すると、辺りにコショウをまき散らした。 「ぶえーくしっ、がん゛よ゛〜!ぶえっくしゅん!」 …涙と鼻水まみれになった劉備は、簡雍の追跡を諦めた。張飛はまだ目を回している…と言うか既にそれは失神から睡眠へとシフトしていた。 世界は平和である。そう思った夏の日の午後だった。
415:7th(ver.祭り) 2004/01/18(日) 20:55 世界は平和だろうが、今の簡雍は平和とはほど遠い所に居た。 一人対数百人。かつて如何なる者も経験していないであろう戦争。タイトルを付けるならば、 まさに『真・三国無双』……シャレにならない。 そしてここに、またしても簡雍の前に立ちはだかる影が三つ。 「さぁ簡雍!!」中央に立つ、『壱』と書かれた赤色の覆面をかぶった少女が絶叫する。 「いい加減に!!」向かって左、青い覆面に『弐』と書かれている少女がそれに続け叫ぶ。 「捕まって下さいね」と、向かって右の黄色い覆面の少女がおっとりと言った。予想通り、覆面には『参』と書かれている。 「○陽戦隊サ○バルカン!?」 「違う!我々は『内政戦隊ショッカン4(−1)』!!」 簡雍のツッコミは、予想を遙かに超えたエキセントリックな答えで返された。 ホントにこの部はアホばっかりか。そう深刻に考えざるを得なかった夏の日だった。 「えーと、取り敢えず左から伊籍、孫乾、糜竺?」 「違う!左からショッカンブルー、ショッカンレッド、ショッカンイエローだ!!」 「……なんだそりゃ」 何か色々とはっちゃけすぎの三人。あきれ果てる簡雍。 ちなみに簡雍が三人を見分けたのは胸の大きさだ。孫乾<糜竺<伊籍である。 「なんかアホくさくなってきたわ。ってことであんたらスルーね」 「こら!逃げるな!」 逃げるなと言われて立ち止まる簡雍ではない。キックボードに乗って、すたこらと去っていく簡雍。 「こうなったら…ショッカンビークル!!」 そう叫ぶや、ごそごそと植え込みをあさる三人。そして取り出される、一台の買い物自転車。 それにさっそうと飛び乗る三人。自転車の三人乗りは違反です。 「待てーい!!」 叫ぶ孫乾…もといショッカンレッド。ただ乗っているだけのイエロー。そして鬼のようにペダルをこぐブルー。いせ…ブルーの中の人も大変…と言うか死にそうだ。哀れなり。 当然、三人乗りの自転車なんぞで簡雍に追いつける筈もない。見る見る距離は離れていく。 「はー、大変だねぇ…」 後ろを振り返り、のんきにのたまう簡雍。しかし次に前を振り向いたとき、その目は驚愕に見開かれた。 前から迫り来る人、人、人。ついに捜査本部は人海戦術に訴えることにしたようだ。 後ろを仰ぎ見れば必死こいて追いすがる伊籍、孫乾、糜竺。…必死なのは伊籍だけだが。 進退窮まったか、そう思って周りを見回した簡雍は細い路地を見つけた。そこに一筋の光明を見出した簡雍はすぐさまそこに駆け入った。 そこまでだった。 急に足を取られ、キックボードごと転倒する簡雍。 「あたた…って何よコレ!」 地面にぎっしり敷き詰められた粘着シート。引き剥がそうとするも、よけいに絡まってしまう。 「かかったわよ!やっちゃて!」 頭上より降ってくる法正の声、そして投網。 捜査開始より3時間57分。 簡雍、捕縛。 白いワンピース、手編みのサンダル、麦藁帽子。 白いテーブル、白い椅子、木漏れ日の影。 さらりと流れる髪、銀縁の眼鏡、手に持った詩集。 どこからどう見ても、生粋の文学少女にしか見えないのだ。あの簡雍が。 「おお〜〜〜〜〜」 ギャラリーからあがる、感嘆のため息。 はっきり言って想像以上だった。 「いや〜見違えたわ」 簡雍をひん剥いて着替えさせた劉備が言った。ちなみに彼女の提唱したゴスロリは多数決により僅差で却下されている。 「グレイトですぞ簡雍殿。どうです、そのまま眼鏡を着用しては?」 と諸葛亮。簡雍が眼鏡をかけているのは、勿論彼女の提案によるものだ。 「うぅ、持って帰りたい…」 「テイクアウトはオッケー!?」 「はうー、何かソッチの道に目覚めそう」 等々、なにやら怪しい声が飛び交う中、簡雍は面白くなさそうに、テーブルに置かれたグラスの氷をストローで突っつく。 不意に、風が吹いた。 麦藁帽子が舞い、簡雍は為す術もなくそれを見送った。それはさながら一枚の絵のようで。 「をををっ!!記録班、今の撮った!?」 「ばっちりです!カメラ、ビデオ共に撮りました!」 「グッジョブ!後でみんなで見るわよ!」 親指をびしっと立てて、法正が言った。 「いやー、それにしても予想以上ね。みんなで追っかけた甲斐があったわ」 「……追っかけられた方はたまったモンじゃないんだけど」 「まぁまぁむくれない。憲和だって乗り気だったでしょ。自分でこんな飲み物まで用意して。で、これ何?アイスティー?あ、レモン入っているからアイスレモンティーかしら?」 「あぁ、それ?ロング・アイランド・アイスティー」 『……って酒かよっ!!!』 簡雍を除く全員の声が、夏空にこだました。 ※補足 ロング・アイランド・アイスティー ドライ・ジン………15ml ウォッカ………15ml ホワイト・ラム………15ml テキーラ………15ml ホワイト・キュラソー………15ml レモン・ジュース………30ml コーラ………40ml レモン・スライス………1枚 クラッシュド・アイスを詰めたゴブレットに、 上記の順で注ぎ、ステアする。 レモン・スライスを飾り、ストローを添える。 茶なんぞ一滴も入っておりません。
416:7th(ver.祭り) 2004/01/18(日) 21:01 以上です。 元は「蒼天乙女の春夏秋冬」として短編連作を予定していましたが、悪ノリしすぎてこんな形に。 何か性格が違うキャラが居るかもしれませんが、そのへんは大目に見て下さい。
417:那御 2004/01/18(日) 21:24 おおおおおおお!7th様グッジョブ! こっちとしても早く見たくてたまらない簡雍の姿、 それをあざ笑うかのような、簡雍の逃避行w! (何故かw)猛烈にドキドキしましたぞw
418:アサハル 2004/01/18(日) 22:06 取り急ぎっ!! (ノ゚Д゚)ノ −=≡ http://fw-rise.sub.jp/tplts/after.jpg
419:那御 2004/01/18(日) 22:24 アサハル様グッジョブ!! え〜、テイクアウトはオッケー!?
420:★ぐっこ@管理人 2004/01/19(月) 00:32 >7thさま うまい! 素直に感心しましたわ!ノリといい掛け合いのテンポといい! 何よりもキャラのチョイスとシチュが(;´Д`)ハァハァ…! したたか度では学三中最強の簡雍たんに次々撃ち払われてゆく、帰宅部連合の面々… 体力だけではなく口先で切り抜ける機転! なんかより簡雍たん好きになりましたわ。 それにしても…胸で識別される内政戦隊にワロタ。伊籍たんのナニゲな設定まで活かすとは お見事! >アサハル様 Σ( ̄□ ̄;)!! か…簡雍――ッ!? >>419 ならぬ!>>418はワタクシがテイクアウト予約済み!
421:★玉川雄一 2004/01/19(月) 01:00 ナニゲに簡雍って、 今までの総作品中で登場回数トップなんじゃないだろうか(^_^;) いやはや、帰宅部連合のほぼフルメンバーが余すところなく活躍(?)しておりますね。 智恵と舌先三寸を駆使してハリウッド映画ばりの逃走劇… つうかアレですか、簡雍は内政戦隊のグリーンかピンク? これはまた、次回作が非常に楽しみでありますことよ。 帰宅部連合以外でもぜひ! >>419-420 ええい、散れィ!(丿`▽)丿━━━━* 奪ったモン勝ちじゃあ! (゚∀゚)ノ>>418
422:★惟新 2004/01/19(月) 01:18 つ、ついに法正タンの真骨頂が! 恩も恨みも十倍返しが! (;´Д`)ハァハァ… それにしても簡雍恐るべしっ! その生命力はもはや学園最強? そして! 結末が! 簡雍…(;´Д`)ハァハァ… 始終大笑いさせていただきましたが、中でも『内政戦隊』が無茶苦茶好き! もうこの人たちで他にもイロイロ読みたいほど(^_^;) 時折見せる小ネタの数々もしっかりツボを抑えていてグッド! それでいて迫力のアクション! 実に読み応えのある作品でありましたよー! いやーこれからもよろしくお頼み申し上げます、7th様! >アサハル様 ナント━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!! しかもメガネッめがねッ眼鏡えッ!!! なんと可憐な…これがあの簡雍とは… 私にその眼鏡の曇りを拭かせてくださいませー(;´Д`) むむ! 諸氏には悪いが私も譲りませんぞッ! ;y=( ;゚д゚)д゚)д゚) 先祖伝来のこの種子島、そう易々とやらせはせぬっ!
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