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487:7th 2004/05/03(月) 09:07 内政戦隊ショッカン4 〜〜ショッカンロボ、大地に立てるか?〜〜 ある日の昼下がり、帰宅部は珍しく静かだった。………その時までは。 「…戦隊モノにはやっぱり巨大ロボが必要だと思うの」 事の発端は孫乾のその一言。折しも内政戦隊こと孫乾・糜竺・伊籍・簡雍が、仕事を終えて一息ついている時のことであった。 あまりに唐突すぎるその一言に、きょとんと呆ける三人。 しばしの沈黙の後、漸くその意図を理解したのか、「あー、そりゃ要るねぇ」と、こくこく肯く伊籍。何か思う所でもあったのか、額に指をあてて考え込む糜竺。そしてしょっぱなからやる気の欠片もない簡雍。「頭いてー」とばかりに頭を抱え込む。 そんな簡雍を尻目に、ますますヒートアップする孫乾。 「正義の味方あるところ、必ず悪の怪人が居るのよ。そして一度負けてから巨大化、これ鉄則。だから正義の味方にも巨大ロボが要る、これも鉄則よ!」 やたらテンション高い孫乾。 この人、かの鄭玄に推挙されて劉備新聞部に入ったほどの能力の持ち主なのだが、戦隊モノや仮面ライダーモノがやたらと好きなのだ。尤も、新聞部には更に個性溢れる面子が揃っていたため、さほど目立つことはなかったが。 その彼女が、その場のノリで最近結成したのが「内政戦隊ショッカン4」。半ば無理矢理ながらもまんざらでもなさそうな糜竺と伊籍、滅茶苦茶嫌がっている簡雍が隊員である。 「よし、多数決を取る!必要だと思う隊員は挙手願いたい!」 ………賛成3、反対1。よって本案は可決されました。ありがとう。 「宜しい、では善は急げ!よって正義の味方も急げ!早急に本案を実行に移すべく出撃ー!!」 『おーー!!』 気勢を上げる三人と、それに引きずられていく簡雍。 「『正義の味方』って………何処に悪の怪人が居るのよ」 その問いは、誰にも聞かれず大気に消えた。 「と云う訳なので、巨大ロボを作りなさい」 「何故私が?」 「あなた以外に作れる人が居ないからよ」 益州校区、科学部部室。 劉焉・劉璋が益州校区総代を務めていた頃は只の地方弱小部の部室だったそこは、劉備の益州校区乗っ取りと共にその主を替え、閑散としていた部屋は魔窟へとその姿を変えた。 既に科学部は無く、そこの主は只一人。ガラクタの山の中で謎の研究を行っている。 主の名は諸葛亮。帰宅部連合の幹部にして生粋のマッドサイエンティストである。 「唐突な上にに命令形ですか」 孫乾が部室に入って開口一声それである。やれやれと首を振る諸葛亮。 「何よ、作れないって訳でも無いでしょう」 「左様、可能と言えば可能です。が、大事なことを忘れていらっしゃる」 「む?」 「予算は何処から出るんですか」 「う゛っ」と呻く孫乾。どうやらその辺の細かいところ迄は考えていなかったらしい。 「帰宅部の予算から―――」 「出る訳無いでしょう」 一撃轟沈。がっくりと肩を落とす孫乾。後の三人も簡雍を除いて心なしか残念そうだ。 がっくりと、この世の終わりでも来たかのように肩を落とす孫乾。他の人にはどうでも良い事なのだが、彼女にとっては非常に重要なことなのだ。「神は死んだー円谷も死んだー」とか訳のワカラン事を呟きつつ天を仰いでいる。錯乱し過ぎ。そして大袈裟過ぎ。 流石に見かねた――と云うか鬱陶しくなった――諸葛亮が孫乾の肩にぽんと手を置く。振り返った孫乾が見た物は、微妙な笑みを浮かべる諸葛亮と怪しく光る彼女の眼鏡だった。 「ふ……あなたの熱意には負けました」 正確にはそんなモノには負けていないのだが、この場合は方便である。時に真実は人を傷つけるのだ。 「確かに私には作ることが出来ます。が、それにはかなりの時間と、途方もない費用がかかることは先ほども申しました通り。ならどうするか。…簡単です、一から作るから時間と金がかかるのなら、最初からそこにある物を使えばいい」 そう言ってガラクタの中から一枚の紙を取り出す(もしくは掘り出す)諸葛亮。 「地図……かな?」まじまじと紙に書いてある点と線を見つめる簡雍。 「荊州校区辺りみたいですわね」思い当たる地形があったのか、位地を特定する糜竺。 「そしてこのあからさまに怪しい×点はもしや」伊籍がその特異点を指し示し――― 「宝の地図かーーっ!!」孫乾、大絶叫。 「左様。宝と言うにはやや語弊がありますが、まぁあなた達にとっては宝には違いありませんな」 そう言った諸葛亮の眼鏡が更に怪しげな光を放つ。 「取り敢えずそこへ行きましょう。話はそこで」 かつん、かつん、と。薄暗い階段に靴音が響く。 「随分と深いわね。かれこれ三階分は下りたと思うけど……」 「もうすぐですよ」 とは言うものの、通路は果てしなく続き、靴音は先の見えぬ闇に吸い込まれてゆく。 二度ほど折り返しただろうか。漸く暗闇が途切れ、大きな鉄扉が代わりに現れた。 「時に…皆さんは公輸般(こうしゅはん)と云う人を知っていますか?」 扉の前で立ち止まった諸葛亮が、芝居がかった口調で問う。 「何十年か昔、この町に住んでいたと云う発明家でしたわね」 「木製のグライダーを作ったって話よね。三日間飛び続けたとか云う奴」 眉唾ものだけど、と付け加える孫乾。 「で、それが何なのよ」 「鈍いですな孫乾殿。つまりここは公輸般の秘密の研究所。そしてこれが―――」 地響きと共に鉄扉が左右に開く。その奥、地下とは思えないほど広大な空間に横たわる巨大な物体。 それには腕があった。 それには足があった。 それには顔があった。 それは人の形をしていた。 「ここで建造された巨大ロボ。名を公輸8号と云います」 絶句。その大きさ、その存在、そして何より、その形に――― 「これって……」 「まさか……」 「ねぇ……」 「先○者じゃん……」 それには腕があった。…やけに細くて手の平がしゃもじ形の。 それには足があった。…これは本当に立てるのか?と思うほどにひょろい足が。 それには顔があった。…やけに安っぽい顔が。しかも何だかフレンドリー。 それには大砲がついていた。…あろう事か股間に。 「身長18m、乾燥重量36t、全備重量は64t。材質は主に鋳鉄、一部に謎の合金が使用されています」 「動力と武装は?」 「風水式龍気変換炉による大地のパワー。武装は股間にある中華キャノンです」 「パーフェクトだ孔明。……形を除いて」 「感謝の極み。形状は私の知ったことではありません」 何やら何処かで見たような会話を繰り広げる孫乾と諸葛亮。違いがあるとしたら、孫乾が話の中身の半分も理解し切れていないと云うことか。 「で、動くの?コレ」 「無論。ただ、変換炉を起動するのに多少のエネルギー投入が必要でして。勿論、そのための用意はしてありますが」 そう言って胸のハッチをあける諸葛亮。どうやらそれはコクピットハッチだったらしく、内部にはシートだのコンソールパネルだのが設置されていた。そしてその片隅に鎮座している、前輪を外して床に固定された自転車。 「…自転車」 全員の目が一斉に伊籍に集中した。 曰く、発電によって得たエネルギーを更に水晶髑髏により変換・増幅。そのエネルギーをもって変換炉を起動させると言う話だ。 「な、何で私がぁ……」 縦割り社会の不条理を嘆きつつ、ペダルを鬼漕ぎする伊籍。後輪に取り付けられた十連装ダイナモが唸りをあげて駆動し、伊籍の体力と引き替えに電力を生み出していく。 「98、99、100%! 変換炉、起動します!」 「リフト起動。地上まで上げるぞ」 天井が開き、床ごと機体が持ち上がって行く。約3分後、数十年の時を経て、ついに機体は日の目を見た。 「さぁ、立ちなさい!ショッカンロボ!」 正式名称そっちのけで自分のインスピレーションから湧き出た名を叫ぶ孫乾。片隅で簡雍が「センスねぇなー」と呟いていたが、無視した。 その叫びに応じたように、上半身を起こし、更に足を立てて起きあがるショッカンロボ。姿が先○者のせいか余り迫力はないが、とにかくショッカンロボは立ち上がったのだ。 「わー」と拍手する糜竺。「つっかえ棒無しで立てたのか」と驚きを隠せない簡雍。どうだ!とばかりに胸を張ってふんぞり返る孫乾。伊籍は…自転車に突っ伏して動かない。合掌。 「よーし!今からこの世の悪を打ちのめすべく、ショッカンロボ発進よ!」 「しつもーん」 「何よショッカングリーン」 「…悪って何処にいるわけよ?」 沈黙。 「何でそれを早く言わないのよー!」 「いや、言ったって」 泣きそうになりながら叫ぶ孫乾に、あくまで冷静につっこむ簡雍。 「こ、この振り上げた手の立場は何処に…」 「ないない、ンな物」 身も蓋もなく撃沈。と、そこに 『あー、孫乾殿。聞こえますかー?』 スピーカーから聞こえてくる諸葛亮の声。 「うぅ、何よ」 『簡雍殿の言は尤もですので、ここはひとつ穏便にいきましょう。……只、折角ですから動作確認を兼ねて中華キャノンを、一発ドーンと撃ってみませんか?』 「え、良いの?」 『構いません。ドーンといっちゃって下さい。ドーンと』 泣いたカラスがもう笑ったとはこの事か、と言わんばかりの早さで立ち直る孫乾。つくづく感情の起伏の激しい人だ。 「ぃよーし!派手に一発いってみよー! 総員、中華キャノン発射準備!」 「えーと、大地のパワー吸収っと……えいっ」 そう言って糜竺がボタンを押した途端、凄まじい揺れがコクピットを襲った。 外から見る分には足をバタつかせているようにしか見えないが、中はトンデモないことになっている。 シートに座ってシートベルトを締めていた孫乾・糜竺・簡雍はまだマシだが、自転車に突っ伏していた伊籍はたまったものではない。自転車からズリ落ちて、そこら中を跳ね回っている。 10秒ほどで充填は完了したものの、伊籍は白目むいてダウン。他三人もげんなりしている。 「ま……まだ続けるわけ?」 「も……勿論よ。今更止められるわけないわ。…次、キャノンにエネルギー注入」 「待て、確か次は……」 簡雍が言い終わるより早く、またしても激しい揺れが襲いかかる。 今度の揺れは縦。伊籍が床と天井をばいんばいん往復している。さほどの高さはないので命の危険は無いと思われる。死んだ方がマシとの見解もあるが。 今度は5秒ほどで終わった。が、三人の顔色は死人さながら。 「う゛ぇ〜、24時間耐久でジェットコースターに乗った気分」 「バーテンさんにシェイクされるカクテルの気持ちがよ〜く解りましたわ……」 「めげないで二人とも。…後は撃つだけよ。私たちの努力も、これで報いられるわ」 眼前にある操縦桿を握りしめ、照準機を起動させる。今回はカラ撃ちなので、照準レティクルを何もない空に合わせる。何時の日か、悪の巨大化怪人に向ける日を夢見て。 「よーしっ、中華キャノン、ファイヤー!!」 瞬間、世界は白光に満たされた。 「…オチは読めてたんだ、オチは。くうっ、一瞬でも淡い期待を抱いたアタシがバカだった…」 学園の保健室。体中を包帯でぐるぐる巻きにされた簡雍が呟いた。 「なら止めろ。体を、さもなくば命を張ってでも」 その韜晦をにべもなくあっさり斬って捨てる華陀先生。 「まぁあの爆発でその程度の怪我で済んだんだ。神様か何かに感謝しろ」 爆発半径30メートル。おそらくは市内全域から確認できたであろう大爆発。 原因は注入されたエネルギーのオーバーロードであるらしいが、何にせよ5人が生き残っていたのは奇跡に近い。と云うか奇跡そのものか。 「私、テロに巻き込まれても生き残る自信がつきました」 いや糜竺。今ので一生分の運を使い果たしたと思うぞ。 「うぅ、私今回良いこと無し?」 負けるな伊籍。きっと何時かいいことあるさ。何時かは知らんが。 「う〜ん、ちょっと勿体なかったかなぁ。ま、いっか。また今度に期待しよ」 まだ懲りんのか、孫乾。 「……所で先輩方。実はまだ調整中の機体が何機かありますが…また挑戦しますか?」 『あの人の機械には金輪際乗らん!!』 満場一致、簡潔極まりない結論によって、諸葛亮の提案は却下された。 ………その後、公輸般の秘密の発明品を見た物は居ない。一説によれば、学園がその役割を終えた後も、静かにそれは荊州校区の地下に眠っていると云う。
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