★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
5:★ぐっこ2002/02/07(木) 00:47
 と、緊張に耐えかねたのか、短い溜息をついて袁紹が単語帳を閉じた。
「――しばらくぶりね、曹操、夏侯惇」
「…うん」
「お、おはようございます」
 正副会長の思わぬエンカウント。ブン屋が乗り合わせていたら嬉々としてスクープにした
だろうが、幸い車内の誰も気づいた様子がない。あるいは、そのフリをしている。
「"そっち"の様子はどう?」
 袁紹の言う「そっち」とは、生徒会室のことだろう。蒼天会と公文書発行機能を掌握し、
事実上学園の支配権を偸盗してのけた曹操に対し、袁紹は生徒会分室を冀州校区内に移し、
徹底抗戦の構えをとった。いま学園の機能は完全な二頭状態になっていた。
「……。」
「聞いちゃいけないことだった? じゃあ私の方から言うけど、こっちは極上よ」
 袁紹はわざとらしく高慢な口調で言った。こうなると曹操、負けじと
「こっちだってばっちしだよ! みんなよく働いてくれるもん!」
 と噛みつく。
「でも、人材が足りなさそうねー? ああ、幹部クラスじゃなくて、中堅連中のことよ?」
 袁紹はいちいち曹操の弱みをつく。新興勢力の曹操に較べ、袁紹の方は中堅クラスの人材
に物理的に恵まれている。
「まあ、頑張れるところまで頑張ってよね」
 と、だめ押しの一言を曹操のちいさい胸に刺し通して、袁紹は立ち上がった。正門前に
到着したのだ。
「そっちこそ!」
 袁紹の背中に、曹操は挑戦状をたたきつけた。
「夏休みが終わる頃まで、分室があると思わないでよね!」

 …曹操と夏侯惇は、豫州校区前で路面電車を降りた。
 曹操は、もういつもの曹操に戻っていた。
「まずは、劉備からかよね…連中、飼えるか飼えないか」
 歩きながら、曹操は次の次を考えている。
「生徒会室にも評議会にも怪しいのがいっぱいいるわよね。董承先輩とか、王服とか」
「でも袁紹の下だって、一枚岩じゃない。必ず閥が出来てるはず。どうやって掻き回そう」
「長湖部の連中はどうしよう。いまは陳登ひとりで大丈夫だけど――うわっ」
 ぶつぶつ言っていると、石畳の段差で見事に蹴つまづいた。
 そのおでこが地面にたたきつけられる直前に、夏侯惇がひょいと片腕を伸ばして襟首を
掴まえた。
「イロイロ考えるのはいいけどね…」
 呆れたように、夏侯惇は言った。
「あんたはきちんと前を見ろ、前を。後ろとか横は、荀揩竓s嘉たちが見てくれるから」
「あ…」
 曹操は、一瞬だけ考え込んで、ニッコリ笑った。
「うん、前だけ見てる」
「よし」
 夏侯惇は曹操の頭をポンとたたくと、スタスタと先を歩き出した。
「急ぐわよ。――それにしても、大変な登校風景になったなぁ、今朝は」 
「ホント、誰のせいよ」
「アンタだ、アンタ」
「そうなん?」

                                  ■おわり■
1-AA