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★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
519:海月 亮 2004/12/20(月) 22:13 なんだかミョーな歌を大音響でたれ流しながら、漢中アスレチックの管理人棟の一室にソイツはいた。 目鼻の整った顔、軽くウェーブのかかったセミロングの髪、そして白衣をまとった上からでもわかる、高校生離れしたプロポーション。 黙ってさえいればほとんどの人間が「美人」と呼ぶだろうその人は、しかして蒼天学園"最凶"の名をほしいままにする奇人、帰宅部連合ナンバー2の鬼才・諸葛亮、綽名を孔明である。 彼女の趣味でその部屋に取り付けられた、部屋の殺風景さから見るとどう考えても不似合いな、豪華なダブル・ベッドに寝転びながら、その脇に山と積まれたアニメ雑誌、ゲーム雑誌の類を貪るように読んでいた。 恐らくは、次のイベントで描く同人誌のネタを、そこから探しているのだろう。既存の人気作品にこだわらず、常に新しいところから読者のニーズに応える作品を生み出す…これが、彼女や劉備のポリシーでもある…と、考えているのは恐らく当人だけではなかろうか。 そんな彼女の一時をぶち壊しにしたのは、前線からやってきた一通の封筒だった。 「ふむふむ、これはまいすてでぃ・季常からのラブレターというわけだな。我輩との関係であれば、メールのひとつでも事足りるというのに…」 やれやれ、と肩を竦めて、少女から封筒を受け取る。先ずは、手紙に目を通す。手紙にいわく。 長湖部の総大将は陸遜が抜擢されている。 長湖諸将は弱輩の彼女を侮っており、我が総帥以下殆どの者がまるで無警戒の状態だ。 恐らくは、これこそが彼女の狙いだと思われる。 乞う、総帥は君の忠告にならば耳を貸すかもしれない。 あわせて、敵味方の現状の陣図も送る。 そのとき、諸葛亮の顔が一変する。封筒から乱暴に地図を引っ張り出し、広げ… 「……何よ、これ…っ」 諸葛亮の顔が、これとわかるくらいに青ざめた。 「マズい、これはマズすぎる! 一体何処のどいつよ、こんな陣立て献策した大馬鹿は!」 「え?…えっとこれは、総帥自らのご立案で…」 その言葉を聞いていたのかいないのか、諸葛亮は窓から劉備たちのいるあたりを眺めた。雲の流れが速い。その向きを見れば、長湖部の陣から劉備たちのいる陣に向けて流れている。その顔は何時になく真面目で、悲嘆の色が伺える。 「これでは…あぁ、我等の大望も、此処までなのかもしれない」 「え…あの、孔明さん…どうしてそんなコトを仰るんですか? 見たところ、相手は与し易く…」 「そこが大問題なのよ。私が長湖部に遊びに行ってたとき、あの娘に直に会って、その人となりはよく知ってるわ…確かに彼女は一見周瑜に詰られるだけのつまんない娘に見える…けど、あれは多分見せかけだわ。あの娘が山越折衝で開花させた能力は本物よ」 先程の諸葛亮の絶叫を耳にしたのか、彼女にくっついて漢中に来ていた楊儀が口をはさむ。 「あたしにはそんな、大騒ぎするような娘には思えませんけどねぇ…荊州の一件だって、ほとんどは呂蒙の手柄でしょ?」 「理由は知らないけど、そう見せかけているだけよ。あの娘はもう多分、行動を開始している。恐らくは一部の連中が陸遜の考えを読み取って、あえて陣内に不和を掻き立てているかもしれない。それに、この陣立て、相手がこれから来る"モノ"を戦略に練りこんでいたなら、多分一人として無事に戻ってこれない…今から止めに行っても、多分手遅れだわ」 そこまで言われて、楊儀も気付いた。 「まさか…今年の春一番」 「それに雲長さんが緊急連絡用に残した大量の発煙筒…多分、気づいてるでしょうね」 かつて関羽が荊州学区に君臨していた頃、彼女は陸口に詰めていた呂蒙の侵攻を警戒し、狼煙による連絡網を完備していた。その設備がそっくり、長湖部に接収されていることは、想像に難くない。 それに発煙筒の使い道は、連絡のためだけではない。数が集まれば、立派な目くらましになる。長湖部は風上から風下に攻めれば煙の影響を受けにくいので、有利になるのだ。 そこまでいわれ、連絡係を仰せつかった少女は、ようやく事の重大さに気付いた。 「…そんな…じゃあもし、私が戻ったときに本陣が崩れていたら」 「戻る必要はないわ…多分、今から戻っても無駄。あなたはすぐに江州棟の子龍のトコへいって、玄徳様を迎えに行くように指示して」 「で、でも、相手がそこまで追って来たら」 「大丈夫。多分、それ以上は踏み込んでこれない…それどころか、上手くいけば頭痛の種がひとつ消える」 「え? どうして?」 妙に確信に満ちた顔で、諸葛亮は笑みを浮かべる。その顔には、いつのまにか普段の表情が戻り…そしていかにも絵に描いたような、悪代官の笑みを浮かべていた。 「そのときが来れば解る…ニヤソ」 釈然としない少女だったが、不意にまた真面目な顔に戻った諸葛亮に命令書を託され、少女は自転車に飛び乗ると江州棟を目指した。日は大きく西に傾いている。 ふと、劉備の陣の方向を見ると、うっすらと黒煙があがっているのが見える。事態の異常さを再確認した少女は、自転車をこぐスピードをあげていた。皮肉なことに、吹き始めた強烈な春一番が、彼女の助けとなった。 -------------------------------------------------------------- ここまでが、現時点で推敲が終わった部分です。六部構成の前半部分が丁度終わってますね。 何気にここから玉川様の「春の嵐」へ読み継いで貰った方が無難かも… 実は三部の主役は、陸遜と見せかけて韓当とかいうウワサ(w
520:北畠蒼陽 2005/01/21(金) 21:30 [nworo@hotmail.com] -覇者と英雄(1/4)- 「あら、おいしい」 袁紹が少し驚いたように箸を止めた。 世界有数の名門、袁ファミリーお抱えの料理人の手によるものである。不味いわけがない。ないのだが…… 「なかなか上質の和牛が手に入りましたもので……」 慇懃に料理人が頭を下げる。 袁ファミリーの厨房を預かる人間をして『上質』と言わしめるその素材の味はいかばかりか。 もちろん値段も庶民的なものではないであろう。 「ふ、ん」 袁紹は少し感心したように皿の上の料理を見た。 料理人のセンスをうかがわせる上品なもりつけに袁紹好みの薄味。 不意に袁紹は箸を置いて立ち上がった。 「え、袁紹様。なにかお気に召さないことでも……?」 狼狽する料理人に袁紹は大輪の笑顔を見せる。 「その逆。すごくおいしい。すごくおいしいから……」 袁紹は言葉を切り、傍らに控える張コウに声をかけた。 「車を出してちょうだい。曹操にこれを食べさせてやりたくなったから」 曹操と袁紹が対立を始めて久しい。 学園最大手新聞『蒼天通信』を掌握した曹操と冀州校区の覇者でありまさに最強の勢力を誇る袁紹。 その対立こそ学園の事実上の最高峰へと登る道であった。
521:北畠蒼陽 2005/01/21(金) 21:31 [nworo@hotmail.com] -覇者と英雄(2/4)- 「も、孟徳ッ!」 「……う、にゃあ!?」 夢の中で泣きながら電子レンジの塩焼きを食べることを強制されていた曹操はその慌てたような声に叩き起こされた。 時計を見る。 ……布団にはいってから1時間ほどである。 曹操は恨めしげに自分を叩き起こした隻眼の少女……夏侯惇にいった。 「いい夢見てたのに……それに寝てから1時間って起こされると一番つらいんだけど……」 本当に『いい夢』だったのかはよく思い出せないが。 「ばッ……! それどころじゃない! 袁紹が今、本陣のすぐそばまでやってきてるんだッ!」 「……ふぇ?」 曹操はぼ〜っと瞬きをした。 「久しぶり」 夜闇を照らす月明かりの中の袁紹の笑顔に曹操は苦笑する。 袁紹が今、いるのは自分の陣の前だ。 今、自分が『かかれ』と一言言えばいかに袁紹といえどもひとたまりもないだろう。 現に曹操側の面々は曹操のその『ヒトコト』を待ってじりじりしている様子が見て取れる。 今は敵味方に別れてはいるが曹操と袁紹は幼馴染だった。袁紹のその口調はまったくその当時のままだった。 今のこんな現状でも昔のままでいる袁紹を曹操はほんのちょっとだけすごいと思った。 「今日はうちの料理人がいい素材、手に入れたんでね。おすそ分け」 曹操は不審を顔に浮かべた。 「まさか電子レンジ?」 「……は?」 「いや、なんでもない。忘れて」 袁紹はなにを言っているのかわからない、という顔をしばらくしていたがすぐに肩をすくめてぱちん、と指を鳴らす。 曹操側の面々が『おぉ〜』と控えめな歓声を上げた。 「おすそ分け……昔はよくやったでしょ」 袁紹はくすり、と笑う。
522:北畠蒼陽 2005/01/21(金) 21:32 [nworo@hotmail.com] -覇者と英雄(3/4)- 運び込まれる肉の塊をちら、と横目で見て曹操は袁紹になんとなく、の疑問をぶつけた。 「袁紹は私が憎くないの?」 月が雲に隠れ、完全な闇があたりを包み込む。 一瞬の無言。 そして…… 「……ぷっ」 袁紹の吹き出すような声。 「なッ……まじめに聞いたんだぞー!」 「ごめんごめん」 そう言いながらも袁紹はおかしそうに目じりをぬぐいながら…… 「バカね、孟徳。あなたのことが憎いわけなんかない」 曹操はその言葉に衝撃を受けたように黙り込む。 その様子に気付いているのか気付いていないのか、袁紹は微笑みながら言葉を継いだ。 「私は次期蒼天会長になる。そして孟徳、あなたは私が誤ったらそれを正しい方向へと導く大事な人間。憎むはずがないじゃない」 「じゃあ……今は……」 呆然と声を震わせながら曹操が問いを口に乗せる。 「そうね……」 袁紹が少し考えこみ……そして悪戯っぽく微笑んだ。 「かわいい部下との武力を使ったレクリエーション、ってところかしら」 曹操は完全に黙り込んだ。 そして袁紹がその場を立ち去るまで身動き一つしなかった。
523:北畠蒼陽 2005/01/21(金) 21:35 [nworo@hotmail.com] -覇者と英雄(4/4)- 曹操は夜闇の中、立ち尽くす。 「孟徳……夜風は体に悪い。風邪を引くぞ」 夏侯惇の言葉に……曹操は火がついたように…… 苛烈に地団太を踏んだ。 「う、うああああああああッ!」 獣のような声を上げ、あたりかまわず殴りつけようとする曹操を…… 「やめろ、孟徳!」 少し驚いたように、しかし慌てずに夏侯惇が曹操を背中から抱きすくめ止める。 曹操は……人目をはばからずに泣いていた。 泣き、わめいても発散できないストレスを押さえつけるように暴れた。 「元譲……私、いったん許に帰るから……蒼天会長にいろいろ報告もあるし」 曹操は夏侯惇に抱きかかえられたまましゃくりあげながらそれでもしっかりと言葉を刻んだ。 「再び私がカントに帰ってきたとき、本初お姉ちゃんを全力でつぶす」 「袁紹様、よかったのですか?」 張コウが車内で袁紹に声をかけた。 袁紹は、曹操とあったことで明らかに憔悴していた。 (無理もない) 張コウは心の中でそう思う。 袁紹が生まれついての『覇者』なら曹操も生まれついての『英雄』だ。 むしろあの曹操を相手に内心はともかくまったく表情を変えなかった自分の主君を誇りに思った。 「……張コウ」 袁紹は目を閉じながらがぐったりと口を開く。 「私は孟徳との勝負に勝つかもしれない。負けるかもしれない」 張コウが口を開こうとするのを手で制し、袁紹はそのまま言葉を紡ぐ。 「もし私が負けたら蒼天学園は孟徳のものよ……でも長湖部をはじめとしてまだまだたくさん敵はいる」 張コウは黙って袁紹の言葉を聴く。 「あなたは顔良、文醜すらがリタイアしたこの戦いで生き残っている。これからも生き残りなさい。そして孟徳軍の要になりなさい」 目を閉じ、月明かりに身を任す。 張コウはその主君の横顔を見つめ、そしてハンドルを握りなおした。 ----------------------------------------------------------------- というわけではじめてこういう形式のbbsにカキコして、しかもはじめてのSS投稿です。 泣きそうです。泣きませんけど(ぇー 大目に見ながら宍道湖くらい広い気持ち(中途半端)で読んでやってください。 お目汚し失礼いたしました。
524:★惟新 2005/01/26(水) 07:34 むしろ田沢湖並の深さでキュンキュンしてしまいました(;´Д`)ハァハァ 軽妙な流れの中、グッと引き締まる、宿敵となった幼馴染同士! 二人とも優れていればこその複雑な心境…くぅ! それにしても袁紹さまの大物っぷりにやられました〜(=´∇`=)
525:北畠蒼陽 2005/01/26(水) 14:49 [nworo@hotmail.com] >惟新様 ぇ〜、こんなモノに過大な評価、光栄の至りです。 またなんか思いついたら投下しますねー。
526:北畠蒼陽 2005/01/26(水) 23:16 [nworo@hotmail.com] -或る少女の最後の日- 「うふふっふ〜♪」 少女はうかれていた。 子供の頃からずっといじめられてきた自分が今、この場に立っていることが信じられなかった。 自分は一生、地虫のようにはいつくばって生きていかなければならないのだと思っていた。 それが…… 今の状態はどうだ! これだけの戦功を打ちたて! あの才能の塊のような少女を出し抜いた! この自分が、だ! それがなによりも嬉しく、だからこそ少女は有頂天になっていた。 「や、やっと荊州校区に錦が飾れるかな」 少女の名前は昜士載。漢中アスレチック攻略戦の最大の功労者であり…… ……そしてこれから悲惨な末路をたどる、そんな少女。 「おきろ、田舎モノ」 「……へ?」 いつの間にか寝入ってしまったのだろう、昜を起こしたのは冷たい声だった。 「え……? 鍾会、さん?」 冷たく自分を見下ろすその少女と少女が引き連れる部下たちに周りを囲まれている状況に昜は目を白黒させた。 鐘会士季。 生徒会の大功労者、鍾ヨウ元常の実の妹にして生徒会の次代を担う、と期待される逸材。 子供の頃からずっといじめられてきた昜とは正反対の陽光のあたる場所をずっと歩いてきた才能の塊。 そしてともに漢中アスレチック攻略戦を任された戦友…… だったはずだった…… パシッ! 鋭い音が室内に響く。 昜はなにが起こったのか理解できないような顔をする。 事実、彼女にはなにが起こったのかわからなかった。 いや、なにが起こったのかはわかったがなぜそうなったのかがわからなかった。 鐘会が昜の頬を打ったのだ。 「え……あ、え? 鐘会、さん?」 「うるさいぞ、田舎モノ。私の名前を呼ぶな、汚らわしい」 鐘会の冷たい言葉に昜は魂が抜けたように黙り込む。 なぜこんなことになったのか…… 少なくとも攻略に挑む前はこんなことは言われなかった。 昜の言葉も認めてくれたし、だから昜も彼女のことが嫌いではなかった。 なのに、なぜ…… 「昜士載、生徒会からの辞令だ。あんたのどもりはうざいから階級章剥奪とする」 鐘会が昜の目の前に紙を突きつける。 確かにそれは昜の階級章剥奪の辞令だった。 もっとも反乱を企てたことによる命令であり、決してどもりが理由ではなかったが。 「そ、そ、そんなこと考えてません! 鐘会さん、お、お願いです! 生徒会に抗弁の機会をください!」 しかし鐘会はその昜を鼻で笑う。 「バカか、あんたは。抗弁なんかさせたらあんたが反乱を企ててないことがばれるだろうが」 なにを言われたのかわからなかった。 わかりたくなかったのかもしれない。 「い、今、なんと……?」 「田舎モノは理解も遅いなぁ」 鐘会が酷薄な笑みを浮かべる。 普段は小悪魔的な少女であるだけに凄みがある。 「つまり、ね」 鐘会が昜の階級章に指をかけながら優しく諭すように言う。 「私よりも才能のある人間は許さない!」 昜はもう疲れたような表情をして鐘会のほうを見ることしか出来なかった。 「鐘会さん、わ、私は……あなたのこと、ダイスキだったんですよ……」 「奇遇ね、昜。私もあなたのこと好きだったわ。この漢中アスレチックであなたがそんな煌くものをひけらかさなければもっと好きでいられたのにね」 ぴっ…… 音を立てて昜の胸から階級章がはずされた。 ------------------------------------------------------- 完全に救われない話を書いてみました。 いや、鐘会・イン・ザ・ダークはこんな感じじゃないかな〜、と。 鐘会ファンのみなさん、ごめんなさい >< でも頭の中で考えてた段階では昜のこと足蹴にしてたんです ><
527:海月 亮 2005/01/26(水) 23:58 >北畠蒼陽様 お初にお目にかかります、半年ほど前から入り浸って、このサイトで狼藉の限りを尽くしている海月という者です。 考えてみれば1/20の時点で、SSスレに最期の投稿やらかしてたのは私だったから、本来は私が一番最初に気づいていなければいけなかったとか何とか… _| ̄|○無礼の段、何卒お許しを。 っと、昜&鍾会ですな。 私めも鍾会なら他人を足蹴にすることくらいなんとも思ってないとは思ってましたが…。 救われないなぁ…昜。 さすれば私めもひとつ。祭のテンションを引きずる形で、長湖部・東興戦役SSを放り込んでおきますね。
528:海月 亮 2005/01/27(木) 00:00 -東興・冬の陣-(1) 「左回廊、弾幕薄いよ! 何やってんの!」 トランシーバーを左手に、蒼天学園公認のモデルガンを右手に、長身の少女が檄を飛ばす。 小さなお下げを作った黒髪を振り乱しながら、窓の外へモデルガンを乱射しつつ指示を飛ばすその少女の名は留略という。長湖水泳部の現部長・留賛の妹である。 長湖部次期部長選抜に伴う内輪もめ…後に「二宮の変」と呼ばれる事件を経て、孫権が引退した直後の混乱を突いた蒼天会の大侵攻作戦が実行に移されたのだ。それを、前線基地である東興棟で留略と、先に引退した全Nの妹・全端がその猛攻を食い止めている状態だ。 その形式は、蒼天会お得意のサバイバルゲーム形式。数だけでなく、その形式では戦闘経験も武器の質も勝る蒼天会にとって有利であったが、それでも留略達は地の利を活かしてぎりぎりで食い止めていた。 「主将! 向こうのほうが火力も上です! もう保ちませんよぅ!」 「泣き言なんて聞きたかないね! なんとかおしッ!」 隣りの少女の泣きそうな叫び声に叱咤を返し、空いた手にモデルガンをもう一丁構えた留略はそれも眼下の敵軍に打ち込んでいく。 留略とて不安でないわけではない。何しろ、ここを取り囲んでいる大軍とて、相手の先手に過ぎない。その背後には、名将で知られる諸葛誕の率いる第二陣が控えている。同時に南郡も王昶を総大将とする軍の大攻勢を受けており、近隣からの応援は期待できそうにない。 援軍として進発した長湖副部長・諸葛恪や水泳部副部長・丁奉らの到着が遅れたら…最悪のシナリオを頭から振り払うかのように、留略は叫んだ。 「皆ッ、元遜さん達が来るまでの辛抱だ! ここが踏ん張り所だよっ!」 不利な戦線を懸命に守り抜こうとする少女達への激励は、何よりもむしろ、挫けそうな自分に対する叱咤のようにも聞こえていたに違いない。 (正明姉さん…承淵…御願いだから早く来てぇ〜!) それが偽らざる、今の留略の本心である。 「奇襲をかけろ、と?」 「ええ」 出陣を目前にして、総大将・諸葛恪に意見する少女が一人。狐色の髪をポニーテールに結った小柄な少女は、長湖部の最高実力者であるクセ毛の少女に、臆面も無く告げた。 「確かにあなたの威名は、蒼天会にもよく知られています。さらに王昶、胡遵らの輩はあなたに及ばず、あなたの親戚の諸葛誕さんも、才覚としてはあなたに一歩譲るところがあり、良く対抗できるものはいないでしょう」 少女の言葉に、諸葛恪は思わず顔を綻ばせた。諸葛恪というこの少女、確かに智謀機略に優れ、長湖部にも右に出るものが無いほどの天才である。しかし、やや性格に難があり、自信過剰で不遜な一面がある。 少女は諸葛恪のそうした性格を良く熟知しているらしく、先ずはその顔を立てて見せ、そしておもむろに思うところを述べた。 「しかしながら、相手は許昌、洛陽に詰めているほぼ全軍とも言える大軍を投入しています。負けることは無くとも、相当の苦戦は免れません。ここは機先を制し、我々の威を示すことが、戦略の妙かと思われます」 「ふふ…その言葉、尤もだわ。ならばあなた達水泳部員に先鋒軍を任せるわ。存分にやって頂戴、承淵」 「畏まりました」 上機嫌の諸葛恪の言葉に、恭しく礼をすると、その少女…丁奉は、本営のテントを退出した。 すると、そこには松葉杖をついたセミロングの少女が待っていた。 「承淵、首尾はどう?」 「バッチリですよ。季文にも教えて下さい、すぐに出ますよ正明部長」 「流石だわ」 にっと笑って見せる丁奉に、セミロングの少女…現水泳部長・留賛も笑顔で返した。 「で、先輩にも御願いがあります。あたしは集めた決死隊の連中引き連れて先に行くので、他の娘達と一緒に後で来て下さい」 「ちょ…どういう事よ?」 留賛はその言葉にちょっと気分を害した様子だった。 留賛はかつて初等部にいた頃、黄巾党の反乱に巻き込まれ、反抗的な態度をとった見せしめとして片足に大怪我を負い、後遺症で今でも杖無しで歩くことはままならない。それゆえ、水泳に青春をかけたことで知られている。 そのことを馬鹿にされたと思ったのだろう。しかし、 「いえ、あたしが先行して敵の目を惹きつけます。その間に、先輩達には蒼天会の連中が作り始めてる浮橋を始末して頂きたいと思いまして。アレを壊せば、勝敗の帰趨は決まると思いますから」 留賛はつまらない邪推をしたことに気付き、それを恥じた。だが、それでもなお、納得のいかない表情で、 「あ…で、でもアンタの子飼いだけじゃ、いくらなんでも兵力差があり過ぎるわ…危険よ」 「相手の先鋒は韓綜だって聞きました。アイツなら、寡兵で行けば相手にもしませんよ。その隙を突けばいくらでも時間は稼げます。任せといて下さいよ!」 自身満々の表情で言う少女に、その少女の経歴を知らないものなら危ぶんで止めに入るところである。 しかし、留賛は知っている。目の前の少女は、高校二年生にして、既に課外活動五年目に入ろうというベテラン中のベテランであるということを。 「ん…解った。妹のこと、宜しくね」 「はい!」 留賛がその肩に手を置いてやると、その小柄な少女は元気のいい笑顔で応えた。
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