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530:海月 亮 2005/01/27(木) 00:03 -東興・冬の陣-(3) 対岸からここまでゆうに300メートルある。先に報告が入ってから僅か3分で、丁奉率いる先遣隊は韓綜のいる辺りに上陸を果たした。 対岸まで数十メートルというところで少女達はわざと水中に身を隠し、その恐るべき肺活量でまったく水面へ顔を出すことなく、残りを泳ぎきったのだ。 「ぷはっ…よ〜し、到着〜」 丁奉の能天気な声とともに、冷たい河の流れの中で潜泳を敢行した少女達が、一度に顔を出した。 その水音に驚いた韓綜達を尻目に、一番に河から上がった丁奉は、唖然とした蒼天会軍の少女達の目の前で、まるで子犬のように顔を震わせると、満面の笑顔で小さく手を振りながら、 「は〜い、お元気ぃ?」 と、やってみせた。目の前の少女達は、呆気に取られてぽかんとそれを眺めていた。 「う、ノリ悪いなぁ…挨拶は?」 「駄目ですよ主将〜、韓綜程度のバカにそんなユーモア通じませんって」 「そ、そ。コイツ等、オツムの血の巡り悪いから」 「むぅ…それもそうか」 続々と泳ぎ着いた少女達が、ちょっとむっとした丁奉にそんなことを言った。 「…はッ! て、敵しゅ…」 「遅いッ!」 正気に戻ったが早いか、少女は叫ぼうとした。その刹那の間に、木刀を構えた丁奉が駆け抜けざまに次々と少女達を打ち据え、昏倒させていく。 北辰一刀流の極意、"仏捨刀"である。 夷陵回廊戦で垣間見せた見様見真似の剣技は、その後に水泳の片手間に入門した剣術道場での修行の成果があって、二年経った現在では見違えるほど洗練されていた。 「皆、主将に続けッ! 寒けりゃその分動き回りゃいいんだよっ!」 「応よ!」 丘へ上がってきた少女達も、獲物を手に取り、四方八方の敵を打ち崩していく。蒼天会先鋒軍は、瞬く間に恐慌を来たし、大混乱に陥った。 そして、恐怖にかられ逃げようとする韓綜の前に、丁奉が立ちふさがった。 「あなただけは許さないから…覚悟しろ、この裏切り者ッ!」 「く、くそッ! 承淵の分際でぇ!」 「あなた如きに分際呼ばわりされる義理はないわよッ!」 丁奉は韓綜の繰り出した一撃を無造作に弾き飛ばすと、先ず肩口に強烈な一撃を見舞う。さらに間髪入れず、逆風に放たれた太刀を左脇腹に叩き込むと、韓綜は呻き声を上げることなくその場に崩れ落ちた。 蒼天会の軍勢をあらかた追い散らし、戦況も落ち着いてきたその時。 「…あ、お〜い、正明せんぱ〜いっ!」 ノーテンキな笑顔でぶんぶんと手を振る丁奉の姿を認めた留賛は、一瞬呆気に取られた。と同時に、丁奉が何を仕出かしたかを理解した。 早足をするかのように杖をつき、そちらへ向かっていくと… 「くぉのおバカ! この寒い時期になんつーカッコしとるんじゃあ!」 ごきん! 「あうっ!」 ややフック気味に振り下ろした拳骨を、その狐色髪の天辺に叩き込んだ。 「…う〜…痛いですぅ〜…時間稼ぎはちゃんと成功したじゃないですかぁ…」 「やかましい! 皆にまで迷惑かけやがって…そういう馬鹿にはこうしてやるッ!」 「あうぅぅ! なんでぇ? どうしてぇぇ!?」 留賛は丁奉を小脇に抱え、額にウメボシを食らわせつつ東興棟へ歩を返す。 その光景に苦笑した少女達も、それに続いていった。
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