★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
544:海月 亮2005/01/30(日) 20:27
-子瑜姉さんと"ロバの耳"- そのいち

電子音のベルが鳴り、少女は枕元の時計に手を伸ばす。
デジタル時計の表示は八時。少女はゆっくりと体を起こし、伸びをする。
のそりと布団から出て、眠たい目をこすりながら洗面台に向かい、大して乱れてもいない髪を梳かし始める…すると、
「…………………え?」
少女は何故か唖然として、洗面台の姿見に映る自身の顔を、始めて見る物のように覗き込んだ。
ややツリ目がちな、見慣れた自分の顔。
その頭には、艶のある栗色のロングヘアー。
しかし、そこにはあるべきものが存在していなかった。
「アレが…ない?!」
そう呟く少女…諸葛瑾は、何度も自分の頭の両サイドを触り、呆気に取られていた。

「いやゴメン、マジで気ぃつかなかった」
「…別にいいんだけどね」
放課後の揚州学区のカフェテラスで、見慣れたクセ毛のない諸葛瑾と、魯粛は向かい合って座っている。
諸葛瑾にとって親友である魯粛でさえ、初めはその少女が諸葛瑾だと気付けなかった。
「でもさ、いったいどうしたってのかねぇ…突然"ロバの耳"がなくなるなんて」
"ロバの耳"…それは、諸葛瑾のトレードマークといっても過言ではない、彼女の頭の左右両サイドに、普段存在するクセっ毛のことである。その形がロバの耳のように見えることから、友人達からはその名で親しまれていた。
幼い頃、ある日突然出現したそれは、長い間彼女のコンプレックスでもあった。どんな整髪料を使おうとも、その部分を逐一切り落としても、やがては元通りになってしまうのだ。
諸葛瑾もやがて諦め、かれこれ十年以上この"ロバの耳"と付き合ってきた。何時しか、彼女もそれに愛着を持つようになり、毎日念入りに手入れしていたりもしていた。
「そんなの、むしろ私が訊きたいわよ」
「心当たりは? 例えば、何か違うシャンプーか何か使ったとか」
「朝起きて、一番に鏡を見て、その時にはもう無かったのよ。ついでに言えば、昨日使ったシャンプーもトリートメントも、何時もと同じモノだし…濡れてる間にタオルで締め付けたってなくなるようなモノじゃない事だって、子敬も知ってるでしょ?」
「そりゃあ、まぁ…」
「どうしたらいいかなぁ…これじゃ、誰も私だって解んないだろうし…第一落ち着かない」
諸葛瑾は本気で困っている様子だった。誰だか解らない、というのも、そもそも魯粛にも解らなかったんだから、多分他の長湖部員も目の前の少女が諸葛瑾だと解る者は居ないだろう。
現にこの日、多くの幹部仲間とすれ違ったが、誰も気付かなかった。たまりかねた諸葛瑾が、魯粛に話し掛けたからからこそ、やっと気づいてもらえたようなものだった。
何だか気の毒に思えてきた魯粛も、真剣な顔になって考えていた。ふと、周りを見回すと、様々なヘアースタイルの少女の姿が目に飛び込んできて…。
「!…そうだ、子瑜。ちょっとここで待ってて」
「え?」
魯粛は何を思い立ったのか、席を立つと、そのまま何処へとも知れず駆け出していった。
1-AA