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612:海月 亮 2005/03/16(水) 21:20 -銀幡流儀- そのいち 「夜襲、銀幡軍団」 「ええええ!? たった10人で曹操会長の本陣に〜!」 「ああ…やらせてくれ、部長」 濡須棟の棟長室、その机を蹴倒さんばかりに驚いて仰け反る孫権を目の前にして、甘寧は内心の怒りを最大限に抑えた表情で、そう告げた。 「悪いが俺は、あんな屈辱を喰らって、指咥えて済ませられるほど大人じゃねぇ。張遼がかましてくれた上等の礼をくれてやりたいんだよ…ッ!」 「で…でもでもっ、こないだ公績さんだって酷い目にあってきたばかり…」 「な〜に、なにも奴等を潰しにいくんじゃねぇ、からかってくるだけだ。もし一人でも飛ばされるようなことがあれば、好きなように処断してくれてかまわねぇ」 孫権は少し考えた。 この孫権という少女、普段は温和で大人しい少女なのだが、その根っこのほうはかなりの負けず嫌いだ。 本音を言うと先の合肥における学園無双において、長湖運動部の精鋭500が、合肥を護る張遼率いる僅か50足らずのMTB隊に蹴散らされ、自分も壊された橋の上をママチャリで跳んで危難を脱する羽目に陥ったことをとにかく悔しがっていたのだ。 それに、甘寧の言葉は一見すると無謀なものに聞こえるが、この甘寧という少女もまた、何の考えもなく無茶をやるような人間ではないことを、孫権は知っていた。 「…勝算は、あるの?」 「当っ然、必ず連中の鼻をあかしてやるさ」 「じゃあ、御願いしようかな。メンバーは、興覇さんの好きに決めていいよ」 「流石は部長、話がわかるぜ」 甘寧は不敵な笑みで応えると、背に飾った羽飾りを翻し、部屋を後にした。 「お〜い承淵、興覇さんが呼んでるぜ〜。あたし先行ってるからな〜」 「あ、は〜い、すぐ行きま〜すっ!」 髪の色を派手な金髪に染めたちょっと柄の悪い先輩に呼ばれ、承淵と呼ばれた狐色髪の少女はストレッチを済ませ、ぱたぱたと駆けだした。言葉使いは真面目そうだが、その明るい髪の色に木刀なんてモノを持っていたら、何処からどう見てもヤンキーの妹分にしか見えない。 いや、実際この少女−丁奉は、現時点では長湖部最凶の問題児・甘寧の妹分である。髪の色云々ではなく、この底抜けに人当たりのいい性格で、問題児集団である"銀幡"の先輩達から何気に可愛がられ、何の違和感もなく溶け込んでいる感がある。 やがて校庭の一角、甘寧の羽飾りを見つけた丁奉。よく見れば、"銀幡"軍団の何人かと軽くチューハイをあおってるらしい。先刻彼女を呼びつけた少女も、その中にいた。 「先輩っ、呼びました?」 「おぅ承淵、待ってたぜぇ。まぁ、お前も一杯やっとけや。あ、お前はまだ酒駄目だからこっちだけど」 そう言って甘寧はジュースの缶を投げて寄越す。見回せば、学区周辺の名店から取り寄せたオードブルが円陣の中を埋め尽くしている。 「え、いただいていいんですか?」 「もち、部長のおごりだ。いっちょパーッとやってくれや」 「わぁ…!」 円座の中に混じって、丁奉も並べられたご馳走に舌鼓を打った。 その後、何が起こるのか夢想だにもせずに…。 日も暮れ落ち、学園無双終了の規定時間が近づき、宴もたけなわになった頃、甘寧はおもむろにこう告げた。 「さぁ、景気良くやれよ! これからこの10人で、曹操の本陣に上等くれてくるんだからな!」 「!!」 その一言に、何人かが酒を吹いた。丁奉も鶏のから揚げを喉に詰まらせたらしく、目を白黒させている。その背中を叩いてやりながら、少女の一人が問い返した。 「ちょ…マジですかリーダー?」 「冗談でしょう? いくらなんでも10人ってアンタ」 「冗談でンなコト言うか。まぁ、酔狂ではあるだろうが」 何を今更、といった感じで返す甘寧に、他の9人は目を見合わせた。はっきり言って無茶もいいところである。これでは、無駄に飛ばされに行くだけじゃないか…。 そんな部下達の感情を読み取った甘寧、傍らに置いた愛用の大木刀"覇海"を掴んで立ち上がり、それを少女達に突きつけて、怒色を露に言い放った。 「てめぇら、甘えたこと言ってんじゃねぇ! 大体お前等悔しくないのか!? 張遼の野郎に我が物顔でうち等の目の前に上等くれられてよ! 俺等"銀幡"のモットーは何だ!」 その言葉に少女達は目の色を変えた。 「…そうよ、リーダーの言う通りだわ」 「あんな上等かまされて、泣き寝入りはアタシ等の流儀じゃないね…!」 「目には目を、だな。よ〜し、一丁やってやろうじゃねぇか」 「それでこそ"銀幡"特隊だぜ…ん、承淵どうした?」 満足げに少女達を見回す甘寧、傍らに座らせていた丁奉がなにやら不安と期待に満ちた目でこちらを見ているのに気がついた。 「あたしも、あたしも連れてってくれるんですか!?」 「何言ってやがる、その為に呼んだんだぜ?」 その言葉に満面の笑みをこぼす妹分の頭を、甘寧は乱雑に撫でてやった。
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