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★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
616:海月 亮 2005/03/16(水) 21:23 -銀幡流儀- そのさん 「果てしない青空に誓う」 まるで雷鳴のような音がした。 しかし、痛みのようなものは何処にもない。目を開けたふたりが見たのは、鮮やかな一対の羽飾り。 「…間一髪、だな」 「興覇先輩!」 甘寧は振り向いてふたりの無事な姿を確認し、口元を緩めた。次の瞬間、猛獣のような咆哮とともに、力任せに張遼の身体を後方へ突き飛ばした。 「…ぐ…!」 不意を突かれた張遼は大きく間合いを離されたが、それでも難なく踏ん張ってみせていた。 間髪いれず、茂みの中から飛び出してきた"銀幡"の少女達が、凌統と丁奉のふたりを護るように集まってきた。 「よし、そのまま行けッ!」 「おのれッ…!」 甘寧の合図とともに少女達が凌統と丁奉を抱えて逃げ出すのと、体制を立て直した張遼が再び踏み込んできたのはほぼ同時だった。 甘寧はその前に立ち塞がるように滑り込むと、再び覇海を縦に構えてその剣を受け止めた。 「そうはいかねぇぜ大将、ここからは俺様が相手だ」 「ふ…そう言えば貴様にも、蒼天会旗奪取の屈辱の件で、叩きのめす理由があったな…甘寧!」 「報恩と報復、それが俺達"銀幡"のモットーだ…てめぇがかましてくれた上等の礼、気にいったか?」 「ほざいてくれる…」 膂力は互角。少女同士の立ち合いとは思えない鍔迫り合いは、張遼が不意に力を緩めて後方へ飛びのいたことで均衡が崩れた。 「…!?」 勢い余ってバランスを失った甘寧。 その隙を逃すことなく、張遼は踏み込みと同時に袈裟懸けの一撃を繰り出してきた。 茂みの中でその様子を見た丁奉が堪らずに叫んだ。 「先輩!」 「ちっ…甘ぇんだよ!」 驚異的なバランス感覚で踏み止まった甘寧は辛うじてその一撃を払い返した。 しかし張遼は怯むことなく、その刹那の間に剣を柳生天に構え直す。 (!) 甘寧の背筋に一瞬、悪寒が走った。 先に放った"仏捨刀"はオトリ。本命は、この構えから繰り出される"逆風の太刀"。 「これで、終わりだッ!」 火の点くような速度と勢いで、逆風に切り上げられた竹刀の一撃が、甘寧のがら空きになった左脇腹へと吸い込まれていった。 かしゃん、と音をたてて、グラスが床で砕けた。 「わ! 仲謀様っ、大丈夫ですか!?」 「あ…う、ううん」 谷利が慌てて箒と塵取りを持ってきて、破片を手際よく片付ける。 「ダメですよぼーっとして…仲謀様、どうかなさったんですか? 顔色、良くないです」 孫権のただならぬ様子に気づいた谷利が、心配そうに主の顔を覗き込む。 「あ、えと…大丈夫だよ…ごめんね阿利」 「…そうです、大丈夫ですよ…興覇さんだったら、きっと巧くやってくださいますよ」 あわてて取り繕ってみせる孫権の心中を悟ったのか、谷利はそう言って元気付けようとする。 「うん…」 しかし、孫権の胸騒ぎは収まる気配を見せようとしない。 窓の外を眺める孫権の表情は、今にも泣き出しそうなくらい、不安に満ちていた。 ふたりは技の極まった体制で、ピクリとも動かない。 少女達も茂みの中で立ち止まり、その光景に釘付けにされている。 「…捕まえたぜ」 「な…!」 見れば、甘寧は技を極められた状態で、脇腹と肘で竹刀を受け止めている。 甘寧は技の極まる一瞬、僅かに前へ踏み込んで、鍔元を受けたことでダメージを減殺したのだ。 「今度は、こっちの番だ…喰らえッ!」 甘寧は張遼が見せた隙を逃さず、その肩口を掴んで思いっきり頭突きを食らわせた。 「ぐあ…!」 直接、脳へダイレクトに伝わった強烈な衝撃に、さしもの張遼も大きく体制を崩した。 軽い脳震盪を起こした彼女の膝が地に付く。 「よし、今のうちにずらかるぞ!」 「くっ…待てッ!」 「待てと言われて待つバカはいねぇよ! あばよ、張遼!」 甘寧が茂みに飛び込み、少女達とともに逃げ去るのを、張遼はただ眺めていることしか出来なかった。 それから数刻、凌統と丁奉の救出に成功した甘寧ら"銀幡"軍団は、引き上げにかかっていた周泰の軍団と合流し、誰一人欠けることなく濡須棟へ帰還してきた。その際、甘寧は帰路に立ちふさがった蒼天会の一軍を散々なまでに討ち散らし、その将と思しき少女を負傷させるという活躍を見せた。 その討ち漏らした少女が何者だったかなどと言うことは、甘寧以下誰も知ることはなかった。ただこの日の一戦で、蒼天会でも夙に名の知られた良将・李典が帰還中の長湖部軍と遭遇し、それとの戦闘によって受けた怪我が元で引退を余儀なくされたという記録が残っている。 この二つの記録に整合性があるのか否か、はっきりはしていない…何しろ、その記録もいわゆる風説の類であり、その根拠として信用できる史料がないのだから。
617:海月 亮 2005/03/16(水) 21:23 「公績さんッ!」 抱えられていた凌統の姿を認めると、棟の昇降口で待っていたらしい孫権が泣き顔で駆け寄り、その傷ついた身体を抱き寄せた。 「ばかばかっ! なんでこんな無茶なことしたんだよっ! どれだけ、どれだけ心配したと思ってるんだよっ…!」 「…すいません、部長」 その様子を見ていた甘寧が呟いた。 「部長…差し出がましいことかも知れねぇけど、公績の気持ちも酌んでやってください。コイツはコイツなりに、必死に考えた末の事だと思いますから」 そして、しゃがみこんで凌統の肩を叩く。 「無茶をやらかすのは結構だが、せめて怪我してるときくらいは大人しくしてな。お前が万全なら、張遼のタコに負ける要素なんて何処にもねぇんだからな?」 「…うん。た…助けてくれて、ありがと…先輩」 恥ずかしそうに俯いて、呟くように言う凌統に、甘寧は苦笑した。 「ああ…でも先輩は止せ、そんなの承淵だけでたくさんだ」 「…わかったよ、興覇」 そうやって笑いあう二人には、もうこれまでのようなわだかまりはすっかり消え去っていた。 だが、異変が起きたのはそのときだった。 「っと、これで…俺様の……仕事、は…」 立ち上がろうとした甘寧の体が、突如力を失ったようによろめく。 動かない世界の中で、まるでスローモーションを見ているかのように、その体が大地に倒れた。 「興覇さんッ!?」 「先輩!?」 一瞬置いて、孫権と丁奉の悲鳴が上がる。 慌てて身体を抱き起こす少女達。 「ちょっと、リーダー! しっかりしてくださいっ!」 「先輩っ! 先輩っ!」 「ちぃっ、救急車だッ…誰か救急車呼んで来いッ!」 その騒ぎに、帰還してきた呂蒙、潘璋、徐盛も慌てて駆け寄ってきた。 「そんな……」 その光景を眺めていた凌統は、呆然と呟いた。 それから一週間の時が過ぎた。 合肥・濡須の攻防戦は、秋口からの風邪の流行のせいもあり、合肥棟と濡須棟の中間点を長湖部・蒼天生徒会双方の勢力境界線とすることで和議が成立し、束の間の平和が訪れた。 凌統の怪我も、彼女の強い自己治癒力のせいもあってかほぼ平癒し、日常生活には殆ど支障がなくなっていた。 しかし、甘寧の容態は予想以上に深刻で、未だに揚州学区の総合病院の集中治療室にいるらしい。 総大将不在という事もあり、丁奉を含めた"銀幡"軍団は臨時に潘璋預かりになった。 濡須棟の屋上で、孫権と凌統は互いに顔を合わせることなく、戦場となった大地を見下ろしていた。 「…肋骨を2本、折ってたんだって。内臓も少し傷つけてるって…全治六ヶ月って、お医者様は言ってた」 「そうですか…」 凌統には、その原因はわかっていた。 (もし、あれを受けたのがあたしなら…今頃は土の下か) 凌統は、甘寧が張遼の逆風の太刀を受けたシーンを思い返していた。 やはり、いくら技の威力を減殺したとはいえ、受けた場所が悪かったのだ。 それでも、やはり甘寧だったからこそ、こうして生き延びることが出来たのだろう。 「あたしは…あいつが、興覇がいなければ、今此処に居られなかったんですね」 「え?」 自嘲気味に呟く凌統に、初めて孫権は振り返った。 「もしかしたら、あたしがそれと気づいていないだけで…もっと何回も、興覇に助けられていたような、そんな気がします」 「…うん」 「あたしがもっと素直に彼女のことを理解することができていれば、こんな気持ちになる事だって…」 「公績さん…」 凌統の目から涙が溢れ、俯いたその頬を流れ落ちる。 「…まだ、決着だって…つけてないのに…」 「縁起でもない事言わないでくださいッ!」 その時、屋上のドアを勢いよく跳ね飛ばし、丁奉がそこから踊り出た。 「興覇先輩はあんな程度でまいるほどヤワな人じゃないです! そんな言い方、先輩に失礼ですよっ!」 そう言って、ぷーっと膨れてみせる。 呆気にとられた孫権と凌統だったが、そんな丁奉の様子がおかしかったのか、つい噴き出してしまった。 「う、うん、そうだよ。承淵の言う通りだよ」 「…そうだな…こんな程度でどうにかなるようなヤツじゃないよな、興覇は」 「そうですよ」 ふたりが笑顔に戻ったことを確認し、丁奉も少し笑った。 「そうそう、今日ようやく…先輩と面会ができるようになったんです」 「本当!?」 「ええ…そんな長い時間は無理だったんですけど…それで公績先輩に、届け物を預かってきたんです」 そうして差し出されたのは、一通の手紙だった。 凌統がそれを開くと、そこには、 -じきにこんなトコ抜け出て来てやるから、そうしたらお前との勝負、受けてやるから覚悟しとけ!- そう簡潔に、勢いの良い字で書かれている。 「有難いこった…今からちゃんと技を磨いて、今度こそあっと言わせてみせるさ…」 どこか吹っ切れたように、凌統は手紙を握り締め、何処までも蒼く広がる空を見上げる。 その先で、苦笑する甘寧の顔が見えたように、彼女には思えていた。 余談になるが、公式記録では、この戦いののちにあった荊州攻略戦の参加主将の中に、甘寧の名を見ることはない。甘寧の武を誰よりも評価し、彼女を活かしてきた呂蒙が指揮していたハズのこの戦いにおいて、その名が見られないのは不思議である。 そのため、合肥・濡須攻防戦において華々しい戦績を挙げた甘寧は、その理由も定かならぬまま突如引退したとも囁かれたが…ある記録によれば、長湖部存続の危機とも言われた夷陵回廊戦の前哨戦にて、病に冒された身で出陣し、激戦の中で散ったとも伝えられている…。 (終わり)
618:海月 亮 2005/03/16(水) 21:42 なんだかSSを持ってくるのがえらい久方ぶりになってしまいました…ってなわけで、海月です。 まぁ、一話ずつ上がり次第持ってくれば良いような気もしましたけど、そうすると、多分完成しないような気がしたんで…所詮、人間失格ですので_| ̄|○ 前々から甘&凌の和解話を書こう書こうと思ってたんですが、なかなか構想がまとまらなくて(楽進も別件で飛ばされてしまいましたし;w)最終的にこの形になるまで随分かかりました。 甘寧の百人夜襲(ここでは十人ですが)もセットで。あと、「玉屋歴史館」(玉川様のページのコーナーですな)に取り上げられていた甘寧の最期に関する記事も取り入れてみたり。 でも出来上がってみると、拙作「風を継ぐ者」の冒頭展開につながってるようで居て、微妙につながってないような。 毎度の如く歴史考証もさっぱりだし…相変わらず承淵嬢ちゃんの出番むだに多いし…むぅぅ…いずれ書き直すかなぁ。
619:岡本 2005/03/17(木) 15:49 海月様 >久方ぶりのSS 私から見れば驚異的なハイペースですが。お話としては、甘寧&凌統の魏呉激突 前後の諍いと和解ですね。凌統の無双W登場もあって学三の気運を高めるには 効果的な話題ですね。 >楽進 個々人によって解釈や膨らませ方は違いますので、無理に先人の作品に こだわる必要はないと思いますよ。納得できない解釈がなされている作品例 も多々ありますし。異説によると...が蔓延しているのが学三ですから。 >丁奉の出番 呉の趨勢を長年見ていた人物としてはむしろ最適では。 そういえば蜀では廖化がいましたが、魏には該当する人物がいましたっけ? 私も関羽に比重が恐ろしく偏っていて、なんとか釣り合いをとらねばと 考えています。 気にされていると思われる、”贔屓がすぎて読者にひかれるのでは?”という 事に関しては、各筆者の常識と良識に任せるとしか申し上げれられません。 >痛い三国迷のコメント 私個人として、(張遼を持ち上げるためだけに) 逍遥津で凌統が楽進を倒したのと甘寧が李典を倒した設定は 蒼天航路の数あるミスでも容認できないものです。 魏書を読めば、李典や楽進は凌統や甘寧程度で釣り合う相手ではないと分かります。 (甘寧に関しては、限られた条件内では戦術能力で五覇に匹敵しえますが、将としてのトータルで 考えると大きく劣ると考えています。) そもそも、水戦ならいざ知らず、陸戦で呉が魏と互角に戦えるはずがありませんから。 逆も真なりですが。合肥・濡須を巡る戦いでは双方共に強化された防御線と兵科特性の相性の 悪さで決め手に欠いていたのが実状ではないかと。 大体、キャラ数を三国でそろえるためだけに、どう考えても”三国無双”にはほどとおい連中の 比率が呉では魏・蜀よりも圧倒的に高いです。 もちろん、呉で上から拾っていけば凌統は無視できる存在ではありません。
620:海月 亮 2005/03/17(木) 18:47 >異説 そいつを言われてしまうと… ただ、楽進vs凌統の展開は活かしたうえで話を書きたかったってだけでして。 満寵達がキレて突っ込んでいくのも、何気に「蒼天航路」のオマージュですからね。 >「蒼天航路」逍遥津 仰られる事、確かに一理あると思います。 将器そのものに釣り合いが取れているかどうかの解釈は、人それぞれではないかとは思いますが、少なくとも張遼、李典、楽進の三人に関しては、そこまで差があるのかとは思いますし。 というより、むしろ「張遼がそこまで抜きん出ていたのか?」というところでしょうか。 甘寧の百人夜襲もですが、騎馬八百で孫権の本陣を急襲した件のインパクトが強すぎるせいもあるかと。 結局、目立ったもの勝ちなんですかね?
621:北畠蒼陽 2005/03/17(木) 20:38 [nworo@hotmail.com] >海月 亮様 まずはわけのわからん名前でメールを出してしまったことに10万の謝罪を…… いや、あれ、私がネットゲームで使ってるキャラの名前なもので^^; んで感想ですけどまぁ、私はシーンが最初に頭の中に思い浮かんでそのシーンを描くためにストーリーを作っていく、っていう邪道1207%(約12倍の邪道)な人間なんで 『あ、このシーンいいな!』とかそういうこと思いながら読んでました! えぇ、孫権のばかばかっ!とか、ばかばかっ!とか、ばかばかっ!とか。 まぁ、全部の作品の設定をすべて包括しつつ描ければそれがベストなんでしょうけど、そげなこと難しいけぇ(方言)逆に学三、という世界の設定に幅が出て面白いんじゃないでしょうかね。 『この人はこう書いたけど自分はこう書くよー!』みたいな感じでしょうか。 そうでも思わなきゃ自分は……自分は……(ノ_・。 >今週の蒼天航路を読んでのご感想 ……牛金の話を書いた直後に……_| ̄|○ 近所のコンビニまで旅に出ます。探さないでください。
622:岡本 2005/03/17(木) 22:06 >結局目立った者勝ち? 大抵の人が三国志に足を踏み入れる原因が三国志演義であり横光であり人形劇 であったり三国無双であったりするわけです。客引きができないとお話にならないわけです。 目立った活躍をした人物に光があたり、さらにファンが煽って尾ひれをつけて 新たなファンを生むという構造上、目だった活躍をする人間のファンが持ち上げられる傾向 にあるのは必然でしょう。 受け入れられる裾野を広げる意味では当然の流れでしょうね。 ただ、よりこの時代に興味を持つと単なる荒唐無稽な英雄譚に飽き足らなくなって 実状はどうであったのか個人的に調べるようになり、新たな見方を見つけていくのだと思います。 三国迷の誕生ですね。そしてマイナーといわれる人物に目をむけ、彼らも決して メジャーな人物に引けをとるわけではないと見るようになるわけです。 学三で、”演義でメジャーな人物の登場が遅れる”というのもその例です。 ですが、最初っからそういう人物を好む傾向が現れるのは不気味でもありますよ。 例えば張遼の活躍する合肥戦役以前にも2,3回、孫権の10万の軍による襲来を合肥城は撃退 しています。これらの戦いには張遼は全く関係有りません。殊勲甲は揚州をにらむ上で合肥の重要性に 着目し廃城と化していた合肥城を整備して周辺の豪族を慰撫した劉馥です。 彼のような有能な人物が多数いたことが曹魏の強さの一つですね。 こういった人物の存在に気づくことで、張遼がいたから(もちろん、彼の果した役割も大きいですが) 合肥戦役で孫権を撃退できたわけではないと理解を深めていくことができるわけです。 けれども、蒼天航路で劉馥ファンになったならいざ知らず、最初から 「劉馥サイコー」といっている三国志ファンがいたらかなり怖いですよ。
623:北畠蒼陽 2005/03/18(金) 11:35 [nworo@hotmail.com] -どおきのきづな- ……同級生は仲がいいものだ、とか世間では思われているようだ。 ……確かに私にだって仲がいい人がいないわけじゃない。 ……でも、なぁ、とか思う。 「んあ?」 ……本当に同年代ってのは仲がいいものなんだろうか、そういったことを尋ねたとき彼女の第一声がそれだった。 ……私の同級生といえば彼女……寮でも同室の王昶……文舒のほかに諸葛誕、胡遵、昜、司馬姉妹。それから今、眼前の寿春棟に自分の妹、カン丘秀とともに立てこもる彼女、カン丘倹…… ……別働隊を率いている文欽、といったところだろう。 ……彼女は叛乱を起こし、私たちはそれを鎮圧に来ていた。 ……彼女がなぜ叛乱を起こしたか、ということはわからなくもないつもりだ。 ……年下ながらひときわ強い光を放つ夏侯玄に魅せられながら、同じく彼女の未来に夢を見ていた李豊が司馬師を失脚させ、夏侯玄をトップに据えよう、などと考えたことから夏侯玄もトばされ…… ……カン丘倹は夢を失った。 ……今、カン丘倹には司馬師に復讐することしか考えてないんだろうなぁ、と思う。 ……でも私には特にそれ以外の感慨も沸いてこない。 ……しょせんヒトゴトなんだろうな、と思う。 ……そんな関係の同級生が仲がいい、とかいわれてもぴんと来ないのである。 ……文舒にそう言うと…… 「伯輿ってば難しいこと考えてんね」 ……んっと、あなたは考えないの? あっそう…… ……私は王基、あだ名は伯輿。 ……荊州校区総代として王昶と一緒に長湖部を攻めたりしている。 ……自画自賛だけど文舒とのコンビプレーだったらそうそう負ける気はしない。 ……今回もそれを買われてカン丘倹の反乱鎮圧に送り込まれた、わけだ。 ……客観的に見てカン丘倹の叛乱は成功することはないだろう。 ……司馬師を筆頭に文舒、昜、諸葛誕、胡遵……そして私。 ……同年代のほとんどを敵に回したこの戦いで勝機など万に3つしかありはしない。 ……1つ、戦いの長期化とこの叛乱に呼応する長湖部の援軍。 ……2つ、戦いの長期化と病気なのに強行してこの戦いに参加している司馬師の病状悪化。 ……3つ、カン丘倹と一緒に叛乱を起こした文欽は寿春棟から出ているので、その別働隊としての動き。 ……まぁ、そういったことに気をつけていればほぼ負けはありえない。 ……だから逆にかわいそうなんだよね、カン丘倹。 ……滅びの美学、ってのは私も持ち合わせてるつもりだから。
624:北畠蒼陽 2005/03/18(金) 11:35 [nworo@hotmail.com] 「戦場で余計なこと考えてるとトばされるよ、伯輿。今は同級生がどう、って話じゃない。私たちが戦ってるのは同級生、カン丘倹じゃない。ただの敵」 ……文舒に叱られた。 ……反省。確かに王昶の言うとおり。迷いは戦いのあとに置いておくものだ。 …… ……? 文舒? 「ん? なに?」 ……その拡声器はなに? 「いや、これで投降促すの。戦いがなければそれに越したことはないしね」 ……戦いがなければそれに越したことはない、という彼女の言葉は正論だ。 ……でも、なぜか私は言い知れない不安を感じた。 「あー、あー……カン丘倹のとこのみなさ〜ん。毎度おなじみの生徒会ですー。あんたがたは完全に包囲されてまーす!」 ……拡声器を通して文舒の声が響き渡る。 「みなさんが叛乱起こしてー、故郷のお母さん、泣いてるんじゃないかなぁ! きっとお母さん、涙流しながらこう言うんじゃないかなー? 『人生に絶対はない。でも人に迷惑かけたらあかん』……お母さんそう言ってあんたがたのことを育ててきたんじゃないかー!?」 ……不安的中。文舒は説得に向いてない。それも致命的に。 ……しかもなんでお母さん、関西弁? 「うぅ……お母さん!」 「まてまて、秀! あれは敵の誘降の策略だ!」 ……寿春棟の中から声が聞こえる。 ……あれでなんで泣けるか。 「危ない危ない! 敵の策略に引っかかるところだった!」 ……危なかったのか。 「私は生徒会の胡遵です! みなさんを説得しにやってきました!」 文舒の次に拡声器を持ったのは胡遵だった。堂々としてる、声だけは。 「みなさんの叛乱に一般学生は迷惑を被っています! 一般学生にこれ以上の圧力をかけないためにも矛を収めてもらえないでしょうか!」 言うことは立派だ、言うことは。 「うぅ……ごめんよ、一般学生!」 「まてまて、秀! そういったこと前もってわかってただろうが!」 ……寿春棟の中から声が聞こえる。 ……面白いなぁ、棟内。 「このようなあなたがたの暴虐に対し……」 「うるさいぞ! 地味っ子、胡遵!」 ……あ。 「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁん! 地味なんて酷いーッ!」 胡遵は拡声器を捨てて泣きながら走っていった。 「ウィークポイントをついた一言。敵ながら見事だね」 ……うん、お見事。 ……いつの間にか役目を終えて私の隣に来ていた文舒に私も深く頷いた。 ……文舒がやけにすっきりした顔をしていたのが気になった。そんなにお母さん話をできて満足なんだろうか。
625:北畠蒼陽 2005/03/18(金) 11:36 [nworo@hotmail.com] 「カン丘倹! なんで私に相談してくれなかったの!?」 ……次に拡声器を持ったのは諸葛誕。 ……うん、それだったら期待できそう。 「私に相談してくれればもっといい方法だって思いつくことが出来たのに! ……文欽ね!? 文欽でしょ!? あの女狐がカン丘倹をそそのかしたんでしょ! 文欽めー! 曹爽とかと同系列のくせにー! 死んじゃえー!」 ……うーわ。まともだと思った私が早計だった。 「うぅ……そうだ、文欽が悪い!」 「まてまて、秀! あれ、もう説得になってないから!」 ……寿春棟の中から声が聞こえる。 ……よくいえば感受性が強い、とかそういう感じなんだろうな。 「危ない危ない! 敵の策略に引っかかるところだった!」 ……カン丘倹、大変だなぁ。 「えっと、あの……う、あ……えー、えっと……そ、その……あの……えっと、えー……あー、その……うん、あの……」 ……次に拡声器を持ったのは……昜。 ……ここでようやく私は気づいた。 ……やばい、司馬師面白がってる。 「えっと……あの、えっと……み、みなさん……だから、その、あー……うん、と……あの、だから……えー、や、やめたほうがいいと思います、けど……えっと、な、なんでかっていうと、あ、あの、つまり……えっと……あの、や、やめたほうがいいと思います」 ……どもるにも程があるだろう。 「うぅ……どもってるよぅ!」 「まてまて、秀! いや、だからなんでそうなるんだよ!」 ……寿春棟の中から声が聞こえる。 ……カン丘倹のことを思うと涙が出てくる。 「危ない危ない! 敵の策略に引っかかるところだった!」 ……かわいそうなカン丘倹。 ……私は司馬師のところにいこうとしていた。 ……こんな説得ショーで時間つぶすより、今は速攻で片付けるべきだと思ったからだ。 ……司馬師は、いた。そしてサイコロを振っていた。 「あ、王基、ちょうどよかった。今、2が出たから次、貴女が説得してきて」 ……サイコロで決めてたのか。 「ね? 説得任せたから」 ……私、口下手だから。 「あらそう、残念……んじゃショータイムも終わりってことでそろそろ動きますか」 ……了解。その言葉を最初から聞きたかったけどね。 「イッツァショーターイム♪」 ……嬉しそうに司馬師は叫んだ。
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