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633:海月 亮 2005/05/24(火) 22:22 -水際の小覇王- 「暇だねぇ…」 揚州学区の中心地、寿春棟の屋上に少女がひとり、大の字になって流れる雲を見上げていた。 スタイルには難があるが、顔立ちそのものは十分に美少女の範疇に入るだろう。明るい栗色の髪をショートに切り、見た感じも少年のようである。 少女の名は孫策、字を伯符。 かつて荊州学区は長沙棟を中心に、様々な暴動を鎮圧して名をあげ、反董卓連合軍でもその人ありといわれた孫堅の妹である。 司隷特別校区における一連の騒乱が沈静化してきた頃、孫堅は荊州学区の覇権を賭け、襄陽棟において権勢を振るう劉表と妨害、直接攻撃何でもありのトライアスロンで対決したのだが…あと僅かで勝利、というところで劉表側の仕掛けたトラップに引っかかり、高さ数十メートルの崖に落ちて大怪我し、引退を余儀なくされてしまった。 普通の人間なら死んでるだろうが、それでも何の後遺症もなく、二月ほどベッドの上に居ただけで済んだのが彼女の凄い所だ。 とはいえ、この事件で孫堅の軍団は瓦解してしまう。その妹達を取りまとめることになった孫策は、彼女等を比較的騒乱の影響が少ない曲阿寮に留め置くと、数ヶ月前からここ寿春棟を支配する袁術のもとに厄介になっていた。 何をするでもなく、ただぼーっと空を眺める孫策の視界を、ひとりの少女が遮った。年の頃は孫策とさほど変わらない、ちょっとキツめの顔に散切りの黒髪を載せたその少女は、皮肉めいた笑みを浮かべる。 「なによ伯符、またこんなことろでふててるの?」 「別にぃ」 孫策はその顔を避けるように寝返りを打つ。しかし、少女はその動きを見透かしたかのように一瞬早くその視線の先に自分の顔をもってきた。逆に返しても、その先には変わらぬ表情が待っている。 「…なぁ君理…あたしの顔なんか見てて楽しいか?」 呆れ顔の孫策。君理と呼ばれた少女は、その傍らに腰掛けた。 君理こと、朱治は揚州学区でも名門の一族の子息である。孫策の姉・孫堅が作り上げた軍団の若手として課外活動に参加していたが、軍団瓦解後は呂範、孫河らと一緒になって、孫策と行動を共にしていた。 「人に話をしたいときはその人の顔をちゃんと見なさいっていうのが、うちの父ちゃんの口癖でね。親孝行なあたしとしては、何時でもそれを実践するよう心がけてんのよ」 「自分で言うなっての」 孫策は苦笑して、その身体を起こして座り直す。 「で? その親孝行な君理さんが、このヒマ人に何の御用で?」 「御用もへったくれもないわよ…伯符、あんた何時までこんなところでくすぶってるつもり?」 朱治の表情から、笑みが消えて真剣なものにかわる。 「聞いたわよ、慮江の話。あのバカ令嬢、またあんたとの約束破ったんでしょ」 「毎度のこった。いちいち腹立ててられるかよ」 再び仰向けに寝転がる孫策の顔を、朱治は覗き込んだ。 「…ねぇ伯符、あんた何時まで袁術の飼い犬で居るつもり? いっておくけど、あんなバカが好き勝手やってられなくなるのも時間の問題よ」 「そうだな…でも、姉貴の軍団は散り散り、あたしに独り立ちできる基盤もない…せめて、袁術お嬢様から手下をパクる材料があれば…?」 そこまで言った時点で、何かを思い出したように跳ね起きた。唐突だったので朱治は吃驚して、 「きゃ…! な、何よ伯符」 「ある…あるぞ、あのドケチから兵隊をふんだくる方法が!」 嬉々とした表情の孫策に、朱治はその意味を図りかねて小首を傾げる。 「ちょ…どういう事?」 「へへっ、まぁ、今に解るさ」 怪訝な表情の朱治を尻目に、孫策はおもむろに立ち上がり、その場を立ち去った。
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