★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
734:海月 亮2005/07/10(日) 22:11AAS
「独立政権を作るべきではない」
隣に腰掛けた、赤い髪の小柄な少女がそう呟く。
「董昭たちが何考えてるのかなんて知らないけどさ、文若が考えていることなら良く解ってるつもりだよ…でもね」
私が彼女と行動を共にするようになってから、既に二年の月日が流れていた。
乱れた学園を自らの手で立て直すと言って、ただがむしゃらに駆け抜けてきた少女と共に、何時か自分も彼女と同じ夢を見ているような、そんな気がしていた。
「“魏の君”の名前なんて、あたしにとっては“奸雄”の呼び名となんら変わることもないんだ」
「…ええ」
そう言った瞳も、彼女の心も、私が知る彼女のまま、変わることはなかった。

何時から、それが食い違っているように思えるようになったのだろう?
董昭が発議した、魏地区独立政権樹立運動の頃からだろうか?
彼女が、実績や品行を問題とせず、広く人材を募ると言う「求賢令」の発令を求めた時だったろうか?
それとも…彼女が孔融先輩を不敬罪で処断した時から?

もしかしたら、もう私が彼女と出会ったそのときから、それはあったのかもしれない。
私が勝手に作り上げた「彼女のイメージ」と、現実に目の前にいる「彼女本人」の違い、というものが。


-輪舞終焉-


私は部屋の中、彼女が寄越してくれたと言う箱を眺めていた。
何処にでもある、ケーキを入れるような真っ白な紙の箱。
中身は何も入ってなくて、何か書いてあるのかと思って分解してみても、文字どころか何の汚れも見当たらない。

中身のない、純白の空箱。
もしかしたらコレは、それ自体が彼女のメッセージなのかもしれない…そう思い至るのに時間はかからなかった。
その意味しているものに思い至った時、私はそれに気づいてしまった自分自身を呪わずにいられなかった。

「自分からはもう取るべきものは何もない」
すなわち、もはや「曹操」にとって、「荀撻が無用の存在である…そう示唆しているようにしか思えなかったからだ。

私の瞳から、堰を切ったように涙が溢れた。
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