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766:北畠蒼陽 2005/07/23(土) 21:15 [nworo@hotmail.com] 「あれ……あたし……?」 ぼーっとする頭をさすりながら起き上がる。 「痛!」 首筋を押さえる。 なにか……あったっけ? 「朱績ー! 気づいたんだねー!」 全煕があたしの胸に飛び込んでくる。 「う、うわわっ!」 あたしはそれを支えきれず倒れこんだ。当然後頭部を打った。 「〜っ!」 「……いや、悪かったって」 睨みつけるあたしに全煕が謝る。 「とりあえず朱績が……いや、朱績主将が眠っておられる間に夾石棟からは撤退しました」 全煕の言葉…… あぁ、そうか…… あたしは夾石棟で王昶と一騎打ちをしたんだっけ…… あたしが眠っていた、ということはあたしは負けた、ってことか。 ……? 蒼天章はあった。 「へ? あたし勝ったの?」 「んー、勝ちかと聞かれれば……んー、勝ち、かなぁ?」 歯切れ悪っ! 「まぁ、いいや。あたしたちが撤退することで王昶が油断するのなら……あいつが油断しきったときにもう一度攻めかかればいい。そのための休憩」 あたしの頭にはどうやって攻めるのか、往路では思いつかなかったような考えが湧き水のように噴出していた。 「お姉ちゃん、よかったの?」 王家の食卓。 王昶と王渾が鍋を囲んでいた。 まだ残暑が激しいのに。 「玄沖、白菜も食べなさい、白菜も」 「いやぁーッ!」 王渾が嫌がる。 「いやじゃない。栄養あるんだから食べるの」 「だめぇーッ!」 王渾が嫌がる。 王昶は有無を言わせず王渾の取り皿を白菜満載にした。 「あぁッ!? お姉ちゃん、ひどい! この暴君ッ!」 「なんとでも言いなさい」 呆れるように王昶は豆腐を口に運んだ。 「で、よかった、ってなにが?」 「んっと、朱績? のこと」 王渾の言葉に王昶の右眉がつりあがった。 「い〜わけないでしょ〜!?」 しかも声が裏返っている。 「ん、ごほん……あれは完全に大失敗。長湖部を潰すのがまた遅れたことは間違いないわね」 王昶は平然を装って言うがこめかみが高速で痙攣している。 「あー……あはは。でもほら……ね? うん、大丈夫だよ」 王渾が言う。なにがだ。 「……」 「え? お姉ちゃん、なに?」 王昶の聞こえないほど小さな言葉に王渾が聞き返す。 「く……」 「く……クエン酸ナトリウム?」 なぜ添加物なのだろう? 「くきぃーッ!」 「わぁ! お姉ちゃん、奇声を上げてもお鍋してるときのちゃぶ台返しはダメーッ! キケンーッ!」 王家の夜はふけていく。 建業棟。 「公緒ちゃん、どうだった?」 承淵の心配そうな表情にあたしは笑って親指を立てて見せた。 「まぁ、結果は残せなかったけど、それ以上に大事なものをゲットしたよ」 あたしの言葉に承淵も笑顔を見せる。 ……これから。これからだ! あたしは北の空を見上げて指鉄砲を撃った。
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