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786:北畠蒼陽2005/08/06(土) 18:26 [nworo@hotmail.com]
「おぉ、伯輿か。ちょうどよかった。話したいことがあってね」
「……ん。それはいいんだけど……これ、は?」
あっけらかんとした王昶の態度に王基は今、見ているものが信じられない、というように瞬きを繰り返した。
王昶は珍しく制服を着ている。
いや、ただの制服ではない。
肩章、ネクタイ、スカート……
式典のときのみに着用される幹部用制服である。
王昶であればこの制服どころか講義時にさえ通常の制服ですらまともに着ることは少ないというのに……
しかもそれだけでなく部屋は……そう……

……その部屋はまるで引越し準備だった。

「……ん、んー」
ようやく頭が推測を導き出す。
さすがに地方にあって中央執行部の仕事をするのは無理がありすぎたか……
恐らくは司馬昭に召還されたのだろう。
であればこの引越しのような荷物も納得できる。
……そうなるとこの荊州校区における後任は誰になるんだ?

考えてみればみるほどありがちな推測に聞こえた。
だからやっと王基は余裕を取り戻す。
王昶はそんな王基に背を向け『あれー? どこにしまったかなぁ?』などと言っている。
……なるほどそれで『話したいことがあってね』か。
……ついでになにかを渡したいのだな……
「あー、これこれ」
王昶が王基に封筒を放り投げる。
……封筒、ね。
……後任が誰かは知らないけど私にお守りをしろ、ってことか。
……恐らく封筒の中身はなにか秘密の弱みメモとかそんな感じだろう。まったく王昶らしい。
そうか、制服を着ているのも引継ぎのためか。
苦笑を浮かべながら封筒を受け取り……

違和感。

硬質の小さなものが封筒の中に入っている感触。
……手紙、ではない?
再び王基の頭の中をとらえどころのない靄のようなものが湧き出す。
……なに?
……なにを話そうとしているの、文舒?

封筒の中から王基の手のひらに蒼天章が転がりこんだ。

「……」
「あー、びっくりした? いや、まぁ、びっくりさせようとおもったんだけどさ」
王昶がけらけらと笑いながら3段に積み上がったダンボール箱の最上段にジャンプし、腰掛ける。
「いや、いろいろ考えたんよ」
しみじみと王昶が呟く。
「ほら、この前、伯輿と同じ大学いくんだー、っていったじゃん?」
……確かに言っていた。
王基は黙って頷く。
「あれねー。私、推薦入試のとき、受験会場にいけなかったんだわ」
たはは、と苦笑を浮かべる。
「いや、三委員長になんかなるもんじゃないね。受験の日の昼ごろまで公務終わらなくてさ」
結局、受験いくの諦めて寝ちゃったよ、と王昶はいつもの顔で笑う。
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