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799:北畠蒼陽2005/08/20(土) 16:01 [nworo@hotmail.com]
冷気が立ち込めている。
上弦の月が天に輝き、その光はやけに眩しい。
冬の長湖湖畔。
水面は月の光を照り返し、幻想的ですらあった。
そこに1人の少女が立っている。
この寒空の中、稽古着と稽古袴。
八尺槍……長さ3.6mもの稽古槍を手に幾度も幾度もゆっくりと構えを取る。
激しい動きなどなにもなく、ただ静寂に包まれた基本の動作。
その張り詰めた空気が……わずかに揺らいだ。
「伯輿、待ったか?」
言葉とともに缶コーヒーが投げつけられる。
「……ううん、そう待ってもいないわ」
伯輿……王基は構えをとき、投げられた缶コーヒーを受け取った。
缶の熱気が冷えた指にしみわたる。
「さみぃなぁ、しっかし」
あとから来た少女……令孤愚が肩をすくめる。
湖畔に2人の少女が対峙する。


冷気の天秤


「……悪かったわね、こんなときに呼び出して」
王基はゆっくりと缶コーヒーのプルトップを開け、口に含み、あまりの甘さに顔をしかめた。
「いやいや、王基主将の相談とあればいつでも駆けつけるさ」
ひょい、と肩をすくめる令孤愚。
そのおどけた仕草に王基は苦笑を浮かべる。
「で、実際のとこ、相談ってなんなの? まぁ、私だけを呼んだってことで文舒には内緒のことなんだろ?」
「……そう。そうね……文舒のことだから気づいちゃうかもしれないけど……基本的には内緒にしておきたいわね」
わかりにくい王基の言葉に苦笑を浮かべる令孤愚。
「まぁ、気づかれても仕方ないけどあまり気づかれたくない、ってことか……ってことは基本はオフレコ、だろ?」
頷く王基。
「オッケーオッケー。ま、なんで私なのかはわからんがな」
王基に背を向け、長湖に向かって石を投げる。
「私が王基と会うことは彦雲姉にすら言ってないわ。ほんっとにオフレコの相談乗っちゃうぞ」
彦雲姉……王凌の名前を出して確約する令孤愚。
風のない長湖に石が飛び込んだ波紋が広がっていく。
王基も令孤愚もただ黙ってその光景を見ていた。
「いいにくそうだなぁ」
「……まぁ、ね。でも言わなきゃいけないことでもあるからね」
ため息をつき王基は令孤愚の背中に語りかける。
「……まず公治。基本的に私はあなたのことを高く買ってる」
「おやおや、そりゃありがたいねぇ」
石が投げ込まれる。波紋。
「……王凌さんのブレーンとして、その能力は過はあっても不足はまったくない。私がもし委員長であればあなたを側近として指名したいくらい」
「えっと……そんな手放しで褒められると恥ずかしいぞ」
照れたように頭をかく令孤愚。
そして王基は決定的な言葉を投げつけた。

「……曹彪さんはなんて言ってる?」
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